第6話 力を求めて 3
今度はやっぱ楽を堪能したいなぁ〜。
娘よ。ダメ親父は今なんでか、異世界でスキルや魔力無しで4歳の少年に転生してさぁ、訳もわからずここまで来たのよ。
しかも、伯爵家だって!
みんな強いし、一部除くがいい家族だし、飯もあるし、付き人もいるし、領地もしっかり管理されてるし、皇国って都心に近いのよ。
いやー、周りに恵まれてるし専用騎士さんがすごく美人さんのダークエルフさんなのよ。
出るとこ出て、引き締まってるとこは引き締まってるという、アニメの世界のキャラですか?ぐらい好みのタイプなのよ。
前世から含めて、自分で苦労してるって言うけど、結局何もできなくてさ。
思うようにいかない現実ばかり突きつけられてさ。
こっちの世界でも不貞腐れはした。
怒りもあった。主に神様に。
今思うと全てがどうでもよくなってきてた。
だけど、ここで気づいたんだ。
お父さんは周りに助けられてたちゃんと。
苦労ばかりに目がいき過ぎて、周りが楽させてくれてることに気づいてなかった。
ほんと、碌でもないお父さんやね。
だから、ありがとう私の娘◯◯よ。
ここでも、また見守ってくれてる人たちを見捨てるところだった。
だから、今度こそ頑張るよ。いや違うな。
今度こそは周りの思いに気づいてみせるよ。
そして、今度こそは・・・・・。
『いってらっしゃい。パパ。』
ふと目を開けると、視界にはミレルミアが見守って・・・・なんか近くね。手も握られてる。顔の距離なんて、ほぼ数センチです。
「あのー。」
「!」
目の前にいたミレルミアは神速のインパルス並みの速さで超反応し、すぐに距離をとった。
「あのー、あのー、しゅいましぇんでした。」
噛んどるがな。かわいいけど。
「・・・・。気にしてないから大丈夫だよ。
あー、えーと、どうだったよ。僕が集中して精神統一してる間は。」
「あ、はいっ!はじめの方は特に反応がありませんでしたが・・・」
キャスト精神統一中 ミレルミア視点
あの体勢は気とやらの力を解放するための行動なのか?よく分からないが、きっとそうなのだろう。
いつも図書館や考え事が多いお方だ。
今日の魔力講座から、今に至っては目つきが変わっていた。
珍しいことは2度あるものですね。
時間が経つにつれて意識がないような、意識があるような、どちらでもないような表情をされている。
つまり何か掴みかけている。または掴もうとして、あえて感情や認識のレベルを抑えている。
すると、昨夜感じたことのある威圧感が体にのしかかった。
「!!ッッッッ」
まるで、いきなり全方位からプレッシャーをかけられているかのような。この全身に重りを乗せられているような感じ。
確か放出すると言っていたが、それだけでこの威力とは。攻撃に転換されるどうなるのだろうか。
こんな力を果たしてコントロールできるのだろうか?
不安や恐れはやってくるものだ。突然と。
キャスト様の生気が抜けていっている?
なんというか、何が起きているのかは見えないが、なぜだろう徐々に弱っていっているように見える。近づき、手を取り確認した。
「なっ!なんなんですかこの冷たさ!」
まるで亡くなった人に触れてるかのようだった。やはりさっきの直感は当たりだった?
生命力をただ、放出してるだけだった?
ということは、この力をコントロールしなければ・・・
「そんな!あきらめないでください!折角、折角ご自身で道を見つけられたのに・・・・」
お願いします。
女神様どうか、彼の命お助けください。
もう2度、私は大切な人の命を失いたくない!
