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城内散策

 帝王のスキルについて調べるのも重要だが、もうひとつ調べなければならないことがある。

 それが帝王の居場所だ。


 できることなら分裂体全員の居場所を把握したい。

 もちろん全員は簡単なことじゃないだろう。

 でも、できる限り知っておく必要はある。

 最低でも、おそらくはいると思われる司令塔役を見つけたい。


 そういうわけで俺たちは今、帝国の城へとやってきていた。

 俺たちといっても3人しかいないんだけどな。

 俺とシェイド。そしてもう1人新しい仲間だ。


「外から見たときも思ってたけど、かなり大きな城だよな」


「帝国の城は王族を守るという役目以上に、権力者の威光を国民に示すという役割もありますので」


 そう教えてくれたのは暗殺者のひとり、リードだ。


 暗殺者たちのリーダーであるキラは、帝国内では一般市民として生活してるらしく、城内には入れないのだという。

 彼の正体を知る者もほとんどいないらしい。


 俺たちは偽造したグレン隊隊長の親族という身分があるからいいけど、ただの一般市民が城内を歩くのはやはり問題があるからな。


 暗殺者たちは普段は身分を隠して市民に溶け込んでいるが、常に影の中にいるわけではない。

 表に出る必要がある場合もある。

 そういう時の表の顔として出るのがリードなのだという。

 だから城内でも顔が利くとのことだった。


「なるほど。だから無駄な作りが多いのか」


 淡々とつぶやいたのはシェイドだ。


 シェイドのダンジョンは、行ったことのある場所にしか入り口を作れない。

 だからこうして一緒に城内を歩くことにより、いつでも好きなところにダンジョンの入り口を作れるようにしておくんだ。


 帝王の居場所はまだ把握していないが、その大半が城内にいるのはほぼ間違いないだろう。

 いつでも城内の好きな場所に入り口を作れるようにしておくことは、今後帝王の居場所を探すためにも必要なことだった。


「無駄な装飾や、不要な柱も多い。見た目を重視した結果だろう」


 そういえばシェイドはダンジョンマスターだからな。

 建物の構造には詳しいのだろう。


「隊長、こちらです」


 リードが城内を案内してくれる。


 次にやってきたのは大きな広場だった。

 城内なのに、ここだけは外にいるみたいに草地が広がっている。


「ここはちょうど城の中央になります。城内のどこに向かうとしても、ここからなら行くことが出来ます」


「なるほど。それは便利だな」


 なにしろ巨大な城だ。

 ダンジョンに入り口を作る際には、ここを拠点にするのもアリかもしれないな。



 その後もしばらく歩いたのだが、とてもじゃないが回りきれる広さではなかった。

 もう結構歩いたはずなんだが、リードの話では、まだ1割ほどしか見ていないという。


「城自体の広さもありますが、敷地内に別の建物なんかもあります。それに私たちでは立ち入りが制限されている場所もありますので」


 なるほど。

 これは何回かに分けて来る必要がありそうだな。


「とはいえ何度も来たらさすがに怪しまれるよな」


「ダンジョンの入り口はいつでも作れる。夜にでも忍び込めばいいだろう」


「そうするしかないだろうな」


「それで次はどこに向かいましょうか」


「立ち入り禁止の場所も気になるが……城内は夜にでも忍び込めばいいとすると、別の建物ってのが気になるな」


「外にあるのは倉庫や兵士の訓練所が主です」


 あまり帝王がいそうにはない場所だが……。

 そう思わせておいて裏をかいてくる、ということはあるだろう。

 やはり一度は見ておく必要があるだろう。


 と、そのときだった。


「貴様らか、余の周りをこそこそと嗅ぎ回っている鼠は」 


 突然の声が背後から聞こえてきた。

 驚きのあまり俺もシェイドも、そして暗殺者であるはずのリードまでもが慌てて振り返る。


 声をかけられるまでまったく気がつかなかった。

 俺たちはともかく、暗殺者であるリードまで気がつかないというのは、普通に考えてあり得ない。

 よほどの実力者なのだろう。


 背後にいたのは、普通の兵士だった。

 身につける装備も、顔つきも、どこにでもいるようなものだ。

 だがそこから感じる威圧感は、ただの兵士とは信じられないほど重いものだった。


 気圧されないよう、声に力を入れて返す。


「何の話だ。俺たちはグレン隊隊長の親族だぞ。城に入る許可も得ている」


「グレン隊隊長なら余も知っておる。奴に家族はいない。貴様らは何者だ」


 なるほど、関係者か。

 しかしこのプレッシャー、ただものじゃないぞ。

 兵士が腰の剣に手をかけた。


「殺すは容易い。だがそれでは情報が得られぬ」


 すらりと剣を抜く。

 鉄製の鞘から抜くのに、擦れる音がひとつもしなかった。

 何気ない動作だが、並大抵の技術ではない。

 相当な訓練を積んでいる者の動きだ。


「ただの兵士じゃないな。何者だ」


「……いいだろう。情報を得るには相手の心を折るのが一番早い。絶望を知れ」


 そういうと、その姿がかすみ、一回り大柄の姿に変わる。


 それを見た俺たちは驚きに固まった。

 その姿は何度も見ていた。

 対策を立てるためにここのところ毎日目に焼き付けていたといってもいい。


 だが本物を目にするのはこれが初めてだった。


「まさか、帝王グリードか……!」


 探していた帝国の絶対王が、自ら俺たちの前に姿を現した。

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