表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/97

帝王の簡単な見分け方

「シェイド、城内にいる者全員をここに集めてくれ」


「了解した」


 シェイドがうなずく。


「城内の全員を集める? そんなことが……」


 帝王が疑うようにつぶやく。

 たがて壁にダンジョンの入り口が現れると、そこから1人の兵士が飛び出してきた。

 飛び出すというか、ほとんど放り投げられるように形だったけど。


 兵士は地面に落ちると、慌てて周囲を見渡した。


「な、なんだここは!? 突然地震に襲われたと思ったら、床に穴が出来るし、今度は中庭に放り出されるし……一体なにが起こっているんだ!?」


 混乱の極みで辺りを見回している。

 いきなり城が謎の地下に落下し、こうして別の場所に移動させられれば、混乱するのも無理はない。

 むしろこの状況で落ち着いている方がおかしいんだ。


 ここはシェイドのダンジョン内だ。

 好きなところに入り口を作ることができるし、どのモンスターがどこにいるのかもすぐにわかる。

 その力を使えば、誰がどこにいるのかも簡単に感知できるらしいんだ。

 だからダンジョン内の城にいる者の足元に入り口を出現させ、落とし穴のようにしてここに移動させてもらった。


 やがて壁に作られた入り口から、次々に人が放り出されてきた。

 最終的に集まった人数は全部で数百人くらいだろうか。

 集められた人々で中庭はいっぱいになった。

 こんなに多いと、ちょっと数える気は起きないな。


 暴動が起きないように、中庭の出入り口はダンジョンに住む魔物たちを使って封鎖しておいた。

 ドラゴンやサイクロプスなど、高レベルのモンスターばかりだ。

 下手に逆らえば命はない。

 混乱は起きていたものの、最初に突破しようとしたどこかの隊長が一撃で倒されてからは、歯向かおうとする者は一人もいなかった。


「これで全員だ」


 シェイドが淡々と告げる。

 結構すごいことをやり遂げた後なのに、それをまったく感じさせない態度だった。


 帝王が驚いたようにシェイドを見ている。


「ダンジョンを操る力……。なるほど、それがこの城を閉じ込めた力か……。恐るべき能力だが……1か所に集めてどうしようというのだ。やはり全員殺すつもりか」


「そんなことしなくても、もっと簡単な方法がある。シャルロット、頼む」


「わかりましたワン!」


 シャルロットが魔法の詠唱を開始する。

 そして帝王に向かって発動した。


「<サンダー>」


 初級の雷魔法だ。


 初級とはいえシャルロットが使えば相応の威力になる。

 強烈な電気ショックにより、帝王の体がビクンと跳ね上がった。


「「ぐあっ!!」」


 あちこちから同じ悲鳴が上がった。


 分裂体同士は全ての感覚の共有している。

 当然痛みもだ。


 雷魔法は人間の神経に直接作用する。

 ダメージよりも痺れの方が厄介な魔法だからな。

 それは人間の反射神経によるもので、よほど特殊な訓練でも受けていない限り耐えられるものじゃない。


 そんなものが突然頭の中に流れ込んでくる。

 思考がすべて真っ白に塗りつぶされるようなものだ。

 声を抑えることはできても、体の動きが一瞬止まってしまうことまではどうしようもない。


「シェイド、把握できたか」


「無論だ」


 うなずくと、集まった人たちの足元に次々と入口が現れる。

 落とし穴のように1人ずつ落とされていき、やがて20人ほどだけが残された。


 残ったのは帝王の分裂体たちと、何人かの兵士や使用人たちだ。

 もっとも、それらはみな帝王が変身した者だろう。


「なるほど……、電気ショックを与えた反応で余を見極めたか……」


「これでここに残るのは帝王だけだ。逃げ道はないし、戦力でもこちらが上。降参したらどうだ?」


「まだだ!」


 帝王が両手を空に向ける。

 他の帝王たちも一斉に同じ動作をはじめた。

 やがて手のひらに光が集まり、半球型の光の膜となって帝王たちを包み込んだ。


「余の全魔力を注いだ結界だ。しかも20人による多重詠唱型。そう簡単に破れるとは思わないことだな」


 まだこんな隠し球を持っていたのか。

 確かに強力な結界だ。

 一人でも分裂体が生き残ればいい、という帝王にとって、絶対の防御は有効な方法だろう。


 だが……。


「あら、こういうのはわかりやすくて好きよ」


 エリーが笑顔で聖剣を生み出す。


 結界とは、力で相手を弾き飛ばすもののことだ。

 形を持った暴力ともいえる。


 暴力でエリーに対抗するのは、残念ながら悪手なんだよなあ。


「どっちの魔力が先に尽きるか勝負しましょう。あ、もちろん殺す気でいくから、ちゃんと本気で防いでね」


 ニコッと笑い、手にした聖剣を全力で投げつける。

 最初の一撃目で結界にひびが入った。


「くっ、な、なんだこの威力は……!?」


 帝王が焦りの声を上げながら結界を修復する。

 そのため結界自体はすぐ元に戻ったが……。


「ここからならダンジョンを通じていつでも宿屋に戻れるのよね? 部屋に魔力回復用のポーションを100本ほど用意してあるから、だいたい聖剣4、5万本くらいなら生み出せるわよ」


「聖剣が4、5万本、だと……?」


 帝王の声が震える。


 聖剣一本でこれなら、そう長くは保たないだろうなあ。

 俺の予想通り、やがて帝王が魔力を使い果たして倒れるまで、そう時間はかからなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