15話――Search and strike and destroy⑥
近づいて声をかけると、メイドへの声掛けをやめてこちらを向くマーク。七三分けでスケベ顔、品はあるけどセンスの無いタキシード。
綺麗に整えられているのであろう髭が、逆に何となくイラっとさせる。確かこいつは 確かバーチ領に住んでる男爵で、親の資産を食いつぶす女好き……だったわね。
「し、失礼します!」
頭を下げて、去っていくメイドさん。マークは一瞬苛立ったように顔をゆがめるが……すぐに切り替えたのか、それとも別の何かを思いついたのか笑顔を浮かべてこちらに話しかけてきた。
「素晴らしい夜会ですね、流石はレギオンホース家だ。……しかしあれですな、イザベル君は……随分と女性らしくなられた」
すっとこちらにグラスを差し出すマーク。下心満載って顔にありありと書いてあるわよ。
そう言いたい気持ちをグッと堪えて、私はグラスを受け取った。
「お褒めに預かり光栄ですわ、マーク様」
そう言って、私はグラスの中身を口に含む。するとマークのいやらしい笑みがよりいっそう深まった。
彼も同じように飲むので、私はペースを合わせて口に運ぶ。一杯飲み終えた辺りで、マークはうっとりしたように窓の方へ視線をやった。
「こちらの地方のウイスキーは、実に飲みやすい。樽も良いですから、香りも芳醇だ。バーチに持ち帰りたいくらいですよ。イザベル殿も、もう一杯いかがですか?」
お酒は本当に好きなんだろう。私が貰った分は、彼のそれと違ってストレートだったけど。
……どうせ、酔わせて恥かかせようって算段なんでしょうね。
私はため息をつきたい気持ちを堪えながら、グラスを差し出した。
「ええ、もちろん。ありがとうございます」
お礼を言うと、図ったように執事が盆の上にグラスを乗せて現れる。そのうちの一つをマークは受け取って、私に差し出した。
「どうぞ。そういえばイザベル君は、お酒は平気だったのですか? 随分と進んでいるようだが」
上機嫌のマーク。私はお酒をサーブした執事とは別の執事の方へ少しだけ歩くと、彼へにっこりと笑みを浮かべた。
「お酒も得意ですし、特に上手いのは男性の扱いですの。――あの、マーク様。少し酔ってしまったみたいで……肩を貸していただけますか?」
ほんの少しだけ舌を出し、誘惑するように彼の懐へ入り込む。マークから生唾を飲む音が聞こえ――その瞬間、私は誰にも見られないように彼の顎にデコピンを叩き込んだ。
顎の先だけ揺らし、一瞬で失神するマーク。私は倒れこんだ彼を抱え、わざとらしく声をあげた。
「まぁ! マーク様、大丈夫ですか? 大変! 誰か! マーク様が酔ってしまわれたようで!」
「おや、それは大変です。私がすぐにお部屋へお連れいたしましょう」
偶然、私の側にいた背の高い女性執事がサッとマークを抱えていずこへ連れて行く。彼女に笑みを向けると、パチンと綺麗なウインクが返って来た。
「……ちなみにイザベル様、顎の骨砕けてましたよあの人。もう治しましたけど、本来なら全治三か月です」
かなり加減したんだけど……やっぱり人間は脆いわね。
「そんな人と初めて出会った化け物みたいなこと言わないでください。後、さっきのお酒、お薬も入ってましたよ」
口内に仕込んだアクアに吸い込ませたから分からなかったけど、やっぱりお薬も入ってたのね。『組織』が使ってるようなヤバい奴じゃなくて、単なる睡眠薬か何かでしょうけど。
「あとでレイラちゃんに分析でもさせましょうか。弱みを握れるかもしれないし――っと、何か賑わいだしたわね」
呆れ顔のカーリーにそう返した所で、会場がざわつきだす。そして一点に全員の視線が集中したので、私もそちらを向いた。
そして出て来た三人の男を見て、私は目を見開いて固まってしまう。
それは噂通りのイケメンだったからでも、六十代と聞いていたガーワンが思ったより若い見た目だったからでも無い。三人とも、ある共通点があったからだ。
「……まさか、貴族に入り込んでるとはね」
生唾を飲み、睨みつける。
そこには――完全に左右対称の顔をしたイケメンが三人、立っているから。
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