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気ままに気のままに〜無力な俺を苦労が襲ってくる〜  作者: ennger
第5章 突撃!龍国へ
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第44話 聖剣(棍棒)という名の知恵の輪

 聖剣を抜いて、迫り来る敵へ構えた。


「ほう。スキルも無しに剣を扱うか。

 どれ。見ものだな。」


 見てろよ。リタの作った聖剣は強えからよ!

 ハイネの特製魔力を聖剣に流し込む。イメージは気力と同じかな。

 指輪から剣に、指輪から剣に。


「なんだ!急に魔力が発生しただと!」


「できたか!よし!反応しろよ。」


 途端に聖剣が輝きを放った。

 とてつもない光に、周りの魔物もつい足を止め、目を隠していた。


「こ、これは!聖剣だと!!」


「行けるぞ。こいや!

 俺の、俺たちの聖剣よ!」


「キャスト!君は勇者なのか!」


「キャスト君・・。」


「キャスト!いっけーー!」


「キャストさん。やはり神の使いなのですね!」


「くっ!お前たち私を守れ!」


 大量の魔物が密集形態を作り、白衣の男を守ろうと集まっている。


 よくわからんが。よっしゃ。

 無事に起動したっぽいな。行くぞよ。

 喰らえ!『デン◯ロビーム』!


「せい!っやぁーーー!」


 俺は思い切り剣を上から振り下ろした。


『お呼びしましたか?』


 はい?


 振り下ろした剣は不発で、代わりに脳内に声が聞こえてきた。


『いえ。変な発声を放ちながら語りかけていたので。』


 んー。はい?どなたですか?


『私ですか?私は聖剣です。

 別名『知恵の輪』。メビウスとも言われてます。』


 誰にだよ。うーんとね。なんでもいいや!

 メビウス!剣からビームや!敵を一掃するぞ!


『よくわかりません。

 私にそのような機能はありません。』


 what's?

 マジでじゃあ何ができるのよ。

 斬れ味が上がるとか、身体能力向上とか?


『いえ。ただ知恵を渡すだけです。』


「いや!渡されても!使えねぇーだろーー!」


 つい叫んでしまった。

 だってこの大量の魔物と強そうな白衣男相手に戦うのに、なんで知識だけ授けられるの?

 確かに、知恵や知識は大きな力になる。

 それは理解する当人に、ちゃんとした力や対処力があるからであってね。


 今の俺には、この大量の魔物と白衣の男相手に仲間を守れないのよね。

 俺自身が問題なくとも、ダメなのよそれは。


「フッ。ははははははははっ!!

 なんだ驚いたぞ。

 聖剣を持っていたが、どうやら使えなさそうだな。」


 あ、やべ!剣がポンコツなのがバレた!


『失敬な。』


「行け!お前たち。

 再びバラけながら進行するがいい。」


 始まった。魔物の進行が。

 こうなったら、直接叩くか。

 できるだけ頭数を減らす!

 剣としての機能ぐらいはあるだろうが!なら使わせてもらうぜ。


『あ、ちょっ・・』


「おりゃーーー!」


 何かメビウスが言いかけていたが、気にせずにオーガに斬りかかった。


 オーガに剣を当てた時、頭から、ぐしゃっ!という音がなり、斬るというよりは殴殺したに近い状態であった。

 オーガ自体は絶命し、そのまま倒れた。


 おぃぃぃぃぃぃいいいい!!

 剣としての機能も無いんかい!先言えよーーーー!


『だから、私の説明前に動いたのはマスターですよ。

 やはり、他人から魔力を借りなければ、動けないポンコツなんですね。』


 テメェ。好き勝手に言ってくれるじゃあねぇか。

 リタからの贈り物でなければへし折るぞ。


「お、おい。キャスト!大丈夫か?

 それ棍棒だったのか。」


 なんでやねん!

 どこの世界に聖剣の形をして、凄そうな紋章付いてるのに、棍棒でしたってオチがあるか!


