それってアタシの事かしら?
「理由を聞いてもいいですか」
「その様子なら、我が国と帝国の状況を知っているのだろう」
「多少はですが」
「多少、か。帝国が今大混乱に陥っていることは知っているな? 何者かが帝国に乗り込み、帝王を城ごと消し飛ばしたそうだ。そんなことをしそうな者は、私には1人しか思い浮かばなかったのだが」
多分王様が想像している答えと真実は微妙に違うと思われるが、黙っておくことにした。
まさかここにいるシェイドがかのダンジョンマスターで、ダンジョンに城ごと落としたのだといっても信じられないだろう。
まあ発案はエリーだったから、考えはそんなに間違ってもいないか。
「それは、帝国を滅ぼすためではと思っていた。つまり我が国のためを思ってのことではと思っていたのだ」
「どちらかの国に味方するつもりはなかったのではないでしょうか。帝国が引けば聖王都も引く。そう考えたのでは」
「我が国と帝国の関係を知っているだろう。長く敵対関係にあった。いつかは戦争になるだろう。いつかは戦わなければならない相手だ」
「向こうも同じことを考えているのではないですか。お互い戦争をしたいわけではなく、相手が攻めてくるかもしれないから、やられる前に倒そうと考えている」
「そうだろうな。誰だって平和が一番なのは知っている。戦争をしたがる王なんていない。いつだって敵国を叩くためにしかたなく行われるものだ」
「そうわかっていても、ですか」
やはり俺に説得は無理だな。
奥の手を使うしかない。
王のためにもこれだけはしたくなかったんだが……。
俺はシェイドに耳打ちする。
シェイドは無言でうなずいた。
「どうした。なにを企んでいる」
「ブラン王、考えなおしてはくれませんか」
「くどい。この決定に変わりはない」
「……後悔しますよ」
「私を脅そうというのか?」
俺は心の中でため息をつく。
今のが最後のチャンスだったんだが。
やはりダメだったか。
やがてシェイドが床に作り出したダンジョンの入り口から、ひとりの少女が現れた。
「なによ、結局アタシの力が必要なんじゃない」
「げえっ、エリー!?」
王様が驚愕の表情を浮かべる。
エリーが露骨に不快そうな顔をした。
「は? 呼び捨て?」
「これはこれはエリー様、お久しぶりでございます」
一国の王が超低姿勢となった。
エリーは女神様に選ばれし者だからな。ある意味世界一偉い。だから仕方ないな。
「よく知らないけどさっさと軍を戻しなさいよ。イクスが困ってるじゃない」
「しかしそうは言っても……」
「そういえばアタシのことを横暴でわがままなクソ勇者だとか言っていた奴がいるらしいわね」
「申し訳ありませんでした」
王様が即座に土下座した。
「国王様!?」
側近たちが驚いている。
しかし国王は、土下座したまま側近たちをにらみ上げた。
「貴様ら、頭が高いぞ! このお方こそが女神様に選ばれし光の勇者、エリー=クローゼナイツ様だッ!」
「この、このお方が、あの……!」
ざわめきが波のように広がっていく。
「国の予算を3日で使い切ったという……!」
「道を遮ったという理由で聖王都軍を一人で半壊さた……!」
「こいつ一人のせいで国の発展が10年は遅れたという、いわくの……!」
「モンスターに支配される方がまだマシな、光の祝福を受けた闇の勇者……!!」
「あんたら全員死刑ね」
人数分の聖剣が生み出される。
「「「「申し訳ありませんでした」」」」
全員そろってその場で平伏した。
みんなエリーの恐ろしさを嫌というほど味わってるからなあ。
なにしろエリーはこの国で育った。
そのあいだ十数年間。
ずっとこの国いたんだ。
ちなみに光の勇者となったのは3歳の頃だ。
あとはまあ、言わなくてもわかるだろう。
「アタシもこんな国にいたくないのよ」
「そ、そうでございますか」
「だからさっさと軍を戻してほしいの」
国王がおずおずと顔を上げる。
「そ、そうしたらこの国から出て行っていただけますか……?」
「なにそれ。まるでアタシはこの国にいて欲しくないように聞こえるんだけど」
「め、滅相もありません! それはもういくらでもいていただければと」
「じゃあ永住しようかしら」
「えい、じゅう……」
ブラン王の顔が真っ青になった。
かわいそうに。
エリーもわかっててやってるんだろう。
なにしろエリーのいないところで散々陰口を言ってたからな。
むしろエリーが怒っているのに口だけで済ませるなんて、なんて成長したんだと俺は泣きそうになるくらいだ。
そういえば王様も泣きそうな顔してるな。
なんだかんだでエリーは子供の頃から知っているからな。
成長を感じて涙ぐんでいるんだろう。
その気持ちわかるよ。
またちょっとタイトル変わりました




