女神様のお願い
「同じ人間同士で殺し合うとは。昔から何ひとつ進歩しないな」
「人間は愚かだからナー」
「本当よね。どうしてアタシがそんな奴らなんか助けないといけないの。殺し合いたいなら勝手に殺し合ってればいいじゃない」
モンスター陣が一様に言葉を同じにする。
いやエリーは人間側のはずなんだけど。
「ま、エリーに手を出したのが間違いだったな」
「こいつは、本当に光の勇者なのか……?」
さすがに市長も信じられないような目でエリーを見ている。
「エリーの噂を聞いたことくらいはあるだろう」
「確かに、ろくでもないやつだという話は……。だが腐っても女神様に認められた人物なのでは……」
その女神様の話では、勇者になったばかりの頃は確かに勇者のしての資質を持っていたそうなんだがな。
過剰な力を与えられ、周囲の誰もが彼女に意見をできなくなってしまった。
その環境がエリーの性格を歪めてしまったのだろう。
「勝手に勘違いして勝手に敵に回しただけだったな。余計な手なんて回さなければ、そもそも俺たちは数日もしたらこの街を出るつもりだった。何もしなくても、あんたの計画とやらを邪魔する奴はいなくなるはずだったんだよ」
俺たちの目的は、エリーが光の勇者の資格を失ったところまで行くことだった。
少なくともエリーの顔を知られていないところまで行く必要がある。
この都市じゃ「元光の勇者」として見られてしまうからな。まだそのことについてはバレてはいないが、それも時間の問題だろう。
「とはいえ、知ってしまった以上放置するってわけにはいかない」
なにしろ相手は国を裏切ろうっていうんだ。
国家反逆罪は当たり前だが重罪だ。
この都市は多くの高レベル冒険者を抱えている。
戦力的に無視はできないだろう。
だからこそ帝国は市長を抱き込んだんだ。
密約を交わし、聖王国に味方させないだけで戦局も大きく変わってくる。
市長が言葉もなくガックリとうなだれた。
自分で勝手に敵を作っていたことにようやく気が付いたんだろう。
まあ、こいつについてはこのくらいでいいだろう。
「ついでにもうひとつ聞かせてくれ。俺たちを狙ったあの暗殺者は誰なんだ」
「詳しくは知らない」
「足を食べれば思い出すカ?」
「ほ、本当なんだ! 奴らに名前はない。金さえ払えばどんな殺しでも請け負う暗殺者集団としてだけ知られている。私も帝国側のスパイから紹介されただけなんだ」
「嘘じゃないだろうな」
「も、もちろんだ!」
激しく首を縦に振る。
パンドラに食べられそうになったのがよほどトラウマになったみたいだな。
それにしても、名前のない暗殺者集団か。
相手にはしたくないが、元々は依頼を受けて俺たちを狙っただけだ。
依頼主を捕らえたのだから、もう俺たちを狙う理由はない。
敵対することもないだろう。
そう願いたいものだ。
「それで、この男はどうするんだ?」
シェイドの問いかけに俺は少し考えて答える。
「冒険者ギルドに引き渡す。あそこはこの都市の自警団も兼ねているからな。その後の処遇はあそこに任せよう」
同じ冒険者として、ギルド長のことはよく知っている。
いきなりこんな大事件を持ち込まれて驚くだろうが、あの人なら信用できる。
きちんとした裁きを下してくれるはずだ。
「戦争が起きるらしいが、そっちはどうする」
「そういわれてもな……。所詮はただの冒険者である俺たちにはどうしようもない」
俺たちには一国の軍隊を止める力も権力もない。
王様に直々に進言できるほどの権力でもあれば良かったのかもしれないけどな。
光の勇者といえどもそこまでの権力はない。
申請すれば聖王国の王様に謁見する機会くらいなら得られるかもしれないが、そこで出来ることなんて、せいぜい気をつけるように忠告するくらいだ。
そもそも信じてもらえるかもわからないけどな。
だから、この件は俺たちの手には余る。
それが結論だ。
そのときだった。
ダンジョンの隅に神聖な光が満ちる。
やがて光の中から美しい女性が現れた。
誰もがその場にひれ伏すような絶対的な存在感。
シェイドですらもがその姿に目を奪われたまま動けなくなっている。
この世界の創造主と言われる女神様が、その美しい美声を震わせた。
「イクス=ガーランド。エリー=クローゼナイツ。その戦争を止めてください」
「は? なんでいきなりそんなこと言われないといけないの」
この場で唯一、女神様の威光に動じていないエリーが答える。
女神様は気を悪くした様子もなく、ただ悲しそうな表情で目を伏せた。
「この先の未来が見えました。このままでは大勢の命が失われてしまいます。どうかこの世界を救ってください」
続けてのお願いとなりますが、広告の下の
☆☆☆☆☆
を
★★★★★
に変えていただけると大変うれしいです。
それにしても、一介の冒険者が戦争なんてどうするつもりなんでしょうね。




