第85話 覚醒
「よく飛んだな。元の位置まで送り返してやったが。
これでいいかな?」
『し、知りませんよ。
どうしたんですか?雰囲気どころか、性格がまる替わりしておりますが。』
「何言ってんのよ。
変わったってか、元に戻っただけよ。
気にするな。」
『はぁ。
(バカっぽい話し方だけは変わらない。)』
それよりもだ。アイツの元まで行くか。
ヒュン。と瞬間移動のように動き、ギベルの近くまで来た。
「よう。気分はどうだ。
さっきは爽快そうだったが?」
「いや。依然として最高だ。
力を手にしてから、少し有頂天になっていた。
やはり、これくらい殴り合う方が俺には性に合ってる。」
「へえ。中身は元に戻ったって事か。」
俺たちは互いに見合っている。
どこに隙があり、どこから攻撃を入れようかと。
先に動いたのはギベルだ。
コンマ数秒単位の加速に、常人なら反応は愚か、捉えることなぞ至難の業だ。
ただし、今のキャストには見えていた。
広範囲に広がった『気来視』による、相手の次の次の予想ができていた。
『気天極』は上位の身体能力向上の技である。
力の幅や流れる気量が全くもって異なる。
「視え過ぎるな。」
直接、例の螺旋殴りに来るのは知っていたため、発動する前に一歩早く接近して、その拳を直接押さえた。
「なっ!?」
あまりの驚きに、口が空いていた。
「さっきのお礼だ!」
押さえた拳に力を浸透させて衝撃を放った。
拳から腕に攻撃が伝わり、血管という血管が破裂し、血が噴き出ていた。
「うっぐぅ・・」
ギベルが初めて苦痛の表情を露わにした。
そのまま右手を押さえて、膝をついてしまった。
「ぐっぎぃぃぃ。とんだ災難だ。
まさか、眠れる獅子を起こしてしまうとはな。」
「んだ?戦いが好きなクセに後悔か?」
「はっ。まさかな。後悔はしてない。
それに、俺はまだやれる。」
右手が急速に蘇生し始めた。
一定時間経過の自動回復付きであった。
「俺はまだまだ、体力が回復するからな。
全然延長戦もいけるぜ。
まだまだ楽しめそうだしな。」
「いや。面倒だし、終わりにするよ。」
この状態を維持しなくてはな。
解除したら、今度こそ役に立たない気がする。
「ほう。ならばこちらも全力だ!」
更に、魔力と気合が全開したのか、周りが揺れ、地面に亀裂が入っていた。
「フン。」
俺も気力を上げ、同じ状況を演出してやった。
「まだまだぁ!!」
上の段階まで力を上げてきた。
さっき全力って言ってたやん。
嘘つきやがって。
なら、俺ももう1段階ギアを上げるか。
お互いの気力と魔力が同レベルに達した。
その時、2人はぶつかり合った。
拳、肘、蹴りの音だけが聞こえる。
しかし、早過ぎるあまりに、常人には姿が捉えられない。
「近距離だけではないぞ!」
「奇遇だな。俺もだ。」
炎の球を連射してきた。
だからこっちは、気弾を連射して相殺してやった。
「ウハハハ!そんなこともできたか!」
「余裕のよっちゃんや。」
「知らん事をほざくな!」
高速接近してきたので、反射的に右アッパーを出したが、ギベルが『胴回し回転蹴り』を放ってきたため、俺の攻撃が外れてしまった。
強烈な蹴りがこちらの左顔面に目がけて来たが、それも視えてた。
左腕で『化頸』を使い、左腕に接触と同時に力や軌道を横に流した。
「また!珍妙な技を!」
防御系だけはありとあらゆる武術や格闘技をしっかりと勉強し、極めている。
「そりゃどうも!」
今度はアッパーで上げた右手をパーにして、平手状態からギベルに振り下ろした。
「そんな平手!ぐっは!」
回転蹴りの空中でも、掌打如きなら顔面で受けれる自信があったのだろうな。
しかし、俺が放った技は劈掛拳「烏龍盤打」。
手に気血を送り、硬質化させて相手に手刀なり掌打の攻撃をする技だ。
最初の空振りアッパーで血液が上に溜まっていたためそれを利用した。
それプラス、気の力も込められているため、より重く深い一撃となっている。
そのまま顔面で、その攻撃を受けてしまったギベルは地面に叩きつけられた。
地面が顔辺りから凹んだ。
「ぐぅは!」
繰り出した掌打をすぐさま引き戻し、倒れたギベルを見下ろした。
鼻が折れている。
当然だ。顔が凹まないのは元々の頑丈さがゆえだろう。
「どうだ。舐めてかかった俺の掌打は。」
「最高に効いた。脳震盪もしてやがる。」
そういう割には、フラフラと立ち上がってきた。
「ここで攻撃を繰り出さないのは余裕なのか、バカなのか。」
「両方だ。キリッ」
臆さず答える。
「ハッ。なるほどな。
こりゃ勝てねえか?なんてな。
とはいえ、このまま戦えばこっちの損傷と消耗のせいで負けるのは確実か。ならば。」
ギベルが少し距離を取った。
ファイティングスタイルを解いて、拳を上あげて何かを唱えた。
「『我が名はオーガ族の長にして魔王のギベル也。この声が聞こえたなのなら、答えよ。
そして、我に権能を付与せよ。』」
『神からの加護を授かるということは、神の権能の一部を条件付きで借りれるということです。』
やっぱ、チート嫌いです。
神様的サムシングはこっちには無いので、向こうも最後の一撃を放ちそうだな。
その対抗手段も考えなくてはな。
『対抗手段は力押しかと。
今のマスターなら、簡単にできます。』
正解だ。できる。あ、やればできる!
