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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第八八話 エルドラードを目指して

 ひとしきり喜び合った後は、最後のカギ──【碧輝の鍵】を船のコアに入れて使用した。

 するとこれまで通り、コアの部分を中心に緑色の光が通り抜けて消えていく。



《スペシャルアクション『覇王崇拝』が追加されました。》

《特殊条件が達成されました。

 スペシャルアクション『覇王崇拝』より、派生アクション『狂乱の鼓動』が解放されました。》



 『覇王崇拝』は船を中心とした効果範囲内にいる全ての、あらゆる海賊モンスターをゲーム内時間で二四時間、無条件で従わせることができる一度きりのスペシャルアクション。

 『狂乱の鼓動』は一日に一度だけ使える、範囲内の味方全てを強化するバフをばらまく派生アクションとなっていた。



《蒼輝、白輝、碧輝の鍵が三つ揃い、条件がクリアされました。

 これより結合作業に入ります。しばしお待ちください──》



 アクションについては事前にモノクルで調べて大体わかっていたので気にせず流していると、アナウンスがさらに続いてそう述べ船が光に包まれ蒼、白、緑の順で点滅しだす。



「なんだ? 結合作業? これは三つのカギを集めた影響っぽいな」

「船に異常はないだろうし、終わるまでは待ってるだけでいいんだろうね」

「結合されると何が起こるんだろう。楽しみだなぁ」



 いつそれが終わるのかはわからないので、とりあえず三人は先ほどのアクションについて触れていく。



「『狂乱の鼓動』は私らにもバフがかかるっぽいから使いどころもありそうだけど、『覇王崇拝』は今後使いどころあるかな?」

「次のところはカギを三つ揃えていれば大丈夫っぽいし、残っているストーリーイベントも少ないだろうしね」

「ルサルカも道が開ける~みたいなこと言ってたしな」



 ルサルカが『ザラタンのカギとこれ、そしてもう一つを見つければ道は開かれる』と、言っていたのを三人ともしっかりと覚えていた。

 同盟を組んでいる『微笑みの甲殻』のメンバーの話からしても、最後の危険──シー・オブ・レヴィアタンに行くのに特殊な手順はなさそうだった。



「まあメタな読みをしちゃうと、そっちでも他と同じくらいギミックがあったら、普通に進めてる人はイベント期間が足りなくなっちゃいそうだしね」

「エルドラードでも多少はイベントとかありそうだしな。

 いよいよエンディングに向かってる感じか」

「そう考えると、なんだか寂しくもなってくるなぁ」



 三人で必死に駆け抜けてきたイベント期間を、しみじみと思い出し感傷に浸る。

 だが捕らぬ狸の皮算用。まだ終わってもいないのに、終わった気になるのは時期尚早だ。

 どこでどんなピンチになるかもわからないのだから、できることは全部やっておいたほうがいい。



「とは言っても、もうオレらの手持ちはスカスカなんだけどな」

「お金はあるけど資材は多少余ってるかなってくらいで、いざというときのために残しておいた猫海賊団も変態ダコも全部使いきっちゃったし、リーサル海賊団イベントだけで相当使っちゃったね」

「スペシャルアクションも、わかりやすく強い二つを使ったしねぇ」



 全てを消し飛ばす最強の砲撃も、全てを眠らせる最強の無効化手段もなくなった。

 『覇王崇拝』も使いようによってはかなり強力そうではあるが、使いどころを見極める必要はありそうなアクションだった。



「『覇王崇拝』は最悪使い道がなさそうなら、イベント期間最後の方でリーサル海賊団のどれかを捕まえて、他のアジトを襲撃しまくるってのがいいかもしれないな」

「あー、それは確かによさそう──って、なんか船が揺れ出してない?」

「ほんとだ。これも結合作業の影きょ──」



 影響かなと言おうとしたHIMAの言葉を遮るように、カタカタと小さく揺れだした船のコアが眩しいほどに輝きを増していき、最後に蒼、白、緑の順番で光ると揺れも光りも収まった。



