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人の間の、引力の虹【その3】



「ティール、こっちです」


 アラグレンからディングル市に向かう脇街道沿いの大地に、薄曇(うすぐも)った空からの午後の弱い陽光が晩秋を告げていた。都市間を結ぶ街道との合流地近くの待ち合わせ場所に、予定よりやや遅れて到着したティールは馬を止め、弱いが確実に通る声で自分を呼ぶ声の主を探した。やや道を外れた木立の中から、自分を手招く人影を見出し、馬を引いてそちらに向かう。同じように安心したような表情を浮かべるその人物は、この秋からディングル市で隠密行動中のハーガルだ。


「悪い、ちょっと遅れた……って、何お前、その頭?」

「頭って……ああ、髪の色ですか?」


 待たせた詫びも早々に、ティールは渋面でハーガルを見遣る。久しぶりに姿を見た彼の髪は、腐葉土のようにくすんだ黒色に染まっていた。ティールの怪訝そうな表情に構うことなく、ハーガルはティールの馬を繋ぎ、自分が面会のために整えた木立の奥へと(いざな)った。


「何だよ、その変な黒?」

「この後、自分はこのまま南に向かいますので、それに合わせて染めただけですよ」

「南って……コノルドか?」

「ご明察。ちょっと“枝の剪定(せんてい)”に行きがてら、こき使われるみたいです。――うちの王様(ケット・シー)()使い荒いんですよ」


 第25隊には公式に伝えられていないが、ハーガルは既に隊長の隷下から外れている。隊長と補佐官さんは承知のことだが、現在の彼は『猫の耳目』として調査部の指揮下に戻っているのだ。

 先日の『黒の神官と護衛兵による襲撃事件』の報を受けて、調査部はどこよりも先に動いた。もっとも近くに居て自由に動ける『(間諜)』であったハーガルは、戻される『黒の神官』一行を密かに追跡し、同行するコノルド使国の「枝」であったケニング神官の動静を確認すると共に、彼の地での諜報活動等を任されたのだ。

 ハーガルにしてみれば、本来の仕事に戻っただけのことではあるが、まさかこんなに早く「外飼い猫(対外諜報担当)」に回されるとは思っていなかった。それにしても、『自分の【陽】を決めました』と上に報告した途端の外国担当とは、さすがに嫌がらせではないだろうが、扱いが酷すぎる。ハーガルの『猫』としての師でもある当代の「猫の王(ケット・シー)」は、歴代でも一、二を争うほどに性格が悪いと評されているが、看板に偽り無しだ。とはいえ、代替わりする度にそう称せられる猫の王様であったが。

 ルーニック調査部の『猫』達は、いつの頃からか【陽】と称する存在を一人だけ持つことが許されている。その任務や軍令、国体に影響を及ぼさない範囲で、自分の能力を恣意的に使う相手として特別に認められる対象者のことだ。指揮系統(猫の飼い主)はあくまで国家だが、それとは別に「役立ちたい」ただ一人の相手。相手本人には何も伝えられることはないし、軍内でも明らかにされていない制度だが、調査部が設立されてほどなく成立した機密事項だ。

 生涯【陽】を持たない猫も多いが、ハーガルは【陽】を切望していた。第25隊で出会うことができた【(ティール)】に、自分を照らしてもらいたい。陽が強いほど、陰は濃くなる。『猫』としての自分を高めるためにも、ティールには今まで以上に輝いてもらいたいものだと、切に願うばかりだ。


「ということで、早くても一、二年は戻ってこれません。それまで元気でいて下さいね? 多分、便りもそうそう出せませんし。ともかく、その前にティールに会ってお話しておきたいこともあったので、都合があって良かったです」


