光の勇者の威光
ランキング48位! ありがとうございます!
要塞都市の門に俺たちが近づくと、そこでは行列が出来ていた。
どうやら街に入る前に、門番による検問が行われているみたいだった。
今までそんなことをしたことはなかったと思ったんだが……。
「なにかあったのかしらね」
「さあな。まあ並べばわかるだろう」
並んでいる人は冒険者が多いが、中には商人の姿もあった。
この都市は高レベルモンスターが生息する危険地帯に近いこともあって、都市には武器屋などが多い。
だから商人もそういった人たちが多いのだが。
「……ずいぶん多いな」
単純に人数が多いだけでなく、大型の馬車を複数連ねた商隊もいる。
あの中身が全部武器だとしたら、相当な量だ。
「まるで戦争でも始めるみたいね」
「なんでそんなに嬉しそうなんだ……」
「あら、そんな顔してたかしら」
「ウッキウキだったぞ」
「戦争を喜ぶとは。やはり人間の考えることは理解出来んな」
シェイドが怜悧な顔のままため息をつく。
「人間が暴力的な生き物なのは確かダガ、コイツはその中でも特殊なだけだゾ。ご主人は違うもんナ」
手首のリングになっているパンドラがフォローしてくれた。
なんだお前いいやつだな。
そんな話をしているうちに俺たちの順番がやってきた。
門の前では衛兵が槍を構えて通行人を見張っている。
その目つきは鋭く、かなり物々しい。
ここの衛兵は実践で鍛えられた者が多いから、レベルもかなり高い。
かなり物々しい雰囲気だった。
衛兵の1人が俺たちに近づいてくる。
「通行証は持っているか?」
「……前に来た時はそんなものなかったんだが」
以前は門番こそいたが、通行証なんてものはなかった。
だから当然持っていない。
すると、衛兵の構える槍の穂先が、俺たちの方へと向けられた。
「許可証のない者は通せない」
高圧的な物言いにカチンとくるが、そこはグッとこらえた。
「俺たちはこの先の最前線の街にいた。通行証のことなんて知らなかったんだ」
「悪いが規則でな。例外は認められない」
交渉の余地がないことを示すように、きっぱりと言い切ってきた。
どうやら話し合いは通じそうにない。
まあ門番も下っ端だろうから、通行証がない者を勝手に通す権限なんてないんだろうが。
「面倒ね、倒して通ればいいんじゃない?」
「やめてくれ、街と戦争する気かよ……」
エリーがさらっと恐ろしいことを言う。
それだと、仮に通れても賞金首になってしまうぞ。
門番の俺たちを見る目つきが険しくなってしまった。
あまり長居しないほうがよさそうだな。
「……通れないのはわかった。どうしたら許可証をもらえるんだ」
突然許可証なんて制度を導入したんだから、俺たちのように持ってない者は多いはずだ。
どこかでかならず発行する手段があるはず。
予想通り、衛兵もすぐに答えた。
多分何度も繰り返している言葉なんだろう。
「お前たちが街に入れてもいいか審査する必要がある。審査場は隣にあるからそこに行け」
「審査にどれくらいかかるんだ?」
「お前たち次第だな。怪しい者でないか調べる必要がある。身分を証明するものがあればすぐに済むだろうし、なければ最大で10日ほどかかる」
身分の証明なんて簡単にできるわけない。
特に俺たち冒険者はあちこち移動しているからな。そもそも「身分」と呼べるようなもの自体が存在しないんだ。
商人とか、貴族様なら簡単なのかもしれないが……。
まあ、荒い性格の冒険者なんて盗賊とほとんど変わらないしな。
疑われるのも仕方が無い部分はあるんだが。
しかしそうなると、かなり待つことになりそうだ。
10日は長いな……。
待ってるあいだは中に入れないとなると、泊まる場所の問題も出てくる。
宿泊場所は作られているとは思うが、どうせ即席の小屋みたいな場所だろう。
エリーの反応なんて確かめなくてもわかった。
どうしたものかと悩んでいたら、エリーが1人で門番に近づいていった。
「身分の証明なんて簡単じゃない。この光の勇者、エリー=クローゼナイツを知らないの?」
エリーの言葉に、門番も表情を変える。
「貴様がそうだという証拠はあるのか? 噂では人もモンスターも関係なく皆殺しにする極悪人らしいじゃないか。貴様はとてもそうに見えないがな」
どうやらエリーが光の勇者の資格を失ったことは、まだここまでは知られていないらしいな。
それを期待してここまで来たんだからそれはいいことなんだが、エリーはそうじゃないらしかった。
「………………ふーん」
低い声でつぶやく。
あ、これめちゃくちゃ怒ってるヤツだ。
気づかれないことが気に入らなかったのか、極悪人と言われたのが気に入らなかったのか。
どっちかな。両方かな。
エリーが無言で手を空に掲げ、抑揚のない声で唱える。
「<神器装喚>聖剣エクスカリバー」
手の中に光が集まり、光り輝く一振りの剣に変わる。
それは説明不要の神聖な力。
たとえ見るのが初めてでも、本能でどんな存在なのか理解してしまう。
「それは……まさか……」
門番たちも気がついたらしい。
恐れるように後ずさる。
周囲の冒険者や商人たちもざわめきはじめた。
そりゃあ、いきなりこんなところで聖剣が顕現すれば、誰だって驚くに決まっている。
おびえる衛兵たちに向けて、エリーがにっこりと笑顔になった。
「で、誰が極悪人だって?」
「光の勇者様とは知らずに申し訳ありませんでした!!」
全員がその場で平伏した。
その体は小刻みに震えている。
エリーの正体に気がつかなかったから謝ったというよりは、エリーを怒らせた者がどうなったかを知っているから謝っているようだ。
「それじゃあ通ってもいいわよね?」
「もちろんでございます!!」
そういうわけで、そういうことになった。
肩の痛みは引いてきました。
多分明日からはいつも通り更新できると思います。
皆さんも変な姿勢で長時間執筆するのは避けましょうね!




