ダンジョンマスターの実力
「エリー=クローゼナイツ。貴様は光の勇者の資格を失っているはず。なのになぜ……」
「うるさい死ねぼけえええええええええええええ!!!」
空気を読まないエリーさんが、セリフの途中にもかかわらず聖剣を投擲した。ひどすぎる。
普通に投げるだけでも十分に強力なのだが、今のエリーは<投擲>のスキルも持っている。
より強化された聖剣の一撃がダンジョンマスターの顔面を直撃した!
「はっ! 口程にもないわね。魔王だかなんだか知らないけど、所詮はこんなもの……」
勝ち誇っていた言葉が途中で止まる。
直撃した聖剣はダンジョンマスターの額に触れたところでピタリと止まっていた。
切っ先がわずかに血をにじませているものの、それもすぐに治癒してしまう。
「聖剣か……」
ダンジョンマスターが素手で聖剣をつかむと、そのまま握力で砕いてしまった。
破片は光の粒となって空中で溶けて消えた。
「悪いがそれは私には効かない」
「へえ……」
挑発されたと思ったのか、エリーのこめかみが怒りに震えた。
「だったらこれはどうかしら」
飲み終えた魔力ポーションの容器を投げ捨てると、両手を掲げる。
「<神器装換>聖剣エクスカリバー!!」
左右の手にそれぞれ聖剣が現れる。聖剣の二刀流だ。
その2つを両方とも振りかぶった。
「防げるものなら、防いでみろやああああああああああっっっ!!!!!!!!」
怒号と共に右手の聖剣をダンジョンマスターに向けて投擲し、わずかに遅れて左手の聖剣も投擲した。
一本目が先ほどと同様に顔面を直撃する。
だがやはりダンジョンマスターは無傷のままだった。
「無駄だ。何度やっても……」
「かかったわね」
ニヤリとエリーが笑う。
2投目の聖剣も、1本目とまったく同じ軌道を描いて飛んでいく。
それは狙い通りに突き刺さった聖剣の柄に直撃し、刺さっていた切っ先を強引に押し込んだ!
押し出された聖剣がダンジョンマスターの顔面を貫く。
うっわあ、えげつない。
何気に「防いでみろ」と挑発していたのもこれを狙っていたからか。
避けられたら意味ないからな。
まったく同じ軌道で二本とも投げるのは簡単ではないが、<投擲>のスキルがあれば可能だ。
スキルの使い方から挑発まで、あの一瞬でそこまで計算できるとは、さすがエリーは戦闘のセンスが高い。
「魔王だなんて言われていても所詮はモンスターよね。頭の出来じゃ人間様に敵うわけないのよ」
エリーが勝ち誇る。
しかし。
頭部を貫かれたはずのダンジョンマスターからは、血が一滴も流れていなかった。
倒れることもなく、それどころか逆に腕を持ち上げると、自分を貫いている聖剣を引き抜いて投げ捨てた。
ダンジョンマスターの顔が逆再生のように再生し、元の冷たくも美しい顔に戻る。
「相変わらず粗野な戦い方だ」
「はあ? なんで生きてるの? ゾンビだって頭潰せば死ぬんですけど?」
「無駄だと言っただろう。私を殺すことはできない」
呆れたようにつぶやくエリーに、ダンジョンマスターが淡々と答える。
なんか二人の反応が淡白なせいで実感が湧かないが、今目の前で起きたことはとんでもないことだった。
聖剣はモンスターにとっては猛毒だ。
どんなに強力な再生能力を持っていたとしても関係ない。
この世界の創造主である女神様の力が付与されているのだから、まったくダメージを受けないなんてことはあり得ないんだ。
彼がモンスターならば。
「お前、もしかして人間か?」
俺の問いかけに、ダンジョンマスターは静かに答える。
「いいや。私は人でもモンスターでもない。人と魔物と神と悪魔。それらを混ぜ合わせて作られた合成獣だ」