 内心の寂しさを一切見せることなく、ハーガルはいつもの柔和な表情でティールに笑いかけた。だがティールは渋面のままだ。


「――分かった。行ってこい。

 それはともかく、その色! もうちょっと綺麗に染めろよ! ムラがある! 俺の美意識が許さないぞ、その艶のない色!」

「駄目出しするところ、そこですか?! いいんです、目立たなけりゃ」


 どこまで本気なのか、ティールも正面からは何も問わない。『猫』の任務に口を挟めるほどの立場でないことを、彼自身が一番理解していた。彼ができることは、この先確実に訪れるであろう南方ファリスク使国との戦いを自分も無事乗り切って、任務を終えたハーガルが戻ってくるのを待つことだけだ。


「……それで? 俺に話しておきたいことは? 俺もお前の意見を聞いてみたいことがあるんだが……どっちから話す?」

「じゃあ、自分からでお願いします。最も重要な話は済みましたから、次はこの冬以降の動静を。

 ファリスクと来春開戦予定で人事が動きます。ティールは、第八軍団参謀長付きの第三補佐官に異動です。頑張ってきて下さいね」

「げっ……第八? 参謀長付き補佐官?? そんな面倒くさい役職……前線勤務はどうでもいいけど、役付きはもう嫌だーっ」

「三番目の補佐官ですから、実質は“補佐官の補佐官”みたいなもので、役付きとはいっても端役ですよ。さすがに実情はともあれ、『守備隊派遣』からいきなり大きな役付きには戻せませんからね。そもそも貴方、前任でも表向きは市警隊の一隊員でしたけれど、本務は市警隊特務(・・)の副長だったじゃないですか。職位でいえば、今度もそれほど変わらないでしょうに」

「だから嫌なんだってば。しかも第八の参謀長って……参謀部でも指折りの有名人じゃないか。あんな人の下に付いたら、こき使われるに決まってる!」


 お互いに腰を下ろし、淡々と話し出す二人。慣例として冬季は休戦期間であり、他の国でも軍部は冬に体制を整える。ルーニック軍の定例異動が還元の火祭り(サムハイン)の季節なのは、古い習慣での新年だからという訳ではないのだ。

 周辺国と常に緊張体制にあるルーニック西方と南方国境地帯では、それぞれ常駐する軍団があり冬営地も整っている。西方の第四軍団、南方の第八軍団は、戦線を主導する強力な部隊であり、そこの指揮官達は歴戦の勇者達ばかりだ。

 異動後の苦労を早々に悟ったティールは、今度は不平不満を前面に押し出した渋面で天を仰ぐ。だが軍人事に口を挟めるはずもない。そんな彼の態とらしい態度を無視して、ハーガルは話を続ける。


「有能な参謀の下での、せっかくの修行機会ですから、せいぜい頑張って手柄を立てて来てくださいね? 貴方にはさっさと『上』に進んで貰わないと、自分が困りますので。

 第25隊に限りませんが、守備隊に派遣されている軍団兵のうち、前線の経験がある者は総異動です。イース班長は第九軍団、ラーグ班長は第十六軍団の、それぞれ小隊長に復帰です。エイワーズ班長は……隊長から異動保留願いが出ているので異動予定なしです。多分、このまま守備隊兵に所属替えになるのでしょう。あと、ラドが第十二、ウルツが第七軍団にそれぞれ出戻りです」

「……エイワーズ班長は、前線指揮官になるには心が弱い。能力はあるけれど、有事の人材じゃないからなぁ。守備隊兵の方がよほど才能を発揮できると思うよ、俺も。隊長達の評定は正しいと思う。おかげで、俺が今忙しいんだけどな。

 それよりも、あの二人(イースとラーグ)を離すのか。なかなか英断だな」

「ええ。二人の相乗効果については査定済みですので、後は単独での能力の査定でしょうね。どの『猫』が付くのか知りませんが、楽しみですよ。

 ――肝心の隊長と補佐官さん、そしてフェフ副長については、第25隊からは異動になりますが、行く先は未定――というか空白でした」


 何食わぬ顔で人事予定を告げるハーガルだが、本来は辞令が出る前に人事部以外が知りうる情報ではない。だがハーガルは、さっそく【陽】持ちの権限を行使して、ティールとその周辺の情報収集を精力的に行っていた。


