危険地帯からの帰還者
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通行許可証の発行では、一瞬だけ騒動があった。
「本当に光の勇者なのですか?」
「そんなのステータ……これを見れば明らかでしょ」
エリーが聖剣を見せつける。
ステータスと言わなかったのは、それを見ると光の勇者ではなく俺の奴隷となってることがバレるからだろう。
ちなみに、前の街では無遠慮に「ステータス」を使われまくったエリーだが、本来は他人に向けて勝手に「ステータス」を使うのはするべきではないとされている。
実害があるわけじゃないが、やっぱり他人から勝手にステータスを見られるのは気分の良いものじゃないからな。
エリーがステータスで覗かれまくったのは、嫌がらせという側面もあったんだろう。
というわけで、聖剣を召喚して見せることで無事光の勇者としての身分を確認されたため、証明書を発行してもらった。
ちなみに俺たちは勇者の仲間ということで、それだけ通してもらえた。
さすが勇者すごい。
◇
街の中はそれなりに賑わっていた。
冒険者が多いのは、やはりそういう街だからだろう。
武器や防具屋などもかなり多い。
でもそれにしては、やっぱりずいぶんと物々しい気がした。
もっと活気があってもいいはずなのだが、全体的に空気がピリピリしている気がする。
客引きに来ている人も若い女性じゃなくて、厳ついおっさんなどが多かった。
通行許可証なんてこれまでにはなかったものも発行されはじめていたし、なにかよくないことでも起こっているのだろうか。
「なんか雰囲気が悪いんだが、何かあったのか」
近くの冒険者を捕まえて聞いてみる。
その冒険者はすぐに教えてくれた。
「なんだ、知らないのか? どうもここ最近、付近のモンスターの様子がおかしいらしい」
「おかしいって、どうおかしいんだ?」
「動きが活発になってるし、危険地帯のモンスターがかなりこっち側にまで近づき始めているらしい。何か異変が起きたんじゃないかって話題になっているんだよ」
「なるほど、それで入り口にも武器商人が多かったのか」
「最近はどこもこの話題で持ちきりだぞ。ここで戦うか、それとも逃げ出すかで冒険者の中でも対応が分かれてるよ。知らないってことは、この街に来たばかりなのか」
「最前線にずっといたんだが、色々あって戻ってきたんだよ」
「ほう、あそこから……」
俺たちをみる冒険者の顔つきが変わった。
俺たちがいた最前線の街は、ここよりもさらに危険な場所だ。
そんなところに行く奴は怖いもの知らずの熟練冒険者ばかり。
単なる命知らずともいえるんだが、冒険者の間ではそういう奴ほど評価は高くなる。
話を聞きつけた周囲の冒険者も集まってきた。
「あそこからの帰還者か。行く奴は多いが、帰ってくる奴はほとんどいない。よく戻ってきたな」
「まあ、十分稼いだからな」
もちろん戻ってきた理由は全然違うんだが、説明するわけにもいかないからな。
なので戻ってきた理由は「必要な分を稼いだから」とすることにしてあった。
実際、光の勇者だったエリーは高難度の依頼を受けまくってたから、金だけは有り余るほど持っているしな。
「それにしても、お前らが帰還者ねえ……。あまりそんな風には見えないんだが」
一部の冒険者から疑いの目を向けられてしまった。
俺はともかく、エリーは見た目だけなら可憐な美少女だからな。
シェイドもやたらと美形で、冒険者という感じではない。
まあ実際に冒険者じゃないからな。
「まあ、色々とあるんだよ」
説明が面倒なので投げることにした。
「なるほど。イロイロねえ……」
なんだかニヤニヤとした目で見られてしまう。
いったいどんな想像をされているんだろうか。
「……なにアタシのこと勝手にジロジロ見てるのよ」
視線に気がついたエリーが鋭い視線でにらみ返した。
「見世物じゃないわよ。アタシが可愛いから見入ってしまうのは理解できるけど、そんな目で見られる覚えもないわ。その目玉潰されたいの?」
流れるように罵倒が飛び出してくる。
確かに昔から口は悪かったんだが、すぐそうやって怖いこと言うのはなんなの?
「エリー、あんまりそういうことを言うのは禁止だ」
「はあ? なんでそんな命令……わかりました、ご主人様」
突然従順な態度になるエリー。
最近はバトル続きで忘れかけていたが、エリーは俺の奴隷だ。
ご主人様からの命令には絶対服従となっている。
強気な性格は戦闘では頼もしいんだが、普段の生活ではやっぱり控えめにしてて欲しいからな。
といっても、もちろんそんなこと外から見たらわからない。
突然態度が変わったエリーを見て、冒険者のおっさんが感心したようにうなずく。
「なるほど。そういうプレイか……」
ニヤニヤしていた笑みが、ニヤニヤニヤニヤした笑みに変わった。
エリーは顔を真っ赤にしてプルプルと震えだす。
明らかに怒っていたが、決して声を荒げるようなことはなく、俺に向けてニッコリと怒りの笑顔を向けてきた。
「ご主人様、今の件につきましては後ほどゆっくりとお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
笑顔なのにめちゃくちゃ怖かった。
そんな俺たちにさらに質問がやってくる。
今度は真面目な質問だった。
「少し聞きたいんだが、最近向こうの様子がおかしいというのは本当なのか」
「モンスターがいつもと違う動きをしてるって話か? そうだな、たしかに普段は見かけないモンスターもここにくる途中では何度か会ったな」
ミミックとか、ストーンゴーレムとかな。
それとなくシェイドの様子を観察してみたが、冷徹な表情はピクリとも変化していなかった。
すごいポーカーフェイスだな。
周囲に聞かれないよう小さな声でシェイドにたずねる。
「今の話、シェイドが原因なんだろ?」
シェイドも声を抑えて答える。
「そうだろう。準備を進めていたのは事実だ」
「ちなみに、もうここを襲うつもりはないよな?」
「今は貴様が私の主人だ。お前がそれを望む限り、私がそれを実行することはない」
そうか。なら平気か。
向こうの街が滅ぼされるかもしれないというのも街を出てきた理由のひとつだったが、少なくともその心配はなくなったといえるだろう。
気がつくと、周囲には様々な人であふれかえっていた。
正確な情報がないままモンスターとの戦争が始まるかもしれないといった状況になって、みんな不安なんだろう。
情報を求めて集まってきているのかもしれなかった。
俺たちとは関係のないところで情報交換も始まっている。そろそろ潮時だろう。
「悪い、帰ってきたばかりで疲れてるんだ。この辺りで一番いい宿を教えてくれないか」
「ああ、それはそうだよな。引き止めて悪かった。それならそうだな、街の中央にある一番大きな宿屋がある。ちょうどここからでも見えるあれだ」
そういって街の中央に向けて指を指す。
言われてみれば確かに、ここからでも目立つ建物がひとつあった。
「危険地帰りなら金もあるだろうしな。ゆっくり疲れを取るといい」
「わかった。ありがとう」
そういって俺たちはその場を後にし、宿へと向かうことにした。
次回か次々回はサービス回ですね。たぶん新ヒロインも参戦します。




