35話――デンデデン③
情けない悲鳴が漏れ出る。女はやはり鬱陶しそうな顔をしながら、今度は腕をへし折ってきた。
「んがぁぁぁああ!」
「ったく、せめてちょっと防ごうとする素振りくらいみせたらどうなのよ。こんなに弱いとキレようにもキレづらいじゃない」
無茶苦茶身勝手なことを言う女。ペイワンは息を荒げながら、周囲の部下たちに命令をくだす。
「て、テメェら! 囲め、囲んでフクロにしろォ!」
部下たちはビクッと身体を震わせるが、すぐに動き出した。
女に組み付き、地面に倒そうとするが――五人がかりで体重をかけてもビクともしない。
さらに五人……合計十人で倒そうとするが、微塵も動く気配がない。
「なん……こいつ! ビクともしねぇ!」
「なんだ!? 岩か!? いや、山か!?」
「失礼ね! ちょっと体幹トレーニングしてるだけよ!」
「「「「トレーニングでどうにかなるもんじゃねぇだろ!?」」」」
女は自分に組み付いている部下の一人を掴むと、その肉をえぐり取り腕を粉砕する。
組付きが緩んだ隙に一発の回し蹴りで全員が壁に叩きつけられた。
近くにいなかった部下も一緒くたに吹き飛び、後に残るのはこの女だけ。
(な、なにが……!? なんなんだ! なんなんだこの女は!! 理不尽すぎる、こんな生き物がこの世に――はっ!)
そこまで思考を進めた時、ペイワンの脳裏にとある都市伝説が浮かぶ。
『この街で女を使ったシノギをしてはならない。ある日いきなり女がやってきて、圧倒的に理不尽な力で死よりも恐ろしい目に遭わされる』
ここ二、三ヶ月くらい裏社会で話題になっているお伽噺。当然ながらペイワンは信じていなかった。
善意よりも悪意がまかり通るこの世界。そんな正義の味方みたいな生き物がいるのなら、自分はこうして裏社会に身を置くことなどなかったのだから。
……しかし、目の前にいるこの女は。まさにその理不尽な力そのもの。しかも女に手を出したから現れた。
(と、ともかく、逃げないと……!)
コレが都市伝説の正体かどうかなんてどうでもいい。今は生き延びることが先決。
どうにか隙をつくために口を開こうとすると、腕を掴まれて拗じられた。
「んがぎぎぎぎ!!!」
「アンタ、もしかして行動の自由を許されるとでも? えいっ」
腕の骨が砕け散る。ピクリとも動かない。
あんな簡単な掛け声で、こんなグチャグチャに出来るものなんだろうか。
痛みにのたうち回ってると、アジトの入り口から声が聞こえてきた。
「もー! イザベルさん。歩くの早すぎますよ〜」
のんびりとした声。ペイワンが入り口を見ると、背の高い陰気な女と、剣を持ったイケメン、そして美少女メイドが立っていた。
更にその後ろには、嫌がらせするように依頼を受けていた商会のメンツが。




