第35話 お家騒動 2 キャストの決断
『感理気』では、ディアがやばいな。
エインは予想以上にピンピンしてやがる。
リタ、アルケミー、シェリオが支援に間に合えばだが、門前は・・・ダメだ。人手不足。
他の騎士の牽制として、アインとブラスのコンビで撹乱と暗撃をしているが。
2人を動かすのが1番か?
いや、動かないしな。
それに、俺がガラ空きか。
コンコンっとドアのノック音が聞こえた。
「失礼する。主人殿。センキだ入る。」
「どぞどぞ」
「状況報告だが、芳しくない。」
「だろうな。どうしようかな。
俺的には方法はあるよ。」
絶対に反対するよね?だから、俺はご自慢の前世の職場スキルを発動する。
「その方法はダメだ。主人殿自ら出るのはダメ。」
「けどね。君たちが守りたいものが、そこにあるとしたらどうだい?」
「ッ!家族は守りたい。けど、主人殿がまず安全でなければならない。」
「なるほどなるほど。ではこうしよう。
君たちが守るべきものは《《この建物》》と《《私》》のどちらなんだい?」
「そ、それは。勿論、主人殿だ。センキは間違ってない。」
「そうだなぁ。間違ってないな。
じゃあ、それを証明しに行こうか。」
そして、椅子から立ち上がった。
「センキやシアがいるんだ。
なら、私は怖いものなしだな。それに仲間の所に向かえれば、なおのこと安全性が高まるね〜。」
必殺、屁理屈詰め。そして、言葉遊びを添えてね。
「なんか丸め込まれた気がする。」
うんうん。気のせい気のせい。
ドアを開けた。近くにシアが待機していた。
「あ、主様!?どちらへ!?
これはセンキどいうことだ。」
「センキは悪くないよ。俺を絶対に守ってくれるって言ってたからさ。
なら、それを証明しに行こうかなってね。」
納得するとかではない。
納得させたいのなら、現場で証明せよってやつ。結果論や。血も涙もないやつね。
「しかし主様!」
「いやね。俺は置物は嫌いなんだよね。
やるからには自分の価値を証明する必要があるからさ。」
言ってたからには成果を上げなくてはね。
このクソッタレな現実異世界に、俺の市場価値を見せつけるか。
「私たちが守る。これは絶対だ。」
「お前に言われずとも分かっている!
はぁ〜。いいですか、主様。
まず私のお側から離れてはいけません。
不用意に勝手に出歩いてはいけません。
後は迷子にならないように私と手を繋ぎましょう。」
「最後はいらない。私が手を繋ぐ。」
俺は2人ともで構いません。
なんか子供の引率者かな感が否めない。
「分かった。勝手な行動は慎むよ。」
「私如きの我儘をお聞きくださり、ありがとうございます。」
「気にしなくていい。」
「うん。じゃ行こうかな。」
俺たちは5階の執務兼俺部屋を後にした。
ビル内にて
「別の入口を探すか・・。知ってるか?」
「知らんな。ラキスタ殿が知らないのに私が知るわけないだろ。」
敵を前に呑気に会話するクロークとラキスタだった。
「攻撃手段がないとは、よくお気づきになられましたね。セイラン様。」
「ええ。さっきから攻撃態勢に入る動作が見えません。
攻撃する気が無いのなら、フェイントなり、こちらの攻撃動作に反応してもよかったはずです。
その素振りもないので、恐らく攻撃ができないのか、攻撃自体ができないのかのどちらがに絞られました。」
やばいと冷や汗を流すエイン。
このままでは突破されると感じた。
教養を学んだが、実戦経験は豊富ではない。そのため、急なトラブルに対処できない。
「では、裏口から周りましょうか。」
「そうね。マーシャ。行こうか。」
「(まずい!)」
突然後ろから、エインを飛び越えて前にやってきた人物がいた。
「オッス。オラ、キャスト。待たせちまったなぁ。」
誰の真似か知らないが『ファミリア』のマスターにして、エインの主でもある男が来た。
「主様!急に前へ出ないで下さい!!」
「主人殿危ない。」
後ろから、慌ててやってきたアリシアと平常心の堅物センキだった。
「(フッ。決まったな)」
「(また余計なこと考えてるな。親父。)」
ドルガル一同が驚いていた。
「きゃ、キャストーーー!」
「叫ぶな、うるさい。」
「はい。すみません。」
うるさかったので、実の父親を叱責してしまった。大分弱ってたな父上は。
「キャスト!無事だったのね。私よ!
姉のセイランよ!セイランお姉ちゃんよ!」
じっと見つめているが、我が姉上は発育も良いし、スタイルも良いのか。ほうほう。
これは目の保養になりますな。アガベッ!
