霊 障
「それじゃあ、詳しい話を聞きましょうか」
「は、はい」
今更ながらに、何か順番が違うと感じつつも、奈緒深はことの顛末を沙羅へと語り始めた。
とにかく今は、一刻でも早く問題を解決してもらいたかったのだ。
「あの……実は先日、私の唯一の肉親だった父が亡くなりまして……」
「それはお気の毒に……。
……って、まさかお父さんの霊が出るとか、そういうことですか?」
「そうかも知れません……」
奈緒深の答えを聞いて、沙羅は眉根を寄せる。
もしも身内の霊が原因だと思われる霊障──つまりは祟りや呪いのような霊的現象が発生した場合、通常は墓参りやお祓いなどで霊を鎮めるのが一般的だろう。
しかし沙羅が行う除霊は多くの場合、霊を強制的に排除・消滅させて問題を解決する。
それはいくら死者とはいえ、かつての肉親に対して行う仕打ちとしてはあまりにも惨い。
逆に言えば、あえて除霊という手段を選ばなければならないほど、奈緒深は切羽詰まった状況にあるとも言える。
「いえ……本当に父だという確証は無いのですが、父の亡くなった後に変なことが起こり始めてたので……。
ひょっとしたら、私のことを怒っているのではないかと」
「お父さんが、娘であるあなたのことを?」
父が娘に危害を加える──穏やかな話ではない。
「はい……。
父が亡くなって収入が途絶えてしまった上に、相続税がかなりの額になってしまって……。
ですから、家と土地を売ることを考えているのです。
父が遺してくれた遺産はまだいくらかあるのですが、私はまだ高校生ですから、最悪あと何年もその遺産で食いつないでいかなければなりません。
その上で、固定資産税などを払っていく余裕は、私には無いのです……」
「ああ……それで学校を辞めるかもしれないんだ。
私立のお嬢様学校じゃ、学費も馬鹿にならないだろうしね」
「ええ……それに父の生前から、しつこく土地を売ってほしいという業者がいまして」
「今時地上げかぁ……。
それは女の子一人で対応するには、危険すぎるね。
断り続けたら、どんな嫌がらせをされるか分かったものじゃないし。
……で、仕方なく土地を売ることを考えていたら、不思議なことが起こり始めた……と?」
「はい、その通りです。
父は生前、先祖代々守ってきた土地は絶対に手放せない──と、言っていましたから……。
やはり私のことを、怒っているのではないかと……。
でも、小物がいつの間にか移動している程度のことならまだいいのですが、先日には食器棚が私に向かって倒れてくるということまであって……」
「食器棚が……」
沙羅は神妙な面持ちとなった。
物体が独りでに動くという現象は、「ポルターガイスト」の名で有名である。
これは小さな物体が勝手に動いたり、空中を飛んだりする現象なのだが、食器棚のように人間の力でも動かすことが困難なほど大きくて重量のある物体が、勝手に動くという例は少ない。
しかしそれだけに霊の仕業だとしたら、かなり強力な霊である可能性が高いということになる。
「まるで私の命を奪おうとしているかのようなことまで起こるのが、どうしても納得いかなくて……。
父はそれほどまでに、私のことを怒っているのでしょうか?」
「ふうん……?
さあ、どうなんでしょう?
少なくとも今、奈緒深さん自身には霊気の残りカスみたいな物以外は、何も憑いていないから……。
本気で奈緒深さんのことを怒っているのなら、背後霊の如くビッタリと取り憑いて苦しめようとするような気がするけど……。
どちらかというと、土地の方に何か大きな問題があるんじゃないかな。
まあ、実際に見てみないと何とも言えないけれど……。
今からお宅へ伺っても?」
「はい……。
よろしくお願いします」
と、奈緒深はペコリと頭を下げた。
気が向いたら、今日はもう1回更新します。