一粒の涙が彼女頬をつたり、握られてる彼の手に落ちた。
すると、今度は手から何かが包まれていく何かを感じた。同時に彼の体温が戻りつつある。
その包まれた何かは、彼を守るように、彼の力となるように。
そして、彼の目が開いた。
ミレルミアは感動と安心をした束の間に、彼との距離感に気づいてしまった。
う、めっちゃ恥ずかしいーーーーー!と心の中で叫ぶミレルミアだった。
そして今に至る
「なるほどね。そんなことがあったとはね。
心配かけて申し訳ない。
年齢的にも若いからコントロールに手間取ってしまったのかもしれない。」
「結果として、無事だったのでよかったですか。ですが、その気とやらの力は使い過ぎば毒となるのでは?
生命力を使うことを今になって考えてみましたが、普通に危険な技かと。
とは言え、習得できたのでウダウダと言うつもりもありませんでしたが、今度から危険が少しでもある場合は必ず報告してください!
本当に心配致しました!」
怒りの説教や。私が悪いから間違おうてないけどな。
「本当にごめんよ。思いの外、苦戦してしまった。その苦労もあってか身体に無事纏わせることができた。
当然、消すように抑え込めたり、放出したりできるよ。
言ってもまだ、その2パターンしかできないが。」
「それでもとても凄いことです。魔力やスキル以外での第3の力を発現されたことは祝福に値します!改めて、おめでとうございます。」
と小さな拍手と共に祝ってくれた。
しかし、纏いと言うのだろうか。
この気の状態を寝てる時や食事してる時もそうだ。
常日頃から纏っているものと認識し続けなくてはいけない。
薄く強度の高いものにしていかねば。量を抑えて質を取る。
これができて初めて次のステップに行ける。
苦労はするが、その苦労の先にあるものは確実なる進化だな。
その後はどっと疲れて体が動かないため、自室で食事を摂るようになった。
メイドさんとミレルミアにアーンしてもらえたから最高でした。
「くれぐれも無茶はなさらないようお願い致します。
名残惜しいですが、本日は失礼させていただきます。」
「うん。今日もありがとう。おやすみ。」
その夜ベッドにて、気を纏い続けているが、身体が鉛のように重い。
これ明らかに不器用な鋼の鎧を作って、それをそのまま着ている感じやな。しかも、重量感マシマシの。
これ使いこなせるかな。不安だわ。本当
そして朝になり、起きてベッドから立ちあがろうとした時に前のめりになってこけた。
あかん。重過ぎや。
そのまま地べたで考える。鍛えるとしても何すればいいのかな。
戦闘訓練は勿論、気のコントロールとなると、やっぱ生命を感じられやすい状況やな。
普段感じられる空間ってなんだろうな。
やっぱ死線か。
飯食ったり、運動したりとかあるが、その場合は、この鉛状態あと何十年続くのって話だ。そんな長い期間重いままとかなんか嫌だ。
だって重い男って嫌じゃん?いや、物理でって意味よ。
となると、考えていたが、いざ考えるとまじかーってなるな。避けられないなこれは。
これとは、ご近所さんの《《魔厄の森》》である。
濃度が濃い魔素に対して、その環境で生きてる強魔物と愉快な仲間たちってか。
確かにイメージしただけで地獄の名前がつくだけあるわ。
ただ、どうするか。こっそりは抜けられないし、ミレルミアはともかくとして母上は避けられん。
それに、マーシャ、親父、ハルバン、セイラン、一応キアラたちにも、このことがバレてまう。
どうしようかね。できれば森に住み込みでいなくてはいけないが。
んー。我ながら現実離れしかけてること言ってるわ。
ただ、山生活は心得があるなり。前世で、仏教と空手家の師匠との修行を勤しんでは暮らしてたことがあるからな。
あの時は小さな小屋があったが、今はない。
だが、そこは工事現場にいた時の知識を使う時や。仮設住宅なんぞ、部門外でも仕事の関係上で色々携わっていたからな。
ないよりはマシな知識だが、ここで役に立つとは。
いずれにしても、この家の布陣を突破してかだな。
お昼過ぎ
「キャスト、昨日は大丈夫だったの?