センキに頭を叩かれていた。
「ん。何かいやらしい気配がした。」
何その勘。態度に出てたとか?
あれ普段からバレてたってことか。
いやだ!なんか恥ずかしい。
「気になさらずとも、私だけを見つめていれば良いではないですか。」
しれっと、自分に意識を持って行かせようとするシアの精神には呆れを通り越して、称賛の拍手を送るよ。
「おい。お姉ちゃんを無視するなよ?」
なんだこの覇気は。この感じできる!
というよりは、別の感情かと思われるな。
「ああ、すまないね。
久々に会ったから見違えてしまってね。美しく過ぎて驚いてしまったよ。」
「ほ、ほうか・・。んん!そうか。美しいか。うん。ならしょうがないな。」
相変わらず脳筋だから扱い易いな。
「お久しぶりです。キャスト様。
私を覚えておいででしょうか。」
マーシャか。最後は決闘だったしな。
忘れる訳がないわな。
「覚えてるよ。マーシャ。久しぶりだね。
母上も元気かい?」
「元気ですが、これから直接お伺いになれるので、ご心配はそこで伝えてはいかがですか?」
これは連れて帰る宣言か。
血の気が多いなーこの貧乳野郎。
はっ!マーシャから殺気が!
こ、こいつテレパシー能力の持ち主か!
「なんだか、不敬なことを言われたような気がしますが。」
「ナンノコトデスカネ。」
勘付かれたら、雷速で剣が首を目掛けて飛んでくる気配がする。
てか、走馬灯が見える気がする。
「キャストよ!パパは寂しかったぞー!」
きめぇわ。自分をパパって言うなや。
それ通用するの娘だけだぞ。
「父上よ。急に飛び出しことは大変申し訳ありません。
言葉ではと言いたいこともありますが、まずは謝罪を口にさせてもらいました。」
「よい。会えたからこそ気にしてない。
むしろ、その話し方はよせ。
背中が痒くなるわ。」
ここは父上のいいところだな。
「では、失礼して。
まぁ、ぶっちゃけ戻るつもりはないからさ。とっとと引き上げてくれませんか?」
「急に砕けたわね。」
セイラン姉さん突っ込まないで。
恥ずいから。
「ハッーハッハッハッハー!元気が出たわ!
答えはノーだ。お前を連れ帰る。
俺は間違えた。メイリーンも間違たと言っていた。だから、やり直したい。
分かっている。
横暴なことをしようとしていること。キャストの気持ちとは反対の事をやろうとしていることもな。」
「んじゃま、戦いますか。
本当は話し合いとかの方がいいけど、お宅それだと負けるでしょう?」
「よく分かってるな!話など理解できんわ!男はこの武器一本のみよ!」
ドルガルは巨大なハルバートを出した。こいつは魔法武器だな。しかも紋章付きかよ。
ドワーフが関係しているとはな。
さて、俺はどうするかな。
武器ないし。リタから貰った剣は使いこなせていない。
結局は己の拳で戦うしかないか。
斧とか受け止めたり、弾き返せるかな〜。
「主様。お下がり下さい。
私とセンキで迎え撃ちます。」
「了解。じゃあ、エイン。
そのまま外に行ってディアを助けてこい。」
「お、親父。大丈夫なのかよ。」
なぜ俺のお父さんが目の前にいるのに、10歳の俺に親父と呼ぶのか。
「大丈夫だ。問題ない。」
言いたいセリフランキング上位が言えたからいいか。
「分かったぜ。じゃあ任せた!」
エインはここから離脱し、ディアの元へと向かった。
「それじゃ、やろうか。」
「主様は下がっていてください。」
「あ、はい。」
折角、かっこよく出たのに下がらされた。
ショボーン。
「お前たちだけで、俺たちの相手を務めるのか?」
言葉だけなら卑猥だが、目の前で剣、槍、斧、杖を構えられているので、そんな悠長な話ではない。
「私とセンキで十分だ。」
「では、引きずり出すとしようか。いくぞ!!」
父上がハルバートを枝のように軽く持ち上げ、上から振り下ろし攻撃をシアに放った。
シアは刀でそのハルバートを受け止め、力を受け流し、押し返していた。
このシアのやり方はミアとの特訓で解説をしてもらっていたな。
確か、力や武器の種類によっては受け止めきれないケースがあるとかなんとか。
その時に、力を相手に流すようにするか、外に流して受け止めるか、のどちらかとか。
あの時の俺は4歳だったし、考えられなかったが、今なら何となく分かる。
「ハァァァ!」
シアの叫び声と共に巨大なハルバートを父上ごと後ろに押し返した。
「やるではないか!英雄よ!
