表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/97

スキルのことはスキル屋に

「すべての帝王の場所を把握するのは困難ですが」


 キラが困ったように言う。

 俺は少し考えてから答えた。


「おそらく、司令塔となる一人は誰にも知られていない場所にいるだろう。城の中にも、暗殺者であるキラも近づけない区画があるんじゃないか?」


「……そうですね。さすがの慧眼です」


 そんなに褒められるとなんか照れてしまう。

 これまでうちのパーティーはまったく褒めてくれない人ばかりだったからな。

 主にエリーとかな。


「しかしどうして帝王がそんなすごいスキルを使えるんだ」


「私が教えましたから」


 キラが元凶だった。


「私の<分裂>を知った帝王が、影武者を作るのに適していると目をつけて、教えるよう要請してきたのです」


 まあそうだよな。


 実際最強の影武者だ。

 なにしろ全員が本物なんだから。

 しかも裏切りの心配もない。

 影武者として完璧なスキルだな。


「それにしても、だからってそんな簡単に覚えられるものでもないだろう」


「本来なら数十年という修行が必要になります。ですが帝王は数日で習得しました」


「なにそれメチャクチャ早いじゃない」


「私が教えたことを考慮しても驚異的な数字と言えるでしょう。血筋や運だけで帝国の頂点に上り詰めたわけではない、ということです」


「相当な強敵だな……」


 しかもその話だと、他にもスキルを覚えていそうだ。

 話を聞けば聞くほど、帝王の説得は難しく感じてきた。


 おそらくは<分裂>をどう攻略するかが鍵になるだろう。

 そのためにも情報が必要だ。

 となれば、スキルのことならスキル屋に聞くのが一番だろう。


「というわけで、ダンジョンを通じてやってきたんだ」


「あなたはいつも突然」


 スキル屋のカウンターで、店主のミストが淡々と告げる。

 顔から感情を読み取ることはできないが、どうやら怒っているらしかった。


 まあそれも無理はない。

 なにしろ連絡もなく、いきなりミストの店内にやってきたんだからな。


 だけどそれには理由がある。

 突然街中にダンジョンの入り口を作るわけにはいかないからな。


 だから店内にしたかったんだが、いくら普段は人がいない店とはいっても、絶対にいないとは言い切れない。

 なので店内ではなく、店の奥にある扉を入り口にしてもらったんだ。


 ミストからしたら、自分の部屋から知らない人がいきなりゾロゾロ出てきたようなものだ。

 驚いて当然だろう。

 むしろそれでも表情がぴくりとも動かないミストがすごいと言えるかもしれない。


「突然きたのは謝るよ。実は<分裂>というスキルについて知りたいんだ」


「聞いたことはある」


 キラが反応した。


「ほう。知っているか」


「<影分身>の上位版。分身ではなく、自分自身を複製するスキル。使えるのはごく一部の人だけ。そういう話は聞いている」


「それだけ知ってるだけでも大したものだ」


「でもそれ以上のことはわからない」


「そうか。やっぱり実際に見てもらうほうが早いか」


「見る?」


 ミストが首を傾げる。


「悪いけどちょっと頼めるか」


「了解したマスター」


 キラが頷き、3つに分裂した。


「──っ!!」


 とたんにミストが立ち上がり、駆け寄っていく。


「まさか本物の<分裂>!? すごい、本当に全部本物なんだ……」


 ベタベタと触りまくる。

 相変わらず本当にスキルが好きなんだなあ。


 しばらくして満足したのが、再びカウンターに戻っていった。


「すごい。やっぱりあなたといるとたくさんのスキルが見れる」


「分裂の弱点とかがあったら知りたいんだよ」


 少し期待を込めて聞いてみる。

 ミストは小さく首を振った。


「弱点、というのはない。今も調べて思ったけど、これは自分の複製を作り出すだけのスキル。他の能力はない。強いてあげるのなら、自分ができないことは分裂体にもできない。そもそもが無敵のスキルというものではない」


「分裂体がひとりでも残ってたらそこからまた分裂されるだろう」


 ミストは少し考えてからまた答えた。


「詳しいことはわからない。でもきっと分裂体は魔力を使って生み出している。無限に作ることはできないはず」


 なるほど。

 なら、ひたすら分裂させ続ければいつかは使えなくなる、か?


 いや、そう上手くはいかないだろうな。


「やはり、全部を一度に倒すしかなさそうだな」


「分裂体が他よりも弱くなる、ということもない。変わるところがあるとすれば、一人が処理する情報量が多くなる、というところ。全員の経験を一度に感じるから、その分反応が遅れるとか、そういうことはあるかもしれない」


 暗殺者もうなずいた。


「確かにそういうところはある。それに指示も一度に出さなければならない。10本の指をそれぞれ別々に動かすのが難しいように、複数の分裂体に別々の指示を出すには相当の修練が必要となる」


「そう。弱点があるとしたら、そこ」


「情報を飽和させ、思考を停止させるってことか」


 なるほど。

 それなら一度に全員ではなく、3回くらいに分けることはできるかもしれない。

 とはいえ大変であることに変わりはないけどな。


 やっぱり、できれば戦いたくない相手だな。


「ありがとう。参考になったよ。突然来たのに悪かったな」


「構わない。どうせ暇。それに珍しいスキルをまた見れて満足している」


 全く変わらない表情で坦々と告げる。

 一応は喜んでいるらしいが。

 本当に見た目じゃわからないな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