「それにしたってお前、どこからそんな情報集めてくるんだよ……まったく、機密を気軽にほいほいと告げやがって。

 それにしても、空白か――多分、隊長と補佐官さんの場合は、常に記録が残されていないんだろうな。副長はどうするんだろうな……せっかく落ち着いてきていたのに、補佐官さんが“行方不明”になってから、また心が乱れているから心配でたまんないよ」


 ティールの言葉は沈痛そのものだった。フェフ副長に警告はしたが、結局守れなかった自分が歯痒い。挙げ句の果てに、ソーン補佐官さんまで“行方不明”だ。隊長は『王都に報告に行っている』と説明したが、ティールは端から信じていない。

 あの人が隊長の側を長期に離れるなんてあり得ない、と力説するティールに、イース班長は何か嫌なことを思い出したように頭を抱えて渋面を見せたが、考えは同じのようだった。だが、当事者である隊長もフェフ副長も一切口を割らないので、珍しく攻めあぐねているティールだった。

 その悔恨する姿を見つめながら、ハーガルもきちんと別れの挨拶をすることなく離れてしまった【軍の能力者(ドルヴィ)】の副長に思いをはせる。彼が抱く感情はティールのものとはやや異なり若干冷めたものだが、自らの能力を精一杯発揮し、その定めに抗いながらも“自分自身”を怖れ苦悩するフェフ副長を気にかけていたのは同じだ。


「フェフ副長については、第25隊からも特に評定の変更などは行われていません。軍令ドルヴィ部の資料でも、新しい能力などについての記述変更はありませんでした。隊長は何も報告していないようですね」

「隊長と補佐官さんなら、副長については何も報告しないだろうな……」


 そう呟いたティールの顔には、苦悩の色が見えた。珍しい表情に、ハーガルは思わずまじまじと彼を見つめる。その視線に気付いたティールは、やや苦笑して肩をすくめた。


「――お前の意見を聞いてみたいことがあるんだが」

「自分でよければ。でも珍しいですね、貴方がご自身で判断できないなんて」


 苦悩の色をわずかに漂わせながら、ティールは正面からハーガルに向き合って口を開いた。その身体からは、何かしらの決意と躊躇(ちゅうちょ)が感じられる。


「上への報告は禁止。他に迷惑がかかるからな。

 ――第四軍団からの隊長と補佐官さんの降格理由、分かったよ」

「えっ? どうやって?」


 素直にハーガルは驚愕する。調査部()の力をもってしても入手できなかった、軍の最上層部が管轄する情報を、どうやって。


「ちょっとズルい手だけどな――()に頼ったよ。もう七年以上も音沙汰なかった弟の願いなのに、素直に受けてくれて助かったよ。おかげで家からの干渉も再燃したけどなぁ……なんであの人たち、あんなに俺を構いたがるんだか」


 自嘲と洒落めいた色とを混ぜながら、ティールはそれでも淡々とした口調だった。だが、彼が『家』や『兄』に抱いている複雑な思いを知っているハーガルとしては、彼が自ら接触を持とうとしたことが驚きだ。

 ティールはルーニック貴族の出であり、彼が属する一族は文門の名家だ。彼の伯父である現当主は行政府の大臣の一人だし、彼の父兄はそれぞれ王府と司法府の文官だったはずだ。彼らの『影響力』を頼れば、軍とは違った方向からの調査が可能だったということか。

 しかし、あちらでは誰も知らないとはいえ『心を捧げる相手が、幼馴染みでもある兄嫁』という、何とも甘酸っぱくもほろ苦いティールの心情を思うと、彼がずっと逃げ続けてきた『家』との関係復帰は葛藤の果てのことだろう。それでもティールは逃げるのを止めた訳だ。


「そうですか……やっと本気になってくれましたね。それでこそ、自分が見込んだ相手です。今後ともよろしくお願いしますよ?」


 自分の為だと自惚れるつもりはないが、それでもハーガルは嬉しかった。それでこそ、猫の【陽】だ。


「それでだな。直接的な降格理由とされる事が分かったのはいいんだが……だが、これが全部じゃないだろうとは思う。事実の一つではあるだろうが、真実だけとは限らない。だから、そのことをフェフに告げるかどうか、俺も今ひとつ判断が付かないんだ。――ちょっと前までのフェフなら、言っても大丈夫だと思ってた。だけど今は無理な気もしている。最悪、彼が壊れる」

