第83話 帝王VSカチコチマン
「もう一丁いくぜぇ!」
「いいよ!こいよ!どんとこいよ!」
2人は消えた。
正確には、速すぎる移動により、常人には視えない領域になっていた。
要所要所で衝撃波が鳴り響く。
その音は大地を揺らし、木々はその振動を響かせている。
ドゴ!ドゴ!ドゴ!と衝撃音以外は何も響かない。
鋭い速さはお互い洗礼されており、音を置いていくように動いている。
「こんのくそ!」
「おらぁ!」
2人の蹴りがぶつかり、動きが止まった。
蹴りに力を込めながら。
「やはり凄いぞ!凄いぞ!キャスト!!」
「そりゃあ!どうも!」
蹴りの力で弾き返し、再び距離を取り、ワンステップでお互いの右拳がぶつかった。
同時に、地面にもヒビが入った。
「カハッハハ。おい。こんな時に何だが、俺たちの仲間にならないか?」
「はぁ!?」
あまりの答えに、拳を緩めてしまったが、ギベルも緩めて距離を少し空けて話してきた。
「そりゃ、人間を無条件って訳にはいかんが、お前にその気があるなら、って思ってな。
人の身でその実力だ。
俺との戦闘を重ねてもなお、その進化を止まるところを知らない。
魔族側になれば、俺と共に戦い力を競い合わせ、お互い進化し続けることができるぞ!」
この脳筋の話はどこかの漫画かアニメで似たような事を言っていたような。鬼になれ的な。
「だから魔族の女に性転換し、俺の女になり、共に研鑽を積もうぜ!」
前言撤回。
先ほどの漫画とアニメ様、大変申し訳ありません。相手はただの変態でした。
「ふざけ。この性別を変える意味ねぇし。
それに魔族なら改造人間的な感じでなれねえのかよ。」
「それは死ぬかもしれんから難しいな。」
「なんでや!」
「人間ベースだからな。
適合率が低いんだわ。
それに、俺はあんなマッドな趣味はねえよ。
それよりも確実なのが。
淫魔の女王をしてる、フェルディラに頼んで、女にしてもらう呪いをかけてもらった方がいい。」
どしてそこに行き着いたし。
ん?聞き捨てならない言葉が。今《《淫魔》》って言いましたか?
ふむ。詳しく相手の話を聞かねば。
これは調査の一環だ。
『随分と余裕ですね。
これならタコ殴りにされても健在でしょう。』
空き缶みたいにべこべこにされて、潰されるから無理です。
「人間の女にした後に俺が、お前を快楽で堕としてオーガ種に変えられるんだがな。
そしたら力も上がる。
が、その前にフェルディラがそんな好機を逃す訳ないか。
自分のとこの淫魔に変えてしまうか。」
両方とも怖い話をしてくるんだが。
今史上最大のピンチ到来だ。
これ以上は流石にねえだろうな。
「無理だわ。両方ダメだわ。
なら、俺戦って死ぬし。」
「ふーむ。そうか。ま、残念。
男なら戦って死にたいわな。
俺も同じ気持ちだ!
なら、負けた方がそいつを好きにできるってのでどうだ?」
「死体なら好きにしろ。」
多分、俺の魂は今度こそ浄化されるから蘇生不可能なんだがね。
『そういう逃げもありかと。』
他界してることを逃げるという表現になるとはな。とほほほ。涙がちょろり。
「なら、続きだ!」
「!」
またさっきと同じ速さか!?
ち、違う!それよりも何倍もはやっ!
「ごふっ!!」
蹴りとパンチを連続で身体で受けてしまった。そのまま吹っ飛んだ。
その飛んだ先に奴が待ち構えていた。
両手で俺を地面に叩きつける気だ。
それは視えんだよ!
すぐさま、クルリと旋回し、避け、アッパーカットをかました。
そして、効かんと言わんばかりにニッと笑い。
次の瞬間、殴り合いが始まった。
お互いの攻防がより激しくなっている。
俺自身は『気活極2』の最大限で対応しているが、これ以上、上がるなら手がつけられん。
『ギリギリの闘いです。
油断されないように。』
もちの・・・ろん!
避けて、流して、打ってを互いに繰り出す。
変わらず、決め手に欠けるな。
「こっちはまだ、手数あるぜぇ!
『鬼血炎舞』!」
炎の攻撃が発生した。
うお!手数が本当に増えやがった!
あちち!何とか気で消化してるが・・!
「ぐぉ!」
俺の顔面にパンチが1発入った。
しかし、身体が勝手に反応していたのか、『三日月蹴り』が見事にギベルの左顔面に入れていた。
「うぎぃ!」
お互いに吹き飛んだ。
俺は地面を擦るように、ズザザーー!と滑って飛ばされ、途中で止まった。
ギベルはそのまま木々を倒しながら、途中で止まって倒れた。
「くっそったっれ!」
何とか根性出して立ち上がった。
クリーンヒットしたが、目眩やふらつきは無いな。
ただ、ダメージがない訳ではない。
しっかり効いた。
どうやら、向こうもそうらしいな。
「ぬぅあ!ハァハァハァハァ。
少し、目がふらつくな。畜生が。
初めて、綺麗に極められたぜ。
あの技は何だ?ただの蹴りじゃない。視線か?」
はえーよ。
もう『三日月蹴り』の答えに辿り着きやがった。
もう、ギベルには使えないな。
「なかなかの良いパンチだったよ。」
「へへ。それはどうも。
お前の蹴りもなかなかなもんだ。」
『戦う者同士の矜持みたいなものですね。』
その通りなのか?
