第九七話 開戦の兆し
アデルに贈り物をしてから、ブラットではできない根回しをお願いできないか話してみた。
もしもナイトメアが攻めてくるのなら、確実にその取り巻きたる四体と軍勢もセットでやってくる可能性が高い。
そうなったときブラットがナイトメアと戦える状況になっていたとしても、他は野放しだ。
取り巻きの四体は一級戦士たちが出張ってもいい強さを持っている上に、その他のアンデッド系の軍勢も厄介なのに、何もせず町に攻めさせてしまえば被害はどれほどになるかわからない。
なにせ今回起きうるであろう襲撃は、よくある小競り合いではなく、どちらかが滅ぶまで続く戦いだ。
ブラットの求める完全勝利とは、短期決戦で自分も勝ち、なおかつ国の被害も最小限にとどめ、他勢力が付け込む隙をできるだけ無くすこと。
いざ勝っても国の運営に支障をきたす施設の崩壊や大量虐殺が起きてしまえば、また人類の衰退に拍車がかかる。
この戦いは人類にとって反撃の序章に過ぎないのだから、無駄に消耗するわけにはいかないのだ。
(こういうのはやっぱり権力者が根回ししてくれた方が、絶対にスムーズにいくはず。
思っていた以上にイベントで稼げたから、かなり理想的なことができるし、上手くやらないと)
そこでナイトメア以外の敵への対策も、ブラットは用意するつもりだった。
けれど今のブラットには何の権限もなく、他の住民に突然これをやってくれと言って回ったところで、お願いした通りに動いてくれはしないだろう。
少しばかり力は示せてはいるが、まだまだ新参者に変わりないのだから。
「確かにそんなものが用意できるのなら、国として協力すべきね。わかった、話は私から通しておくわ」
「ありがとう、アデル」
まだ物資は完全に揃ってはいないが、これでBMOと零世界をどんどん行き来して、相手が本格的な侵攻をしてくる前に物資を運び込めれば、無駄な時間のロスもなく対ナイトメア陣営対策も進んでいくことだろう。
それからブラットはできる限り効率的に活動し、ときに睡眠ポーションまで飲んで無理やり自分を寝かせ物資を取りに行くなんていう荒業までやり、物資を運び続けた。
国防対策はアデルの根回しのおかげで衝突もなく、各部署の協力も取り付け動くこともできた。
ナイトメア対策の物資も周りの協力、ガンツたちとの打ち合わせ等も済ませ終わった。
BMOのほうではナイトメア以外の敵陣営の攻略情報までしっかりと調べ上げ、ビアバレルに武器を改造してもらったり、ランランの毒を受け取ったりと、必要そうな準備も終えた。
ブラット以外が対処しなくてはいけないときの必勝の策と、アイテムも零世界の住民に授けてもおけた。
これで準備万端、調ったと言っていい状況だ。
だというのに……未だにナイトメアからの反応はなく、やってくるのは他勢力による示威行為程度の突発的襲撃のみ。
(なんだか肩透かしを食らってる気分だなぁ……)
来るか来るかと日々焦りながらBMOや零世界を駆けずり回っていたのが馬鹿らしくも思えてきてしまうブラットであるが、ここで気を抜いて足元を掬われるほうがもっと馬鹿だ。
やきもきする気を抑えながら、ナイトメアの襲撃に備えて何度も脳内で戦いの復習をしていった。
だが向こうからすれば、来たくても来れない状況だった。
シカ陣営は他との闘争でただでさえ苛立っていたのに、突然の幽霊たち側からの襲撃。
ナイトメアたちからすればブラットたちを追っていただけでしかないのだが、シカたちからすれば縄張りを奪う気もないのに、おふざけ気分で攻撃してきた空気の読めない馬鹿どもとしか思えない行動だった。
それが余計に彼らの怒りに触れて思っていた以上に抗争が長引き、戦力も消耗してしまうことに繋がってしまう。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「ケケェ……」