《三種のカギの結合作業が終了しました。

 リミテッドアクション『ゲート・オブ・エルドラード』が追加されました。》



「おぉ……なんか、いかにもなのが追加されたな。

 名前の感じも、シー・オブ・レヴィアタンに近い気がする」

「リミテッドアクションとか言ってたけど、他のアクションとなんか違うん?」

「えーと…………あった、船の説明欄に追加されてるよ。

 それによるとリミテッドアクションは、限定された状況や場所でのみ発動させられる特殊アクションって書いてあるね」

「音声入力タイプで、ボタンはなさそうだな。

 あとスペシャルアクションと違って、こっちは何度でも使えるっぽい」



 『ゲート・オブ・エルドラード』の説明にも目を通してみれば、リミテッド──限定の部分の説明も一部ぼかされていたが記載されていた。



「このアクションは船の安全が保たれた状態でなければ使用できません。この場所での使用はできません。って書いてあるぞ」

「つまり敵が周りにいる状況だと使えませんってことでオーケー? 【リミナル・ウェッジ】みたいにさ」

「そうそう、それで合ってると思うよ。それでもって、この場所での~って書かれているってことは、たぶん四つ目の危険のところで使えってことでいいんだろうね」

「これで文字通りカギは揃ったってわけだな。どうする? もう行ってみるか?」

「もう、あと少しだし行っちゃおうよ!」

「私も、しゃちたんと同意見。残りの余ったイベント期間は、のんびりと報酬を稼いですごそうよ」

「今まではずっと慌ただしかったし、純粋にイベントマップ自体を冒険するのも楽しそうだしな。

 それじゃあ準備が終わりしだい、エルドラードに向けて出発だ!!」

「「おー!!」」



 今いる場所はゴンド親方のいる、港町がある普通のポータルの島。

 ここから最後の北側に飛べば、あとは微笑みの甲殻から聞いている座標を目指せばいいだけ。

 主砲も弾を切らせて撃てないというのは少し不安だが、この船の逃げ足はかなりのもの。探知機も優れた物を付けているので、モンスターたちの接近もすぐ気が付ける。

 攻撃手段は乏しい状況ではあるが、この船ならいけると三人は行動に移りはじめた。



「──とその前に、いちおう他の同盟メンバーに報告を入れておくか」



 同盟間のチャット覧をブラットは開き、パペットモンスターの調べた座標はちゃんとあっていたことを伝えておいた。

 情報を持ってきた本人たちも本当かどうか少し不安がっていたので、これで安心してくれることだろう。


 だが反応は本物のアジトだったことよりも、リーサル海賊団に挑んだということの方が大きかった。

 なんとか成功したことも告げると、どの同盟も『ナイス!』と暖かいメッセージを送ってくれたので、こちらも『ありがとう』と返しておく。


 他にも微笑みの甲殻たちも【リミナル・ウェッジ】を手に入れたので、近いうちに会って楔を挿して欲しいというメッセージも入ってきた。

 ブラットたちはまだ出発もしてない上に、ちょうどポータルのある場所にいたので、さらっと船を置いたまま単身会いにいき、自分たちがやってもらったように彼らの楔を西側のザラタン最寄りの巨大ポータル島に挿しておいた。


