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気ままに気のままに〜無力な俺を苦労が襲ってくる〜  作者: ennger
第7章 龍魔戦争 一難去ってまた一難
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第87話 それぞれの戦い 2

 目の前にいる男性のダークエルフは、顔はかなりの美形で身長は180cmを超えており、腰にレイピアを携えている。

 そして、背中に黒い悪魔の翼が生えている。


「僕だよ。お前の幼馴染のラグエルだ。」


 かつての同胞にして、ミレルミアの過去に関わった人物が目の前に現れていた。


「お、お前ぇ!コロス!!」


 短剣を抜き、向かう直後に頭から思いっきり地面に叩きつけられ、押さえつけられた。


「は、離せ!肉が!貴様でも!今はようし!ガッ!」


 そのままアリシアはミレルミアの顔面をもう一度叩きつけた。


「うわ。エグイなぁ。」


 ラグエルはその光景を引き気味に見ていた。


「落ち着いたか?」


「ぐっそが!何をする!?」


「肝心のお前が暴走寸前だったからな。

 こうでもして落ち着かせてやったんだ。

 感謝しろ。」


 ミレルミアはその言葉だけで気づいた。

 しかし、胸に燻る憎しみに蓋はできなかった。


「分かった。

 だが、戦いになったらアイツを殺す。」


「勝手にしろ。

 私はお前たちを置いて行っても、指揮官を討つ。」


 いつものバチバチとは違った関係が伺えた。


「でも、通す訳には行かなくてね。

 今回の作戦で龍国を我が大魔王国が占領する予定だからさ。

 ところで、君良いね。僕の女にならない?」


「話しかけるなゲスが。

 私にゲロを吐かせたいのか?」


「ハハハハ。断られてしまったか。残念。

 あ、そこのミアは要らないからさ。他の子はどう?

 どうせ、カイザルの物になってしまうなら、今のうちに何人か見繕ってさ。」


 ヘルガーが斧で斬撃を飛ばしていた。


 しかし、見えないシールドに攻撃が消滅した。


「うわぉ。恐ろしいね。

 カイザルが好きそうな気性の荒さだ。」


「ミレルミアが苛つくのも分かるな。

 キャスト様以外の奴に捕らえられる可能性があるなら、迷わず死ぬまでよ。」


「今日は本当に珍しく気が合うな。

 主様には申し訳ないが、この身が犯されるならば、塵も残さずに死ぬことを選ぶ。」


 アリシアとヘルガーの決断は本気であった。


「もう良いだろう。

 あまり時間をかからせるな。」


 二刀流のデーモン剣士が痺れを切らしかけていた。


「ラグエル。君に出張られると私たちまで巻き込みかねない。

 昔の恋人かなんか知らないが、あっちでやってくれ。」


「はいはい。じゃ、ミア行こうか?」


「勝手にそう呼ぶな。」


 ラグエルが指を鳴らした直後に2人は別の地帯に転移した。


「あと2人か。ブラス。流石に荷が重いだろう。

 アリデーテ。頼めるか?」


「分かりました。

 ですが、やはり私でも役不足です。」


「では、私がカバーしよう。

 アリシアの言う通りに私自身では無力に等しいが、援護とサポートをしようぞ。」


「よろしくする。」


「行け。・・・・私は今悔しい。」


 ヘルガーはアリシアに振り向かずに話している。


「私はお前が憎い。キャスト様に毎度毎度近づくお前が嫌いだ。

 だから、あのお方の力の一端を使う事ができるお前を、いつか同じ力を持って殺す。」


「・・・・・。」


「・・・・死ぬなよ。」


「死ぬ訳ないでしょうが。

 主様との間に、15人ほど子供を作るまでは死ねません。」


 どこかで、キャストの悲鳴が聴こえてきた。


「相変わらず、癪に触る奴だ。

 いいか?必ず殺す。そして、私が1番になる。」


「フッ。やってみろ。

 私は誰にも負けない。主様のお側は私1人でいい。後はいつか殺す。

 だから、貴様も死ぬな。」


「(やり取りが殺伐とし過ぎでは?)」


 冷や汗を掻いている、ブラスであった。


「変わった会話ですね。

 私たちも、ここまでの殺気の話し合いなど、なかなかしませんよ。」


 本を持ったデーモンがヘルガーの前に来た。


「ならば、俺はこっちの2人か。

 少々物足りないな。

 ハンデをくれてやろうかな。」


 二刀流剣士が剣を持たずに拳を出してきた。


「なるほど。舐められたものですね。」


 アリデーテは不思議と怒りが湧いてこなかった。相手がそれほど格上であるためだ。

 龍人としての本能の危険信号が発生している。


「私もだ。安心しろとは言わんが、全力でサポートする。」


 ブラスも苦い顔をしながら相手を見ていた。


「私はお前が相手か?」


「ええ。そうなります。

 あなたを大魔王に献上したら喜んでくれそうなので、捕らえることにしようかと。

 あのお方は反抗心剥き出しの女をねじ伏せ、物にするのが楽しみなお方ですから。」


「はぁ〜。毎度毎度、変態な考え方をする奴が私の相手なのか。

 いいか?私をめちゃくちゃにできるのはキャスト様、ただ1人だ。

 あのお方となら公衆の面前でも抱き合える。

 むしろ、ご褒美だ。」


 途轍もない変態宣言に空気が凍っていた。

 そしてまた、どこからかキャストが、『そんな趣味はねぇ!』というツッコミも聞こえてきた。



 アリシアはすぐにこの場を立ち去っていた。


 主様からの任務を遂行することに集中だ。


 あと少しで!なんだこの異常な魔力?