何となく褒めたくなるもんなんだ。
知らないが。
「こりゃ、最終出力まで上げないとな。」
あーあ。最悪だ。まだあんのかよ。
「ふんぬ!」
黒く光、形態が変わった。
シュッとしているのはは変わらないが、肩や腕、足の部分がメタリックコーティングみたいになっている。
色は黒で統一し、血管が青だ。
今度はツノが3本に増えてる。
「追いつけるか?」
!!『守空圏』の圏内にいたはずなのに、既に俺の腹部に2発パンチを打ち込んでいた。
そして、気づいたら岩の壁を貫通し、地面に倒れていた。
「ごっふ。」
大量の血を吐いた。
血液を『完全完治気』で治すことはできない。
まずい。血を流し過ぎた。
「!」
顔をいつのまにか蹴られ、また吹き飛んだ。
回転し、体制を立て直し、向かい打とうとしたら目の前で掌底ポーズが写った。
「『掌撃破』!」
突如、全身から血が噴き出した。
俺はそのまま後ろに、フラフラと下がって膝をついてしまった。
「・・・。」
やべーぞ。
血を流し過ぎたせいで、身体の衰弱化が分かるぞ。
『マスター!まずいです。
これは気ではどうにも・・・。
魔力は・・。相性が・・。』
仕方ない。切り札ではないが。やるか。
『!!何を!?』
フラフラしながら、立ち上がった。
「ほう。俺の技を真正面から受けて立つとはな。やはり、お前が欲しくなるなぁ。」
「悪いが。別の奴で掘っとけ。」
ふぅーーーーー。スーーーーハーーーー。
長い呼吸で気のリズムと形を変えていく。
以前はスピーダーモードという紙装甲の速さだけで戦った。
今度も似てるが一味違う。
「なんだ。感じが変わった?だと。」
ディフェンスモードに更に、ディフェンス力を上げた。
つまり速さ0である。力もほぼ無い。
しかし、この硬さは強い武器だ。
《《当たれば》》強い。
「さあ。来いよ。」
腕を伸ばし、掌でクイクイと手招きした。
一度やってみたかったシリーズだ。
「ならば!遠慮なく試させてもらうぞ!」
シュッとまたしても視えない。
けど、もう《《視えなくていい》》。
鈍い音が鳴った。カァァン!と。
「な、なぜだ。」
ギベルの拳が俺の顔面にヒットした直後に拳から血が流れている。
肝心の俺は無傷だ。
「これは、カチコチマンモードだ。」
『名前がこの窮地でもダサい件に関して。』
うるさい。即席で考えたんだよ。
今の状況から攻撃は当たらんし、多分効かない。
そして、もう捉えることは愚か、俺自身が追いつかない。
ならば、逆転の発想で動かざる事山の如し。
防御一点で気を固めた。
戦い方どころか、今までの気の流れを一気に変えた。
その結果こういう事になる。
しかも、コイツは攻めないと死ぬ病気か何かだ。
だから俺が動く必要がない。
むしろ、正面から破られないように油断しない事だ。
「硬いどころでは無いだとっ!
逆に俺に反射したのか!?・・・・・。
カアッ!面白い!誠に面白い!
動の攻撃に、静の防御か!
どちらが上か試そうか!」
本当に戦闘狂は嫌だわ。迷わない。
良かれ悪かれ一切迷わない。
案の定、攻めに徹してきた。
さまざまな攻撃ラッシュを繰り出している。
だが効かんぞ!
俺の今の外攻は非常に硬い。
そして、内功も集中的に上がっている。
攻撃力と素早さは0だが、1ダメージも入らない。
だが、攻撃は?ってか。まあ、見てろ。
「オラァ!!!ぬっ抜けない!」
殴ってきた拳を腕ごとキャッチしてやった。
そのまま引っ張り、外側から柔術の『大外刈』をした。
「ぬぉ!何だこの感じは!バランスが取れんぞ!」
いくら力や速さが凄かろうと、軸を崩せば、一瞬だが、力を失う。
そして、その間に技をかけるのが、柔術とレスリングの醍醐味である。
受け身が取れずに倒れた相手に対して、俺が取る行動は。
引いていた腕をそのまま己の胸元まで思いっきり伸ばして、肘の逆方向に曲げている。
足は相手の首と肩らへんを抑えるようにしている。
つまりは腕十字だ。
「ぐううぅぅぅぅ!抜けん!なぜ!ぐぉ!」
掴んだ右腕からバキバキと歪な音が鳴っている。
このまま折ってやんよ!
「くうぅぅぅ!何だこの力は!?
いや!この重さは!?」
そう。
このカチコチマンモードがスピード感0の理由は、気鎧が重過ぎて動けないという、至極普通な理由だ。
力というよりは重量により、押し潰されているっていう感じだ。
『なるほど。流石です。』
このまま腕は貰うぞ!
「クソガァ!クソクソ!」
外れないだろな。
なぜなら、この世界は組み技へ解除法、柔術がなかなか浸透していないらしい。
この気もそうだがな。
異世界人が己の私欲のために行動してくれたお陰でもあったためか、技が伝承していない。
「だから、これを貰い受ける!」
バキバキ!っとなった後に、ボキリ!っと鈍い音がした。
「ぎ!ギャアァァァァァアアァァァ!」
腕を肘から肩にかけて逝かせてやった。
周りに大量の炎が飛び交った。
熱くて堪らず、手を離してしまった。




