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廃墟とゾンビ

 そんなこんなで、それからさらに十分ほどは歩いただろうか。

 出発地点から数えれば、既に三十分は歩いている。

 森の中を突っ切る形となっているため、少々移動距離などは分かりづらいが、あまり遠くないとも言っていたし、そろそろ目的地に着く頃だろう。

 そこに辿り着いたのは、ちょうどそんなことを話していた時であった。


 真っ先に足を止めたのは、当然のように先行する形となっていたレオンだ。

 ちょうどレオンの立っている場所で木々は途切れており、その先が開けた形となっていることが分かる。


 だが離れた位置から分かるのは、その程度のことだ。

 レオンがそこに立っているせいもあって、その先の様子はいまいちよく分からない。


「どうやら着いたみたいだけど……レオンが動かないね」

「何かあったのかしら?」

「ま、行ってみれば分かることじゃないか?」

「ですね」


 そんなことを言い合いながら、さらに歩を進めていく。

 レオンの背が近付き……やがて、その先に広がっている光景が視界に入った。


「なるほど……やっぱりここで間違いない、ってことかな?」

「似たような計画があったんじゃなければ、そうだろうな」


 そこにあったのは、瓦礫の山だ。

 最早廃墟ですらない。

 建物のようなものがあったと分かるのは、僅かに壁の一部が残っているからだ。

 ただしそれでも、逆にその瓦礫の量が、そこにあったものの大きさを示している。


「これ、どれほどの大きさのもんを建ててたんだ……? 面積的には少し広めの屋敷が建つぐらい、とか言ってた気がするが……」

「これで少し広め、か……それを言った人の間隔が分かるというものだね」


 少なくとも、眼前にあるそれの量と、森を開拓して作ったのだろうその場所の面積から言えば、少し広い、程度では済まなそうであった。

 果たして実際に作られたのは、どれほどのものであったのだろうか。

 それと、この大きさから考えると――


「はっ……んなこたどうでもいい。このくだらないことをとっとと終わらせんぞ。都合のいいことに、向こうから来てくれるみたいだからな」


 その言葉になるほどと思ったのは、レオンが立ち止まっていた理由を理解したからだ。

 この瓦礫の中を進むのも嫌がった、というのもあるのだろうが、目的の方から来てくれるのであれば、わざわざ自分から向かう必要もない。

 今回の討伐対象であるゾンビが、瓦礫の合間から次々と湧いて出てきていたのである。


 ただ問題があるとすれば、その次々と、というところであり――


「あー……まあ、そうなるよねぇ」

「これから考えれば、な……」


 先に抱いた、ここにどれほどの人が居たのか、という疑問には、やってきたそれらが答えていた。

 本当に次々と湧いて出てくるゾンビ達は、どう少なく見積もっても数十ではききそうにない。


「これは……ちょっと厳しいですね。主に見た目的な意味で」

「今日ほど後衛でよかったと思ったことはないわ……出来れば、見たくもなかったけれど」

「同感です」


 どうやら女性陣には大不評のようであった。

 まあ、当たり前だが。

 誰が好き好んで、ゾンビで溢れた光景を見たいと思うのか。


「まあ正直僕もあまり見ていたい光景ではないけど……これは依頼だからね。仕事はきっちり果たさないと」

「だな」


 もっともそう言っているマルクも、実際にゾンビと切った張ったをするわけではないのだが。

 アレと直接やり合うのは、和樹とレオンの役目だ。

 先ほどの自己紹介の際に、戦闘スタイル――主な使用武器と、前衛と後衛のどちらが得意かなどの大雑把な確認は済んでいるのである。


 逆に言えばそれだけのことしか教えあっていないとも言うのだが、それで十分だ。

 スキルなどのことは、当然のように教えない。

 冒険者は身体が資本であり、スキルは生命線だ。

 親しい仲間ならばともかく、一時的に組むような相手に詳細を教えることなどは有り得ないのである。


 だが再度繰り返すことになるが、それで十分なのだ。

