表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/103

第9話 猟友会の方たち

 水の森公園は、一〇〇ヘクタール余りの広大な敷地を有した、キャンプ場を併設する緑豊かな公園だ。

 ハイキングに最適な散策路や、多目的に使える芝生広場。三共堤という池では冬場に白鳥のバードウォッチングを楽しめる場所として知られている。


 実際に来るのはこれが初めてだった。


「異変は……ない、か?」


 見たところ、何か異常が起きている雰囲気はない。救急車もなし、警察車両は二台ほど奥に見えたが、特に武装などもしていないし騒ぎという騒ぎにはなっていないみたいだ。


 駐車場に車を入れようとすると警備員の方に入り口で停められてしまい、慌てて窓を開けて対応する。

 こういった事態には慣れていないみたいで、やや疲弊した顔が印象的だった。


「ご利用の方ですか?」

「はい。何かあったんですか?」

「ええそれがね。多目的広場のほうで、野犬だかなんだか……。よく分からないんですが何かが目撃されまして。先日もあったでしょう、怪獣が現れたみたいな。それで、これから調査ってんで、一時お引き取りお願いしているんです」

「はあ」


 ううむ、弱った。

 さすがに一般人は帰らされてしまうか。


 一度他所の車の様子を確認してみても、別の警備員に誘導される形で続々と出口のほうに流れているのを見る。

 いまから新規で入るのは難しいみたいだ。


 仕方なく作戦を変更。

 この警備員から、何か情報を聞き出せるかもしれない。


「ちなみに、誰か襲われたりはしました?」

「いや、そういうことは起きていないですね。あくまで目撃されただけなのでご安心を」

「なるほど……、いつになったらまた来ても大丈夫そうですかね?」

「いやぁ、なんとも言えないです。ずっと閉鎖するとかではないんですけども、いまは、はい」


 困り果てたように謝られてしまう。

 これははぐらかされているというより、まだ向こうも状況把握ができていないと見るべきだ。悩ましいところだが、ひとまず誰も襲われていないのなら急ぐ必要もなさそう?

 隣のホルンに目配せしてみると、彼女も、ほっと胸を撫で下ろしている。


「それでは移動をお願いします」


 そんなこんなで時間切れに。

 もう少し話を聞いてみたかったが、どうやら俺たち以外にも野次馬根性のある人間というのはいるみたいで、後続の車が詰まってきてしまった。一度引き返すことに決め、それほど離れていない場所でホルンと作戦会議をする。

 俺と二人きりになると、先ほどまで静かだったホルンがすぐに質問してきた。


「何か他に方法はないのですか?」

「そうは言ってもなあ……」


 向こうで調査するらしい以上、ここから先は俺たちに介入できない。巨獣のときと同様に、テレビやSNSでの情報更新を待つことになるだろう。

 しかし、ホルンはそれで満足しなさそうだ。

 他の方法を考えてみる。

 例えば、暗くなったら忍び込んでみるとか……。


「いや、待てよ? もしかしたら、地元の猟師がここに来るかもしれない」

「……猟師、ですか?」

「そう。人里にクマやイノシシなどの有害鳥獣が降りてきた場合、その捕獲には地元自治体の猟友会が市から連絡を受けて対応するんだよ。今回の件、動物の捜索だし、ここは泉区だ。もしかしたら仙台泉支部の人がこっちに向かっているかもしれない」

「なるほど……?」

「その中に一人知り合いがいるから、同行させてもらえるかもしれないって話だ」


 ちなみに、正式名称は鳥獣被害対策実施隊。猟友会のなかでも有害鳥獣の駆除に重きを置いたプロ集団で、一斉捕獲や追い払い。集落の見回り。罠や防護柵の設置を行い、民間への被害を抑止する役割がある。


