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第6話

 ウィリアに抱きかかえられている体勢で、あたしは『神々(特殊効果)の悪戯(モリモリ剣)』を地面に突き刺す。すると『鋼鉄化』の特殊効果が発動して(というか、その効果を引くまで22回リセマラして)、大地が一瞬にして抵抗の少ないツルツルの金属になってしまった。


「わ、わわわわーっ⁉」

 急にスケートリンクのようになってしまった足場の上で、スケート初心者のようにバランスを崩してズッコケそうになりながら必死に足をバタつかせてるウィリア。どうにかそこは持ち前の運動神経で立て直したけど……そのスキにあたしはウィリアの腕から脱出。そしてさっき『毒霧』から自分を助けてくれたばっかりのウィリアを、恩知らずにも剣で斬りつけちゃった。ごめんね。


 さすがにそんな状態じゃあ、百戦錬磨の彼女だって、戦闘素人のあたしの攻撃を避けられない。思いっきり攻撃を受けたウィリアが絶叫する。

「きゃー! ()ったぁー……」

 けど……、

「……く、ない? 痛くない? ……あ、あれぇ?」

 おー、ラッキーっ! 今回、一発で「目当ての効果」引いたし! これ、すごくないっ⁉

 なんて、誰にも共感してもらえない感動を一人で噛み締めているうちに、あたしの剣が斬ったウィリアの体に、普通じゃありえない異変が起こった。


 いつもは羨ましさすら感じていた、女の子らしい彼女のスベスベ肌に……うっすらと白い毛が生えてきた。

「えーっ⁉ 何コレぇ! やだぁーっ! って……あ、あれ? あれれれ……」

 それは一部分だけじゃなく、ウィリアの顔や体を含む全身にまで広がる。そして、あっという間に彼女の体全体は真っ白でフワフワの毛で覆い尽くされちゃって……。

 ウィリアの頭の上から、長い耳が伸びる。目は赤く、まんまるになる。顔の形が変わって、鼻が大きく前に突き出てくる。体勢は四つんばいになって、地面にしゃがみこむ。そしてとうとう、最後には……、

「……ぴょん」

 彼女は、カワイイ白ウサギになってしまった。

 これも当然、『神々の悪戯』の効果の一つ……『(ケモノ)化』ってやつだ。


 よっし。これでまず一人。

 さすがに、あたし一人でアレサとウィリアの二人を同時に相手にするのはしんどすぎるから、早めにどっちかにこの『獣化』を当てて、無力化しておきたかったんだよね。

「ぴょん。ぴょん」

 もちろん今のウィリアが、完全にウサギになっちゃったってわけじゃない。もしもこれが一生元に戻れないような凶悪な効果だったら、そんなの怖すぎて速攻で時間戻し(リセマラ)してる。だから、大丈夫。この効果は、十分(じゅっぷん)もすれば解除されて、すぐに元通りに戻れるはずだ。


 無防備なウサちゃんになっちゃったウィリアをこのあとの戦いに巻き込みたくなかったあたしは、懐に持っていた彼女の好物のオレンジジュースの瓶を、遠くの方に向かって転がしてみた。

「……ぴょん? ぴょん! ぴょん!」

 それに気づいたウサちゃんは(ウサギになっても、好物はわかるのね……)、転がる瓶を追いかけて、一目散に遠くに行ってくれた。

「さて、と……」

 これで一応、アレサと一対一になれたわけだけど……。


「エ、エミリ……貴女……よ、よくもウィリアを……」

 あー……。やっぱ、そーなっちゃうよねー……?

「ゆ、許さないわ! こんなことをして、絶対に……許さないっ!」

 ウィリア大好きなアレサからしてみたら、いくら何でもさっきのは、やりすぎだったかなー……?


 うつむきがちにあたしを睨みつけながら、呪いの言葉みたいにボソボソとつぶやいているアレサ。そんな彼女の気迫に、あたしの体は恐ろしさで震える。

 だってアレサって、ウィリアのことになるとホントに見境なくなっちゃうんだから。アレサが陰口で言われてる『世界一愚かな賢者』の『愚か』部分だって、そのほとんどがウィリアがらみのことでアレサがやってる奇行が原因だし。


 だから、もしもここでアレサにマジギレされちゃったりすると、ちょっとヤバいっていうか……。一応、世界一の賢者ってことになってるアレサに本気出されたら、さすがにどんだけ時間を戻したところで、あたしなんかじゃ歯が立たないっていうか……。


 ど、どうしよっかなー……。ここはやっぱり無難に、やり直したほうがいい?

 剣の百種類の能力の中に、もっと安全にウィリアを無力化できるヤツって無かったっけ、とか。あるいはもっと前まで時間を戻して、ウィリアじゃなくてアレサの方を先に無力化するルートに入れないかなー、とか。


 そんなことをあたしが考えていると……そこでアレサが、こんなことを言ってきた。


「許さないわよ、エミリ! さっきウィリアがウサギになっている途中……全身に毛が生えているウィリアを見て……。いつも可愛らしい彼女の意外な一面というか……本来ならありえない姿に……ちょっと、興奮しちゃったじゃないのよっ⁉」

 ……うん?


「ウサ耳をつけて、体中に毛を生やしてモフモフしているウィリアが、最高にケモかったというか……。半獣状態のウィリアに、私の中の新しい扉(・・・・)が、開いちゃったというか……」

 うーん……。


「将来私たちが結婚して初夜を迎えたとき……ウィリアのムダ毛がないスベスベの肌を見ても私が興奮できなくなっちゃってたら……どうしてくれるのよっ⁉ そういうこと(・・・・・・)をするときは、毎回ケモコスプレをしてもらわないといけなくなっちゃうでしょーがっ! 私をこんなふうに開発(・・)して……エミリ、貴女のことを絶対に許さないわよっ!」

 ……うん。

 多分、大丈夫っぽい。


 どうやら『獣化』の効果が一時的だって知ってるっぽいアレサは、見境がなくなるほど怒っているわけじゃないらしい。まだまだ手加減して、あたしを殺さないように戦ってくれるだけの精神的な余裕はありそうだ。


 じゃっ、このままアレサも『獣化』して、二人を魔王から遠ざけちゃおっと!

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