『棍棒とは失礼な。アイツも敵ですね。

 撃滅して下さいマスター。』


 いや。斬れ味なかったやん。

 それに目の前の敵を倒せなくて、後方の敵を倒せっておかしいからね。


『はぁ〜。仕方ありませんね。

 他人の力がなければ動かせないポンコツさんに私の知恵の輪をお貸ししましょう。』


 マジでへし折ろうかな。

 魔力ないのは事実だけどね。改めて連呼されるとイラつくな。

 んで、知恵ってのはなんだ。


『ちなみに、マスターの意識と共有してるので、思ったことや考えてることは手に取るように解ります。』


 うるせっ!今はそれどころじゃねぇよ。

 そんなコントじみたことは、ここを切り抜けてからだ。


『コントかは知りませんが、そうですね。

 では、マスターの気の力を活用させていただきますね。

 剣の腕はゴブリンどころか、その辺の遊びで剣士をしている子供以下なので、身体の出力を上げましょう。

 剣を扱うよりは振り回して下さい。』


 一言余計ですよ。分かった。

 何ができるか知らんが、俺の気力でもなんでも使え!

 それで切り抜けれるならなんでもいいわ。


『ふむ。了解致しました。では、遠慮なく。』


 聖剣は光らなかったが、聖剣に気が宿っている。


 こ、これは。


 通常は武器に気を宿すのはかなり時間がかかる技とされる。

 他人に気を与えるのでさえ、流し方の注意や量を抑え込み、質を上げる必要がある。


「まいいか。とりあえず。行くぜ!」


「ふん。もう飽きたぞ。行け!お前たちよ!」


 一気に10匹ぐらいの昆虫型の魔物が空や陸から襲いかかってきた。


 確か振り回せ。だったな。それ!


 剣を適当に振り回すと、次元が裂けた。


「なっ!!」


 そして、いつのまにか敵を一掃していた。


 こ、この強さ。一体。


「!!な、何をした!それは次元魔法か!

 古の古代魔法よりも貴重とされている次元魔法だと!貴様は一体!

 全軍止まれ!このガキに集中攻撃だ!」


 お、なんかよくわからんが、こっちに注意が向くなら最高だ!


『そう性癖に目覚めないでください。』


 うんうん。なんか、気分がね。ってバカ!

 誰も望んでねーよ!


『そうですか。てっきりそっち系かと。』


 口の減らないやつだな!来る!


「もういっちょ!」


 今度も適当に剣を振った。

 またしてと次元が歪み、地面や森を切り取るというよりは抉っていた。


「な、なんだこれは。しかもこの威力を連発だと・・。

 キサマ!何者だ!勇者だったのか。」


「は?勇者な訳ないだろうが。

 いいか。勇者ってのは意外と私利私欲に塗れてる生き物だ。

 俺がそんな奴に見えるのか?」


『見えます。』


 ちょっと黙ろうか。


「フッ。盲点でした。このようなキテレツな勇者がいようとは。

 いいでしょう。ここは引いて差し上げましょう。

 あちらも片付けられてしまったので潮時でしょう。」


 あー。シアたちか。足止めされてたんだな。

 やっぱ。まだ、俺の探知レベルが低いな。

 広範囲で見ることができない。


「では、失礼する前に名乗りましょう。

 私は結社『光明の旅立ち』の幹部であり、研究員でもあるオノレゴ・ドルパチーノと言います。

 あなた様のお名前をお聞かせいただいても?」


「俺はキャストだ。ただのキャスト。」


「そうですか。覚えておきましょう。

 魔力とスキルの無い、珍妙な勇者キャストよ。」


 誰が珍味だコラ!


『くだらないですよ。マスター。』


 やかましいわ!


 俺がツッコんでいる間にオノレゴは消えるようにいなくなっていた。

 転移かよ。


「ふぅ。とりあえずだ・・な?」


 なんだ?急にどっと疲れが・・。


『あれだけの威力の次元魔法を行使したので、借り物の魔力の質が高く、マスターの気力を応用したとは言え、かなりの量を使い込みましたから。

 私の維持エネルギー、力、知恵を引き出すエネルギー代として。』


 おい。もうちょっと抑えられないの?


