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060 キーリウ会談

 どうして俺は、こんなところに立っているのだろう?

 隣には魔導学園の学園長、ガルガンダ先生。

 反対側の隣には、冒険者ギルド長と総務のヒュプノさん。

 異郷ドワーフの里の会議堂で、イサナ王国の要所の重鎮に挟まれて――ただのメシ屋の店長は、戸惑うばかり。


「これより、キーリウ会談を始めたいと思います。進行は、僭越ながら私、ドーネルが担当させていただきます」


 岩をくり抜いた広い洞窟に、腰の低そうな進行役――ドーネルさんの声が響く。

 洞窟には丸太のような椅子がいくつか用意されているが、テーブルは無い。

 ドワーフ側で座っているのは族長らしき老人のみで、他の十人程度のドワーフは彼を囲むように控えている。

 一方対面のこちら側は、騎士団長クラス――マリカ様と緋色の狐騎士団スカーレットフォックスの騎士団長さん、漆黒の山羊騎士団(エボニーゴート)の騎士団長さんの三人が椅子に座っていた。

 騎士団長の後ろに、それぞれの騎士団の隊員が数人ずつ立つ。

 ラディルやアリエスもいるな。


「では族長、ご挨拶を……」

「うむ。イサナ王国の皆さま、遠路はるばるよくぞキーリウに参られた。歓迎いたしますぞ」


 のんびりとした穏やかな口調で、族長が挨拶を述べる。

 会議の前に大方話はつけてあるのだろう、話はスムーズに進んでいく。


「そして今一度、われらドワーフの民に、ご用件をお聞かせ願えますかな?」


 族長の問いに、マリカ様が答える。


「我々イサナ王国は、キーリウとの交流を望んでおります」

「交流……ですか」


 マリカ様の言葉に、族長の周りに控えるドワーフたちが騒めく。

 期待と不安が入り混じるドワーフたちに、マリカ様は話を続けた。


「ドワーフの方々はマギメイを利用し、生活を豊かにしていると聞きます。ぜひともその知恵をお貸しいただきたいのです」

「ふむ……」


 一通りの要望を、マリカ様は話し終える。

 周りのドワーフたちを見回して、族長は一息つく。


「我々ドワーフは、里を離れて生きることはできない。それはイサナ王国の民も、ご存じではありませんかの?」


 イサ国において、ドワーフに限らず亜人たちは拠点を離れて長期間生きることが出来ない設定なのだ。

 星巫女などの一部の存在を除き、故郷を離れた亜人は徐々に魔力を失い、力尽きてしまう。

 それゆえに、結構ビターな内容のおつかいクエストも多かったのだが……。


「はい、存じております。しかしイサナ王国には、特殊な魔法を使う者がおりまして」

「特殊な魔法?」


 えっと、ここで名前を呼ばれるんだっけ。

 返事をするだけで良いって言われたけど、かなり緊張するな。


「ラディル」

「はい!」

「天地洋殿」

「はひっ!」


 マリカ様に名前を呼ばれ、ラディルの真似をして一歩前に出る。

 少し噛んじゃったの、恥ずかしい……。


「彼らの魔法で、イサナ王国とキーリウを瞬時に移動することができるのです」

「なんと……そのような魔法が……」

「我々騎士団も、彼らの移動の魔法があったからこそ、無事にキーリウにたどり着くことが出来たのです」


 移動の魔法の存在に、再びドワーフたちが騒めく。

 今度は明らかに期待を込めて、好奇心に満ちた目で俺たちを見つめている。


「にわかには信じられませんが……仮に移動の問題が解決したとして、我々がお役に立てるかどうか……」


 浮足立つ民を抑えるように、族長が言葉を濁す。


「何か問題が?」

「そうですね……」


 問いかけるマリカ様に、進行役のドーネルさんが答える。


「我々はマギメイを『役立てる』ために、作っておりません」

「はぁ……」

「なんと言いますか……作りたくて作ったものが、結果的に役立っている……と言いますか」

「……なるほど」


 そうそう、ドワーフの機械――マギメイって、ニッチなのが多いんだよ。

 特定の魔物の解体だけ得意とか、水を吸い上げるだけが得意とかね。

 器用なんだか不器用なんだか……でもそんなところが、ドワーフたちの愛らしさでもある。


「それでも……それならばなおのこと、交流から始めましょう」


 懸念を抱くドワーフたちに、マリカ様は前向きな提案を続けた。


「我々イサナ王国にとってはドワーフの技術も、この地の動植物も、とても興味深いものです。拠点を置かせてもらうだけでも、ありがたいのです」

「さようですかな」


 族長はドワーフの民を見回し、納得しているか様子をうかがう。

 すると、一人のドワーフの女性が立ち上がった。


「でも今は、あんまり人手を割けないんじゃないかい?」

「フーワ」


 立ち上がった女性――フーワさんは、マリカ様の方を見ている。

 マリカ様は答えるように、問いかけた。


「何か事情があるのでしょうか?」

「キーリウの里には、更に地下が続いてるんだけど、そこの魔物が凶暴化しててね。里にも入ってくるもんだから、警備に手一杯なんだ。おかげであたしら、クタクタなんだよ」


 フーワさんの言葉に、まわりのドワーフたちも頷く。

 そういえばキーリウの里は、地下にダンジョンが続いていたっけ。

 結構地下深くまで続く、長いダンジョンだった記憶がある。


「そういう事なら、俺たち緋色の狐騎士団スカーレットフォックスの出番だな!」

「魔物討伐でしたら、冒険者ギルドも協力いたします」


 緋色の狐騎士団の騎士団長さんが名乗りを上げると、冒険者ギルドも手をあげた。

 なんとも勇ましく、地下ダンジョンの魔物を全て狩りつくしてしまいそうな勢いである。

 これにはドワーフたちも、素直に嬉しそう。


「それはありがたい。ぜひ、お願いしますじゃ」

「おう! 任せてください!!」

「では下層の魔物についての詳しいは後ほど改めて……以降は、交流内容についての意見をいただきたいと思います」


 魔物の問題について対策が決まると、後は穏やかな意見交換の時間となる。

 そしてピコピコには、数人の技術者が派遣されることとなった。

ご愛読いただき、ありがとうございます。


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現在、新作【魔王イザベルの東京さんぽ 】を連載中。

魔王であるイザベルが東京のまちをお散歩する、スローライフなお話です。

いたりあ食堂ピコピコと共に、楽しんでいただけるとうれしいです。


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何も無いと思っていた町が、楽しくなる――
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