第8話 初の皇国 考え決断する苦労人
門前騒ぎ後は、特に何も起きることはなかった。
道中気になった建物が何件かあったが、すでに夜遅く閉まっている。
そのまま、予約した宿屋『女神の息吹』に到着した。
外観は3階建てだが、横に広く、金持ちが泊まる専用な建物だった。いわゆる、高級宿屋だ。
「では、私は先に馬車を預けて参ります。
マール。先にキャスト様を連れてお部屋にご案内しなさい。預けた後、直ぐに部屋に合流します。」
「かしこまりました。ミレルミア様。
キャスト様。宿に参りましょう。」
ミレルミアは馬車と馬を連れて去っていき、僕はマールに連れられて宿に入っていった。
宿に入ると、とても綺麗な装飾にシャンデリアとよくある知らん絵画が飾ってあった。
横に広いので、右と左に長い廊下があり、それぞれの部屋に行けるようだ。
目の前にカウンターがあり隣には上に続く階段がある。そして、カウンター後ろに女神像がある。
「いらっしゃいませー！女神の息吹へようこそ。」
若い青年男子と元気のある姐さんが、出迎えてくれた。そして、青年から
「本日はご予約などはされておりますか？」
「はい。本日エンバイス伯爵様のお名前でご予約させていただきました。
キャスト・エンバイス様と私マール、後から参ります、お付きの騎士ミレルミアの3名です。」
「かしこまりました。只今確認しに参ります。少しお待ちください。
確認が取れました。最上級のスウィートルームでのお部屋がとれております。直ぐに、そちらへご案内します。」
呼び鈴を鳴らした。受付カウンターの近くの扉から、メイド服みたいな服を着た従業員が現れた。
「失礼します。スウィートルームのお部屋へとご案内させていただきます。こちらへどうぞ。」
階段を上がっていくので、僕とマールはその後ろについて行った。
3階まで上がり、右手の通路に入り、奥の部屋まで行ってそこで止まった。
「こちらがお泊まりになるお部屋でございます。それと、こちらが部屋の鍵です。どうぞ。
お連れの方は来店され次第ご案内させていただきます。」
「分かりました。ご案内ありがとうございます。」
そう言ってマールは部屋鍵を貰い、部屋を開けた。僕も後に続いて入った。
部屋はとても広いというか、広すぎぃ！従者込みの部屋ならこんなものなのか。軽いフットサルができるんじゃね？
「キャスト様。私は一度荷物を整理して参ります。ミレルミア様と私が戻るまでどうぞお寛ぎ下さい。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
ふぅ。気力を展開しながらの3階移動は普通の階段ダッシュよりしんどい。
これ馬車で向かわなかったら三途の川を渡ることになるだろう。
やることがない。気を練り、纏わせてるが、他の事をしながらでもできる。
なので、自分の力を改めて再確認と整理をしていこう。一種の成長管理みたいなものだ。
まず、気力は展開できたが予想とは違った。
予想していたのが、この年齢だから小規模エネルギーになるかと思った。
しかし、転生しているということ、その人生経験がプラスとなり、力になってること。
この意外にも大きな生命エネルギーは、その件が関係していることが、最初の予想外な出来事の一つだ。
次は力の流動についてだ。こちらは最悪だ。
このスキルや魔力世界なら、力を自在にコントロールしたり、多少なりとも力が使えるような修正力がなされていると思った。
現実は残酷だ。
エンバイス家の人たちを見てるが、能力に苦悩したりする所を見たことがない。
魔法の発動自体は人によるが、それでも魔力コントロールと同じく、苦労せずにすぐにできていた。
一般市民や騎士たちでも強弱はあれど、発動・展開・コントロールは難しくなく、早々にできるようになったらしい。