『次回はできます。

 今回は初であり、ぶっつけ本番であったため、威力調整や出力調整が上手く行きませんでした。』


 なる・・ほど、な。寝るわ。眠いから。


『はい。良い夢を。』


 俺はそのまま目を閉じて倒れてしまった。



 夢か。


 娘がいる。元妻と楽しく生活し、楽しく学校に行ってる姿が見える。

 俺がその世界からいなくなり、何年経ったのだろうか。

 大きくなったな。子供は風の子と言うが。ここまでとはな。


 俺に初めっから居場所は無かったのかな。

 努力し、何かを体現しても、人は理解してくれなければ、永遠に互いを信じることはできない。

 俺は最後まで思考凝らしていた。


 どこで人生のミスをしてしまったのか。

 引っ越しか?いや、引っ越しをする前なのか。それとも最初からなのか。


 理解不能だな。今となっては特にな。

 結局はやりたいことや守りたいこともできずにいなくなった訳だからな。


 それなら、このクソな異世界も同じだな。力もないのにほっぽり出され。

 身につけた力は自身の生命力ときた。

 そして、使い過ぎれば先程のように倒れる始末よ。ピーキーにもほどがあんよ。


 そんな力のお陰なのか、自分の努力の成果なのかは知らんが。


 素敵な奴らに出会ったな。

 前世でできなかったことや、失敗したことを踏まえて、俺はここにいるのかな。


 だとしたら、このクソな異世界も悪くないな。なぜ転生なのかは知らんが、それでも生き抜こうとは思ったよ。


『そろそろお目覚めになった方がいいですよ。マスター。』


 そんな声と共に光に包まれた。

 目を開けると、知らない天井だ。


 久々のセリフと共に上半身を起き上がらせた。

 周りには、沢山の椅子の上で寝てる奴らが。床でも寝てるし。ベッドに前倒れになって寝てる奴もいる。


 みんな。ありがとう。


「そう悪くないのかね。この世界も。」


『そうですね。マスターの過去は拝見しましたが、随分と優しく、甘いお方なんですね。』


「うっせ。それがいいところだろうよい。」


『また、同じ過ちを繰り返さなければいいですがね。』


「耳が痛いことを言うのね。」


 ピクっと起き上がった人がいた。

 久々のヘルガーだ。


「だ、旦那様!起きられたのですね!

 申し訳ありません。主人より後に起きるなど!妻として失格です・・。」


 なんかいつのまにか、妻にランクアップしてるよ。


「あ、ありがとうね。ヘルガー。

 看病を皆んなでしてくれたんだね。」


「勿論です。全員で命を賭けて行わせていただいております。」


 賭けんでいいわ!重すぎだから。

 そんなの余計に起きるの気まづいからね。


「そ、そうなのね。それなら暫くは寝かせておこうかな。ヘルガーも休みなよ。」


 顔色が悪い。

 絶対こいつ遠征から急いで帰ってきてから、寝ずの番をしていたな。


「そ、そんなとんでもございません!

 御身を置いて先になど・・。」


「よく考えてくれ。今倒れられる方が怖い。

 俺がここまで君たちに迷惑をかけてしまったんだ。その本人では説得力に欠けるが。

 君たちが必要だからこそ、しっかりと休んでもらいたい。」


「かしこまり・・ました。」


 そして、そのまま俺に倒れるように寝てしまった。

 だから、なんでこっちに来たの。

 いやっ!これは!この感触は悪くにゃいな。


『鼻の下伸ばしザルに見えますよ。ムッツリさん。』


 うるせっ。この感触は忘れないのよ。

 これね。うんうん。


『はぁ〜。先が思いやられる。』


 お前の説明はちゃんと聞かないとな。

 さっきは慌ててたし。


『承知致しました。

 やることもないのでそれがいいでしょう。

 

 では、簡単に。

 私は聖剣の中でも知恵と知識を与える力の持ち主。『メビウス』または『知恵の輪』と言います。

 今回マスターが手にした聖剣はその力が宿りました。』


 手にした力?

 だが、何となく予想できるぞ。恐らく、魔力を借りて発動したことで、この紋章を通じて聖剣の力と契約したみたいな感じだな。


 てことはよ。

 この剣はもしかして今まで聖剣の力を宿していた、ただの剣だったってことか。

 それが覚醒したら、なまくらになったのか!


『失敬な。』

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