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特殊依頼

 突然ではあるが、この世界には腕時計というものは存在していない。

 いや、より厳密に言うならば、携帯型の時計が、と言うべきか。

 勿論時計そのものは存在しているのだが、街に一つのみ、ということも珍しくはなく、村などであればない方が普通だ。

 和樹達が現在居る街――城塞都市カルデアでもそれは変わることなく、時計塔が存在するのみである。


 そしてそのせいなのか、或いはこの世界の人々の気質なのかは分からないが、この世界では基本的にあまり正確な時間というものは重視されていない。

 それでも待ち合わせをするとなれば当然時間が指定されることになるわけだが、携帯型のものがない以上は大雑把なものとなってしまうのは仕方がないことだとも言えるだろう。

 ちなみに、実のところ和樹達はメニュー画面から正確な時間をいつでも知ることが出来るのだが……相手方にそれが出来なければ何の意味もない話だ。

 つまるところ、何が言いたいのかと言えば――夜が明けたばかりの時刻、現場近くの場所で、現在和樹達は絶賛待ちぼうけを食らっているという、そういう話である。


「よし……帰るか」


 なのでその台詞も、別に唐突というわけではなかった。

 だがさすがに、雪姫が諌める。

 家を手に入れるための算段が付いたとはいえ、それにはまず今回の依頼を無事に成功させなければならないのだ。


「気持ちは分かりますが、さすがに駄目だと思います」

「だってそろそろ待ち始めてから十分は経つぞ? もういいんじゃないか?」

「いえ、さすがに十分はまだ許容範囲内だと思います。といいますか、この世界の人達には時間の概念がほとんどないため非常に大雑把、などと言っていたのは和樹さんだったはずですが?」

「俺も聞いただけで実際に経験したのは今回が始めてだからな。だからこそわざわざ時間ギリギリに着くように計算して出てきたってのに……」


 ぼやきつつ周囲を見渡すが、未だ人影の一つもない。

 前方には木々が乱立した森が広がり、後方にはただの草原。

 いい加減景色を眺めるのにも飽きた――というか、そもそも見覚えのある景色であったので、見飽きる以前の問題だ。


「それにしても、まさか待ち合わせ場所がここだとは思いませんでしたね?」

「まあ、道理で昨日は他の冒険者の姿がなかったわけだがな」


 視界に広がっているそこは、前日にも狩りで来ていた場所であった。

 見覚えがあるのも当然であり……そして、他の冒険者の姿がないのも当然である。

 穴場だから、などではない。

 そもそも――


「立ち入り禁止の場所を穴場って紹介するのはどうなんだ? いや、他の冒険者が来ないんだから間違ってはいないんだろうが……別の意味で間違ってるだろ」

「改めて考えてみますと……昨日の朝の時点でここまでの流れが予測できていた、ということなのでしょうか?」

「予測出来てたか、或いは元々向こうから話を振るつもりだったかのどっちかだろうな。まあ、どっちだろうと大差はないが」


 ちなみに、立ち入り禁止の場所に立ち入ったからといって、特に罰則等があるわけではないらしい。

 まあ向こうから勧めといて罰則があったら罠というレベルではないが……元々立ち入り禁止の理由が、迂闊にそこに冒険者が立ち入って死んでもらっても困るから、というものだからでもあるようだ。

 つまり死にたければ勝手に入れと、そういうことである。


「それにしても、ゾンビというのはそこまで危険なんでしょうか?」

「どうだろうな? 危険か否かで言えば、魔物って時点で危険なことに変わりはないんだが……そうなると、街の外は全部立ち入り禁止になるしな。まあ、ここだけ特別に禁止してるってことは、相応に危険ってことなんだろう」