このような結果から異分子的な力を行使するということは世界の恩恵かな？それを受けることができない。
まぁ、スキルも魔力もない僕だ。恩恵もクソもないな。
僕も嫌われたものだ。前世で神様嫌いだったからかな。頼ることもしなかった訳だから、今更頼るなってか。
それより今後は気力の使い方だが、纏った状態での格闘とその際に使う力のコントロール。言い方を変えると出力調整だな。
放出系や気を伸ばして、その気力を維持しながら物や人の操作をする技とかは後回しだな。
別で試したいことは１つだけある。それは今練習中の気力格闘術を差し置いてまでしたいことだ。
それは『生命エネルギーによる治癒』だ。
この力を使いこなせれば、自分どころか人の治癒も行える。
さらに細胞やエネルギーの活性化に伴い、身体再生もできるはずだ。
ただし、莫大なエネルギー量になる。
使って綺麗な状態のまま死ななければいいが。そのためにもコントロールと気力練りを1分1秒でも行う必要がある。
部屋の扉からノック音がした。
部屋にミレルミアが戻ってきた。マールも荷物の整理が終わったのか、僕の元へ集まってきた。
「明日のご予定ご確認をさせていただきます。」
ミレルミアが予定の確認を行なってきた。
「早朝は朝食後に例の奴隷売買先へと赴きます。
ですが、恐らく昼前には全て終わることでしょうから、その後は少し町の見学などをされますか？」
「うーん。そうだね。余裕と時間が有ればそうしようかな。みんなもそれで大丈夫かな？」
「私は問題ありません。」
ミレルミアの後にマールが
「私は荷物整理とすぐに出立できるように少しの間離れることはございますが、大丈夫です。」
「わかった。明日はその予定で行こう。」
「かしこまりました。先にご入浴をされてはいかがでしょうか？」
ミレルミアから勧められた。
「そうだね。そうさせてもらうよ。」
「私はキャスト様の寝室の準備をして参ります。ご夕食後にすぐに寝れるように手配を整えておきます。」
「ありがとう。じゃあよろしくね。マール。」
そうして、僕は先にお風呂にした。
風呂から上がった後に夕食が部屋に運ばれ、食事を摂った。
食後に皿を片付けてくれたマールは、運んでくれたカートにお皿を戻し、扉の外へと持っていった。
「キャスト様。本日はお疲れかと存じます。よろしければ早めの就寝をされてはいかがでしょうか？」
「そうだね。ミレルミアも急いで馬車を担当してくれたり、色々と手を回してくれてありがとう。」
「感謝のお言葉恐縮です。」
「ミレルミアとマールもゆっくり休んでね。
おやすみ。」
「「はい。おやすみなさいませ。」」
僕は立ち上がり寝室へ入り、扉を閉めたらすぐにベッドダイブした。
「フカフカやな。さすが高級宿屋だ。」
ベッドの上でボヨンボヨンしながら、さっきの話にあった転生に関して考えていた。
なぜ前世で死んだのか？それは分からない。だが、スキル・魔力なしの仮説を立てられる。
スキルや魔力が少なからず発生してるこの世界だが、私は何もなかった。何も無いという言い方は悪いな。
伯爵家という、ブランドはついたと言うべきか。これは前世の苦労に応えてくれた部分？と見て良いものか。
今度はスキルと魔力がなぜないのか。この仮説は非常に恐い。
魂は１つの体に２つは入らないということ。これは脳が１つだからとか身体が１つだからとかではなく、どの世界もそうなっている。
サイコパスのような、多重人格者の話は聞くが、大元は１つの魂であり1つの命だ。
ここまで考えると、いやでも分かる。
実は、母上のお腹の中の子は既に死んでいたのではないかということだ。
私がこの身体に呼び込まれた理由が分かる
つまり、本来与えらるはずだった力と命もそこで同時に無くなってしまったということ。
これが本当だと判明したら、どんな顔して生きていけばいいのよ。
もう考えるの疲れた。