そしてギベルの腕にまたしても雷が落ちた。
光り輝く腕の完成だ。
「『ギガント・インパクト』か。
俺にピッタリの権能だ。」
名前からして、完全にパワー系の権能だ。
神様まで筋肉野郎かよ。
『『ギガントインパクト』を使いし神はかつて、神話時代に存在した、巨人族の頭領『ルクトール』という神の権能の1つです。』
巨人族の神がなんだってオーガのコイツに・・。
身長高いから、子孫的な感じか。
「随分と高尚なものを身につけたな。」
「そうだな。俺に扱えるか不安だよ。」
「自信満々か。面倒な事だ。」
「フッ。その割には楽しそうだな。
この技をどう打ち砕くかを考えている。」
「正解だ。そのために考えてんだ。」
「だが遅い!」
右手が更に大きくなった。
そして、威圧感や神々しさを感じ取った。
これが神の権能かよ!チートやん!
並の奴らなら見ただけで、卒倒するレベルで波動を感じる。
「喰らえ!キャスト!貴様への手向だ!
『螺旋怒衝撃豪』!」
さっきの比じゃない大きさ、風圧や威力が放たれていた。
「コイツは避けようとしても致命傷だ。
避けなくてもか。」
よし。必殺技には必殺技で対抗だ。
僅か、数秒で閃いた俺の渾身の必殺なり。
『何か途轍もなく嫌な予感が。』
そんな相棒を無視してだ。
いつも拳系や砲撃系がばかりだったからな。
今度は蹴りで行こう。
改めて、足に気を集中させた。
そして、そのまま螺旋攻撃の正面へと突撃した。
ライダーキックを基として作り上げたキック技だ。だから飛び蹴りだ!
「うぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!」
叫び声と共に、勢いよく上にジャンプして、気の飛行を使い、足を前に出して向かった。
「せい!ハァーー!」
こっちも回転させるために、気のエネルギーを使って左回転させた。
必殺!『スピン・ドリルストライク』!
『ここで漢字から片仮名ですか・・・。』
「来るか!どちらが上か勝負だ!!」
螺旋の拳と回転ライダーキックがぶつかり合った。
周りは風圧により激しく木々が揺れ。石や砂埃が舞っている。
真正面から攻撃を受け止めているため、ギベルの地面は足がめり込み、少しずつヒビが入っている。
「ハァァァァァァァ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
周囲には2人の怒声と攻撃音が鳴り響く。
「負け・・られん!
俺は!勝つ!俺のために!!」
「なら!俺が勝つ!俺は未来のために勝つ!
今この時の強さや思いは、皆んなと共にある!」
自分1人では決して到達できなかった領域に自分がいる。
周りに支えらて、ここまで強くなって来た俺がいる。
仲間が待ってる。家族が待ってる。
だから、ここで勝つ。
この勝ちは俺1人の勝利ではない。
皆のための勝利だ!
「な、なにぃ!!」
螺旋の回転が少しずつ乱れ始めてきていた。
権能にヒビが入っている。
「そんな!バカな!仮にも神の力だぞ!」
「しらねぇぇぇぇ!
神様とか!ご縁無さすぎてなぁぁぁぁ!!」
半分怒った。
マジで神様は一度ぶん殴ってやりたかったから。
こんな形で神様の権能をブッ壊して、仕返しをする日が来ようとはな。
そして、ギベルの腕ごと壊した。
俺の回転が貫き勝った。
勢いそのまま、ギベルにダイレクトアタック!!
「くっ!がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
回転し貫くため、いくら硬質化を重ねようともこちらの方が威力は上だ。
「いっけぇぇぇぇえええ!!」
そのまま地面に蹴り倒した。
地面はギベルを中心に凹み、大きな穴ができて落下していった。
回転旋風蹴り見たいな感じだった。
ス◯リートファイターにありそうだ。いや、鉄◯か。
『そんなことよりも、勝てたんですか?』
「おっと。そうだな。確認確認と。」
穴の中にいるので、ソッと上から確認した。
「うーん。気絶はしてるな。
腹とか跡凄い。勝ったって事でいいよな。」
『中途半端な気もしますが、マスターらしくて、それでいいと思います。』
「そりゃ、どういう意味だよ。
それにしても、長い戦いだったな。」
辺りを見渡すと、環境破壊活動をしてブルーな気分になってしまった。
「力が切れる前に最終地点に向かいますか。」
『空を飛ぶと目立つので。』
「分かってるよ。
けど、時間が無い。低空飛行で進むぞ!」
俺はその場をすぐに飛び去っていった。




