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御主人様に盾突いた罪は高いですよ

 暗殺者のリーダーは逃げられないとわかったのか、短剣を抜いて立ち止まる。


「化け物どもめ」


 吐き捨てるようにつぶやく。

 それに関しては否定できないなあ。

 パンドラが相手を丸呑みにした直後だし、こっちにはダンジョンマスターのシェイドもいるからな。


 とはえい、一応今のパーティーは人間の方が多いのだが、そう感じないのはなんでなんだろう。


「わん?」


 こいつのせいかな。


「お前らだって殺しを仕事としてるんだ。人のことは言えないだろう」


「我らは帝国のために手を汚している。貴様らと一緒にするな」


 帝国のため、ね。

 正義の名の下の暴力は暴力じゃないってか。


「まあいい。お前の仲間は全滅だ。お前一人じゃ俺たちに勝ち目はない。投降する気はないか」


「例え勝ち目はなくとも、依頼主を裏切ることはない」


「やっぱり帝国が依頼主なのか。それともどこかの大臣とかが個人的にお前たちを雇ってるのか?」


「それ以上知る必要はない」


 そう答えた男が、わずかにだか口元を笑みの形に歪めた気がした。


「どうせお前たちは死ぬのだからな」


「どういう意味だ?」


 まさかこの状況でも勝つつもりなのか。

 そのとき、一羽の鳥が地面に降り立ち、褐色少女の姿に変身した。


「ご主人、すまない。食べたと思ったけど逃げられたのダ」


「逃げられた?」


 そんなことがあるのか?


「こう、お腹の中からずばーって切られてナ。中にいた奴らが出てきたんダ」


 いともあっさりと恐ろしいことを口にする。


「お腹の中から切られたって……大丈夫、なのか?」


 見た目は確かになんともないが……。


「姿をいくらでも変えられるオイラには、多少切ったくらいじゃ効かないゾ。チクッとはしたけどナ」


 明るい笑顔で自慢そうに答える。

 本人がそういうならそうなのだろうが。


 とはいえ逃げられたのは予定外だ。


 やがてまだ煙が上がる焼け跡から複数の男たちの影が見えてきた。

 どうやら本当に逃げられたらしい。

 男たちは音も立てずにものすごい速さで走ってくる。

 あっという間に俺たちを取り囲んだ。


「パンドラの中から脱出するなんて、そんなこと可能なのか」


「オイラも初めてだからびっくりだナ」


「擬態能力を持つだけでパンドラも他のモンスターと変わらない。消化される前なら脱出は可能だろう」


 シェイドが淡々とした口調で解説する。


「とはいえ、可能というだけで実際にできるかどうかは別だ」


「準備さえしていればできるってことか」


「そうだ」


「なるほど。俺たちのことはバレてたってわけか」


 仲間にパンドラがいることを知っていたんだろう。

 だからその対策を用意していた。

 それがどういったものなのかはわからないが。


「てことは、シェイドのことも知ってるよな」


「当然だ」


 男が答える。

 同時に俺たちの周囲を半円形の結界が覆った。

 どうやら俺たちを取り囲んだ奴の中に結界術士がいたらしい。


「ミミックの娘だけ存在が確認できなかったが、まさか建物にもなれるとはな」


 なるほど。

 それでさっきは結界を使わなかったのか。

 だが今はこうしてパンドラの姿も確認できる。

 俺たちを一網打尽にするチャンスというわけだ。


「うう……ご主人、すまない……力が入らないのダ」


「くっ……」


 パンドラが地面に倒れ、シェイドも膝をつく。


 どちらも高レベルのモンスター、というか、シェイドにいたってはレベルが1000に達しているのだが、こうも簡単に動きを封じてくるか。


「対魔物用の結界だ。神龍クラスでさえ捕らえることができる。たかが魔王の1匹くらいわけもない」


「帝国にはそこまでの戦力があったのか」


「当然だろう。やがては世界全土を治める。それら我らの使命だからな。貴様らの最大戦力は封じた。魔物は殺すが、投降するなら命は助けてやる」


「ずいぶん優しいな。容赦なく皆殺しかと思ってたよ」


「捕らえたとはいえ腐っても魔王。それを従えた技術に興味がある。話してもらうぞ『奴隷王』」


 なるほど。そこまで知っていると。

 まあステータスを見ればわかることだしな。

 確かに気になるだろう。


「ずいぶん簡単に教えてくれるんだな」


「この状況で勝ち目がないのはわかるだろう。貴様が素直に秘密を話すのならそれでいい。だが話さないのなら、強引にでも聞き出すことになる。その手の技術に長けているからな」


