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015 リクエストとカルボナーラ

「私、すごく楽しみにしていたの! マリカ様から、とっても美味しいお店だって聞いたから」

「マリカ様から?」


 目を輝かせ、嬉しそうに話すパテルテ。まるで、友達から話を聞いたみたいな言い方。

 ダンジョン調査の依頼をしてくれたのはマリカ様だけど、そんなプライベートな会話もしてるんだ。

 騎士団って、そんなに魔導学園とも関係が深いものなのかな?


「マリカ様は以前、僕の受け持つ教養クラスに通われていたんです。それで、親交があって……」

「ああ! そうだったんですね」


 補足するようにトルト教授が、俺の疑問を取り除いてくれた。

 魔導学園には、普通科みたいなクラスもあるんだな。

 それはそれで、なんか気になる。


「料理を食べてもらえるのは、ありがたい。何が食べ――」

「ピッツァ・マルゲリータ!!」


 俺の言葉が終わるよりも前に、パテルテが元気にリクエスト。

 残念ながら、ピザ生地の用意はしていない。

 あまり日持ちしないので、作り置きしてないからだ。


「申し訳ない。ピッツァの生地の用意が無くて、すぐには作れないんだ」

「それは仕方ないわね。じゃぁ、パニーノを作ってちょうだい!!」

「あっ……」


 小さく反応する、トルト教授。どうしたのだろう?

 まぁそれは置いといて、次のリクエストがパニーノなのは意外。

 トルト教授がまとめ買いしていったパニーノは、魔導学園の人達で食べたのか。

 学園でも好評だったのなら、それは良かった。


「ほうほう。あのパンは、こちらのお店の商品でしたか」

「ウエスフィルド商会のウルさんが、このお店でパニーノを買ったって言ってたの。間違いないわ!」


 なんだか面白そうに話すガルガンダ先生と、自信満々なパテルテ。

 嬉しそうな二人には申し訳ないが、パニーノも今は無理だな。


「すまない。パニーノもピッツァの生地と同じもので、用意が無いんだ」

「そんなぁ……」


 パテルテは見るからにガッカリした様子で、ガックシと肩を落とす。

 そして恨めしそうに、語り始めた。


「熱々のチーズがとろけるマルゲリータ……濃厚クリーミーなチーズのパニーノ……楽しみにしていたのに」


 ダンジョン調査や見学よりも、料理の方が本命だったのかな。

 それにしてもパテルテ、パンというよりチーズやクリームが好きなのかも。


「チーズやクリーム系が好きなら、カルボナーラはどうかな?」

「カルボナーラ?」

「ああ、こんな感じの卵黄とクリームのパスタだよ」


 俺はカウンターに置いてあるメニューを手に取り、カルボナーラの画像を見せる。

 定番人気メニュー、カルボナーラ。紹介に一ページ丸ごと使ったメニュー画像は、本当に美味しそう。

 その迫力の絵力に、パテルテのテンションは一気に上がった。


「これにするわ、店長さん!」

「かしこまりました。ニンニクが少し入るけど、大丈夫かい?」

「もちろんよ。店長さんが一番美味しいと思うように、作ってちょうだい!」


 パテルテのオーダーが決まったところで、ガルガンダ先生たちにもリクエストを聞く。


「先生方はどうしますか? 他のパスタもご用意できますよ」

「折角だし、同じものをいただこうかの」

「僕も、それでお願いします」

「かしこまりました!」


 俺は先生方をカウンター席に案内して、おしぼりを出す。

 折角だし、対面で料理を見ながらの方が楽しいかと思って。


≪カランカラーン≫


「ただいま――あ、いらっしゃいませっ!!」

「おう、ラディル! おかえり!」


 外に走りに行ってたラディルが、帰ってきた。

 護衛を頼んでいるものの、俺が全然外に出ないから、好きに訓練してもらってる。


「こちらは、魔導学園の先生方。これからお食事されるんだけど、ラディルも一緒に食べるか?」

「はい! いただきます!」

「オーケー!」


 こんなにたくさんの人に作るの、久しぶりだ。

 気合入れて作らないとな!

 パスタ用の大鍋とスープ用の手鍋にお湯を沸かし、食材の準備にとりかかる。


「私はパテルテ。あなたのことはマリカ様から聞いてるわよ、ラディル」

「えっ、そうなんですかぁ?」

「面接と筆記試験で落ちたってね」

「えぇ……」


 もう葉野菜が無いから、サラダはミニトマトとパールモッツァレラ。

 ドレッシングで和えてココットに盛り、バジルを添えてプチカプレーゼ風に。


「大丈夫よ! わからないことがあったら、なんでも教えてあげるわ! トルトが」

「――はい?」

「ほっほっ。それもよいかもしれんなぁ」

「ガルガンダ先生まで……はぁ」


 玉ねぎとマッシュルーム、コンソメをスープの手鍋に入れた。

 パスタ用のフライパンを用意して、オリーブオイルとパンチェッタを入れ弱火にかける。

 じっくりとパンチェッタの旨味と塩味を、引き出していく。

 その間に、生クリームと卵の準備だ。生クリームを牛乳と一緒に計量カップで量り、卵は卵黄と卵白に分けた。


「よろしくお願いします! トルト先生!!」

「キミまで――はぁ、別にいいよ。そのかわり、ちゃんと頑張ってよね」

「はいっ!」


 熱々のスープをかき回しながら、卵白をゆっくりと流し込む。卵白は薄く、レースのように広がって行く。

 卵白だけでも、スープの味わいが結構変わるんだよな。

 俺はスープをカップに盛り、サラダと一緒にカウンターへ運んだ。


「先にサラダとスープをどうぞ」

「わぁ! カワイイ!」

「ほう。これはこれは……ハイカラですな」


 この世界でも、ハイカラって言うんだな。

 些細なことで日本味を感じるの、JRPGだなって思う。

 ちょっと嬉しい気分になって、俺はキッチンに戻った。

 よーし、美味しいカルボナーラを作るぞ!


「……ふぅ。美味しいじゃん……」


 下茹でしてあるパスタを、パスタ用のお湯に入れて茹で始める。

 フライパンでは、パンチェッタが良い感じに白くなっていた。そこへ刻みニンニクを入れ、香りづけ。

 ニンニクに火が入ったところで、量っておいた生クリームを投入。

 昆布茶で塩味を整え、クリームが分離しないように気を付けながら温めていく。


「おお……この香り、食欲を誘いますな」

「うん! すごく美味しそう!」

「店長の料理、何でも美味しいんですよ!」


 俺サマ、思わずニッコリ。

 ここからは、一気に仕上げだ。

 温まったクリームソースに、茹で上がったパスタを入れ混ぜ合わせる。

 火からおろしたフライパンに、パルメザンチーズと卵黄を入れて絡め合わせていく。

 生クリームが卵黄の濃い黄色と混ざり合い、濃厚なカルボナーラソースに。


「見事なものですなぁ」


 仕上がったパスタを、人数分のお皿に盛りつけていく。

 最後にミルで黒コショウを、たっぷりふりかける。

 パセリで彩を添えて、カルボナーラの完成!


「お待たせしました! 特製カルボナーラです」


 俺は渾身の出来のカルボナーラを、カウンター席へ運んだ。


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