「…………大仰ですね。副長に一体どんな関係があるのですか?」


 どこか歯切れの悪いティールの言葉に、ハーガルも眉根を寄せる。ティールは二呼吸ほど躊躇った後、その事実を告げ――その内容に、ハーガルは絶句した。


「司法府経由で入手した記録に書かれていた理由は――『利敵行為』

 詳しくは『ドルヴィ・ヤーラの戦線離脱に対する直接的関与』、別の資料では『ドルヴィ・ヤーラの殺害への関与』とか『ドルヴィ・ヤーラの逃亡幇助』とかもあったかな。

 いずれにせよ、フェフの師であるドルヴィ・ヤーラの『戦死公告』に関わる罪だ」



* * * 



「ドルヴィ・ヤーラって……フェフ副長の」

「ああ、師であり養母でもある人だな」


 ドルヴィ・ヤーラは、軍の能力者の中でも指折りの存在で、また人格者として軍内外でも高く評価されていた人物だ。その『人を呼び寄せる』能力を、主に傷痍兵の救援に役立て、多くの軍団兵の生命を救ってきた。

 3年ほど前の、対フリジア使国の西方戦線。ドルヴィ・ヤーラは第四軍団付きとして従軍しており――休戦直前の最後の大きな戦いの際、行方不明となった。


「彼女が最後に目撃されたのは、その夜の宿営地だ。そこに彼女を迎えに来たのが、第四軍団第四大隊長付き補佐官……ソーン補佐官さんだな。そしてそのまま彼女は戻らなかった。彼女の呼び出し理由は『傷痍兵の救援』で、これは第四軍団長の許可も得た正式なもの。彼女には第四大隊長と補佐官も同行し、複数名の傷痍兵を救援している。だけど、その後の行動が不明。大隊長と補佐官が自隊に戻った際にはドルヴィ・ヤーラは同行しておらず、彼らは『彼女は本来の場所に戻った』としか説明しなかったらしい。

 直接的な証拠は皆無。自供もない。だが、ドルヴィ・ヤーラが近年心情的に疲弊し悩んでいたという証言もあり、逃亡と他害の両方で探索されたが、一切の痕跡は無し。最後に彼女と接した大隊長と補佐官も非協力的で、お手上げ。ともかくも、著名な【能力者(ドルヴィ)】の“消失”なだけに、何かしらの対応が検討され――落としどころが『戦死公告』と『関与者の処罰』だったらしい。だが“関与者”は、今戦線の功労者の一人。(おおやけ)の処罰は無理で……その結果がここ(第25隊)への降格、ということみたいだな」


 淡々とティールが語った“事実の一つ”は、重い。その重さを処理する間もなく、ティールは続く衝撃をハーガルに与えてくる。


「お前は知っていたか? 隊長――第四軍団の第四大隊長アンスーズは、軍団内では【能力者(ドルヴィ)】嫌い、と言われていたらしいな。彼らに頼ることを良しとせず、極力彼らを遠ざけていた、と」

「……え、ええ。そうみたいですね。自分は第四大隊付きでしたが、その噂は聞いたことがありました。実際に、第四大隊の作戦行動にドルヴィが関わったことは一度もありません。なので、第25隊に来てからの、隊長のフェフ副長に対する厳しそうで甘い態度には、正直少し面食らったところがあるのですよ」

「噂ってやつは、悪意でなけりゃ何らかの実績があって発生するもんだ。

 ――『軍団兵アンスーズ』とその補佐官の記録は、第四軍団の中隊長時代から確認できたんだが……その十年ばかりの間で、第四軍団付きのドルヴィは全部で5人、居なくなっている。5人もだぞ、5人。しかも全員、今回のドルヴィ・ヤーラのように、死体もない『戦死公告』だ。そりゃ、扱いに困るだろうな……俺としては、軍上層部がそれを黙認していたとしか思えない」


