第39話 それぞれの決着
センキの過去
私の目と力が戻り、全身に再び生気と能力が元に戻った。
私は感動という感情が出てきていた。涙を流すことのできる生物だった。
角を失い、早々から人生の終わりを告げられた筈だが、まだ、私は戦える。
そして、その偉業を成し遂げた人物がいた。
何か薬の調合のやりとりをしている。
彼は周りをいやらしい目で見ながら、じっくりと観察していた。
他の人間共は殺意が湧くが、主人殿にはもっと見てほしい。
私の中に温かい感情ができた。
恋をし、愛している。他の女性を見て理解した。
他の人間共は興味は愚か、殺してやりたい憎しみで溢れでてくる。主人殿は別だった。
疲れてしまったのか、かわいい寝顔でお休みしている。
横で添い寝しようと思ったら、紅髪の騎士とダークエルフが阻止してきた。邪魔だ。
そんなやりとりをしながらも、冒険者活動と護衛任務をこなし、1年と少しが経った。
そして今。
私はここで倒れてはいけない。
この場で私が!私が!家族を仲間を守るためにも!
ここで敵を倒す!感情を殺すな!解放しろ!
「!」
大剣が強く激しい赤い光を放っている。
魔剣は個体の感情や野望、欲望っと言った生物の中身に反応することが多く、力やステータスだけでは動かすことはできない。
『ブラックスミス』で作られた聖魔の能力は中でも特殊であり、最高峰の力を宿している。
大剣から赤色のオーラが出てきた。
まるで、一振りで十分と言わんばかりの威力を秘めている。
「こ、これは・・。いける!」
「不味いぞ!くっ!逃げな・・」
クロークはふと、足が動かないことに気づいた。
危険な恐怖心によって、すくんでしまった足でもあるが、足の裏にトリモチが付着しており物理的に動けなかった。
「なっ!なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」
「シフォン家特製の嫌がらせ奥義その1、『いつの間にかタイミングよく、トリモチ錬金完了』だ!」
「アルちゃん。名前が長い上に技名ですら無いからそれ。」
このチャンスをセンキは逃さなかった。
「行けぇ!魔剣『次元断絶剣』!」
強力な一撃がクロークに向かってきた。
最早なす術がない。
「これは私の負けか。ごめん。マーシャ。」
巨大な威力で放たれた次元切断エネルギーは致死量レベルだった。
喰らえば跡かとも失く消えてしまう。
そんな、クロークの前に1人の女性がいた。
「いつのまに!」
「全く。これでは死者が出るだろうに。
キャスト様の前でそれはご法度だぞ。
手間が焼ける先輩だな。」
遠征で出払っていた、『ファミリア』教育担当官のロキリアがそこには立っていた。
「魔剣が風情が。魔の真髄を見せてやろう。
嫉妬発動。」
ロキリアの周りの魔力の質と量が急激に増加していく。
元々の種族とスキルや魔力量を持っているのに対し、さらに強化されていく。
「私は私は!キャスト様のお側にいるべきだったのに!どうして!こんな!こんなことに!お前らのような奴らがいるからか!私が本来お側にいるべきなのだぞ!私以外の女がいるのも許せん!私だけを見てもらいたい!」
「な、なに、なによ。あれ・・。」
流石のアルケミーですらドン引きしていた。リタもあのようなロキリアは初めて見ていた。
何か恨み言を吐き出すことで、己の内の黒い野望が魔力の糧になっているようだ。
「たかだが、魔剣風情が調子に乗るなよ!
私がキャスト様の剣であり、唯一愛されるべき人だ!