さらに早くブラットを狩りに行きたいと焦り、強引に戦いを終わらせようと突っ走ったせいで、ナイトメア自身も強力な力を持つシカのモンスターによって傷を負ってしまっていた。
それでも本気を出せばブラットくらい倒せるとは思っているが、そんな相手にいいように痛めつけられたことを思い出し嫌な予感もしたのだろう、その状態で襲撃するのを本能的に躊躇った。
そこでナイトメアは考えつく。既に十全な状態でいる配下の一体を先に行かせ、自分が向かうまでの露払いをさせてはどうかと。
「ケケケッ」
「クケッ!」
ナイトメアの一声で直ぐに側にやって来たのは、岩の翼に透ける肉体を持つ鳥人型幽霊──ファントム・ストーンバードマン。
手ずから作り出した眷属で、最もナイトメアに近い種でもある存在だ。露払いとしてもちょうどいいと、命令を下す。
「ケッ──」
「クケェッ!!」
主の意を一声で理解し、ファントム・ストーンバードマンは自身に割り当てられた配下を引き連れ、ブラットたちのいる人類最後の砦へと侵攻を開始した。
その日も零世界で油断しないよう過ごしつつ、遊びに来たアデルと自室で談笑していると、不意に警鐘の音が鳴り響く。
カカカカン──キーン──カカカン。方角は北──敵の種類は岩石地帯の幽霊たち用に用意した、いつもはない音なのでそいつらで確定──規模は大。
本格的な侵攻とみていいだろう。
「来たっ!」
「いえ、待って──────」
すぐに飛び出そうとするブラットの腕を掴んで止めると、アデルはブラットには聞こえない音を拾うようにエルフのような長い耳をピクピクと動かした。
「報告によると主──ナイトメアは来てないそうよ。
偵察のときにヌイやあなたが見たっていう、ファントム・ストーンバードマンが軍勢を率いて来てるみたい」
ナイトメアという呼称はブラットが適当に付けた名前だが、あっという間にアデル経由でこの国に定着していた。
今ではこの世界の岩石地帯の首魁の名前は、正式に『ナイトメア』と言っていいだろう。
「戦力を分けたのか? 後詰にいるとかでもなく?」
「少なくともすぐに来れる位置には、他の統率個体はいないそうよ」
「とりあえず…………ファントム・ストーンバードマンだけなのか。
ならちょうどいい、対ファントム・ストーンバードマン部隊を招集してもらってもいい?
ナイトメアや他の取り巻きがいないって言うなら、オレも近くでそっちのフォローができるし、神様から貰ったアイテムの消耗も最低限にできるはず」
「……絶対にいけるのね?」
「いける。やってみせる。それに取り巻き程度に苦戦してちゃ、その主を狩るなんて大言壮語もいいところだ」
「わかったわ。北門に集めさせておく。ファントム・ストーンバードマンの処理は頼んだわよ」
力強く頷くブラットを見て安心したアデルは、すぐに本部に向かうべく窓から飛び去った。
ブラットも必要な装備とアイテムを持ち、不備がないか軽く確認してから、後を追うように窓から飛び降りるように自室から出ていく。
「ブラット!」
「ガンツ! 今回オレたちはファントム・ストーンバードマン狩りだ。北門で対策部隊と合流しよう」
「……今回の敵はあいつってことか。いくぞ、お前ら!」
「「「「おうっ!」」」」
まだそんな指示はどこからも受けていないのだが、ブラットのことを信じてガンツ隊の五人は付いてきてくれる。
これほど信頼してくれる仲間ができたことを嬉しく思いながら、ブラットは皆で北門へと急いだ。
「こ、こっちですぅ~」
「いた!」
戦場に赴くには似つかわしくない、か細い声がする方向に視線を向ければ、お目当ての対ファントム・ストーンバードマン部隊の面々が集まっていた。
男女入り混じる五人で、体つきは全員細い。かと言って魔法系の戦士かといえばそうでもなく、いかにも戦場慣れしていない様子がオドオドした挙動から伝わってきていた。
ボンドはそれを見て思わず大丈夫かよと声を出しそうになったが、ブラットに弱気になるような言葉をかけないでほしいと言われていたことを思い出し、無理やり喉の奥に押し込んだ。