 ティールの表情はいつになく硬い。それほどに彼が得た「事実の一つ」である情報は一介の軍団兵の手には余るものだった。


「……正直、調べたことを後悔したよ。知らなきゃ良かったのにってな。

 軍と彼ら双方にどんな思惑があったのか。そして彼ら(・・)が一体何を考えて、ドルヴィ達を“消失”させているのか――そもそも、彼らは何者なのか。そんなことは、考えるだけ無駄なんだろうと思う。考えて、真実に思い至ったって、今の俺の立場じゃ何もできない。彼らは俺たちとは共に歩まない。俺がルーニック貴族として“背負わなければならない”人じゃない。

 だけど、副長のことは別だ。フェフは仲間だ。出自はどうあれ、今は俺が“背負わなければならない”ルーニックの民だ。そして、フェフは彼らを慕っている。フェフを壊したくないんだよ、俺は。だから悩んでいる。ドルヴィ・ヤーラのことを話すべきか、話さずにいるべきか。お前はどう思う?」


 沈痛な表情で真剣な問いを投げかけられたハーガルも、珍しく表情を硬く青ざめさせて、それでもじっとティールの眼を見て考えを巡らせた。自分も『聞かされなければ良かった』と思わなくもない話だが、だがその“重い荷物”を彼と分け合えることは本望だった。


「……事前の心構えもさせずに、大層な荷物を渡してくるものですね、貴方も。言葉を返すようですが、こんな重要機密をほいほいと話さないで下さい。

 隊長も補佐官さんも、いつもフェフ副長に言い聞かせていましたね。『自分の力を特別なモノと思うな、頼るな』と。異能者であることを、特別と考えるなと。それは本心なんだと思いますよ。多分、隊長たちは【軍の能力者(ドルヴィ)】という立場(・・)を嫌悪されていたのでしょうね……。彼らは誰よりも“人”を愛し、大切にし、尊んでいます。

 自分は現在のフェフ副長の不安定さを知りませんから、へたな事は言えません。ですが、フェフ副長は脆く見えても芯が強い“人”です。本当に大切なことの判断を誤ることはないと思います。そこは信頼して差しあげても良いのではないでしょうか?」


 “上に立つ者”らしさの片鱗を覗かせるティールの態度に、ハーガルの口調も思わず丁寧なものに変わる。そんな彼の態度にティールは少し渋面を浮かべたが、じっとハーガルの言葉に耳を傾けて眼を閉じた。


「――分かった。俺の考えも同じようなものだ。悪いな、考えの整理に付き合わせて。

 さてと。俺はそろそろ戻らなきゃいけないんだ。代理班長なんて引き受けなきゃよかった、半日しか非番がとれない。お前も出立なんだろう? ……気をつけろよ。あの『枝』、今回は使った“道具”が悪かっただけで、結構ヤル方だと思うぞ。“剪定”するつもりで登った枝から落ちて、怪我するなよ?」

「承知してますよ。ま、猫は木登りが得意ですから、邪魔にならない枝なら好き勝手に登らせて貰いますよ」


 重い空気を断ち切るように、二人はいつもの軽い調子で言葉を交わす。あえて別れの言葉は口にはしない。晩秋の早い日暮れが迫ってくる。ティールが好きな宵の刻。泣きたくなるような赤金の輝きと、どこまでも深い青と茜の空。どこでも同じ空が繋がっている。だから別れの言葉は必要ない。

 お互いに“作らない”素のままの表情で、互いの肩を軽くたたき合う。それでお終い。


 ――彼らが再び顔を合わせるのは――2年後のこと。第25隊での出来事が、全て終わった後のこと。




ティール&ハーガル、まとめの話。さり気なく、ティールは所謂「チート」キャラ。

元々フェフ主体の話とは別の物語で主役を張っていた、その名残です。

これにてハーガルは退場です。きっと嬉々として「枝」を登っていることでしょう。

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