第87話 それぞれの戦い 2
目の前にいる男性のダークエルフは、顔はかなりの美形で身長は180cmを超えており、腰にレイピアを携えている。
そして、背中に黒い悪魔の翼が生えている。
「僕だよ。お前の幼馴染のラグエルだ。」
かつての同胞にして、ミレルミアの過去に関わった人物が目の前に現れていた。
「お、お前ぇ!コロス!!」
短剣を抜き、向かう直後に頭から思いっきり地面に叩きつけられ、押さえつけられた。
「は、離せ!肉が!貴様でも!今はようし!ガッ!」
そのままアリシアはミレルミアの顔面をもう一度叩きつけた。
「うわ。エグイなぁ。」
ラグエルはその光景を引き気味に見ていた。
「落ち着いたか?」
「ぐっそが!何をする!?」
「肝心のお前が暴走寸前だったからな。
こうでもして落ち着かせてやったんだ。
感謝しろ。」
ミレルミアはその言葉だけで気づいた。
しかし、胸に燻る憎しみに蓋はできなかった。
「分かった。
だが、戦いになったらアイツを殺す。」
「勝手にしろ。
私はお前たちを置いて行っても、指揮官を討つ。」
いつものバチバチとは違った関係が伺えた。
「でも、通す訳には行かなくてね。
今回の作戦で龍国を我が大魔王国が占領する予定だからさ。
ところで、君良いね。僕の女にならない?」
「話しかけるなゲスが。
私にゲロを吐かせたいのか?」
「ハハハハ。断られてしまったか。残念。
あ、そこのミアは要らないからさ。他の子はどう?
どうせ、カイザルの物になってしまうなら、今のうちに何人か見繕ってさ。」
ヘルガーが斧で斬撃を飛ばしていた。
しかし、見えないシールドに攻撃が消滅した。
「うわぉ。恐ろしいね。
カイザルが好きそうな気性の荒さだ。」
「ミレルミアが苛つくのも分かるな。
キャスト様以外の奴に捕らえられる可能性があるなら、迷わず死ぬまでよ。」
「今日は本当に珍しく気が合うな。
主様には申し訳ないが、この身が犯されるならば、塵も残さずに死ぬことを選ぶ。」
アリシアとヘルガーの決断は本気であった。
「もう良いだろう。
あまり時間をかからせるな。」
二刀流のデーモン剣士が痺れを切らしかけていた。
「ラグエル。君に出張られると私たちまで巻き込みかねない。
昔の恋人かなんか知らないが、あっちでやってくれ。」
「はいはい。じゃ、ミア行こうか?」
「勝手にそう呼ぶな。」
ラグエルが指を鳴らした直後に2人は別の地帯に転移した。
「あと2人か。ブラス。流石に荷が重いだろう。
アリデーテ。頼めるか?」
「分かりました。
ですが、やはり私でも役不足です。」
「では、私がカバーしよう。
アリシアの言う通りに私自身では無力に等しいが、援護とサポートをしようぞ。」
「よろしくする。」
「行け。・・・・私は今悔しい。」
ヘルガーはアリシアに振り向かずに話している。
「私はお前が憎い。キャスト様に毎度毎度近づくお前が嫌いだ。
だから、あのお方の力の一端を使う事ができるお前を、いつか同じ力を持って殺す。」
「・・・・・。」
「・・・・死ぬなよ。」
「死ぬ訳ないでしょうが。
主様との間に、15人ほど子供を作るまでは死ねません。」
どこかで、キャストの悲鳴が聴こえてきた。
「相変わらず、癪に触る奴だ。
いいか?必ず殺す。そして、私が1番になる。」
「フッ。やってみろ。
私は誰にも負けない。主様のお側は私1人でいい。後はいつか殺す。
だから、貴様も死ぬな。」
「(やり取りが殺伐とし過ぎでは?)」
冷や汗を掻いている、ブラスであった。
「変わった会話ですね。
私たちも、ここまでの殺気の話し合いなど、なかなかしませんよ。」
本を持ったデーモンがヘルガーの前に来た。
「ならば、俺はこっちの2人か。
少々物足りないな。
ハンデをくれてやろうかな。」
二刀流剣士が剣を持たずに拳を出してきた。
「なるほど。舐められたものですね。」
アリデーテは不思議と怒りが湧いてこなかった。相手がそれほど格上であるためだ。
龍人としての本能の危険信号が発生している。
「私もだ。安心しろとは言わんが、全力でサポートする。」
ブラスも苦い顔をしながら相手を見ていた。
「私はお前が相手か?」
「ええ。そうなります。
あなたを大魔王に献上したら喜んでくれそうなので、捕らえることにしようかと。
あのお方は反抗心剥き出しの女をねじ伏せ、物にするのが楽しみなお方ですから。」
「はぁ〜。毎度毎度、変態な考え方をする奴が私の相手なのか。
いいか?私をめちゃくちゃにできるのはキャスト様、ただ1人だ。
あのお方となら公衆の面前でも抱き合える。
むしろ、ご褒美だ。」
途轍もない変態宣言に空気が凍っていた。
そしてまた、どこからかキャストが、『そんな趣味はねぇ!』というツッコミも聞こえてきた。
アリシアはすぐにこの場を立ち去っていた。
主様からの任務を遂行することに集中だ。
あと少しで!なんだこの異常な魔力?