「来てくれてありがとう。渡してあった物は持ってきてる?」
「え、ええ、持ってきてますけど……ほんとに私たちが戦場に出るんですか?」
「出てもらう。でも安心してほしい、あなたたちのことは、全力でガンツ隊の皆がフォローする。
必要な場所で、必要なことをしてくれるだけでいいんだ。皆どうするかは覚えているよな?」
五人とも自分の役割を嫌というほど頭に叩き込んできていたので、ブラットの言葉に素直に頷いた。
「それなら大丈夫だ。ちゃんとできれば絶対に勝てる相手なんだからな。
なにせオレたちには神さまが付いてくれてる。モンスターなんかに負けるわけないさ」
「そ、そうですよね!」
こんな衰退した世界だからこそか、それともブラットの前任者たちが結果を出してくれたおかげか、神への信仰心は高かった。
実際に神にしか用意できないようなアイテムを授かっているので、彼女らも神が自分たちを見捨てていないのだと信じ己を鼓舞する。
「よし、なら出発だ。雑魚は他の戦士たちに任せて、俺たちは真っすぐ目標に向かって行けばいいんだよな?」
「それで合ってる。この人たちのことは任せたよガンツ、ボンド、ワーリー、デン、トッド」
五人の戦闘経験もない人間たちを、戦場の真っただ中に連れていくだけでも大変なこと。
そこでガンツたちは、一人ずつ自分たちの背に負ぶって連れていく。
ガンツの背にはエルフ系の女性、ボンドの背にはゴリラ系獣人の男性、ワーリーの背には純人系の男性、デンの背にはリス系獣人の小さな女性、トッドの背にはドワーフ系の男性がそれぞれ乗り、北門を出ていく。
ブラットは先頭を走り、既に雑魚ゴーストや洗脳状態のカラスのモンスターたちと戦闘中の戦士たちの邪魔にならないルートを通っていく。
ガンツたちはその後ろに続き、ちゃんと付いてきてくれていた。
「あいつだ──」
「「「「「ひっ」」」」」
戦闘慣れしていない背負われたままの対策部隊が、自分たちが相手にする予定のファントム・ストーンバードマンを見て小さな悲鳴を上げた。
ファントム・ストーンバードマンは戦場の真ん中の上空で、戦況を見守っている様子。この中で強者といえる人間が来たとき、自分が出る心づもりなのだろう。
「五人ともいけるか?」
「い、いけますっ。私の力が役立つというのに、ただ立っているだけなんてできませんからっ」
「そ、そうだ。俺たちもやってやるっ」
一番この中では住民としての階級が高いエルフの女性が決心したことで、他の四人も覚悟が決まったようだ。
ファントム・ストーンバードマンを見て弱気になりそうな心を、人類の未来のためにと奮い立たせていく。
長年新兵も見てきたガンツに視線だけで、彼女たちは大丈夫そうかと問いかけると、彼はこれならいけると確信を持って頷き返してくれた。
「じゃあやるか。──ふっ!」
「────クケッ? …………クケェェ♪」
ブラットは小さな魔刃手裏剣を、ファントム・ストーンバードマンに向かって投げつけた。
相手からすれば大した攻撃でもなかったため、手で払うようにその手裏剣を消し飛ばし、飛んできた方向へと視線を向ける。
するとそこには自分の主がご執心な人間がいるではないか。
あれを自分が連れて帰れば、さぞ主は喜んでくれることだろうと思わずクチバシの両端が上にあがる。
他の配下に任せようかとも思ったが、万が一殺してしまった場合、今度は自分が主に殺される。主は自分で殺したがっていたのだから。
間違いが起きた場合のことを思い、一瞬身震いしながら自ら出陣することを決める。
なにやらブラットは周りにゾロゾロ人を連れているが、どれも脅威を感じない雑魚ばかり。
これなら一人で行くのが確実だろうと、ブラットがまだおびき寄せる手を用意していたのにもかかわらず、ファントム・ストーンバードマンは勝手に単独で行動しはじめた。