 拷問ってやつか。

 確かにこいつらなら相当手慣れてるんだろうな。

 たぶん俺たち程度ならあっさりと口を割ってしまうだろう。


 だけど。


「どうやらひとつ重大な見落としてしていたらしいな」


「なんだと?」


 俺の左右で、奴隷の二人が殺意を剥き出しにしていた。


「ねえイクス。こいつら殺していいわよね? ダメなんて言わないわよね?」

「御主人様に害を加えるなら相応の対価を払ってもらいます」


「二人とも人は殺さないって<ギアス>をしてるからそれはできないぞ」


「……ちっ。じゃあ戦闘不能で勘弁してやるわ」


「ちなみに、具体的な方法は?」


「両手両足を切り落とす」


 コワイ。


「さすが御主人様、こんな奴らでもお許しになるなんてお優しいです。……あっ、ごめんなさい。私ったら感激のあまりつい人間の言葉を。わん、わんわん!」


「いや犬語なんてわからないからな」


「きゃんきゃん、くぅーん」


「子犬語でもダメだ」


「そうですか……」


 なんでちょっとガッカリしてるんだろう。

 周囲の男たちから剣呑な雰囲気が漂ってくる。


「なめやがって。自分たちの状況がわかってないのか?」

「投降する気はないということだな。なら痛い目を見てもらおう。話をするだけなら口だけ残ってれば十分だろう」


 男たちが武器を構える。

 しかしエリーたちの動きの方が早かった。


「<神器喚装>聖剣エクスカリバー」

「<カースフリーズ>」


 先制攻撃の聖剣が男たちを吹き飛ばし、黒い氷の風が瞬く間に凍り付かせる。


「なっ……、なんだこいつら!?」


 動揺する気配が広がる。

 おそらくこいつらは俺たちのステータスを見たんだろう。

 他人が見るとエリーたちのステータスはこうだ。


エリー=クローゼナイツ

レベル1

職業:奴隷 (イクス)

攻撃:0

魔力:0

防御:0

精神:0

素早:0

幸運:0


シャルロット=エーデルワイス

レベル87

職業:奴隷 (イクス)

攻撃:19

魔力:41

防御:18

精神:39

素早:22

幸運:29


 これなら、パンドラやシェイドたちに比べて戦力にならないと判断するのは当然だろう。

 人間としては高レベルなシャルロットも、レベル1000のシェイドと比較するのは酷だ。

 エリーに至っては新生児以下のステータスであり、生きているのが不思議なレベルだからな。


 しかし実際にはこうだ。


エリー=クローゼナイツ

レベル1

職業:奴隷 (イクス)

攻撃:0(+42)

魔力:0(+42)

防御:0(+42)

精神:0(+42)

素早:0(+42)

幸運:0(+42)



シャルロット=エーデルワイス

レベル87

職業:奴隷 (イクス)

攻撃:19(+19)

魔力:41(+19)

防御:18(+19)

精神:39(+19)

素早:22(+19)

幸運:29(+19)


 一時期爆上がりしたエリーのステータスだが、今は元に戻っている。

 やはり爆発的な感情が一時的にステータスを底上げするようだな。

 とはいえ今の状態でも恐ろしいくらいに強い。

 シャルロットは元のレベルの高さがあるため、エリーに匹敵するステータスとなっている。


「死ねやおらあああああああああああああっっ!!!!!」

「御主人様に盾突いた罪、死を持ってあがないなさい!!」

「な、な、なんだこいつら、バカみたいに強……ぎゃあああああああああああ!!」


 暗殺者の男たちも熟練の域だったが、残念ながら2人の相手にはならないようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] エリーもシャルロットも怒らせたらいけないのに。 可愛そうな男ですね。
2020/05/16 23:20 退会済み
管理
[一言] このパーティは魔物より人間のほうがずっと恐ろしいんですよねぇw
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