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ダッタラ、オイラが代わりに行ってやるヨ

 紹介された宿屋の内部には、豪華な内装が広がっていた。

 みるからに高級だが、決して派手すぎない。

 品のある、いかにも高級宿といった雰囲気だった。

 受付の女性が柔和な笑みを浮かべる。


「いらっしゃいませ。今日はどのような部屋をご希望ですか」


「ここがこの街で一番良い宿だって聞いてきたんだけど」


「ありがとうございます。当宿で一番人気の部屋はこちらになります」


 そういって紹介された部屋はこの宿の最上階で、値段もかなりのものだった。


 前までのエリーは最高級の部屋しか泊まらなかったのだが、さすがに俺までそれを真似するつもりはない。

 いくらお金があるからとはいっても、無駄遣いはやめるべきだからな。


 とはいえ今は長旅を終え、強敵との連戦も乗り越えたばかりだ。

 正直言ってめちゃくちゃ疲れている。

 2、3日くらいなら豪華な部屋に泊まって疲れをとるのも悪くはないだろう。


「それじゃあその部屋で頼む」


「ありがとうございます。お部屋は3つでよろしかったでしょうか」


「いや、そうですね……」


 俺とエリーは、まあ、同じ部屋になるとして……。


「シェイドはどうするんだ」


「どうとはどういう意味だ」


「部屋は別々が良いのか、それとも俺たちと一緒がいいのか」


「一緒でかまわない。今はお前が主人だからな」


「はあ!? なんでこいつが一緒なのよ!」


 反対の声を上げたのはエリーだった。


「何か問題なのか?」


「問題に決まってるでしょ! こんなモンスターなんかと一緒の部屋なんて嫌に決まってるじゃない! それに、その、同じ部屋に誰かいたら……」


 急にモゴモゴと言葉を曇らせる。


「……イクスと、できないじゃない……」


 あまりにも可愛すぎてこの場で抱きしめて部屋までお持ち帰りしたかったが、グッと堪えて我慢した。

 それは夜まで取っておくことにしよう。


「そういう心配なら必要ないよ。ここの部屋には寝室も複数あるみたいだから、シェイドだけ別の部屋にすればいいだろう」


「でも、となりに誰かいると思うと……」


 まだモジモジとしている。

 エリーにしては珍しくしおらしい態度だ。


 まあエリーの言いたいこともわかるような気がする。

 プライベートなことだからな。

 人に知られたくないという気持ちも当然だろう。


 となると……。


 シェイドの方にちらりと視線を向ける。

 俺が何かいう前に、シェイドも理解したみたいだった。


「つまり夜だけ私は外にいればいいということだな」


「そうだな。すまない」


「気にすることはない。ダンジョンの様子も確かめたかったところだ。席を外すついでに見てくるとしよう」


 有能な部下がいると話が早くて助かるな。


「そういうことなので、3人とも同じ部屋でお願いします」


 俺がそう言うと、受付の人は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、すぐに営業用の笑顔に戻った。


「……わかりました。では係の者が案内致します」


 なんか今、答えるのに妙な間が開いた気がしたんだけど……。

 受付の奥からは、他の従業員が何かささやいてるのが聞こえてくる。


「あの人、すっごいイケメンよね。ステキだわぁ。どこかの貴族様かしら」

「となりの女性もすっごい美人よね。いかにも美男美女のカップルって感じで、羨む気も起きないわ」

「一緒にいる付き人はなんなのかしら」

「さあ? 部屋の交渉もしてたし、下僕じゃない?」

「でも3人とも同じ部屋らしいわよ」

「でも女性の方は嫌がってたじゃない」

「まさか、あの下僕はイケメンの愛人ってこと……!?」

「王様と、女王様と、愛人の下僕……。さすが貴族様のプレイは高度なのね……」


 そんな高度なプレイはしないんだよなあ……。


「……しないよな?」


 念のためシェイドに尋ねてみたが、その表情はピクリともしなかった。


「なにをだ?」


「いや、なんでもない。忘れてくれ」



 案内された部屋は広くて豪華なところだった。

 前の街でも一応最高級の部屋に泊まってはいたが、なんだかんだで最前線の集落のようなところだったからな。

 街として長年発達してきたこの都市とは、やはり比べ物にならない。


「ふーん、悪くないわね」


 エリーも気に入ったみたいだな。


 とりあえず真っ先に宿に来たものの、時間的にはまだ夕方だ。

 なので、まずは食事をしようということになった。


「美味しい店については宿の人に聞けば教えてくれるだろう」


「ずっとイクスが作ってくれた適当な料理ばかりだったから、やっとまともな料理が食べられるのが楽しみね」


「確かに俺の料理は適当だったけど、味はそれなりだっただろ?」


「男はすぐに、味さえ良ければ見た目はどうでもいいとかいうのよね。そういうことじゃないのよ」


 そうなのか……。


「まあ俺もちゃんとした料理を食べるのは久しぶりだから楽しみだな。シェイドも食べるか?」


「いや、私は必要ない」


 意外にも断られた。


「いらないのか?」


「生命の維持に必要なことは私には不要だ」


「あー、アンタ不死身だもんね」


 エリーがどことなくゲンナリしたようにつぶやく。

 シェイドを倒すために粉々に切り裂いて爆破までしたのも今ではいい思い出だよな。

 ほんとなんで生きてるんだ。


「ちょうど調べたいこともあった。私はここに残ろう」


「ダッタラ、オイラが代わりに行ってやるヨ」


 手首のリングがカタカタと震えて声を出す。

 それまで黙っていたパンドラが急に話しはじめた。


「人間の料理には興味があったカラ、一度食べたかったんダ」


「食べたいっていってもアンタ、リングとか剣とかにしかなれないじゃない」


「前まではナ。デモ今はご主人から自由に変身シテ、自由に行動していいと言われてイル。だから……」


 手首のリングが急に外れると、宙に向かって飛び出した。

 それは空中で大きく膨らんで形を変え、やがて人型になって床に着地した。


「これでドウダ!」


 ドヤ顔でふんぞり返ったのは、やや幼い褐色肌の女の子だった。

 あちこち出ているエリーとは違って、スレンダーで健康的な体つきをしている。

 いやいや、そんなことより……。


「え……パンドラ、お前、女の子だったのか……?」


「魔法生物に性別はないゾ。デモご主人はこういう方が好きダロ?」


「いや、まあ……」


 そりゃ嫌いじゃないけど……。

 ただ、エリーの目の前でそういうことを言うのはやめて欲しい。

 予想通りエリーが半眼の冷たい視線を向けてくる。


「ふーん。そう。イクスはこういう子が好みなのね。へえー」


「いや、それはパンドラが勝手に言ってることであって、俺が一番好きなのはエリーに決まってるだろ」


「どうだか」


 信じてくれていないが、それ以上言わないところを見ると満更ではないようだ。


「じゃあ決まりダナ。これからもよろしくな、ご主人!」


 そういってパンドラが、褐色の顔を太陽のような笑みで輝かせた。


というわけで新ヒロインはパンドラちゃんでした。

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