 神気を帯びている。加護による権能か!

 まずい!主様が!


 心のキャストが『止まるな!』と言ったのが聞こえた。

 大きな胸に挟まれていた、ネックレス型ミニマムキャスト君人形が出てきた。


「主様がこの人形を通じて私に思念を・・。

 やはり、お互い将来を約束した、赤い糸で結ばれているのですね。」


 1人で移動しながらイタイ呟きをしている。


「かしこまりました。信じます!」


 振り返ることなく、本陣まで突き進んでいった。



 そして時は進み、キャストは


「せ、節約って!だからって!」


 今現在、山を命綱無しにロッククライミングしている。


「だからって!

 素手で登り切るとか普通ないだろーーーー!!」


『そんなに叫んだら敵が気付きますよ。』


 いや気づかねーよ!

 だって、このファンタジー世界で魔法やスキルなしに、山を素手で登ってくる奴とかいねーから!

 俺何してんだよ!


『今の気を維持しながら進んで下さい。』


『気天極』は使ってはいるが、無駄な放出を抑えるため、こんな事をしながら移動している。


 絶対!さっきのアスレチック力の無さを鍛える言い訳してるよね!?



 ロキリア視点


「荒いな。」


 向かってくる鞭をピンポイントにシールドで防いでいる。


「チッィィィィ!!」


 更なる怒りで鞭の速度が上がった。


 しかし、ロキリアのオート・シールドによる感知で全攻撃を弾き返されている。


「厄介なメス豚だねぇ!」


「ハッ・・。君ほど豚には見えなけどね。」


「殺すわ。オーク共に犯させ、ハウンドドッグに腕や足を食わせ、インゼクターに卵を植え付けさせ、惨たらしく殺す。」


「バリエーションを妄想するのは良いけど、できたらだよそれ?」


 ロキリアは重力ボールを両手に展開した。


「へぇ。やっぱ、メス豚のクセに《《大罪》》の魔王級なのね。」


 蒼い前髪が揺れた。


「そうだ。

 私の全ての人生はキャスト様のために作られている。

 だから、この力もキャスト様のために使えと言うことだ。」


「後の方とか聞いてない。」


「少し愚痴るが。

 私はアリシアとかいう肉野郎も気に食わない。

 あのダークエルフもあの脳筋女も気に入らない。

 特にアリシアは今でも殺してやりたい。

 そんな事をしたら、キャスト様に拒絶されてしまうからこそできないが。


 それでも、アリシアは許さない。

 キャスト様の力の一端を使えるようになったと聞いた時、私は恥ずかしながら嫉妬した。」


 少し恐怖を感じ取った鞭女だ。


「あ、アンタ。意外と熱いのね。」


「ああ。そうだとも。

 私はいつになったら、あのお方のお側にずっと入れるのだろうか。

 だがまず、自称1番のアリシアが邪魔だ。


 殺したいが、あの力は本物だ。加えて、キャスト様の力だ。

 無謀にもほどがあるのは知っている。

 けど、殺意が抑えられない。

 いつもいつも、1人でに理解し、ピンチの際に動くアイツが憎い。」


 ロキリアの『嫉妬エンヴィ』が反応している。


 魔力やオーラが徐々に大きくなっている。

 本人の意思とは関係なく、ただ本当に嫉妬しているからこそ、勝手に発動していた。


「殺す!殺す!殺す!絶対に殺す!

 そして、全員いなくなれば私だけがお側に!」


 鞭女は狂気を感じた。

 かつての大魔王以来の狂気だ。


「アンタ・・。何者よ。」


「私はキャスト様専用の愛の奴隷だ。

 この首に鎖を巻き、私を好き勝手にできる唯一のご主人様の奴隷だ。」


「歪んでるわね。

 私も大概歪んでいるけど、ここまで歪んでいるとわね。

 やっぱり、ハズレを引いたかしら。」


 こうして、一方的な蹂躙が始まった。



 ミレルミア視点


「はぁぁあぁぁぁぁ!死ねぇぇ!」


 短剣を使い、連続攻撃を繰り出すミレルミアであった。

 それを涼しい顔で、レイピアを使い捌いていく。


「フーフン♪」


 鼻歌を終いには歌い始めていた。


「くっ!」


「ほら。」


 ミレルミアは脇腹を蹴られてしまい、後ろに下がった。


「うーん。なんか弱くなった?」


「!な、舐める・・」


「いや違うか。僕が強くなったのか。」


 沈黙ができた。


「でもね。僕も大変だったんだよ。

 君の家族を殺してからさ。」


「何!?大変?馬鹿にしているのか?」


「いんや全く。けど、君がいけないんだよ?」


 平然とした様子でミレルミアに言った。

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