アタシの好きにしていいのよね
投げつけられた聖剣がシャルロットの肩に深々と突き刺さる。
「あがっ……!」
「なんだ。10本どころか1本も防げないじゃないの。期待したのにガッカリだわ」
エリーが呆れたようにため息をつく。
シャルロットはその言葉に返す余裕もなく、傷口を押さえて地面にうずくまった。
「う、ぐ、がああああ……っ!」
美しい顔に似合わない壮絶な悲鳴が漏れる。
聖剣の刺さった部分からはドス黒い煙が上がっていた。
聖剣は女神様の力を帯びている。
その光は人間には無害だが、モンスターにとっては毒だ。
特に悪魔に対しては絶大な効果を発揮するだろう。
「なんで人間相手に聖剣が効いてるのかしら。やっぱ心が汚れてると聖剣も効果を発揮するってことかしらね」
それだとエリーにも効果があることになってしまうのでは。
「何か言いましたかご主人様?」
ええー、言ってはいないのに。
なんで心の中読まれてるの。
「まあ、解呪薬といっても実際は魔法の効果を消すだけだからな。悪魔の呪いにも効果はあるだろうが、完全に打ち消すことはさすがにできないんだろう」
せいぜいが一時的に力を弱めるくらいか。
それでもシャルロットには十分な効果があったようだが。
やがて煙も収まり、シャルロットが大量の脂汗と共に荒い息を吐く。
「レベルダウンしても動けたのは、その薬があったからなのね……。それで効果を弱めてたってわけ……」
「なにいってるの。ちがうわよ。これはひとつしか持ってないし。アンタのためにとっておいたんだから、ありがたく思いなさい」
シャルロットが驚いたように顔を上げる。
「取っておいた……? どうして……。まさかあの時からもう、こうなることを読んでいたの……?」
「当たり前じゃない。脳筋魔術師には少し難しかったかしら?」
エリーがニヤニヤとしながら見下ろしている。
シャルロットがガックリとうなだれた。
どうやら格の違いを見せつけられたことで、最後の抵抗心を折ってしまったようだ。
「なん、なのよ……。レベルダウンも効かないし、どうかしてるわ……」
「いや効いてたぞ。しばらく動けなかったしな」
「だったら、どうして、あなたたちは動けたのよ……」
「シャルロットが自分で言ったんだろう。愛こそがこの世界でもっとも強い力だってな。レベルがいくら下がろうとも、俺たちの愛の前には敵わなかったってことだな」
奴隷と主人は絆が深まるほど強くなるといっていた。
愛する人のために死の淵からでもよみがってみせたんだ。
その力はそれはもうすごいに決まっているだろう。
けど、エリーはなぜか慌てていた。
「はあ!? あ、愛とか、そんなの関係ないわよ!」
「エリーは俺のこと好きじゃないのか?」
「そんなわけ……はいご主人様のことが大好きです。………………~~~~~~ッッッ!!」
素直な思いを口にしながらも、真っ赤になった瞳で俺を睨む。
そんなエリーも超かわいい。
うーん、この感じ久しぶりだな。
やっぱりエリーには定期的に照れてもらったほうがいいよな。
「ま、まあ、アタシのことはどうでもいいわ。それよりもこいつよ」
話を強引に切り替えた。
残念。今度またたっぷりと堪能することにしよう。
エリーの視線の先には、未だ聖剣の効果で苦しんでいるシャルロットがいる。
エリーの顔には隠し切れないほど邪悪な笑みが張り付いていた。
「イクス、コイツどうするつもりなの?」
「どうって……」
本来ならギルドにでも突き出す必要がある。
街でさんざん暴れてくれたからな。
その償いはしっかりとさせなければいけないだろう。
だけど実は俺にひとつ考えがあった。
そのためにはシャルロットを俺たちで捕らえておく必要がある。
「じゃあアタシがお仕置きしてもいいわよね」
エリーがそれはもうニッコニコの笑顔を浮かべた。
これはダメとは言えないやつだな。
「……お手柔らかにしてやれよ」
「もちろん。任せなさい。殺して楽にさせるわけがないじゃない」
「……っ!」
エリーの言葉に、シャルロットがびくりと体を震わせる。
そんなシャルロットにエリーが近づく。
「とりあえず、そうね。せっかく聖剣を25本も作ったんだし、もったいないから使いましょうか」
「使う、って、どういう……」
「全部刺してあげるわね♪」
「……──っ!!」
シャルロットが真っ青な顔で息を呑んだ。
これじゃどっちが悪魔かわからないな。
その後の様子を語る必要はないだろう。
ただひとつだけ付け加えておくと。
エリーが持っているポーションはどれも最高級品だ。金だけはあるからな。
肩にぶっかけて傷を一瞬で治したように、飲む以外の使い方もできる。
25回も刺されたら普通は死ぬが、25回ポーションをかければ死なないのだという今後一生使う機会のない知識を俺は手に入れた。
「なに終わった感出してるの。1億倍にして返すって約束したでしょ。あと9999万9975回残ってるんだからしっかりしなさい」
「ひぃっ……!」
ひどい。




