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3話――ラウワの帝王-①

 翌日――。

 私とカーリーは、変装してラウワの街に繰り出していた。

 私はマゼンタのバックリボンフレアワンピースに、黒いピンヒール。麦わら帽子にサングラスで、アメリカのセレブ風だ。

 カーリーは普段のローブでなく、キャミソールにだぼついたパーカー、ショートパンツ。いや時代と周囲の雰囲気に一切合ってないわね。


「目立ってない? その格好」


「認識阻害かけてるので、普通の服にしか見えませんよ」


 自称チート魔法使い、便利な魔法が使えるものね。

 私は彼女の格好を見つつ、スカートの裾をつかんで揺らしてみる。


「うーん、やっぱり動きづらいわね。あんたの服が入ればそっち着たのに」


「まぁウエストが入りませんよね」


「そうね、胸がキツすぎるわ」


 カーリーが下から睨んでくるので、私は見せつけるように胸を持ち上げる。

 前世でも今世でも、胸は平均以上よ。


「まぁそれにしても、やっぱり都会はいいわねぇ」


「イザベル様、いくら変装してるとはいえそんなにキョロキョロしているとバレますよ」


 おのぼりさん全開で辺りを見回している私を諌めるカーリー。そんなこと言われても、前世ぶりの都会……年頃の私が興奮しないはずもない。


「ちょっとカフェにでも寄りましょうか。フラペチーノ飲みましょ、フラペチーノ」


「そんなハイカラなもの無いですよ。コーヒーくらいなら出るでしょうけど」


 残念。まぁ私もスタパ(スターパンジーコーヒー)が超好きってわけでも無いから別にいいんだけど。


「ってか、そんな暇無いですよ! 普通に行きましょうーーカムカム商会へ」


 カムカム商会……というのが今日の目的地。オルカ・ホーストライプという男が仕切っている闇金だ。

 昨日からあの三体に情報収集してもらっているが、たった1日なのにあくどい噂がわんさか出てくる。

 そうとう狡猾にやっているのだろうけど、人身売買にまで手を染めてる様子。

 それなら味方に引き入れたあとにすぐ裏切ってちゃんとしょっ引かないといけないかもしれない。


「味方に引き入れた後でもしょっぴくんですか」


「当たり前じゃない。もし取引に乗ってくるなら、向こうもそれを頭に入れて動くはずよ」


 相手はヤクザ。約束なんて絶対に効果を発揮しない。

 こっちは貴族だけど、自由に動かせる騎士団が無い……と知っていれば絶対に言うことなんて聞きやしないだろう。


「ひぇぇ……それってルール違反じゃないんですか?」


「ヤクザはルール無用でしょ」


「はわぁ……やっぱり恐いですねヤクザは」


 それでもまだ、カムカム商会は狡猾に立ち回る……つまり、ルールを守ることで得られる利益を理解しているはずだ。

 利用価値がある間はいい関係を築けるだろう。


「反社とは一回でも関わりを持ったらアウトなんだけどね」


 骨の髄まで絞られる、それが社会の常識。そんなのわかってる。

 でももう、イザベル(真)のせいで片足を突っ込んでる。

 なら最大限利用しないと、こっから領地を立て直せない。


「最悪、荒っぽくなるのは覚悟しておいてね」


「それに関しては任せてください。こう見えて、マイターサ一番の魔法使いですよ?」


 無い胸を張るカーリー。精神年齢って肉体の年齢に引っ張られるのかしらねぇ。

 なんてことを二人で話しながら歩いて三十分ほど。やっと目的の建物の前に着いた。

 ラウワの主要部にあることを考えれば4階建ては妥当な大きさと言えるが、いかんせん雰囲気が怪しい。


「鬼が出るか蛇が出るか。どのみち善い物は出ないでしょうね」

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