とりあえずの仮説は立てられたし、今はもう何にも考えず、気を散らさず、気を抜かずに寝ますか。おやすミンミンゼミ
早朝
シャーー！カーテンの音に目が覚めた。
「おはようございます。キャスト様。朝です。」
「おはよう。マール。」
部屋まで起こしに来てくれたマールだ。
「朝食が届いております。リビングでお待ちしております。」
そうして、うつろうつろになりながらも気の重みを感じながらリビングまで歩いた。
「おはよう。ミレルミア。」
「おはようございます。キャスト様。」
用意してくれた席について朝食を食べる。
「昨日よく寝れましたか？」
「うん。早めに寝させてもらえたから、しっかりと休めたよ。」
今日は初の奴隷を購入だ。何事もなければいいが。
そんな不安は他所にパンケーキおいちい。
朝食後、寝室にて外用の服に着替えた。再びリビングに戻ると、マールとミレルミアは既に準備が整っていた。
「じゃあ、早速行こうか。」
「「かしこまりました。」」
ミレルミアが皇国に何度か来たことがあるらしく、奴隷館まで案内してくれた。
道中は昨日の夜で詳しく見れなかったが。
商店、武器屋、防具屋、鍛冶屋、飯屋、冒険ギルドなど、ありふれたものだが。改めて見ると感動する。
これぞって感じで落ち着きます。皇国内はとても栄えてる。大きな聖堂もある。
スペインのバルセロナにあるサグラダファミリアみたいな感じだな。とにかくデケェ。
そして、中心に王城がある。珍しい位置だと思う。多分、壁際だとそこを重点的に狙われる恐れがあるな。
ちなみに、こちらもほんとデケェ！
暫くして、目的地に着いた。館に入るとフレグランスな香水の匂いがした。
あたい香水苦手なのよ。鼻炎持ちだから。
受付人がエルフさんや。外装は細いビルみたいだからか、１階の受付はそんなに広さを感じない。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか？」
ミレルミアとマールに僕が話すと手を上げ下がらせた。
「今日は奴隷を購入しに来た。購入内容は私事都合なんだが・・・。」
「かしこまりました。そう言った理由は珍しくはないですよ。お恥ずかしがることもありませんよ。」
あれ？これあれか、いやらしいことの使用目的間で捉えられている。貴族だからか。
「あっー！いえ！んん！そうでは無くてですね。詳しい詳細は省きますが、戦える奴隷が欲しいです。
細かい注文を付けるとレンジャーや狩人スキルもしくは、スキルが無くても山の経験値が高い人がいいです。」
「なるほど。これは大変失礼致しました。
貴族様たちの間ではつい。
かしこまりました。只今内容をお伝えして参りました。」
そう言って去って行った。いやらしいことしたいよ。すごく。あれ？後ろから殺気が！
扉から黒く小さな帽子を被ったスーツの人が現れた。
「お待たせいたしました。当館へのご来店誠に感謝します。
私オーナーのブリガンドと申します。
以後お見知り置きをキャスト・エンバイス伯爵家殿。」
「！！来店を知っていましたか、これはご挨拶が遅れてしまって申し訳ない。」
「いえいえ、とんでもございません。ではこちらへご案内致します。」
階段を駆け上がった。
疲れるはこれ。5階まで上がったのかかな？そして部屋に入った。
奴隷って黒い首輪してて、檻にぶち込まれてたりしてる凶暴な感じだよね。
見た身美しいものは重宝されたりとか。
栄養管理とか食事や高級な奴隷は服を着させるとかだよね。
現実はいつも自分を裏切ってくるものだ。
檻に入れられて首輪はされているが、どう見ても衰弱しきってる。
というか背中の傷跡が絶えない。
変な話欠損奴隷となんらかわらんぞ！いや、腕とか足とかついてるよ。
代わりに精神が死にかけてる。
武器になりそうな部分は鉄板やら鎖や魔封じの札で封じ込められたりしてある。
