再びのスキル屋さん
ギルド内の部屋を借りて数日が経った。
色々と準備することもあったし、ガドーさんが好きに使っていいと言ってくれたから好意に甘えることにしたんだ。
そのかわり部屋代として色々と仕事を手伝わされたけどな。
まあどれも簡単な仕事だから助かったけど。
もっとも、ガドーさんは「数日がかりのクエストを半日で……」と驚いていた。
というわけで半日で仕事をさくっと終わらせたので、余った時間で俺とエリーはスキル屋へと向かっていた。
ついこのあいだ、新しいスキル屋の開業申請がきたと聞いたから早速やって来たんだ。
シェイドは何か作業があるとかで自分のダンジョンにいるらしい。
何かあったときは呼べばすぐ来ると言っていた。
まあシェイドにはあとで用事がある。たぶん呼ぶことになるだろう。
なんか呼んだら本当に文字通りすぐ来そうな気がするなあ。
パンドラは暇な時間は一人で街を見学して回っているため、今回も一緒にはいない。
なんかずいぶん人間社会に興味があるみたいだ。
というわけで久しぶりにエリーと二人きりでお出かけだ。
といってもなにか特別なことはなにも起きないんだけどな。
少し歩くだけで目的の場所にたどり着いた。
今日開店したばかりらしく、真新しいスキル屋の看板が入り口前に置かれている。
とりあえず扉を開けて中に入ろう。
店中はまだがらんとしていた。
今日オープンしたばかりだからか、商品と思われるものはほとんど何も並んでない。
本当に急ごしらえで開店しただけのようだ。
入り口正面のカウンターには、以前にも会ったスキル屋のミストがちょこんと座っていた。
もともと俺たちがここに来たのも、たぶんミストがいるからだろうと思ったからだ。
前の街を出てこっちに店を移すといっていたし、時期的にそうじゃないかなと思ったんだよな。
予想通りで良かったよ。
相変わらず無表情で、客が入って来たというのに挨拶のひとつもない。
熱心に手元の本を読みふけっている。
だけど、俺とエリーの姿に気がつくとわずかに視線を上向かせた。
「……あ、来た」
「久しぶりだな」
「うん。久しぶり」
そう言うと本をカウンターに置き、店の入り口へと向かっていった。
「どうしたんだ」
「店を閉める」
あっさりと言われて俺は驚いてしまった。
「今日オープンしたばかりだろ。まだ半日も経ってないんじゃ……」
「あなたたちと会うために開店しただけ。目的を果たしたからもう必要ない」
そう告げると外に出していた看板を店の中にしまい、本当に店を閉めてしまった。
どうりで店の中に何もないと思った。
最初から商売をするつもりがなかったんだな。
納得しているあいだにミストがカウンターに戻ってきた。
「約束。スキルの話聞かせて」
「ああ、そうだったな」
以前にスキルの鑑定料や、新しいスキルの代金をタダにしてもらったんだ。
その代わりに超レアなスキルだという<奴隷化>について話すことになっていた。
いつも無表情なミストだが、スキルのことになると前のめりになっている。
顔に感情はまったく出ていないが、その分態度に出ているようだな。
俺は<奴隷化>のスキルについて分かっていることを話した。
といってもほとんどないんだけどな。
せいぜいステータスの数値が大きく上がったことくらいか。
仲間の数が増えるほどに上昇値も増えていった。
それと、以前エリーのステータス上昇値は+10で打ち止めだったのだが、今は+28にまで増えている。
おそらくだが、1日の上昇値に制限があるんじゃないだろうか。
それに上がり方も関係がありそうだ。
前は夜にベッドの上で一回するごとに+1されたのだが、今は何回しても上昇しない。
むしろいつのまに+28にまでなったのか。
ちゃんと毎回確認しておけばよかったな。
「<奴隷化>のスキルは、奴隷との絆が深いほど強くなると言われてる。たぶんそれが関係している」
「どういうことだ?」
「恋人でも夫婦でも、最初のうちは夜の営みをするほどに関係が深まる。でも回数が増えると慣れてしまい、なんとも思わなくなる」
「ああ、なるほど……」
その気持ちは少しわかる。
最初はエリーと一緒に寝るだけで緊張したし、肌を重ねるだけで感激で昇天しそうだった。
でも今は確かに慣れてしまった。
いや何回してもめちゃくちゃ嬉しいことに変わりはないんだが、やはり最初の頃の感動はない。
うーむ。倦怠期というやつか?
これはエリーとの仲を深めるためにも、新しいことを考えなければならないなあ。
エリーの方を見ると、わずかに顔を赤くしていた。
「アンタたち、人前でよくそんな話ができるわね……」
「そうか?」
「?」
俺とミストが同時に首を傾げる。
そんなに変な話してたかな?
俺とエリーの仲なんてガドーさんにもバレバレだったみたいだし、ギルド内にもあっという間に広まった。
隠すような事でもないと思うんだが。
「だいたい、さっきの話は本当なの? その、したらステータスが上がるとか、途中で慣れるから上がらなくなるとか……」
少し気まずそうなエリーに、ミストは静かに首を振る。
「本当かはわからない。話を聞いた上で立てた仮説」
「そ、そうよね。そんなことあるわけないわよね」
「だから仮説を検証する必要がある」
そういって、ミストがじっと俺を見つめてきた。
「本当に増えるのかどうか私と実際にやって試せばいい」




