29話――身体を求めて三千里③
取り敢えず帰ろうーー私達が踵を返そうとしたところで、物凄い勢いで走り寄ってくる音が聞こえてきた。
「見つけましたわ!」
前に回り込んできた、黒髪縦ロール。腕を組み、堂々と胸を張って私達を睨んできた。
「ここであったが百年目……! カーリー、そしてベラ・トレス! よくもまぁこのわたくしをコケにしてくださいましたわね!!!」
目を見開き、大声で私達に指を突きつける黒髪縦ロール。私は顔に手を当て、大きなため息をついて彼女を見た。
「あんまり大きな声を出さないで欲しいんだけどーー」
「さぁさぁさぁさぁ! わたくしを早く戻しなさいな! わたくしを! イザベル・アザレアを! その体に! わたくしの体を返しなさいですわぁああああああ!!!!」
「ーーうるさいって言ってるでしょ!」
「へちゃぶっ!」
脳天にチョップをすると、黒髪ドリル……推定イザベル(真)は頭をおさえてうずくまる。これでやっと静かになった。
……んだけど、流石に「イザベル」と連呼したのはマズかったらしい。周囲の視線が、私達へ集まってくる。
「へ? イザベル様?」
「あ、イザベル様だ」
「この前変な冒険者に絡まれたときに助けてくれたイザベル様だ」
「うちの店を守ってくださったイザベル様だべ! ありがたや~ありがたや~……」
ダメ元でカーリーのキャスケットで顔を隠してみるけど……ダメらしい。呟きは止まらず、むしろ加速していく。
「お、オレの彼女を寝取ったイザベル……!」
「ちょっとスケに手ぇ出しただけで腕をへし折ってきたイザベル……!」
「ただちょっとクスリを売りさばいてただけで、うちのチームを丸ごと潰しやがったイザベル……!」
……な、なんか別人への恨みも混じってるみたいね、あはは。
「……ちょっとあなた、わたくしの体で何してますの?」
「イザベル様ぁ? 女の子寝取るって、ボクに隠れて何してるんですか?」
「ち、違うのよカーリー。あのDV男に騙されてる子がいたからちょっとアドバイスしただけなの! ついでに逆上したバカを二、三十人やっつけただけなの!」
「あなた今の話の流れで、一桁おかしくありませんでしたこと!? ってそうじゃなくて、わたくしになんでバイオレンスなイメージを植え付けてますの!?」
「あんたは元からバイオレンス令嬢でしょうが!」
なんて言い争ってる場合じゃない。このままここにいたら目立ちすぎる。
「一旦、場所を移すわよ。カーリー、お願い」
私がカーリーに目配せすると、景色が急に入れ替わる。さっきのスタドの前ではなく、そこから少し離れたブレットダ珈琲だ。




