第32話 いつも斬りかかられる俺 対勇者
唐突だった。
俺の目には素早い剣筋が見えた。切る前の動作としての未来が見えた。
気の使い方は上達しているが、この速さは尋常では無いな。
『感理気』により、いち早く察知した。
なんか管理機みたいでやだな。
けど動く必要もなかった。
キィン!とシアがその光速の聖剣を刀で止めていた。
「では殺しますね。」
前置きもないの?やっぱ怒ってるよね?復讐に燃えてるよね?
「お待ちください!アリシア!
お願いやめて!」
「姫様・・。申し訳ありません。
私の《《旦那様》》に手を出したので、殺すしかありません。」
ちゃっかり捏造設定追加してるし。
「だ、旦那様だと!どいてくれ!アリシア!
君を解放するために、そいつを斬らなくては!」
「物騒だな。それに、アリシアさんを倒さんと、その先は行けないみたいだぞ。」
「くっ!」
刀と剣で斬り合い始めた2人だ。
隙ありと見たのか、その取り巻きは俺を狙ってきた。
マイナ、カナエ、姫さんは動かないな。
面倒だ。3人寝かす。あ、なんかエロいので、気絶させます。
守護円に入ってきたので、ガードとカウンターを首や腹部に《《優しく》》衝撃波を放った。
「女性を殴ってしまったよ。
マーシャ戦でしてるとは言えど、こんなか弱い連中をだ。堕ちたもんだなー俺も。」
「みんな!」
「大丈夫ですか?キャスト様。
では、そいつらの首を切り落としましょう。」
ナニイッテルカワカラナイ。
「何のために気絶させたんだよ。」
「え?せめて、苦痛なき死では?」
ぶっ飛んでる。特に今回のディアはやばい。
「おやめください!
そして、度々申し訳ありません。どうか償いをさせて下さい。
今日はお話ししにきただけなので!」
俺は姫さんよりも、カナエを見て目で真偽を問いただした。
「貴様!カナエ様がお美しいからと・・」
「いいわ。ファイザー。
どうやら、本当かどうかを知りたいのね。
本当にお話しにきたけど、あれは止められないから鑑賞でもして待ちましょう。」
ファイザーってどこぞのワクチンだよ。
こいつは人事のように傍観かよ。
いや、いじられて困るのはあいつか。
証拠が無いからバレることが無いとか考えてそうだな。
「死ね!」
罵声と共にユウキに斬りかかったシアだ。
セリフが完全に悪役のソレ。
「アリシア!やめ・・!」
怒涛のラッシュだ。
ありゃ、キレてるわ。
しかもなぜか勇者をゴリゴリに押している。
「強い!まだ本気を出してないが、ここまでとは。」
シアは少し暴れて落ち着いたのか。
「ふぅ・・。私らしくない戦いをしてしまった。主様の前で興奮してしまっていたな。
しっかりと後で収めていただかねば。」
戦いの最中に何言ってんのアイツ。
しかもまた燃やすよね。火を絶やすでないぞ。ってか。
「な、なんだと!手を出したのか!
この外道が!」
してないしてない。逆にディフェンスしてる側だし。
シアがヘルガーの一件以来、色仕掛けと寝込みを襲うようになっていた。
「キサマ!まだ言うか!六の型『瞬閃輝』!」
今度は下から掬い上げの一太刀だ。
これと同時に光の斬撃も飛ばしている。
ユウキは戦い慣れてないのか動きが微妙だ。
言うなれば、強いスキルや魔力頼みの動き。自身のオリジナリティとアイデンティティが全く感じられない。
ゲームで決まった法則以外動けないキャラクターみたいだな。
「くっ!なら、神装解放!『ホーリーブレイブ』」
何で、こんなところで解放するかな。
火力バカが展開したら、家がめちゃくちゃになるやろ。
「ゆ、ユウキ様・・。」
「バカだわ。」
「バカですね。」
「シア。大丈夫なの?」
「はい。問題ありません。
神装は私も使えます。ですが、あれを使うほどの敵ではありません。
それを今からお見せしましょう。」
何か強気だ。さっきよりは落ち着いている。
「あまり俺を舐めない方がいいですよ。」
魔力オーラがキラキラして少し眩しいな。
「御託はいいからさっさと来い。」
「いくぜ!」
おお早い、流石に初見は見えないな。
でも、俺の『守護円』と『感理気』の併用で対応できるか?