 ――ゾンビ。

 その討伐依頼が、今回和樹達に任された依頼の内容であった。


 ゾンビがどのような魔物であるかは、改めて説明するまでもないだろう。

 大体が、想像通りの代物だ。


 だがこの世界のゾンビに関して、和樹は詳しいことを知らない。

 ランク四相当ということは知ってるのだが、逆に言えばその程度のことしか知らないのである。

 厳密に言えば、あと幾つかの情報は知っているものの、その程度では知っているなどとはとても言えないだろう。


 しかしその理由は単純であり、本来ゾンビというのは存在しないはずの魔物だからだ。

 正確に言うならば、リポップすることのない魔物、と言うべきか。

 要するに、何らかの手段によって発生する以外に、ゾンビが発生することはないのである。


 そしてそういった理由により、具体的なゾンビの習性や、危険度などといったものはあまり周知されていない。

 今回の依頼は、それを調べるのも目的の一つとなっているのだ。

 ――そういうことになっている。


「ま、ギルドがソンビに関して詳しいことを知らないってのは本当のことだろうがな」

「そうなんですか?」

「じゃなきゃわざわざこんな依頼を出したりはしないだろうからな」

「いえ、そうではなく……今の言い方ですと、ギルドではなく、あの人……サティアさんならば知っている、というように聞こえたのですが」

「そう言ったからな」


 サティアが知らないなどということは有り得ない。

 それでもその詳細を知らせてこなかったのは、ギルドは知らないということと、必要ないと思ったからだろう。

 実際のところ、和樹も必要だとは思っていない。

 今回の討伐依頼は、解体し素材を持っていく必要がないからだ。


 まあゾンビからは素材が回収できないからではあるのだが……つまりは、手加減する必要がないのである。

 ならば、例えどんな魔物が出てきたところで、負ける気はしなかった。


「ふむふむ……ところで、昨日から何となくそんな気はしていたのですが、もしかして和樹さんはあの人に自分のことを話したのですか?」

「いや? さすがに同類にでもなければ、自分から話すようなことはしないぞ? というか、そんなことをしても頭がアレな人としか思われないだろうしな」


 では何故、とその視線が告げているが、それには肩を竦めて返した。

 何せ、一言で言うのは難しい。


「ま、色々とあってな」

「……そうですか。つまり、二人だけの秘密、ということですね?」

「いや、別にそういうわけでもなくてだな」


 不審……いや、不満だろうか? ジト目を向けてくる雪姫に、苦笑を浮かべる。

 実際のところ、秘密というわけではない……少なくとも、雪姫に秘密にするようなことではないことは確かだ。

 おそらくはそのうち話すようなこともあるだろう。

 そのような機会が訪れれば、だが。

 ただ、少なくともこのような場所で話すようなことではないという、それだけのことである。


「……分かりました。今はそれで納得しておきます」


 そうは言うものの、その態度は明らかに言葉通りのものではない。

 それでもそう言ったということは、一先ず収めるということなのだろう。

 僅かに膨らむ頬を眺めながら、再度苦笑を浮かべた。


「さて、と……」


 そうして話が一段落着いたところで、再び周囲を見回した。

 だが相変わらずの光景が広がっているだけのことに、溜息を吐き出す。


「本当にそろそろ帰ってもいいか?」


 そもそも何を待っているのかというと、今回の依頼の相方達である。

 今回の依頼は、和樹達だけではなく、他の冒険者達との合同依頼でもあるのだ。

 というよりは、そっちがメインであり、和樹達はおまけのような形であるらしいが。

 予測されていようがいまいが大差はないと言ったのは、そういうことである。

 ここまで段取りがされていた以上、和樹達がこれを受けるのは、既に決まっていたことだったのだと考えて間違いはないだろう。


 まあ、その肝心相手が姿を見せないのではあるが。

 さすがに、いい加減嫌にもなってくる。


「ですから、駄目ですって。そもそも――最初から来てるじゃないですか」

「というか、だからこそ辟易してるんだがな」


 前方に視線を向けたまま、再度溜息を吐き出す。

 そこから感じる視線や、僅かに漏れている殺意にも似た戦意に対して、だ。


 そして、土を踏み締める音と共に人影が姿を現したのは、その直後のことであった。


「やっぱり気付いてたか。……いや、試すような真似をしてすまなかったね」


 そう言いながら先頭を歩く男を筆頭に、影の数は三つ。

 男は眼鏡をかけた優男風であり、その少し後ろをにこやかな笑みを浮かべた女が歩いている。

 そして最後尾を歩くのも男だが、こちらは二メートルを超えようかという巨体であり、その顔は不機嫌そうに歪んでいた。


「ちっ……やっぱどう見てもガキじゃねえか。開拓地のギルドはオレ達に子守でもさせようってのか?」


 忌々しげに呟きながら、先ほどからこちらを睨み続けているが、そんなことは知らんがなと言いたい。

 分かっていたことではあるが、面倒そうなことである。


 とはいえ、依頼を受けてしまった以上は、面倒そうだから帰る、などと言うことはさすがに出来ない。

 というか、それが出来るのであれば、冗談抜きでとっとと帰っているという話だ。

 いや、ぶっちゃけ真面目に帰りたいのではあるが。


「ほら、あなたが余計な真似をするから、彼不審がってるわよ? それにレオンも。皆で決めたことでしょう? 今更ぶつくさ言わないの」

「ちっ、分かってるっつの……だからちゃんとここまで来ただろうが」

「それは当たり前のこと。そして例え不平不満があったのだとしても、受けた以上はそれを表に出さないのも当たり前のことでしょう?」


 まるで母親と子供のやり取りだな、などと思って眺めていると、不意に真横から視線を感じた。

 顔を向けてみれば、そこに居る少女は悪戯を思いついたような顔で笑みを浮かべている。


「……らしいですよ?」

「こっちに振んな」


 大体昔から言うだろうに。

 余所は余所、うちはうち、だ。


「というか、僕はちゃんと謝ったんだけど……?」

「謝ったら全てが解決すると思うのは傲慢よ? 反省するのは重要だしいいことだけれど、それで良しとしているといつか取り返しのつかない失敗をしてしまうことになるんだから」

「何で僕が説教される流れになってるんだろうか……そもそも、余計なことは確かだけど、君も賛成してたよね?」

「ああっ、そしてそんなことを言っている間にも人のせいにするように!? ごめんなさいね、あなた達。こんな自分の責任を他人に押し付けるような人がリーダーのパーティーだけど……よければ、今回はよろしくね?」

「僕が完全に悪者になってる上に、それでよろしくはさすがにちょっと無理がないかな?」


 そんなやり取りを聞くともなしに聞きながらも、とりあえずは分かったことが一つある。

 どうやら、割と愉快な連中でもあるいうことだ。

 まあこれからしばし一緒に行動することになるのだから、他人事のように扱ってはいけないのだが。

 ともあれ。


「えーと……まあ、よろしくお願いします?」

「ん? ああ、別に敬語とかは必要ないよ。僕達は同じ冒険者……所詮は掃き溜めのド底辺なんだからね」


 そう言って笑みを浮かべる男の顔の中に、自嘲のそれは含まれていなかった。

 気負いも後悔もなく、ただその純然たる事実をありのままに受け入れているのだろう。

 それは元からなのか、或いは経験によって悟ったのか……ただ何にせよ、只者ではないことだけは確かである。

 まあこの依頼を受けたということは、普通に考えればランク四以上の冒険者だということだ。

 ならばむしろ、その程度のことは当然だとすら言えた。


「……分かった。なら、改めてよろしく頼む」

「私も、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

「よろしくね」


 そうして互いに挨拶を交わし……それが、和樹達と、ランク五――人類最強の冒険者の一角である、マルク・エーベルト達との出会いになるのであった。

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