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056 騎士団の出撃とヒロイン

 突如開いた扉は、炎の海――

 ラディルが開いた転移の扉に、間違いない。

 ということは、扉の向こうで戦闘が起きている!?


「何かありましたか――これは!?」


 騒がしくなった店内の異変に気付き、個室からイレーナさんが顔を出す。

 そして入り口の扉を見るや、ザックに指示を出した。


「ザック、緊急招集を!!」

「えっ、あ、はいっ!!」


 何やら小型の鐘のような物を持ち、ザックが個室から飛び出した。

 しかし店の入り口は、炎で塞がれている。


「火ぃ!? えっ……? えぇっ!?」


 炎の扉に立ち尽くすザックに、ヒューが裏口の方を指さす。


「裏! 裏っ! 裏の勝手口から、外に出れるから!」

「はっ!? サンキュー、ヒュー!!」


 慌てすぎていたせいか、タメ口になるザック。

 ザックはキッチンを駆け抜け、裏の勝手口から飛び出した。


「緊急!! ピコピコに集結せよ!! 緊急!! ピコピコに集結せよ!!」


 鐘を打ち鳴らし、大声で号令を叫びながらザックは走り去った。

 店の入り口――炎の扉と、ジェマさんとイリーナさんが対峙している。


「この炎、消えそうにないね。出るしかないか――」


 ジェマさんはイリーナさんと向かい合い、自身の杖を間に立てて呪文の詠唱を始めた。

 杖は赤い光を放ちながら、二人を薄く包み込む。

 詠唱の合間に、イリーナさんはリサさんに指示を出す。


「リサ殿、援護と連絡係をお願いいたします」

「わかったわ」

「いくよ、イリーナ!」

「はっ!」


 赤い光を纏ったジェマさんとイリーナさんが、扉の炎に飛び込んでいく。

 二人が通り抜ける瞬間だけ、炎が道を開けた

 扉の向こうは森のような景色が見えたが、またすぐに炎に閉ざされてしまう。


「外、何かあったのかな?」

「うん……なんか、騒がしいよね」


 店の入り口が騒がしいことに、お客さんたちも徐々に気付き始める。

 トルトとフェルミス君は奥の部屋への通路に立ち、現在の状況のアナウンスを始めた。


「店内は店長の魔法で安全です! 安心してください!」

「外の騒ぎは、騎士様が対応しております」


 急な出来事に混乱してしまったけど、お客さんの対応をしなくては。

 俺の魔法の効果で店内は安全だと思うけど、不安になってる人もいるだろう。

 ちゃんと退店も出来る旨を、お知らせしないと。


「お騒がせして申し訳ありません。店内は安全ですが、不安な方は裏口からの退店をご案内いたします。お代は結構ですので、どうぞお申し付けください」


 一先ず俺はホールに出て、お客さんに向けてアナウンスをした。

 そして事後報告になって申し訳ないが、トルトとフェルミス君にそっと耳打ちする。


「希望するお客さんがいたら、裏口へのご案内お願いね。お代はもらわなくて大丈夫だから」

「承知いたしました」


 ホールの対応を終えて後ろを振り向くと、炎の中から二人の騎士が飛び込んできた。

 床に倒れ込んだ二人の煤けた鎧から、金属と布とたんぱく質の――混沌とした焼ける臭いが漂う。


「うぐっ……すまない……」

「イヴァンさん!?」


 比較的軽傷の騎士――イヴァンさんが、もう一人の重傷の騎士を支えながら起き上がる。

 二人に駆け寄る、癒し手のリサさん。

 あまりに悲惨な光景を前に、俺の背筋が凍りつく。


「ひどい火傷……今、回復魔法をかけるわ」

「私は、大丈夫だ。先に彼を――フリオを、回復してやってくれ……」

「……わかった」


 仰向けにされた重傷のフリオに、リサさんが回復魔法をかける。

 こんな大火傷をするなんて、扉の向こうはどうなってるんだ?

 ラディルや加勢に向かったイリーナさんたちは、大丈夫なんだろうか……。

 不安に駆られて炎の扉を見つめていると、裏口から騎士たちが続々と店に入ってきた。


「派手にやられたな、イヴァン。大丈夫か?」

「ああ、なんとか……な」


 すごく体格のいい騎士が、イヴァンさんたちに近づく。

 鎧も他の人より豪華そうで、おそらく緋色の狐騎士団スカーレットフォックスの騎士団長だろう。

 イヴァンさんたちと、慌ただしく情報共有を始める。


「チーブ丘陵にて、フレイムリザードの群れと、遭遇。ラディルたちが、交戦中――」

「イリーナとジェマも、加勢に行ったわ」


 緋色の狐騎士団の方々が到着しても、扉の炎は一向に弱まる気配がない。

 フレイムリザード……そんなに手強いのか……?