ただし、もう身体的には見えない。
スキルや魔力の性能差で負けていて、その差が生じているから。
シアは涼しい顔で攻撃を受け止めてるし。
力の根底にあるのは一体何だろうな。
普段からあまり魔法や流派を使わないから、よく分からん。
スキルに関係している?
もしくは使わない方が強いとかか?いや、それ以外にあるなこれ。
「あなたは力を神から授かった、神に愛されし人です。
力を存分に使うのは人の在り方であり、それが悪きことや良きことであろうと。
しかし、力を使う際にはそれ以上の力の持ち主がいることや相性による問題があります。
今回は両方ですね。
ただ、貴方の使っている聖剣の種類は分かりません。
ですが、それを込みにしてともあなたでは私には勝てません。」
「強気・・では無いな。そこまでバカじゃない。分かる。
いつもアリシアは俺らの1歩先を行く人だ。
俺が最初に惚れた女なだけある!」
えと、ツッコんでいいの?
平和な国からやってきて、与えられたスキル・魔力で強者気取りの上から目線な告白はどうかと。
「お前が何を知っている・・。ハァ。」
だろうね。
「俺だって、前の俺じゃないぞ!」
エネルギー全開でシアに斬りかかる。
凄い力だな。
あんなもん正面で受け止めるの至難の業だぞ。シアは平然対処していた。
そこで、俺はあることに気づく。
アイツの動きがなんか見たことあると言うか、自分に近いというか。
ま・さ・か。
さっきからユウキの攻撃が当たってないのだ。
正確には、どこに攻撃が来るのかを分かっているような。受け止め、流しと綺麗に対応している。いや、綺麗すぎる。
それに、物理的力は絶対ユウキの方が、勇者のスキルと神装も重なっているから上の筈だ。
「おい。ディア。これは一体。」
「流石です。力の生みの親にして我らが神よ。」
だからやめてくれそれ。
「アリシア様は1年ほど前に力を開花し、現在に至ります。」
俺の開花はともかく、あそこまでできるようになるのに相当年数かかったぞ。
神の野郎は天才にスキル・魔力以外の才能を与えてしまったようだ。
「あんなにあっさり使われると凹みます。」
「アリシア様は決してキャスト様を困らせようと力を身につけてはおりません。
キャスト様により一歩でも近づく努力を行っており、そのお力に憧れと敬意を表しております。」
そんな凄いもんではない。それを今教えられました。ハイ。
追加で言うが、困らせようとしてる訳では無いだろうが、困るようなことを常にしてる。
「シアが俺をよく見てたのは知ってた。けど、まさかね。」
「愛してる人の力を使いたいと思うのは普通かと存じます。
私も教えを乞いたいですが、残念ながら教えていただけないでしょう。」
「隠している訳ではないが・・教えようか?」
「ありがたき幸せ。
ですが、私も私なりに試行錯誤してみます。アリシア様のように自身で発現させてみせましょう!
その時はご寵愛をいただければと思います。」
何でいつもいいこと言った後に・・。
焼肉の後にスパゲティどうですかみたいな。
腹一杯だわ!
ともあれ、勝負は着きそうだな。
ユウキはかなり疲弊しているな。
何やかんや、攻撃連打みたいな感じだったし。ペース配分は大事よ。
シアは言うまでもなく、全くの無傷。
気の使い方をマスターしているのと、元々の身体能力が化け物級の上、魔力まであるという。人類鬼畜最終兵器となっている。
気は生命エネルギーだからな。
シアのエネルギー量は絶対、並外れるレベルで多い。
唯一の取り柄が無くなりました。しゅん。
「こ、これで最後だ!ここに全てを込める!」
すると、後ろの騎士のマイナから支援魔法となんかのスキルを発動している。
「ユウキ様!どうかお使い下さい!そして、アリシアを・・」
「分かった!ありがとうマイナ!」
客観的に見たら俺たち悪者じゃね?
「行くぜ!!聖剣禁術解放 真名『クラウ・ソラス』よ輝け!」
光剣が煌びやかに輝く。
魔力が高まっているのだろう。なんか、ビームの気配がする。
「喰らえ!悪の根源よ!」
ユウキは剣を上から思い切り振り下ろした。その時剣から巨大なエネルギー光線が放たれた。
その光線はシアを目掛けて・・
ん?何でこっちきてんの?戦ってる相手と角度90度くらい違うよ。
ええ!なんか冷静に考えてるけど、防御の構えをせねば!!
ディフェンシブスタイル舐めるな!