「なんだ? 色々とアイツだけと戦える状況にするように用意してたのに、勝手に来てくれてる」
「そんな呑気に言ってる場合かっ、来るぞ!」
「わかってる。それならそれで、節約できて万々歳だ」
自分を目指して来ているのがわかったので、あえてブラットは皆より前に出て迎え撃つ態勢をとった。
ファントム・ストーンバードマンは、こちらの思う壺だとばかりに笑みを深め、空中から真っすぐブラットに向けて落下してきた。
タイミングを見計らいながら、トッドは自分が背負っていたドワーフの男性に指示を出す。
「セイント・シールド!!」
「──ゥゲェッ!?」
するとブラットとファントム・ストーンバードマンの間に聖なる盾が現れ、そのままクチバシを突き立てるように顔面から衝突。さらに神聖な力によって、触れた箇所が焼かれてしまう。
こんな高度な神聖魔法を使えそうな力の持ち主がいれば、臭い立つ聖なる気配でわかっていたはずだと慌てて盾から頭部を引きはがし声のしたほうを見れば、ドワーフの男性が持っていた紙が燃えて消滅するのが確認できた。
「セイント・ミスト!」
「グェッ!?」
だがそれを呑気に見ている場合ではなかった。
今度は同じような紙を広げ、また聖なる魔法の名をデンの背にいた女性が口にする。
すると彼女の魔力を吸って、魔法が発動。ファントム・ストーンバードマンの周囲に煌めく聖水の霧が発生し、痛みに声をあげ思わず息を吸ったとき体内に自ら入れてしまう。
毒でしかない聖水の霧を吸い込み、内部が焼かれるような痛みに無様な声をあげる。
何かがおかしい。モンスターながらそれだけは理解でき、様子を見るためにも一時撤退だと空へと逃げようとするファントム・ストーンバードマン。
だがそれは、どさくさに紛れて後ろに回り込んでいたワーリーに阻害された。
「【ホーリチェーン】!」
「セイントボルト!」
「ェッ────」
ワーリーが隠し持っていた白銀の鎖、【ホーリチェーン】が意志を持つようにファントム・ストーンバードマンに絡みついてきたのだ。
その瞬間、鎖が触れる部分から焼けるような痛みと、全身が強い虚脱感にさいなまれ動きを止めてしまう。
それだけにとどまらず、ワーリーが背負っていた男性からも手にもつ紙から聖なる雷を撃ち出し、それを脳天に受けたファントム・ストーンバードマンは一瞬だけ思考が真っ白になった。
今なら完全に無防備な状態。この瞬間を逃すわけにはいかない。
「今だ!! やってやれ!」
「はい! 【セイクリッド・バードドロップ】!」
「グゲェィイイエェェエエエエエエエエエエーーーーーッ」
ガンツに背負われていた女性──リュールが紙を広げ、そこへ多量の魔力を注いで魔法を発動させる。
するとファントム・ストーンバードマンの周囲に無数の聖なる弾丸が三百六十度取り囲み、それらが一斉に発射された。
これはアンデッドと飛行系のモンスターへの特攻効果を持つ、強力な魔法【セイクリッド・バードドロップ】。
さらにファントム・ストーンバードマンは、一時的に捕縛し全能力を低下させるデバフ付きの【ホーリチェーン】でワーリーにより拘束させている状態。
そんなところへ二重の特攻が乗った聖なる弾丸は痛いなんてものではなく、体が全部吹き飛んだかと思うほどの強い衝撃と痛みを与えてきた。
だがまだ死なない。本来なら一級の戦士が複数人で相手をしてもおかしくない相手。耐久力も並ではない。
なので【ホーリチェーン】の効果が続いている間に、さらに追い打ちをかけていく。
「ウェザリング!」
ボンドの背に乗っていたゴリラ獣人の男性が紙を広げ、その魔法名を唱えれば、砂色の風がファントム・ストーンバードマンを包み込み、その石の翼をボロボロに風化させていく。
これは創造物系の相手に対して、特攻効果を持つ魔法だ。
「うぉおおおおおっ!!」
さらに背負っていた男性を落とすように降ろしたボンドが、聖水を振り掛けたウォーハンマーを思い切り振りかぶり、その崩れ落ちそうで落ちていなかった翼に止めを刺した。