管理は徹底的にしてる感がある。もはや囚人と変わらないな。
「はじめてご来店なされた方々はこの光景に驚かれますよ。
しかし、これは調教の一環としてやっていることなので、お客様の安全のためと安心して購入していただけるように整えているに過ぎないことです。」
「そうですか、分かりました。」
それしか言葉がでない。日本の独房でもこんなにはならない。
歪んでるのかな、このファンタジー世界は。それともこれが普通なのか。
日本人としての残滓が頭の中で否定している。さっきまで購入する気満々なのに、現実１つで我に帰った。
決心したはずだ。
自分のためにも毒を食らわば皿までだ。
「では説明をお願いします。」
「かしこまりました。最初に・・・・・」
そこから何人か紹介された。細かい注文内容のためか男女関係なく、エルフ・ダークエルフ・獣人を中心に説明された。
一応、人もいるが、たまたま魅力がなかったからパスした。
迷ってはいるが少し気になることもある。
さっきから下の方になんかある。下と言っても地下に。
気を目に集中させているため、なんとなく相手の力量を見ることができる。
大分弱ってるからそんなに正確ではないのと、未熟だから数値化できないけど。
ただ、地下からなんかこう。ここの人たちよりは強いエネルギーを感じる。
直接見ないと判断しかねるわ。
「あーすみません。下を見せてもらっても？」
「下？ですか。下はどちらかと言うと生産専門の奴隷となりますが。」
「言い回しが悪かったですね。地下のことです。」
「！！。・・・あまり良質とは言えませんが。
よろしいですか？」
「構いません。」
使いたかったセリフ集の１つだ。
言えてスッキリした。
「ご案内致します。またこちらから階段を降りていきます。
そして、この建物の裏から入り口があるのでそちらから入っていきます。」
今度は階段を降りた。深く降りていった先には予想通りの状況だった。
欠損奴隷だ。または廃棄奴隷だな。
なぜ管理してるのか不思議だが、詳しい事を調べるよりは今は探すのが目的だな。
なんというか、ゲームの世界でしか見たことないが。
腕が肩から無く、足が太腿の途中から無い。
おまけに目もないかよ。髪もハゲかけ、傷だらけの・・・、やばい。気持ち悪い。
ミレルミアの胸を見て落ち着こう。
スーッ。ハァー。よし！
「この四肢がなく、片目がない紅い髪の毛が残ってる・・・女の子かな？この子がいい。」
「はぁ。な、なるほど。本当にこちらでよろしいのですか？
この状態ではまともに動けないかと。」
ここで、昨日思いついたやってみたいこと発動である。
「ですよね。だから、ちょっと実験したいことがあります。
もし、私がこの子を全てを元道りな綺麗な姿にできればこの子を定価で買わせてらいます。
しかし、失敗した場合はそちらの高値で買わせてもらいます。どうでしょうか？」
人のお金なんだけど、強気で攻めます。
後悔は後の祭り。しかし、ミレルミアが。
「な、何をするつもりですか？
まさか、危険なことをするのでは！それは承知できません！」
「そちらの騎士様のおっしゃる通りかと。失敗のリスクが高いかと存じます。
元より、欠損奴隷は売れれば御の字のところです。それに、スキル・魔力が無い方では難しいかと。」
個人情報保護法とか無いの？バレバレなんだけど。
「まぁ、でも大丈夫だよ。・・・多分。
今からやることは別室でしたいから部屋を借りたいです。もちろん見学は自由です。
それとミレルミア。危険なことはしないよ。約束する。」
多分って言ってたよって呟かれてたけど、渋々だが納得してもらった。
「分かりました。ではこちらの部屋どうぞ。
おい。この奴隷を部屋まで丁重に運びなさい。」
奴隷館のオーナーが部下の筋肉くんに指示して部屋まで連れてきて、机の上に寝かせた。
さて、ここからが本番だな。