 そもそも急増のパーティーで、まともな連携を行えるわけがない。

 誰がどの距離で動くのかだけを把握しておき、後は互いに邪魔にならないように動くということこそが、最善なのである。


 ちなみに、先に言ったように、レオンはその見た目通りに前衛だ。

 使用武器は大剣。

 ただし剣士というよりは戦士であり、前に出て暴れまくるタイプらしい。

 もっとも、この説明をしたのは本人ではなくマルクなのだが……まあ、逆に本人ではない方が、客観的な意見が聞けて役に立つだろう。


 そんなマルクは、やはりこちらも見た目通り後衛であり、使用武器は杖。

 所謂術者タイプであり、遠距離からの攻撃を得意とするようだ。


 女性――マリーもまた後衛であるが、使用武器はない。

 マルクとは違い攻撃ではなく、サポートに徹するタイプのようである。

 こちらもまた、見た目通りだと言えるだろうか。


 尚、そんな三人は共に年齢的には二十代後半程度に見える。

 ただしあくまでも見た目であるので、実年齢がその通りかは分からない……いや、少なくともマルクに関しては、違うだろう。

 何故ならば、マルクはエルフだからだ。


 エルフは長命種であり、平均寿命は八百歳程度と言われている。

 そのため百歳ぐらいまでは外見が子供のままであり、だがマルクは明らかにそうではない。

 つまり、外見年齢そのままでは有り得ない、というわけだ。

 まあ本人から聞いたわけではないが……その特徴的な耳の形からすると間違いないだろう。


 ちなみにレオンの種族に関しては、よく分からない。

 人類種ではなく、亜人系だとは思うのだが、さすがに一目見ただけで特定するのは不可能だ。

 そもそもそんなことが可能なのは、エルフと後は獣人系の種族ぐらいだろう。


 同様の理由により、マリーの種族も不明である。

 ただ、何となくではあるが、人類種ではないように思える。

 とはいえ、獣人系では明らかにないし、アマゾネスなどはイメージが違う。

 となるとそれ以外の種族だということになるが……まあ、どうでもいいことではある。

 閑話休題。


「さて、しかしあの数に前衛が二人か……二人とも、いけそうかい?」

「はっ、問題ねえよ。そもそもこっちが足りねえのなんざ、最初から分かってたことだ。そもそも、いつものことだし、後ろに通さなければ問題ねえ。そうだろ?」

「頼もしいもんだ。ま、俺としても異論はないけどな」


 尚、雪姫は後衛ということにしてある。

 本来は中衛であるが、未だに錬度が高くないため、万が一のことを考えてだ。

 普通であれば後衛よりも前衛の数を揃えるべきではあるが、足りないからといって前に出ろというのはさすがに無茶すぎるだろう。

 まあ、前衛は和樹一人で事足りると思ったからでもあるが。

 ともあれ。


「ふむ……とはいえ、瓦礫が邪魔で見通しが悪いな。まずはそっちをどうにかするべきか?」

「え? この場所はなるべくそのままにしとけって話じゃなかった?」

「ん? いや、瓦礫とかがあったら邪魔になるだろうから、壊しても構わない……むしろ跡形もなく壊してくれると、後々楽になるから有り難い、って話じゃなかったか?」


 食い違う話に、顔を見合わせる。

 まさかこんなところで違いがあるとは思わなかったので、確認することはなかったのだが……。


「ふむ……」

「なるほど……どう思う?」

「まあ、わざとだろうな」

「だろうね。今回の依頼は元々そっちから回ってきたものだし、敢えてその文言を入れたんだろう」

「誰かが余計な真似をしないように……さらには、余計な真似をしやすいように、か」


 ここはかつての開拓最前線。

 秘密裏に進められ、そして原因不明のままに壊滅した場所だ。

 保持しておけばその原因が解明できるかも……というわけでは、ないだろう。

 ここまで瓦礫の山が築き上げられているのだ。

 例え証拠となるようなものがあったとしても、既にそうとは判別出来ないに違いない。


 だがだからこそ、どんなものでさえ証拠だとしてしまうことが出来る。

 実は何処かの誰かのせいだったのだと、因縁のように原因を擦り付けることさえ可能なのだ。