倒れたり、顔に元気がなかったりと大変だったとお話は聞いております。」
大丈夫だ。問題ない。ではなく
「はい。しっかりと休んだら動けるようになりました。」
もちろん嘘である。未だに身体は鉛です。
「母上。改めて折いってお願いがございます。」
「あらどうしましたの?お願いなんて珍しい。話してみてくださいな。」
「はい。では、私の魔厄の森への滞在許可をください。」
まぁ、こうなるわな。全員衝撃的なことに驚いている。
マールは後ろに転けとるし、ミレルミアは驚き過ぎてティーカップ粉砕しとる。マーシャに至っては紅茶注ぎまくりの溢しまくり。
執事のマイエスは冷静だな。ん?いやなんかしれっとメガネがズレとる。
一息落ち着いた母上から。
「許可できません。と言いたいですが、理由を聞かせてください。」
「そ、その通りです!キャスト様。何をお考えになさっておいでですか!?」
焦りまくりのかわいいミレルミアさん。
「勿論、強くなるためです。」
これ以外無い。ウンタラカンタラと言い訳がましく言うよりか、目的がはっきりしてる。
「そう。あなたもお父さんの子なのね。ですが許可できません。」
「申し訳ありません。キャスト様。メイリーン様と同じく、私もそれを見過ごすことはできません。」
そこにマーシャまでもが追い討ちを仕掛けてくる。これはこれは恐いね〜
「しかし、どうしても行かねばなりません。
弱いままではダメなのです。力にせよ、内政にせよ。
何かを覆す力がなくては、私はこれから来るであろう、力の波に飲まれます。
それでは、私が惨めな敗北者となってしまいます。」
僕は強く母上を見つめながら懇願する。
「・・・・・分かりました。」
「「メイリーン様!!」」
マーシャとミレルミアが驚いてた。
「ただし条件があります。魔厄の森へと行くだけの力の証明をすることと、森への同行者を立てることです。」
「ありがとうございます。母上。その条件で大丈夫です。」
「力の証明は伯爵家の誰かと戦い、その力の証明しなさい。」
きたなーこれ。家内だと、言い方変えれば家族限定にその上で、歳近い誰かさんたちの1人とやり合うわけだ。
こりゃ骨が折れる。向こうはチートほどでは無いが、トップクラスのスキルと魔力持ち。
こっちは最低のワーストトップであり、使いたてほやほやの気功師ときた。(初心者マーク付き)
対等ですら無い勝負ということ、つまりは逆境を跳ね除け証明しろってことだ。辛いわー。
「決闘ルールで1週間後に騎士訓練所にて、1対1の勝負を行います。時間はお昼過ぎです。」
「把握しました。そして、かしこまりました。
では母上、その日のために早速行動を起こしますので、本日はこれにて失礼させていただきます。」
その部屋を後に自室へと戻った。
まずは、修行するために最初の難関を乗り越えなければいけないな。
お友達いない歴の長い私の腕の見せ所か。
え?腕ないやんって。わかってるじゃん。
それにしてもさぁ、意外と詰んでね?
「まぁ、手をこまねいていてもしょうがない。同行者探しについて考えますか。」
廊下を歩きながら考える僕だが、なかなか思いつかない。
それなりにサバイバル能力に長けている人がいいか?
ということは騎士というよりは、森に詳しい方の出番ということやな。
えーと。この場合は確か、レンジャーとか狩人みたい職業を習得している人だな。
家族ですら、あまり会話が多い方では無い僕ですよ。
伯爵家の騎士たちですら誰が誰だか、未だ把握は愚かまともに話したことねぇー。
僕自体なんも無い人だからな。話しても、変に気遣ったりとかで、面倒くさがれてたんだろうな。
「やっぱ、ミレルミアがいいけど、彼女は豪炎の騎士団第3部隊の副長だ。
職務の都合と立場で、僕に同行どころか、勝手できる身分では無いからな。マジで誰がいるよ。」
ドアからノック音がした。
「キャスト様。お考えの最中に失礼します。
ミレルミア参りました。室内への入室許可をお願い致します。」
「入っていいよ。」
「失礼致します。」
ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、騎士団専用の白く、銀の装飾と左肩に銀の副長プレートの室内着を身につけた、ミレルミアである。
「キャスト様。大丈夫でしょうか?
