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帝王のスキル

「マスター、無事潜入できたようで何よりです」


 暗殺者のリーダー、キラが恭しく頭を下げてそう言った。


 ちなみに名前は自らそう名乗ったものだ。

 本名かどうかはわからない。


 けどまあ名前なんて、本人と一致すればいいだけのものだからな。

 無理に聞き出すこともない。


「ありがとう。といってもまだ始まってもいないけどな。問題なのはこれからだ」


 なにしろ中に入っただけだ。


「それで、準備はできてるか」


 以前にキラを倒して奴隷とした際に、ひとつ命令を出していた。

 それは帝王の場所を探すことだ。


 帝国は絶対的な階級社会。

 その頂点に立つ帝王さえ説得できれば戦争も止まるだろう。


 エリーがつまらなそうな顔になる。


「説得なんてまどろっこしいわね。脅していうこと聞かせればいいじゃないの。ねえご主人様?」


「まあ、そうなるかもしれないけどな……」


 最後に「ご主人様」と呼んできたのは、奴隷にすればいいじゃないという含みがあってのことだろう。


 もちろん説得できれば一番いい。

 だけどこれほどの権力者が、いち冒険者の俺たちのいうことなんか簡単には聞かないだろう。

 女神様のご威光も、むしろ帝国にとっては敵だしな。

 逆効果にしかならないだろう。


 それに、帝国が軍を引いても聖王都が引かない可能性はある。

 それを理由に、帝国も軍を引かない可能性はあった。


 まあ聖王都のほうは、まだどうにかできるんだけどな。

 何せこっちには光の勇者がいるんだ。

 いくらでも方法はある。


 だから問題は帝国だった。


「それで、帝王の場所はわかったのか」


「結論から申し上げますと、帝王はいくつもの影武者を用意しておりまして、常に複数の場所に存在しています。居場所を特定するのは困難です」


 権力者なら影武者を用意するのは当然だろう。


「でもどこかに本物がいるんだから、そいつを見つければいいんだろう」


「帝王の影武者は<分裂>のスキルによって生み出されたもの。全員が本物です」


 分裂ってのは、前にキラと戦ったときに使われたスキルのことか。


「全部が本物って、そんなことあるの?」


「スライムの分裂と考えれば近いです。全部が本物であり、どれかひとつでも生きていれば、それがオリジナルとなって再び分裂する」


「やっかいだな……」


 それはつまり、すべての帝王を同時に倒さなければならないことになる。


 キラと戦ったときは、目の前に3体ともがいたから、一度に攻撃することでどうにか出来た。

 しかし今度は、バラバラの場所に存在しているという。

 ひとりでも残ったらまた無数に分裂されてしまうからな。

 それどころか、下手に残したら一時的に100人とかにされかねない。


「面倒ね。やっぱりさっさと奴隷にしちゃえばいいじゃない」


「簡単にいうなよ……。それに奴隷化するには、相手に負けたと思わせることが必要だ。分裂した体がいくつやられたところで、1体でも残っていたらそこからいくらでも増やせるのだから、その状態では奴隷化は無理だろう」


 奴隷化するなら、やはり同時撃破しかない。


 とはいえ今の俺たちの目標は、帝王を倒すことではない。

 あくまでも説得だ。

 全員が本物だというのなら、そのどれかひとつに接触すればいいのだから、話をするのにはむしろ好都合だろう。


「帝王を説得……」


 キラが何か言いたげにつぶやく。

 そんなの無理に決まっている、という雰囲気だ。


 まあそうだよな。

 帝国全土を支配している絶対の王様だ。

 交渉や謀略なんかは日常茶飯事だろう。

 俺ごときの説得でどうこうできる相手じゃないかもしれない。


 とはいえ対話を諦めたりはしない。

 力に訴えるのは、説得が失敗した後の最後の手段だ。


「分身同士でケンカになったりしないの。俺がオリジナルだーとかって。偽物が反乱を起こして成り代わるとか、よく聞く話だけど」


「分裂でケンカになることはありません。うまく説明するのは難しいですが、分裂がいくつに増えようとも意識はひとつです。私たちも一つの意識で二つの手を動かせます。その手足の数が何十本にも増えたようなものです」


「よくわかんないわね」


「とはいえ手足の数が増えれが処理も重くなります。私も戦闘で使えるのまでは3人までです。ですが、簡単なデスクワーク程度ならもっと増やせるでしょう。帝王は常時分裂したまま、もう何年にもなります。分裂の扱いにも慣れているでしょうし、今現在何人になっているのかは誰も知りません」


「興味深い能力だな」


 普段はほとんど物事に興味を示さないシェイドも感心したようだった。

 そういえばシェイドはダンジョンマスターであるため、モンスターの創造主でもあるんだっけ。


 パンドラやゴーレムのような魔法生物は自然には発生しない。

 そういうのは強力な魔術師が作り出すものなんだ。


「意識の共有、でもないか。全員が一人なのだから。とはいえ離れているものを同時に動かすのは難しいだろう。感覚器官はどうつながっているんだ」


「魔力で繋がっていると言われています」


「複数の分裂体から得られる情報を一度に処理しなければならない。人数が多ければその情報量も当然多くなる。視覚情報だけでも膨大な量になるはずだ。さらに思考し、それぞれ別に動かし、場合によって話をすることもあるだろう。

 すべてを同時にこなすのは簡単ではない。どこかに処理担当の個体がいるのではないか」


「なるほど。ありえそうな話だな」


 処理の問題もあるだろうが、どれか一人でも生きていればいいのなら、絶対に守るべき一人をどこかに隠したいと思うだろう。

 そいつさえいれば暗殺に怯えることもなくなるんだからな。


「そいつさえどうにかすれば倒せるってこと?」


「倒せるわけではないだろうが、処理能力が足りなくなって分身の数が減る、ということはありえるだろう」


 ならその処理担当帝王を探すのが当面の課題か。

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