「ジェマ殿が加勢しているなら、この炎もやがて弱まるだろう。機を待って、出撃する! 整列!!」


 騎士団長と思しき人は、この状況に動じることなく指示を飛ばす。

 瞬時に騎士たちは、狭い店内で三列に並ぶ。

 扉の外からは、攻撃魔法を唱える声が聞こえてきた。


「アイシクルエッジッ!!」

「サンダージャベリンッ!!」

「スターライトッ!!」


 ラディルとジェマさんの魔法と、聞きなれない魔法の声が聞こえる。

 イリーナさんって剣士っぽいけど、魔法も使えるのか?

 三人の声が聞こえた直後、扉の炎が弱まり道が開けた。


「今だっ!! 出撃ぃぃぃっ!!」

「うおおおおおっ!!」


 体が震えるほどの号令と共に、騎士たちが店の外へ飛び出していく。

 外は木々が燃えさかり、ワニのようなフレイムリザードがそこかしこにうごめいていた。


「なになにー? うわぁ、すごーい!!」

緋色の狐騎士団スカーレットフォックスの一斉出撃だぁ!!」

「お客様、安全のためにお食事はお席でお願いいたします」

「すみませーん! 追加注文ってできますかー?」

「はーい、ただいまうかがいまーす!」


 こんな状況だというのに、お客さんたちは楽しそうに野次馬をしている。

 お客さんが飛び出していかないように、フェルミス君が抑制してるくらいだ。

 そしてなぜか増えていく、料理の注文伝票。

 俺この状況で、料理を作りに行って……いいのか?


「残り三十数体! 一気に仕留めろ!」

「おおおおっ!!」


 タフなお客さんたちに動揺しているうちに、外の魔物もかなり倒されてしまったようで。

 つい先ほどまで激しく燃えていた景色が、すっかり下火になっている。


「存外、早く終わりそうね。はい、次はイヴァンの番よ」

「うむ……あだだだっ」

「こっちもがっつり抉られてるわねぇ」


 リサさんも先ほどまでの緊迫した様子ではなく、落ち着いた雰囲気でイヴァンさんに回復魔法をかけ始めた。 

 炎の扉を見たときはどうなるかと思ったけど、もう大丈夫そうだな。


「殲滅完了!! これよりイサナ王国へ帰還する!!」


 戦いを終えた騎士たちが、続々と店に戻ってきた。

 多くの騎士はそのまま、店に裏口から外へと出ていく。

 店に迷惑が掛からないように、気遣ってくれてるんだろうけど……なんか、ちょっとシュールな絵面だな。

 騎士たちを見送っていると、イリーナさんが近づいて来た。


「営業中にお騒がせして申し訳ありませんでした、店長殿」

「いえ。イリーナさんたちも無事で何よりです」

「騎士たちはすぐに撤収させますので、もう少々お待ちください」

「わかりました。……あ、もし移動用の扉を長時間設置したかったら、俺も魔法で協力しますよ」

「それは助かります。では騎士団長に、その旨を報告してまいりますね」


 イリーナさんは一礼すると、まだ外にいる騎士団長の元へと戻っていく。

 入れ替わりに、見慣れた姿が店に入ってくる。


「応援に来てくれて、ありがとうございます! ジェマさん!」

「まったく、完全に酔いが醒めちゃったよ」

「ラディル!」

「あ、店長さん!」


 こちらに気づいたラディルが、ニカッと笑う。

 パッと見た感じ、大きなケガもなく元気そうだ。


「急に一面炎の扉が開いて、ビックリしたぞ!」

「あはは……驚かせちゃって、ごめんなさい。仲間が大ケガをして、早く逃がさなきゃって思って」


 苦笑いをしながら、頭をかくラディル。

 心配をかけてしまったことを詫びるように、言葉を続ける。


「オレは大丈夫です。騎士のみんなが助けに来てくれたし。それに――」


 ラディルははにかみながら、後ろを振り向く。


「アリエスも一緒だから」

「アリエス……?」


 つられるように、俺はラディルの視線を追う。

 そこには、儚げな少女が立っていた。

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