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第13話

 映画が終わって、村山幸恵が、映画館の外に出ると、完全に昼を過ぎ、午後2時近くになっていた。

 本来なら、空腹を感じる筈の時刻だが、幸恵は、何故か空腹を覚えなかった。

 それは、色々と考えごとに没頭していたためだった。


 幸恵は、その立場上、政治的中立を標榜しているが、本音としては、政治が好きでたまらなかった。

 思い切り、この政治的課題については、こう思う、と言いたいこともあった。

 だが、客商売である料亭の若女将であり、しかも、その最大の顧客は、基本的に現役時代は政治的に動いてはならない軍人、その中でも、現役時代に政治的に動いては大問題になる海兵隊士官が、大半を占めるのが現実である。

 そういったことから考えると、尚更、政治的な話題について、幸恵は基本的に沈黙しつつ、中立を保たねばならなかった。


 しかし、それによって、却って幸恵の政治的識見が磨かれているのも事実だった。

 中立を保つというのは、それだけ苦労することなのだ。

 最も、これは幸恵の出生にも、一因があった。

 幸恵の出生は、色々と周囲に軋轢を生むものだった。

 幸恵の実母である「北白川」の大女将は、幸恵を妊娠した際に、産んで育てるのに大変な苦労をし、知恵を巡らすしかなかった。

 それを見ながら長じ、更にそれを学んだ幸恵も、母を見習い、知恵を巡らすようになったのである。


 台湾問題について、幸恵なりに理解しているところでは、日本国内の意見は割れていた。


 台湾の住民の圧倒的多数は、言語等の違いや歴史的経緯から、日本からの独立を望んでいる。

 台湾の一部の住民は、中国への復帰を望んでいたが、台湾が中国に復帰しては、第二次世界大戦で荒廃した中国本土から、打ち出の小づちのように、台湾は搾取されるだけだ、という圧倒的多数の台湾の住民の声に、その声はかき消されがちだった。


 その台湾の住民の声を反映して、日本国内でも、台湾の独立を認める声は高まりつつあるが、そうはいっても、台湾は、日清戦争で日本が得た貴重な果実である、として日本の領土として確保すべきという声は根強く、日本の政界を二分する二大政党、立憲政友会も立憲民政党も、党内の意見のとりまとめに苦労している有様だった。


 この映画を見た観客は、どう考えるだろうか。

 幸恵は考えを巡らせた。

 日本人なら、台湾に独立を認めてもいい、と考えるだろう。

 台湾人なら、台湾独立の夢を掻き立てられるだろう。

 

 この映画は、阪東妻三郎の長男デビュー作であり、阪東妻三郎が親子で共演することや、嵐寛寿郎が斎藤一を演じることや、文部省の後援があること等々、公開前から話題が絶えない作品でもあった。

 幸恵が見る限り、田坂具隆監督の生涯の代表作になりそうな作品でもあり、実際に見た観客の口コミによっても大ヒットするのは間違いなさそうだった。

 即ち、それだけ多くの日本人や台湾人が見るということだ。

 その影響は多大なものになるだろう。

 幸恵は想いを巡らせた。


 それにしても、と幸恵は、少し斜めに続けて考えた。

 さっきまでの映画のどこに修身の要素があったのだろう?

 確かに修身教育の中に、小松宮殿下は登場しているので、修身教育の一環だという理屈なのだろうが。

 親孝行についてのこととか、微妙に斜めに構えた視点の入っているところもある。


 また、中には純粋に娯楽映画として見る人もいるのではないか。

 何しろ、殺陣とかは、阪東妻三郎や嵐寛寿郎を正面に出し、実戦経験のあるエキストラが集まったこともあり、見事極まりないものになっているのだから。


 さて、この映画は、どのように日本や台湾で見られていくのだろうか。

 また、他のところでも見られるのではないか。

 そう考える内に、幸恵は微笑んでしまった。

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