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第4話

「う、うう……ア、アレサ、ちゃん……」

「こ、こんなことに、なるなんて……。ウィリア……ごめん、なさい……」

 魔王の攻撃をモロに食らって、瀕死の状態で倒れている二人。

 ウィリアの剣は折れてしまって、他に武器は持っていない。アレサも完全に魔力ぎれだ。

 彼女たちはもう、自分たちが魔王に対抗できる手段はないと悟っている。


 それは明らかに、この勝負の決着……アレサたちが敗北したことを現していた。



「もしも……私たちが生まれ変わったら……」

「私たち、来世でもずっと一緒よ……」

 いつかの世界線でも言った言葉を、繰り返す二人。

 その言葉には、少しの後悔の色も感じられない。


 もしも彼女たちが、万全の状態でこの戦いに挑んでいたなら……。


 付与術師イアンナを仲間にしたランキング二位パーティや、ウィリアを取り戻そうとする勇者オルテイジアと戦って、魔力と体力を消耗していなかったなら……。

 街人に魔女と罵られることもなく、武器や回復アイテムの補充も充分に出来ていたなら……。

 こんな状況には、なっていなかったのかもしれない。


 もしかしたら……おそらく…………いや、確実に。

 冒険者ランキング一位であり、あらゆる魔法を使いこなす賢者アレサと、幼い頃からの英才教育で磨かれた(たぐい)まれな運動神経と戦闘センスを持っていた王女ウィリアの二人ならば。二人だけで『最凶最悪の魔王』を倒すことだって、出来たはずだ。


 しかし。

 二人は少しも後悔していない。


 それは……今のこの状況が、確かに自分たちが自分の意志で選んできた結果だと知っているからだ。



 幼い頃から勇者の責任を押し付けられ、涙を流してきたウィリア。

 そして、そんなウィリアを愛して、彼女に、誰からも祝福される最高の幸せ……結婚をプレゼントしてあげたいと思ったアレサ。

 そんな二人にしてみれば……『最凶最悪』というレッテルをつけられて、人間たちから『倒すべき敵(ラスボス)』として認識されている魔王を殺害することは、「本気」とは言えなかった。そんな安易で一方的で自分勝手な方法で平和を手に入れても、それはウィリアに責任を押し付けてきた人間たちを肯定するだけとしか思えなかった。


 だから彼女たちは、魔王を倒せなかった。

 そして……自分たちが、こんな葛藤や迷いを持っているということを心のどこかで分かっていたから……自分たち以外のパーティメンバーを、解雇したのだ。


 イアンナに成長してもらうため……。

 オルテイジアの好意に甘えないため……。

 それらは確かに、理由の一つではあった。だが、自分たちの「迷い」に比べたら、ほとんど建前のようなものだ。

 アレサたちだって、ここまで一緒に冒険をしてきた仲間たちのことを、本当にクビにしたかったはずがない。しかし、自分たちのせいでそんな大事な仲間たちが危険な目にあうかもしれないと思えば、そうするしかなかったのだ。


 その結果……イアンナに恨まれて、復讐されたとしても。オルテイジアが、アレサを魔女呼ばわりして、ウィリアを引き剥がそうとしても。納得のいかないエミリに、邪魔されても。

 それは、自分たちが選んだ方法から導き出される、当然の結果だ。自分たちの選んだ選択肢の一部であり、受け入れるべきものだ。


 だから彼女たちは、納得することが出来ていた。

 今の結果に、満足していた。


 ただ、魔王を倒してハッピーエンド……ではなく。最初から最後まで、「二人の幸せな結婚」だけを目指して、ここまでこれたこと。

 たとえその道が行き止まりで、目指す未来につながっていなかったとしても……最初から最後まで、自分たちにとって後悔のない、自分たちらしい選択肢を選んで進んでこれたことに、心のそこから満足していたのだった。




 ゴォォォー……。


 やがて……。

 見上げるほど巨大な体の魔王が、そんな彼女たちに向けて、大きな口を開ける。すると、その口の中にどす黒いエネルギーがたまり、さっきよりも更に真っ黒で、巨大なエネルギー弾が出来上がった。

 今の満身創痍のアレサたちでは、それをよけるのは無理だろう。



「愛しているわ、ウィリア……誰よりも、ずっと……」

「私も、愛してるよ……アレサちゃん」

 愛の言葉を交わし、少しずつその唇を近づけていく二人。

 しかし、二人の唇が接触するよりも先に、魔王の口から放たれた闇魔法が彼女たちに襲いかかる。


 そして、いつか見たように……その魔法が二人の存在を完全に消滅させてしまった…………。





 ……いや。



 その直前。

 黄色い人影が、目にも止まらないスピードで二人の前に現れた。




「七曜拳……(ぷに)!」

 その格闘家(・・・)は、ガード態勢を作って自分の右腕を魔王の方に向ける。そして、アレサたちに向かっていた魔王の闇エネルギー弾が、割り込んできた彼女の二の腕に触れた瞬間……。

 ぽよんっ。

 その二の腕が、まるで柔らかいクッションかトランポリンでもあるかのように、そのエネルギー弾を別の方向に弾き返してしまった。



「え……」

「あ、貴女……たち(・・)は……」

 格闘家のスズが、自分たちを助けてくれたことに気づいたアレサとウィリア。

 それと同時に、彼女たちはすぐに気づく。自分たちの周囲に、スズ以外にもたくさんの知った顔がならんでいたということに。



「やれやれ……間一髪でしたね? でも、間に合って良かったです」

「す、すいません! 遅くなりましたっ!」

 リーダーのサムライ少女レナカをはじめとした、冒険者ランキング二位パーティたち。その中には、当然付与術師イアンナもいる。


「ふん……。私に偉そうなことを言っておきながら、アレサだってウィリア姫を守りきれていないじゃないか? やはり、姫のそばにいるのは勇者の私のほうが適任なんじゃないのか?」

 アレサを叱責(しっせき)するような勇者オルテイジア。

 だが、その最中も彼女は、魔王の攻撃で服がボロボロになって露出度が高くなってしまったウィリアにチラチラと視線を送って、鼻息を荒くしている。


「ごっめーん! みんなにアレサたちのこと話したら、一緒に行きたいってきかなくってさー。っつーことで……来ちったっ!」

 突然家に友だちを連れて遊びにきたかのような、軽いノリのエミリ。


 アレサたちがパーティをクビにした三人と、その仲間の二位パーティが現れたのだった。


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