パーンッと音を立てて、石の両翼が砕け散る。
「ッガ────クククククケェェェエエエエーーー!!」
だがそれでもファントム・ストーンバードマンは、背中が軽くなるのを感じながら痛みに耐え、効果が薄れてきた【ホーリーチェーン】を引きちぎろうとする。
近くにいるボンドは、そのあまりにも恐ろしい形相に冷や汗を流しながら距離を取った。
「グゲェッェェエエエーーー!!」
ブラットのことなど忘れて、この場にいる全員に向けて【呪詛の叫び】を発動した。
まともに食らえば全身の精気が抜けていき、強力な弱体化を受けてしまう厄介な範囲デバフ攻撃だ。
だがまだ【ホーリーチェーン】の効果も少し残っている上に、ブラットたちは【呪詛の叫び】対策のお守りを持っていた。
聖なる光の膜がブラットやガンツたちに張られ、その呪いを全て無効化する。
またわけのわからない力かとクチバシをガチャガチャ鳴らし、この鎖が千切れたときがお前たちの最後だとばかりに威嚇してきた。
けれど──そんな時は永遠に訪れることはない。
「消えろ──」
ブラットは八本の刃を付けたヨーヨー【八爪手車・改】を、グルングルンと振り回し遠心力をつけて、それを思い切りファントム・ストーンバードマンのそっ首に叩きつけるように振り下ろす。
「クゲ──? ゲッゲッゲッゲッエェエェェェエェェェェェェッ」
サクッとそのヨーヨーから出ていた刃の先が首に突き立つと、そのヨーヨー本体が高速回転しはじめ、さらに刃を伝って内部から聖水の効果をさらに強めた【強聖水】が流れ出し、ガリガリと強聖水で焼いた傷をえぐるように削り切っていく。
「「「セイクリッドバインド」」」
さらに連れて来た五人の内、まだ魔力に余裕のある三人が聖なる拘束魔法を紙──スクロールを使って発動させ、限界ギリギリまで【ホーリーチェーン】を引きちぎられないように抑え込む。
そして──。
「クゲ──?」
ストンとファントム・ストーンバードマンの霊体の頭が落ち、全身の痛みも力もスッと抜け、体がその場に崩れ落ちる。
「……ェェ?」
意味がわからない。格下しかいないこの場で、なぜ自分がこうなっている?
そんな疑問が体から離れた頭に思い浮かぶが、すぐにその思考も消えてなくなった。
そして体を形作っていた霊体エネルギーが崩壊していき、ブラットに食われるように吸い込まれていく。
「これは──凄いな」
その力はヤツハネガラスすら凌駕し、他の取り巻きをもう二体ほど狩ればそれでも進化できるのではないかと言えるほど体が満たされていく感覚がした。
だがそんな感覚に浸っている場合ではない、まだここは戦場。この場にいた最も強かった存在は倒したが、敵は残っている。
「ファントム・ストーンバードマンはガンツ隊と、ここにいる五人の対策部隊が討ち取った!!
恐れることはない、オレたちには神が付いている!! 全員、蹴散らしてやれっ!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」
圧倒的強者の風格を持っていた敵が、いともたやすく葬られたように見えた他の戦士たちは、ブラットのその勝鬨に調子を上げて残党を狩る速度が上がっていく。
ブラットたちは手伝ってくれた五人の非戦闘員を連れて一度国に送り届けてから、再び戦地で残党狩りに勤しんだ。
こうしてナイトメア陣営による大きな襲撃は、驚くほど少ない被害で乗り切ることに成功した。
その一方でナイトメアは、ファントム・ストーンバードマンが死んだことを離れた場所で察知する。
自分の眷属として作った配下。近くにいなくとも、消えたかどうかくらいはわかってしまう。
「ゲケェッ」
アイツは何をやっていると八つ当たりするように、自分が座っていた岩場を拳で破壊する。
「ケケェ……」
そしてその顔を憤怒に歪め、ついに全勢力をあげた人類殲滅へと乗り出すことを決意した。