 もしもその同行を許してもらえるのならば、ホルンを謎の生物が出現した場所まで連れて行くことも可能なはずだ。


「どうしても、見に行く必要があるんだろ? ホルン」

「……はい」


 いつになく使命感を帯びた顔で、重苦しく頷くホルンに俺も頷きを返す。普段自己主張の少ない彼女がそこまで言うのなら、協力しない手はないだろう。


 ホルンが何者なのか、それに迫れるのなら惜しみたくはない。


「じゃあ、とりあえずは様子見だな」


 なんだかロマンがないほうの探偵にでもなった気分だ。かくして俺たちは知り合いの車を見逃さないため、周辺で張り込むことにした。



 ……それから数時間後。

 見覚えのあるジープ(四輪駆動車)が敷地内に入っていくのを見届ける。


「あれだ、付いていこう」


 車を走らせる。

 その頃には園内駐車場も落ち着いており、警備員も少なく閑散としていた。少し離れたところに車を停め、関係者面をして猟友会の人たちのもとへ行く。


 ……いたいた。

 蛍光色のベストとキャップを被った茶髪ポニーテールの女性。

 スタイルも良くて紅一点だから、よく目立つ。


 俺が駆け寄っていくと、その女性もすぐにこちらに気付いた。


「あれ? 志久真くんじゃん」

「お久しぶりです」

「県猟の射撃大会ぶりだよね?」

「はい。その節はすごくお世話になりました」

「なはは。あれは田所さんが悪い」


 猟友会の間で度々催される射撃大会。

 保管しておけない実弾を消費するためだったり、純粋な競技として行われることがあるのだが、半年ほど前にその県大会バージョンが仙台で行われた。

 当然じっちゃんも参加。

 その際、人員不足だったため急遽進行係の手伝いをさせられることになり、そこで出会ったのがこちらの女性・妙子さんだった。


 じっちゃんと同じぐらいの年代の方たちはジッとできず自由奔放なので、見知らぬ『田所さん』を探すのに苦労していた俺を気にかけ、助けてくれたのだ。


「大きくなったねえ」

「そんな変わらないでしょ」


 思い出話に花を咲かせつつ、妙子さんは他の猟師の方たちに「えっとほら、斉藤さんのお孫さん」と俺のことを紹介してくれる。

 祖父はちょっとした有名人なので、納得したような「あぁ〜!」という反応が一同から返ってくる。

 少し気恥ずかしい。


「それで、そちらの女の子は?」


 妙子さんが俺の背に隠れていたホルンを覗き込む。

 するとホルンは更に俺の背に隠れる。

 思わず(子どもか!)と内心呆れてツッコんでいると、妙子さんは妙子さんで面白がるような面をして「カノジョ?」と俺を揶揄ってくる。


 苦笑いを浮かべながら、適当な嘘を織り交ぜて紹介する。


「えっと、ホルンです。猟に興味あるって知り合い」

「ホルンちゃん? かっわいい名前……。っていうか珍しいね? ありがたすぎない?」


 ありがたい、というのは猟に興味があると俺が言ったせいだろう。昨今、猟師は若者の担い手不足が深刻になりつつあるから、俺もそうだが、やけに丁重に扱われる。


 かく言う妙子さんも五年目の駆け出しハンターだ。

 三十代の既婚の女性。夫婦でジビエ料理店を経営しており、猟の奥深さと面白さを若い世代に広めていこうとSNSでも活動している。


「で、どうしたの?」

「少しこっちに来てもらってもいいですか?」


 大勢に聞かせるのは不安な内容なので、まずは信頼のおける妙子さんだけを呼び出す。

 正直、博打ではあるが……。


「その。無理を承知で、ちょっと見学させてもらえませんか?」


 俺がそうお願いすると、妙子さんは驚いたように目を丸くした。

 そして交互に俺とホルンを見比べる。俺たちの表情の真剣さに、妙子さんは顎に手を当てて唸った。


「えーっと、危ないよ? 言うまでもなく分かっているだろうけど」

「実は俺たちなら、謎の生物のことが少し分かるかもしれません。だから役に立てるかもしれない」


 真っ直ぐに目を見て伝えると、妙子さんは観念したようにため息を吐く。

 そして「分かった」と了承してくれるので、俺とホルンは顔を見合わせて喜ぶことになった。

 その様子を、ジトッとした目で見られる。


「やっぱり君たち、付き合ってるよね?」

「やめてください」


 顔を引きつらせて否定する。

 妙子さんは時々、デリカシーがないのが玉に瑕だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