神気を帯びている。加護による権能か!
まずい!主様が!
心のキャストが『止まるな!』と言ったのが聞こえた。
大きな胸に挟まれていた、ネックレス型ミニマムキャスト君人形が出てきた。
「主様がこの人形を通じて私に思念を・・。
やはり、お互い将来を約束した、赤い糸で結ばれているのですね。」
1人で移動しながらイタイ呟きをしている。
「かしこまりました。信じます!」
振り返ることなく、本陣まで突き進んでいった。
そして時は進み、キャストは
「せ、節約って!だからって!」
今現在、山を命綱無しにロッククライミングしている。
「だからって!
素手で登り切るとか普通ないだろーーーー!!」
『そんなに叫んだら敵が気付きますよ。』
いや気づかねーよ!
だって、このファンタジー世界で魔法やスキルなしに、山を素手で登ってくる奴とかいねーから!
俺何してんだよ!
『今の気を維持しながら進んで下さい。』
『気天極』は使ってはいるが、無駄な放出を抑えるため、こんな事をしながら移動している。
絶対!さっきのアスレチック力の無さを鍛える言い訳してるよね!?
ロキリア視点
「荒いな。」
向かってくる鞭をピンポイントにシールドで防いでいる。
「チッィィィィ!!」
更なる怒りで鞭の速度が上がった。
しかし、ロキリアのオート・シールドによる感知で全攻撃を弾き返されている。
「厄介なメス豚だねぇ!」
「ハッ・・。君ほど豚には見えなけどね。」
「殺すわ。オーク共に犯させ、ハウンドドッグに腕や足を食わせ、インゼクターに卵を植え付けさせ、惨たらしく殺す。」
「バリエーションを妄想するのは良いけど、できたらだよそれ?」
ロキリアは重力ボールを両手に展開した。
「へぇ。やっぱ、メス豚のクセに《《大罪》》の魔王級なのね。」
蒼い前髪が揺れた。
「そうだ。
私の全ての人生はキャスト様のために作られている。
だから、この力もキャスト様のために使えと言うことだ。」
「後の方とか聞いてない。」
「少し愚痴るが。
私はアリシアとかいう肉野郎も気に食わない。
あのダークエルフもあの脳筋女も気に入らない。
特にアリシアは今でも殺してやりたい。
そんな事をしたら、キャスト様に拒絶されてしまうからこそできないが。
それでも、アリシアは許さない。
キャスト様の力の一端を使えるようになったと聞いた時、私は恥ずかしながら嫉妬した。」
少し恐怖を感じ取った鞭女だ。
「あ、アンタ。意外と熱いのね。」
「ああ。そうだとも。
私はいつになったら、あのお方のお側にずっと入れるのだろうか。
だがまず、自称1番のアリシアが邪魔だ。
殺したいが、あの力は本物だ。加えて、キャスト様の力だ。
無謀にもほどがあるのは知っている。
けど、殺意が抑えられない。
いつもいつも、1人でに理解し、ピンチの際に動くアイツが憎い。」
ロキリアの『嫉妬』が反応している。
魔力やオーラが徐々に大きくなっている。
本人の意思とは関係なく、ただ本当に嫉妬しているからこそ、勝手に発動していた。
「殺す!殺す!殺す!絶対に殺す!
そして、全員いなくなれば私だけがお側に!」
鞭女は狂気を感じた。
かつての大魔王以来の狂気だ。
「アンタ・・。何者よ。」
「私はキャスト様専用の愛の奴隷だ。
この首に鎖を巻き、私を好き勝手にできる唯一のご主人様の奴隷だ。」
「歪んでるわね。
私も大概歪んでいるけど、ここまで歪んでいるとわね。
やっぱり、ハズレを引いたかしら。」
こうして、一方的な蹂躙が始まった。
ミレルミア視点
「はぁぁあぁぁぁぁ!死ねぇぇ!」
短剣を使い、連続攻撃を繰り出すミレルミアであった。
それを涼しい顔で、レイピアを使い捌いていく。
「フーフン♪」
鼻歌を終いには歌い始めていた。
「くっ!」
「ほら。」
ミレルミアは脇腹を蹴られてしまい、後ろに下がった。
「うーん。なんか弱くなった?」
「!な、舐める・・」
「いや違うか。僕が強くなったのか。」
沈黙ができた。
「でもね。僕も大変だったんだよ。
君の家族を殺してからさ。」
「何!?大変?馬鹿にしているのか?」
「いんや全く。けど、君がいけないんだよ?」
平然とした様子でミレルミアに言った。




