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067 ボス討伐観戦

 イサナ王国とドワーフたちの交流が進められる一方で、ドワーフの里の地下に巣くう魔物の対処にあたるラディルたち騎士団一行。

 ついにボスである魔物の住処に到達し、いよいよ討伐決行の日を迎えた。

 敵は大蜘蛛の魔物で、蜘蛛糸の巣が張り巡らされた洞窟での戦い――


「いけーっ!! ラディル―!!」

「やっちまえー!!」


 店のホールからは、扉の外の戦いを応援する騎士たちの声。

 今日はいたりあ食堂ピコピコは臨時休業にして、騎士団に店を貸し切っている。

 ボスのいるフロアにラディルの扉を設置し、店のホールに増援部隊の騎士たちが待機しているのだ。


「まるでスポーツバーの試合観戦みたいだな……」


 これで料理やお酒を出して、普通に営業できたら少しは気が紛れるのに……。

 俺はというと、安全な店の個室席でマリカ様と待機中。

 有事の際に、協力することになっている。

 まあ俺に出来るのは移動用の扉を出すことと、その扉が異常なほど頑丈だってことだけなんだけど。


「協力感謝する。店を休みにさせてしまって申し訳ない、店長殿」


 落ち着かない俺を気遣って、マリカ様が声をかけてくれた。


「いえ。安全に魔物が討伐できるなら、それにこしたことはありませんし」

「店長殿とピコピコのおかげで、遠征や魔物討伐の負担が劇的に改善された。本当に、感謝してもしきれない」

「マリカ様……」


 移動や輸送のコストが下がるのって、それだけですごいチートらしいしな。

 自分では大した使い方をしていないが――仕入れで買ったものを瞬時に店に運び入れ、自分も帰還できる恩恵の大きさは実感する。


「オシハカ遠征の頃の緊張感が、嘘のようです。改めて気を引き締めねばと、自戒するほどに」

「あははは。お役に立ててるようで、なによりです」


 そういえばオシハカ遠征なんて、大冒険もあったっけ。

 最近は店も忙しくなって、すっかり昔の事のように感じるな。


「スターライト!!」

「いいぞ! アリエス―!!」


 店の方からアリエスの魔法詠唱と、騎士たちの大きな声援が聞こえてくる。

 ボスとの戦いが、良い戦況で進んでいるのだろう。

 どうやら俺の出番は、全くなさそうだ。


「彼女も――アリエスもすっかり、騎士団と馴染んでしまったな」


 マリカ様は、感慨深そうにつぶやく。

 声につられて顔を向けると、マリカ様と視線が合う。

 彼女は表情を少し緩め、言葉を続けた。


「ドワーフの里との交流に、アリエスとの出会い……イサナ王国がこれほどまでに外界との関りを増やすのは、初めてのことです」

「そうなのですか?」


 問いかける俺に、静かにうなづくマリカ様。


「ええ。願わくば、彼らと良き未来を迎えられればと思う」

「未来、ですか……」

「うおおおおおおっ!!」

「やった! やりやがったぞー!!」


 体に響き渡るほどの歓声が、店内から湧き上がる。

 無事、ボスとの戦いに決着がついたようだ。


「どうやら魔物を討伐できたようですね。出迎えに行きましょう」

「は、はい!」


 スッと立ち上がったマリカ様を、追いかけるように俺も店の入り口へ向かう。

 店の入り口では騎士たちが団子状態になって、ラディル達を出迎えていた。


「やったな、ラディル!」

「俺たちの出番、無かったじゃないか」


 なんとも激しい、凱旋の出迎え。

 あの団子状態の集団の中で、ラディルが揉みくちゃにされているのが容易に想像できる。

 俺はこういう結束力みたいなのを感じる集団に居なかったから、ちょっと羨ましいな。


「アリエスもおつか……」

「え……それって……」


 そんな和やかな雰囲気が、一転。

 騎士たちから、同様の声が広がる。

 異変を察したマリカ様が、すぐに声をかけに向かった。


「どうかしたのか?」

「マリカ様! その……」


 素早い動きで、道を開ける騎士たち。

 入り口の前にはラディルと、その陰にうつむきがちに隠れるアリエス。


「店長さん……マリカさま……」


 不安そうに、アリエスはゆっくり顔を上げる。

 彼女の額には、聖痕のような文様が浮かび上がっていた。

 この魔物討伐って、アリエスの星巫女覚醒イベントだったの!?


「その額のアザは……?」

「あの、私……」


 アリエスは困惑した様子で、再びうつむく。

 店内は騎士たちの不安と動揺の、静かな騒めきが溢れる。


「あれって、聖痕……だよな?」

「でもミスティア様の聖痕とは、形が違う……」


 これってもしかして、マズい状況……?

 困惑の声に怯えるアリエスを、かばうようにラディルが寄り添う。

 そんな中、アリエスに声をかけたのはマリカ様だった。


「アリエス、大丈夫か? 体に異変などは無いか?」

「えっと……はい、大丈夫、です」

「そうか」


 少女を気遣うマリカ様の言葉に、気持ちを持ち直す騎士たち。

 今一番動揺しててもおかしくないのは、マリカ様なのに――姫騎士様のカリスマ性、すごい……!!

 マリカ様はそのまま流れるように、ラディルに指示を出す。


「ラディル、念のためアリエスを休ませてあげなさい。ドワーフの長の屋敷を借りると良いだろう」

「は……わかりました!」


 ラディルはすぐさまアリエスを連れて、ドワーフの里へのトンネル通路に向かう。

 イサナ王国の混乱を避けるために、マリカ様は二人を里へ向かわせたんだな。

 二人を見送ると、今度は騎士たちに指示を出す。


「さて……アリエスの事、詳細がわかるまで他言せぬように!」

「「「 はっ!! 」」」


 箝口令とともに、騎士たちは速やかに店から退場していった。

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