ディフェンスは極めに極めている。
だが、前方に人影が来た。シアとディアだ。
ディアが俺を抱きかかえ身体を盾に護り、シアが前で、その光線を迎え撃っていた。
「チッ!き、キサァマァァァァァーー!」
シアが叫んだ。
あかん。それ完全に悪役のセリフや。
だが、気の高まりを感じる。
これは鎧気だが、質が何か違う。まるで盾をイメージしている。
身体全身というよりは、シアを中心に円のシールドを展開しているようだ。
「『イージス』」
そして光とぶつかった。
その光景を見たユウキたちは。
「当たったのか?」
「当たったわね。直撃の。」
「ちょっとユウキ!3人とも死んで無いでしょうね?」
「カナエ。わ、わからない。それにアリシア何で・・」
煙の中から人影が見えた。
「!!」
「そ、そんなことが・・。」
「クッ!」
煙の中から無傷のシアが現れた。当然後ろには俺と抱き締めているディアがいる。
確かな胸の感触を身体越しに伝わる。
「なりふり構わずとはな。あまりお行儀は良くないな。
何だ?もう終わりか?ならこっちから行くぞ。」
シアの殺気が膨れ上がった。
リックスに近づいた時と同じ速度で近づき、ユウキの腹部に強力な気力を込めた拳が炸裂した。
「なっ!」
「はぁ!『光浸透波』!」
光の速度で放たれた拳が腹部に直撃した瞬間に浸透系も混ざり、腹部に光速でダメージが伝わる。
おいて。えぐいぞ!
光の速さの浸透と拳の重みで死ぬぞあれ!?
凄い遠くまで吹き飛んでいった。もうその姿は見えない。
これが世に言う、ぶっ飛ばすだな。
生で飛ぶのを見るのは初めてや。
「「ユウキ様!!」」
姫さんとマイナはぶっ飛んだユウキの方へと走り去ってしまった。
どうしようかな。これ。
3人の気絶した女たちとカナエ一味たち。
「はあ。私はパスよ。戦う気ないから。
あなたに何をしたかは覚えてる。
けど、今ここで戦えばそちらの彼は無事では済まないわよ。」
シアとディアの視線が一気に鋭くなった。
てか、スキルや魔力ないだけでここまでの扱いとは。
同郷の子たちとは思ったが、どうやらこの世界で荒みきってしまったようだ。
「分かっている。元々貴様を殺したとこで全てが収まるわけではない。」
シアが刀を腰に納めた。
ディアはまだ離してくれません。というか、楽しんでるよねキミ?
「んん!んん!クラウディア。
私と代わりなさい。今度は私がお守りいたします。」
それは護符的な意味なの?
「かしこまりました。
不本意ですが、交代致します。」
「言うなお前。だが、気分が良い許そう。」
こうして後ろから俺を抱き締めるシアだ。
鼻歌を歌っている。背後から幸せオーラを感じ取れる。
「はぁ〜。アンタね。ユウキやら男性勇者たちと同じじゃない。」
失敬な!あんなあからさまな女好きと一緒にするでないわ!
「てか、どうするよ?話し合いするか?
肝心の姫さま消えたし。
できれば、こいつら下げてほしいんよ。」
「分かったわ。また別日に来るとするわ。
今度はバカ勇者を置いてね。」
「貴様にしては話がわかるではないか。」
ディアのセリフに、周りの男性騎士が騒めく。
「この汚らしい娼婦風情がよく言う。」
ディアが我慢ならなかったのか、剣を抜き、男の首に当てていた。あまりの速さに周りが反応せずにいた。
「おやめなさいな。お前たち。」
「か、カナエ様・・。」
カリスマは凄いな。あのユウキもだが、なんか引きこまれるこの感じは何だ。
「ここで全員殺しても構わないが。」
「それはできそうで怖いわね。
けど、さまざまな国が会議しに来てるのに、別の意味で大注目を集めてしまうことになるわよ。」
それな。だからやめとけ。
ただでさえ、勇者ぶっ飛ばしたのに、エンバイス家とのやりとりもあるのに。
「いいでしょう。あなたの顔に免じて。
しかし、私たちはあなたをいずれ殺します。」
ディアは剣を素早く仕舞い、後ろに下がった。
「では、撤退しましょうか。
あなたたち。そこの寝転がってる子たちを連れて行ってね。
じゃあね少年くん。」
バイビーステップ〜。
手を振って見守った。
ユウキくん死んでなければいいけど。
仕返しとかしてこないよね?その時はシアさんにお願いしようか。




