シャルロットの受難と追跡行
街に行く前にシャルロット視点をひとつ書くことにしました。
街を出たというエリーを追いかけて私たちも街を出た。
向こうは馬車もない徒歩だ。
すぐに追いつくだろう。
そう思っていたのだけど、どれだけ進んでも2人の姿はまったく見つからなかった。
それどころか、足跡さえ見つからない。
今回のために追跡のエキスパートである冒険者を雇ったのだけど、ソイツも首を振った。
「ダメですね。どこにも跡がない。奴らはここを通っていません」
「そんなはずはないわ。アイツらは隣街に帰るしかないんだから。他のルートなんてあり得ない」
「じゃあ空でも飛んだんでしょう」
首をすくめて小馬鹿にするように言った。
どうやら私のことを女だからと舐めているらしい。
「ならアンタはもう用済みね。<フリーズ>」
私の魔法を受けて一瞬のうちに凍りついた。
他の冒険者たちが怯えたように息を呑む。
私は馬車の中から冷たい目をソイツらに向けた。
「役に立たない奴はいらないわ。こうなりたくなかったら死ぬ気で探しなさい」
「「「は、はいっ!!!」」」
雇った冒険者たちが我先にと周囲に散っていった。
やはり人を動かすには恐怖に限るわね。
その後さらに3人凍りつかせたが、やはり痕跡は見つからなかった。
どうやら本当にここを通っていないらしい。
「まさか私が追いかけることを予想して、追跡ができないように痕跡を消したってこと?」
途中にワイバーンと戦闘したと思われる箇所は見つけたけど、そこからの足取りがさっぱりわからなくなってしまった。
ワイバーンの起こす風や酸のブレスのせいで周囲は激しく傷んでいたのだけど、もしかしたら、あえて激しい戦闘をすることで痕跡を消したのかも……。
まさかそんなはずはと思うけど……。
でも、実際に足取りが見つからないのだから、そうとしか考えられない。
そんな小賢しいことを、あのエリーが思いつくはずないわ。
「イクス……。やっぱりあの時に強引にでも捕らえておくべきだったわね……」
時間をかけてじっくり籠絡すればいい。
そう考えていたのだけど、まさか次の日にはもう街を出るなんて思わなかった。
その辺りの危機意識もさすがというべきなんでしょうね。
ともかく2人を追いかけるために馬車を進める。
そうして、森の手前にあるはずの停泊所にきた時、私の疑問は確信に変わった。
その光景を見て、冒険者の1人が声を失った。
「小屋が……」
街を行き来する冒険者が使用するための小屋が、きれいに破壊されていたのだ。
さらにはそばに野営をした後まである。
エリーたちがここにいたことは間違いなかった。
「やってくれたわね、イクス……!」
私たちが利用できないよう小屋を徹底的に破壊したに違いない。
それ以外に小屋を破壊する意理由なんて考えられないのだから。
「だいたい、増援はまだなわけ!?」
私は急いで出発したため、必要最低限なものしか用意してこなかった。
そのため、遅れて第二陣が出発し、他に必要なものを持ってくる手はずだったのだ。
なのに、いまだに連絡のひとつもない。
何かトラブルが起きて遅れたのなら、必ず連絡するよう言っておいたのだけど。
やがて冒険者の1人が私の元にやってきて報告する。
「どうやら、街に残った冒険者の中の誰かが新しく街を支配し始めたようです」
「は? どういうこと?」
「あ、噂をあくまで聞いただけなのですが……っ」
報告に来た冒険者が、顔を真っ青にしながら説明した。
どうやら私がいなくなったあいだに、新しい冒険者が街の支配者として名乗りを上げたらしい。
エリーとこの私がいなくなったため、自分が一番強いと勘違いしたようだ。
「戻りますか?」
「……いえ、先に進むわ」
戻ってソイツを血祭りに上げることは簡単だけど、エリーたちとの距離はさらに開いてしまう。
理由はわからないが、かなりの速度で先に進んでいるようだから、今の時点でも差はかなり開いているはず。
これ以上遅れたら本当に見失ってしまうかもしれない。
隣街はそれなりに発達している街だ。人の数も多い。
そこを抜けられたら、もう足取りを追うことは不可能になってしまう。
