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エピローグ

「台湾で亡くなられた宮様」が公開されてから、1年近くが経ったある日、台湾では、独立するか、日本への帰属を続けるか、中国への復帰を求めるか、の三択の住民投票が行われていた。

 日本の片山首相は、この住民投票の結果を尊重すると、事前に声明を出していた。


 開票結果は8割近くが、台湾独立を求め、中国への復帰は1割以下、その余が日本への帰属を続けるというものだった。

 これを受け、日本政府は、1年以内の台湾独立を認めることにした。


 日本国内では、日本の国益上、台湾の独立を認めるべきではない、という意見が根強くあったが、台湾独立派が、政治的妥協として、日台安全保障条約を締結し、その中で日本軍の台湾駐留を認めるという提案をしたことから、それで矛を収めるべき、という意見が日本国内で台頭し、片山首相も、それによって、日本の国益は確保できると反論、説得に努めたことにより、台湾は、台湾民主国として、独立を果たすことになった。


 台湾が独立し、台湾民主国政府が発足し、最初の国会選挙が行われた。

 台湾国会で、最初に行われた決議が、広東で眠っている劉永福将軍の遺骸を、台湾にお迎えし、新竹郊外に国費で建築する墓に改葬することだった。

 実際、1917年に劉将軍が亡くなった際、新竹に私の墓を作り、そこに遺骸を埋葬して欲しい、と劉将軍は遺言を遺していたのだが、その墓が台湾独立運動の象徴となることを怖れた、この当時の日本政府によって拒絶されたことから、広東を劉将軍は仮の墓としていたのである。


 このことは知る人ぞ知る話であったが、「台湾で亡くなられた宮様」が上映されたことにより、台湾の多くの民衆が知るところとなり、国会選挙においても、候補者の多くが、公約として、劉将軍の遺骸を台湾に、と訴える有様だった。

 そして、その公約に基づき、台湾に劉将軍の遺骸をお迎えしよう、ということになったのである。


 台湾民主国政府は、蒋介石率いる中国政府に対し、劉将軍の遺骸の引き渡しを求めたが、中国政府は、劉将軍は、中国にとって英雄である(実際、劉将軍は、清仏戦争においても活躍し、英雄となっている。)として拒絶の姿勢を当初は示した。

 だが、日本をはじめとする諸外国からの、劉将軍本人の遺志を尊重すべきだとの声を受け、中国政府は、渋々、劉将軍の遺骸を台湾に引き渡すことにした。


 そして、劉将軍の遺骸は、広東から、最後に台湾の地を離れた台南市の安平港に上陸し、新竹へと陸路で運ばれた。

 その道中は、台湾の民衆の歓呼の声に迎えられ、あたかも劉将軍が生きて凱旋してきたかのような様相を呈する有様だった。

 また、新竹に作られた劉将軍の遺骸が改葬された墓は、結果的に台湾の住民からの多額の寄付により、建築費は全て賄われ、税金は投入されずに済んだ。

 更に、維持費も住民の寄付によって賄われる有様だった。


 そして、「台湾で亡くなられた宮様」だが。

 カンヌ国際映画祭で、グランプリに輝くという栄誉を得る等、国際的にも評価され、田坂具隆監督の生涯を代表する傑作として、その名を遺した。

 また、長谷川一夫、阪東妻三郎や嵐寛寿郎らが出演していることや、文部省が支援したこともあり、この時代としては、珍しくフィルムもきちんと保存されることとなった。


 そして、数十年後、「台湾で亡くなられた宮様」はビデオ化された。

 村山幸恵は、孫からのプレゼントとして、この映画のビデオを送られ、改めて通しで何度も見直し、あの台湾独立を巡る時代を思い起こすことになった。

 また、村山幸恵が亡くなった後の21世紀にはなるが、「台湾で亡くなられた宮様」は、DVD化もなされる作品となり、現在も容易に視聴可能な映画となった。

 これで完結します。


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