発動:魔神魔導位『Emballez tout(全てを包み消し去る)』」
明らかに桁違いの威力を誇る一撃が、一瞬にしてドス黒い闇に包まれ、
何も無かったかのように消し去られた。
あるのは空虚感だ。
そして大剣は力尽きたのか、粉々に砕け散って消えていった。
膝をついて、ロキリアを見上げるセンキとロキリアを背後から、警戒と死への警報を鳴らし続けているクロークがいた。
「全く世話が焼けるな。魔王因子まで使わせるな。
仮にも魔族側だろうに。魔剣の制御ぐらいやってみせてみろ。」
何事もなかったかのように、センキに説教をしていた。
「あ、あ、あんま!いいだいごどあぶけど!」
「泣きすぎよ。アルちゃん。」
「ぶぇーーーん!怖かっだぁーー!」
アルケミーは泣きながらロキリアに抱きついていた。
「な、なんだ!離れろ!ベトベトするだろうが!汚っ!」
またしてもコントをしていた。
「すまない。助かった。」
「構わん。借りだ。その時になったら返してもらう。」
涙と鼻水を垂れまくりのアルケミーを引き剥がしながらセンキに話していた。
「フッ。なるほど。我々は最初から勝てない訳だ。」
「その通りだな。クロークよ。
俺も降参してきたよ。
あそこの兄ちゃんはいい感じにケリを着けさせないようにコントロールしてたからな。
それに、あの力の一端を見たらな。援軍も到着してしまったし、撤退時かな。」
「向こうの方々が優しければですがね。」
クロークはロキリアの一部始終を見てしまったため、恐怖心が芽生えていた。
「うぉぉぉぉーー!エイ◯リアーーーン!!」
と叫ぶ男の声が聞こえてきた。
少し前のキャスト視点に戻る。
決意した俺は突貫した。
「はぁーー!どっせーーい!」
走る〜走る〜俺た〜ち〜流れ〜る汗をそのま〜ま〜に♪っと
呑気に歌ってる場合ではないな!
雨のように攻撃が降り注ぐ。しかも、オマケに追尾付きで。
今は完全に受けに回っている。正確には攻撃を受けながら進んでいる。
『気活極』により、かなり強くなった(ざっくりと)。
ダメージは無いが、自分の能力負担ダメージがかなりくる。
筋肉や身体の節々が痛む。速攻でケリを着けるからな。もう少しだけ耐えてくれ。
「姉さんが何言ってるか聞こえないけど!
このまま進み続ける!」
いける距離まで近づいたら、前世の技をここでお披露目する。
まだ、まだ、まだだな。あと少し。・・・!
「『縮地法改』!」
この古式武術の技でもある縮地だが、実際の移動できる距離はそんなに無い。
近くの相手に限定で、高速移動みたいな感じで動いているからだ。
たが、気を足に込めたこの速度はある一定の距離なら即埋められる。
そして、『気活極』の底上げで更にその速さで距離を詰める!
「なっ!いつの・!」
「そこから先は後の祭りだな。」
お馴染みの気を込めた手刀(骨が折れないように)を首に目掛けて当てた。
意識を失い、前から倒れる姉さん。
それを私が支える。なんかデジャブ感凄い。
そして例の叫び声を上げていた。
なんとなくやねん。他意はないねん。勘弁してくへんか。
「よし。解除っと。」
『気活極』を切った。
身体が一気に重く、足がふらついた。
クソが。まだこの身体には負担がやばい。
そして、セイラン姉さんを支えながらも倒れかけていたところを後ろから、大きく柔らかいものが当たった。
「こ、これは、すんごい!」
「ありがとうございます。旦那様。」
後ろでニッコリと笑顔で俺たち2人を支えてくれている、ミアさんだ。
ダークエルフの中でも最も優れた物の一品と見た!
「おい。お前。何をしれっと楽しんでいる。」
「なっ!ろ、ロキさんやい。お疲れ様です。」
「なんだ。居たのか。気づかなかった。
てっきり旦那様を先にお迎えに来ていたのかと思ったが。遅かったな。」
一瞬、俺に言われてるのかと思った。
今日が命日かと悟るところだった。
あせあせ。
「お前もついでにミンチにすれば良かったな。」
「あまり気性が荒いと旦那様に嫌われますよ。」
相変わらず、仲がいいのか悪いのかなんやら。
「キャスト様。私の胸に飛び込んでも良いんですよ?」
ロキにそんな綺麗な笑顔で言われると怖いです。
行ったら、帰ってこれない気がする。だが私は行かなくてわ!っ!この殺気!後ろか!