それにどうせ、あの街はもうダメだ。
街を出て感じたことだけど、モンスターたちの動きがおかしい。
誰かに統率されているように感じる。
まるで私たち人間を優先して狙っているようにすら感じられた。
あくまでも噂だけど、どこかのダンジョンの地下深くにはダンジョンマスターと呼ばれる存在がいて、このあたりのモンスターたちを操っているという話を聞いたことがあった。
しかもそいつは人間を恨んでいて、根絶やしにしようと企んでいるという。
この辺りに危険な魔物が多いのもそのためだと言われていた。
そのダンジョンマスターが、ついに地上に出てきたのではないのかしら。
ダンジョン内にしかいなかったはずのモンスターも見かけるようになった。
今までは証拠もない戯言だと思って聞き流していたけど、この様子を見る限りではまるっきり嘘というわけでもなさそうだし……。
もしも本当なら、あの街はダンジョンマスターによって滅ぼされるでしょう。
「そんな街の支配者になっても意味ないわ。誰が代わりになったのか知らないけど、さっさとくれてやりましょう」
そうしてモンスターの群れに襲われて死ねばいいわ。
「街を捨てるのなら、エリーを追う理由も……」
「なに? 文句があるなら言いなさい」
「……いえ、なんでもありません」
目をそらして黙った。
コイツの言いたいことはわかっている。
エリーを追いかけている理由は、あの街を私が支配するためだった。
いまだに残るエリーの影響を消すために、連れ戻して公開処刑にしてやろうと考えていたのよ。
けど街を捨てるのなら、その理由はもうなくなる。
追う必要がないというのも確かだろう。
だけど。
「これはもうそういう問題じゃないのよ。ここで引き下がれば私が負けたことになる。少なくとも私はそう感じる。そんなことは私のプライドにかけて絶対に許さないわ」
他の誰でもない、エリーにだけは絶対に負けたくない。
アイツを乗り越えないと、私は胸を張って生きられない。あんな奴の影に怯えながら生きるなんて絶対にあり得ないじゃない。
それに、エリーにこき使われていたイクス。
アイツの才能は本物だった。
光の勇者だったエリーが凄すぎたせいで目立たなかったけど、そもそも特別な才能があるわけでもない普通の人間が、レベル10000超えとかいう頭のおかしい勇者の戦いについていけること自体が異常なのよ。
エリーの幼馴染というだけで一緒にいたみたいだけど、そんな理由だけであのエリーも連れて歩いたりはしない。
アイツは横暴で戦闘狂のバーサーカーだったけど、馬鹿じゃなかった。
使えない奴を荷物持ちとして雇っても、自分の戦闘に巻き込まれて死ぬだけだってことくらいは分かっていたでしょう。
あの街には高レベルの冒険者が大勢いた。
けど、エリーの過酷な冒険に耐えられる冒険者は一人もいなかった。
荷物持ちとはいえ、光の勇者に選ばれた唯一の人間。それがイクスなのよ。
エリーが力を失った今、その才能が開花していてもおかしくない。
もしかしたらこの私を超える存在になっているかも。
そうなる前に、なんとしても私の仲間にしたい。
私の力と、イクスの才能。
その2つがあれば、あんな小さな街にこだわる理由なんてない。
この国、いや、世界を支配することだって可能となるだろう。
だけど。
もしもこの私の誘いを断るというのなら。
すでに才能が開花して、私の邪魔となりそうなのなら。
「……その時は、処分しなければならないわ」
エリー共々、この世から抹殺しなければならない。
イクスはもちろんのこと、エリーだっていつ勇者の力を取り戻すかわからない。
完全復活とまではいかなくても、神聖魔法の一部を使えるようになるだけでもかなりの脅威だ。
特に聖剣よね。アレはヤバい。無限に生成できる最強武器とか、戦闘バカのエリーに持たせたらどんな大惨事なるかわかったものじゃないわ。
だからこそ今は追いつくことが最優先だった。
私の障害となるものは、早いうちに処分しなければならない。
これまでも私はそうやって成功してきたのだから。
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