俺も久々にリックスほどではないが、血が激ってくるわ!」
脳筋part2だな。
ん?アーシャ義母上がいるからpart3か。
「あちらはドルガル様との一騎打ちか。
横槍は無粋だな。」
「というわけで、こちらは4人いるがいいかな?」
「大丈夫だ。私が相手する。」
センキ1人で4人は無理だな。向こうが三下なら行けるが、どう見ても歴戦の騎士だ。
やるか。なんか言われるけど。
「なら、俺も参戦しようかね。」
「む。ダメと言いたいけど。」
「シアが父上に釘付けだからだけど、まぁ、大丈夫でしょ。」
すると、マーシャが
「キャスト様。前回は侮っておりました。
前の借りをここで返させていただきます。」
「キャスト。私はあなたを止めるわよ。
そして、前の私よりはさらに切れ味が上がってるのよ。」
「切れ味って、殺人鬼かよ。」
まぁ、この2人が相手か。
ラキスタとクロークは中衛と後衛コンビか。前衛のセンキと相性が悪いな。
例の技で切り抜けたいが、マーシャが以前何かをしようとしていたんだよな。
多分予想通りならいいが。セイラン姉さんは全く分からん。
「行き当たりバッタリか。」
動きが見えた。2人が同時に左右から斬り込みをするビジョンが。
直ぐ様、ディフェンスの構え、守りのスタイル体制に入った。
「「!!」」
2人は驚いていた。
全力ではないが、キャストに接近したタイミングや斬り込みの手順はどれも、回避をすることが不可能なはずなのに。
腕をガードの体制にし、左右からやってくる剣技を紙一重で躱していた。
「こっちの領域だぞ。」
女性を殴るのは趣味ではない。
しかし、こいつら本気で斬りかかってきやがったので容赦せん!
って言うか!いきなり本気で斬るなよ!
気は常に纏っている。強弱も息を吐くように動かせる。
そこからの、逆突き!
左足で前に踏み込み、右腕で右側のマーシャにカウンターを打ち込んだ。
「オラッ!」
不意を突かれたマーシャだが、無理矢理後ろに飛び、避けた。
キャストはすかさず、左足で踏み込んだところを軸に右足の前蹴りを放った。
攻撃が来たからか、セイランは空振りをした2本の剣を直ぐに自分の前に戻し、クロスガードの体制で蹴りを防いだ。
たが、勢いで後ろに下がっていった。
「ふぅ。いきなりかよ。」
「驚きました。完全な不意打ちのタイミングで、あの避けはお見事です。」
「バカにしてんのか。」
「本当よ。キャストすごい強くなったのね。
お姉ちゃんは鼻が高いわ。」
なんでお前が誇るんだ。
「じゃあ今度はこっちからだな。」
発動!足に気力注入。『瞬足』
超高速移動を行い、2人の間に入った。
行くぜ!両手を前に、波っ!
手から球体の光弾を発射した。
「くっ!」
「きゃあああ」
セイランはまともに喰らい、マーシャは剣で防御したが、ダメージを消せていない。
そして、近づいてきたところを見逃さないマーシャの雷魔力が発動した。
「『雷鳴よ私に力を』!」
「でたな!」
雷を纏い、雷速の連続斬りを放った。
「早いが。見える。見えるぞ。」
右、左、斜め、上、下、全ての攻撃が見える。
全てを避け、手に気力を纏い鉄のガードを行う。カウンターよりは守りを中心にする。
「なぜ?どうしてこうも見切られる。
まさか、スキル!」
「なわけ、ねぇーよ!」
連撃を弾き返した。
しかし、上からセイランが二刀流で迫っていた。
「せいや!」
来るのは知ってた。上からの薙ぎ払いね。
バックステップで避けた後は追撃だな。
ここは。
「避けた!けど知ってた!」
読み通り、前に突っ込んで来た。
だから、空手家の基礎中の基礎だが、極めれば達人の一撃をも跳ね返し、貫く一撃!
「ハァ〜。『正拳突き』!」
バックステップからの立ち止まり。
腰を下げ、両足で踏ん張り右腕から拳を放つ。
前から2本の剣が迫るが、気力で固めている身体に鋭い突きで弾き返し、セイランの腹部に当てる。
「がっ!」
そのまま、後ろに吹き飛ばした。
とりあえず、マーシャから切り離せたな。
ここからは短期決戦だ。
後にも強者が控えているからな。この身体で無茶はできない。
目の前のマーシャを見つめ、再び戦闘態勢を取った。




