第14話
「劉永福将軍、お迎えに、いつか参りますので、どうか、もう少しだけ、お待ちください」
「台湾、独立万歳。台湾民主国を、今こそ再興すべき時だ」
台南市の映画館内では、台湾人の泣き声と叫び声が上がっていた。
「台湾で亡くなられた宮様(第一部)」の最後の場面が終わったのだ。
映写機を回していた映画館の李館長自身、この映画を何度見ても、最後まで涙が浮かばずに、見終えられたことは無かった。
いや、何度見ても、何度も涙が浮かんで堪らなかった。
60歳を少し過ぎた李館長自身、台南市生まれの台南市育ちであり、台湾が清国領から日本領になるのを、10歳の頃、文字通り、実見した世代だった。
映画の情景には、細かいところを言えば、ケチを付けたくなるところもある。
だが、自分は、あの時、波止場に行けなかったが、波止場で劉将軍が貨客船に半ば無理やり乗せられ、台湾を去る際に、
「いつか、台湾の独立を見たい。そして、その場にいたい」
と劉将軍は語った、と見送った友人から聞かされている。
この映画のラストシーンは、その話を思い起こさせるものだった。
そう、あの時、自分達の父や兄は、懸命に台湾独立の夢を追ったのだ。
確かに今になって冷静に振り返れば、奇跡が起きて、台湾民主国の独立を日本が認めても、映画の中で登場人物が言うように、台湾の独立があの時に保てたとは思えない。
でも、あの熱狂と無残な挫折、あれが無ければ、今の台湾人の誇りは産まれなかっただろう。
映画の入りが悪いので、第1部のみ今は上映しているが、第2部も日本人視点から描かれているのが腹が立つとはいえ、決して映画上の嘘ばかりとは言えない。
台湾には、今や帝国大学がある。
鉄道や道路網等も、台湾では整備が進んでおり、決して日本本土と生活水準は引けを取らない。
それが、台湾から上がる収益によって為されたものがあることは否定できないが、初期の頃は、日本からの積極的な投資によって為されたのも事実なのだ。
そのことは、素直に認めねばならない。
そして、今や台湾の人口は、中国内戦を逃れて、台湾に逃げ込んできた人を含めるならば、1000万人に迫ろうとしており、立派な中堅国家の人口規模だ。
台湾は十分に成長し、大人になったと言えるのではないか。
今こそ、台湾民主国は、独立を果たす時が来たのだ。
李館長は、映画を見た高揚感も相まって、そう思った。
李館長の想いを、映画を見た多くの若者も共有していた。
「祖父や父が、あのような戦いを行ったとは知らなかった」
「映画を見た祖父が言っていた。あの映画に、嘘がないとは言わない。だが、あれ程の映画で、嘘を指摘するのは、映画の興を削ぐ話だ。それに、あそこまで台湾民主国を、日本人に好意的に描いてもらえた。それだけで十分だ、とね」
「確かにな。それにしても、台湾民主国を、今こそ再興し、劉将軍の遺骸を台湾にお迎えしたいものだ」
李館長の耳に、映画を見終わって、映画館を出ていく若者たちの声が聞こえてくる。
その声を心地よく李館長は聞いた。
こういった声は、李館長が経営する映画館だけで挙がったものではなかった。
「台湾で亡くなられた宮様」が上映された台湾の映画館では、似たような声が多数、挙がった。
それ以前から、多くを占めていた台湾独立派の声を、この映画は、台湾内に大きく広める効果があった。
そして、この映画の上映は、台湾と日本だけに止まらなかった。
米国や英仏等、諸外国でも公開された。
更には、「台湾で亡くなられた宮様」に反発した中国本土でも、台湾の中国帰属を阻み、台湾独立を煽るものだという、蒋介石総統直々の判断により、上映が法律で禁止されたが、秘かに多くの映画館で上映された。
後、2話で完結予定です。
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