 秘密裏に進められていたとはいえ、各国の上層部は知っていたはずである。

 ならばこそ、どこぞの国の工作で……ということがまかり通ってしまう可能性があるということだ。


 実際には、それが成功する可能性は低いだろう。

 しかし無用な波風を立てる必要はなく、最初からそんなものを用意できないようにしてしまえば問題ないということだ。

 敢えて都合のいいように文言を変えたのは、何処かの誰かがここに介入してくるのを遅らせるため。

 それと――


「で、どうする?」

「勿論そっちに従うよ。そっちからの依頼だし……それに、そっちに恩を作っておいた方が後々よさそうだからね。僕達もそのうち行くつもりだし」

「ああ、やっぱそういうのだったのか」


 以前少し触れたが、冒険者が街を移動するには面倒な手続きが必要だというアレである。

 その審査が、これで成果を持ち帰るということなのだろう。

 だとするならば。


「なら、俺もそっちに恩を売っておくかね」

「そうしてくれると有り難いね」


 自分達はなるべく保全するように勤め、果たしたが、その後で誰かが台無しにしてしまったらしい。

 そういうことにしておくということである。

 若干厳しい気もするが、まあサティアが上手くやるだろう。

 ともあれ。


「ちっ……おい、話し合いは終わったのか?」

「そうだね……後はもう本当に大丈夫、かな?」

「そうだな。仮に違うとこがあったとしても何とかなるだろうし……それに、さすがにそろそろそんな暇はなさそうだしな」


 ゾンビはゆっくりとではあるが、確実にその数を増やしている。

 このまま何もせずにいれば、そのうち周囲を囲まれてしまいかねない。


 ――まあ、どう考えても、その心配は無用ではあるが。


「はっ、ようやくか……待ちわびたぜ。わらわらと集まってきやがって……いいぜ、全部ぶち殺してやるよ……!」


 言葉の通り、その時をずっと待っていたのだろう。

 レオンの顔には喜色が浮かび、その身体からは、今にも蓄えた力が解放されんばかりである。

 その様子だけを見れば、和樹は必要ないとすら思え……いや、実際のところ、レオン自身はそう思っているのだろう。

 そんな気配を、ヒシヒシと感じていた。


「よくあんなの相手にやる気になれるもんだな……俺は出来ればご免被りたいんだが」

「はっ、なら別にそこで見ててもいいんだぜ……? オレの邪魔をするぐらいなら、そっちのがよっぽど役に立つからな」

「こら、レオン!」


 マリーの諌めるような言葉にも、レオンは見向きもせず、ただその闘志をむき出しにするかのように、前を見据えている。

 だが和樹の方も、和樹の言葉が先であるし、売り言葉に買い言葉、といった感じではあったが……そこまで言われてしまったのならば、黙ってみてなどいられない。

 先にも同じことを言ったが……こういった言動は慣れてはいるものの、そこに何も感じないわけではないのだ。


「随分と吹いたもんだ……そこまで言ったんだから、まさか足手纏いにはならないんだろうな?」

「はっ、ほざけ……オレの心配より、テメエが足手纏いになる方の心配をするんだな……!」


 叫ぶや否や、レオンは前方に一歩を踏み出した。

 轟音が響き、地面が爆ぜ、再度轟音が響いたのはその一瞬後。

 その勢いを利用し、レオンの身体が弾けるように前方に飛び出し、そのまま突っ込んで行った。

 こちらに対して合図も何もない。

 合わせることなど、勿論出来るわけもなく――


「やれやれ、まったくあいつは……」

「まあ、いつも通りでしょう? なら、私達もいつも通りいくとしましょうか」


 しかしマルク達は焦ることもなく、動き出していた。

 言葉通り、慣れているのだろうし……何よりも、信頼しているのだろう。

 レオンが何も言わなかったのも、つまりはそういうことだ。

 ならばこちらとしても、負けてはいられない。


「さて……んじゃ俺も動くか」

「頑張ってください。私も、動き出す」


 和樹達も動き始め――そうして、ゾンビとの戦闘は開始されたのであった。

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