「主様。周りに害虫が多いようですね。
駆除してもよろしいですか?」
「あれ?シア。父上は?」
「俺なら死んでないぞ。
ん?縁起の悪いことをってか!ハッーハッハッハッハッー!」
バカそうで良かったよ。
「シア。決着は着いたのか。」
「はい。そもそも、周りで我々『ファミリア』陣営が勝利をしていたので、降参してもらいました。
そうですよね?義父様?」
「誰が義父だ!認めんぞ!この子はまだ将来があるんだ!
学校に行って、学生の女の子1人から経験してもらうんだ!」
「フフフ。ご冗談がお上手ですね。
そんな許《殺す》されることではありませんよ。」
なんか、また二重に音声が聞こえた。父上も凄い甘酸っぱいこと言ってるし。
つか、青春とか経験してない。やっぱ学生したいなり。
「というか降参したのね。」
「まぁ、そのなんだ。そうだ。戦ってもジリ貧だしな。
それに、お前の成長が見れて良かった。
元々俺は連れだすというよりは、お前に会って謝りたかったんだ。
だから、言わせてくれ。
すまなかったキャストよ。」
「俺は気にしてないよ。いや、気にさせてた側だからかな。
でも、話さなかった俺はもっと悪いからね。
2人の親は子から離れるために相当研鑽を積まなくてはいけない。
子は2人の親と自分の旅立ちまでは共に家族であることの理解と家族のありがたさを把握し、自分で新しい家族を作るものだ。
だからどんな理由があるにせよ、子が親から離れることと、親が子から離れることはとても辛い話だ。
成人とかならともかく、俺のような子供なら尚更ね。普通は2人の親元でしっかり暮らすべきなんだろうな。」
「流石は主様です。素晴らしいお考えです。」
シア、ロキが涙を流しながら崇めている。
ミアは感深く、涙を流していた。
「お前は早いな。もうそんなに歳をとったのか。」
誰がジジイやねん。ピチピチの10歳肌やーい!あ、+27歳だ。
「ドルガル様。旦那様はここまでお強くなられました。
私はそれを信じ、ついて参りました。
そして、キャスト様の専属であり専用の騎士として、誇りを持ってお勤めをさせていただいております。」
「ミレルミアよ。うむ。お前が居てくれたのもあったな。小さい頃からか。
実に大義であったぞ!
・・よし!お前はキャストの嫁になると良いぞ。俺が認めよう。
メイリーンもきっと認めてくれるぞ。」
「「「「「「へ?」」」」」」
このにいる父上以外のほぼ全員が同じセリフを口にしていた。
「ななななななななな!なんでですか!」
「そ!そんな〜。なんでよぉ〜。」
「許せん!許せん!許せん!許されない!」
「女でないことが、これほどまでに屈辱的だとは・・無念!」
「よぉぉぉぉっっしゃぁぁぁぁぁっっ!!」
シア、ロキ、リタは悲しんでいたというよりはなんとも言えない感情をしていた。
センキに至っては涙を流し続けている始末だ。
シェリオは聞かなかったことにしよう。世の中は聞かない方が幸せなこともあるからな。
ミアに関しては、とんでもない位の雄叫びと感動を身体で体現していた。
あんなミアは見たことない。
それにしても、結婚か。元々求婚していた身だからな。(独り言なだけ。)
「では。引き上げるぞ。お前たちよ!
セイランは私が担ごう。マーシャは、クローク動けるか?
愛している女くらいは自分で踏ん張ってみせろ!」
「かしこまりました。そうさせていただきます。」
クロークが肉体論とは珍しいな。
これが恋する力か。
「坊ちゃん。お強くなられた。」
「ラキスタも久しぶりだね。」
「ハハハハ。覚えて下さっているのですね。
このオジサンを。」
言いたいことを言い終えたのか、ドルガルたちはそのままギルド内を後にした。
ふとキャストは気づいた。
あれ?門前の奴ら大丈夫か?
アーシャ義母上がいるけど。
投稿スタート