幾ら、力をつけたとは言え危険すぎます。そこまでお急ぎになる必要がないかと存じます。」
「いや、これは決めたことだ。現状の気の状態を見てわかるが、鉛を纏ってるだけ。
成長するにつれて周りも大きく変わっていく。
僕は力を使うのに最適な場所もなく、気づけば大きく差をつけられる結果になるのは明白だ。
今回は多少の無理を通してでもやれる時にやらねば、この先本気で死ぬかもしれん。」
「そこまで本気で・・・・かしこまりました。本当は強引にでもお止めするべきですが、今までキャスト様に多く関わってきました。
また、そのお言葉にも偽りはなく、事実として徐々に追い込まれている立場であるということですね。」
あっさり理解してくれたが、これは信頼なのか、それとも別の何かなのだろうか。
「これだけ意気込んでるが、実際はどうなることやら。
同行者は見つからず、戦う相手は誰かは知らん。戦えるように気のコントロールを多少は良くしておかなければと前途多難となってしまった。」
「同行者は私が立候補します!これでも狩人のスキルを持っています。
更に、山で過ごしていた期間もあり、山への土地勘も持ち合わせております。」
「その言葉はありがたいけど、受けられないな。」
「な、どうしてですか!?」
彼女とてわかってるはずだ、自分の立場というものを。
「副長の立場であることが枷であると言いたいが、それでは納得しないよね。
なら、納得する理由を言おうと思う。」
「確かに、私の立場のせいでお側にいられないこともありますが、納得する理由ですか?」
「うん。未だに何もできてないのに、また頼るのは違うと思った。4歳と少しの歳月が経ったけどそうじゃない。問題としたいのが、この先に関してだ。
自分が無力な状態でも、優しい世界ならよかったが、スキルと魔力に塗れたこの現実世界が都合よく、誰にでも優しいわけではない。
だから、今できることに、死に物狂いで捕まり成し遂げられば付くものも付かないし、それこそ、誰かに頼り切るという奴隷のような生活になる。
力があって部下や仲間に頼るのはわかる。トップの強さゆえの、組織は理解できる。
ふんぞり返れるのは上に力があるからだ。力が無い私ではそんなことはできない。
そんなことしたらより下が動かないし、下のものに殺される。残酷だがこれがこの世界だ。
だから、今回は自分にもルールを課した。
特に母上は同行者に関しては、特にルールや何かしらの条件提示はなかったからね。」
「・・・・・。」
「わかってる。心配なのは、でも許してくれ。僕も男なんだ。」
言えることは言った。後は納得してもらう他ない。言った手前、必ず成し遂げなければね。
「かしこまり・・ました。ですが、失礼で申し上げます。
私はこのことは反対です。理性としては。
そんな危険なことやらせるなど、御身の側に控える騎士として最低なことに等しい。
しかし、感情はあなたを応援したい。支持したいと思っております。
なので、目に物を見せてやってください。
あなたの力で。」
そう言って彼女はそっと優しく抱きしめてくれた。
後押しされたな、ありがとう。
なんやかんや、背中を押すことを期待して、頼ってた自分がいた。そして、僕からもそっと抱きしめて。
「ありがとう」
この一言だけ言った。
そして、暫く同行者談義は続く。
「ですが、やはり同行者はどうされるのでしょうか?
家内のものは残念ながら、ついて行くことは叶わないでしょう。皆立場やら仕事があります。かく言う、私も不甲斐ないばかりに・・」
「それは大丈夫だから、気にしないでくれ。
これくらいは自分で考えるよ。とは言いたいが、方法が一つしかないな。」
「方法があるのですか。それは一体?」
「えーと、奴隷だよ。」