 それら全てを終わらせ積み荷の整理も済ませた後は、最後にゴンドに会いに行く。そのために、ここを転移先に選んだのだから。



「宝物庫でちょろまかしたお宝は、量は少なかったけど品がよかったおかげで、けっこう稼げたしな。限界まで収納を拡張してもらおう」



 これから行くのは楽園の島──エルドラード。

 金銀財宝、上質な食材も取り放題で、無限に湧き出る最高の美酒の湖があるとはゴンドの言葉。

 多少誇張されている可能性が高く、勝手に取っていいかもわからないが、それでも行けば積み切れないほど良い物が手に入るかもしれない。



「もしかしたら一度しか行けない場所かもしれないし、目ぼしそうなものはできるだけ持ち帰りたいからね」

「お金にも余裕があるし、おっちゃんにも凄いお宝持ってきて見せたいしねぇ。じゃんじゃん広げてもらお」



 収納の拡張は近代化よりも時間はかからないので、操舵室に追加で運転席以外に二つ座席も付けてもらうことにした。

 船の改修中にブラットたちは、お昼休憩を取ってリアルのほうで昼食を済ませてから再びログイン。

 急いで昼食を済ませてきたが、ちゃんとその頃には終わっていた。



「おっちゃーん、ありがとー!」

「おう。にしても今回は、かなり収納を広げたな。

 とんでもない、お宝の在処ありかでも見つけたか?」

「ある意味ではそうだな。なぁ親方、あの約束覚えてるか?」

「ああん? 約束だぁ?」



 突然脈絡がないように感じられる質問にゴンドは一度首をかしげたが、ブラットたちのニコニコした顔を見て何のことか思い出す。

 もしエルドラードに行ったという証拠を見せてくれたのなら、自分のお宝を三人分渡してやると言ったその言葉を。



「──お、お前ら、まさかっ、みっ、見つけたのか!?」

「まだ見つけたって段階ではないですが、その場所に当たりもつけましたし、行くための準備も終えたってところです。

 次に会うとき、楽しみにしててください」

「この船一杯にお宝積んで、ここに帰ってくるからね!」

「そっちも、お宝の準備をしといてくれよ」

「は、ははっ、こいつぁ驚きだ……。

 おうっ! ちゃんと用意して待っててやっから、絶対に生きて俺のとこに来いよ!! 絶対だ!」

「ああ!」「はい!」「うん!」



 ゴンドと三人は拳をぶつけて笑い合い、ブラットたちはいよいよエルドラードを目指し、北側の巨大ポータル島へと【リミナル・ウェッジ】で飛んで行った。




 シー・オブ・レヴィアタンの座標は、何度も言うが既にわかっている。

 転移先の場所からはそれなりの距離があるが、船足自慢のこの船ならそれほど時間もかからない。

 あと一歩というところでポカをやらかさないためにも、しっかりと探知機の情報を確認しながら、危険は事前に察知して多少遠回りになろうと安全を優先して進んでいく。

 途中で地図に乗っている港町や巨大ポータル島を解放していくのも、忘れずにやっておく。


 最近まではしょちゅう出くわしていたリーサル海賊団も、補給基地攻略がきいているのか一切見ることはなく、変態ダコ級の中ボスらしき反応も無視。

 とにかく確実にシー・オブ・レヴィアタンに辿り着くことだけに集中していった。


 そして──ついにブラットたちは、シー・オブ・レヴィアタンのイベント領域の前までやって来た。

 アーリークリアも見えてきているだけあって、まだこの辺りにいるのは船の改造が進んでいない明らかな見学者がほとんどで、ブラットたちのように本気でこの先に挑もうとするガチガチに強化された船を持つプレイヤーは、ほんのわずかしか見当たらない。



「みんな、準備はいいか?」

「いつでもいいよ」

「どんとこいさ!」



 ここまでの苦労が三人の頭をよぎり、その集大成がこの先にあるのだと心臓の鼓動が速まっていく。

 だがそんな浮付いた気持ちで向かい、もしなにかあれば凡ミスして全てが水の泡になる可能性もゼロではない。


 この場で深呼吸して気持ちを一度落ち着かせてから、ブラットは発進の指示を出した。



「しゃちたん、微速前進!」

「あいあいさー!」

「いけー! しゃちたーん!」

「まかせとけー!」



 ゆっくりとシー・オブ・レヴィアタンのイベント海域に、船が侵入していく。

 侵入してすぐに見える景色はこれまでと大差なく、海は少し波が高い程度で航行に支障はなし。

 だが探知機によって表示されたマップ情報は、【DANGER(デンジャー)】と記載された黒い大きな円が航路の先にあることを示していた。



「この黒丸の前で停まって、リミテッドアクションが使えるかどうか試してみよう」

「じゃあ、そこまではもう少し速度を上げて行っちゃうね」

「うん。でもすぐ戻れるくらいの速度でお願い」

「わかってるって」



 マップに表示されている黒い円に近づくほどに、海の色が少しずつ赤黒くなっていく。まるでそれは血の色のようで本当に不気味な光景だ。

 けれどそんなものに臆している場合ではないと、気持ちを強く持ち警戒しながらもマップ情報において黒い円の手前までやって来た。


 船のすぐ先は湯気も出ていないのにボコボコと熱湯のような音を立て、ほぼ黒に近い赤色の海がスライムのようにグニャグニャとうごめいている。

 ここから少しでも船を進ませてしまえば、この船はすぐにあの海に壊されてしまうだろう。



「じゃあ、試してみるぞ? いいか?」

「うん」

「いいよ」



 これでダメならどうしようという気持ちもよぎるが、ごくりと三人は唾を飲み込み「せーの」でタイミングを合わせ──その言葉を同時に口にした。



「「「ゲート・オブ・エルドラード!!」」」



 船がカッと虹色に輝いて、巨大な虹色のカギが正面に現れる。

 そのカギは海に突き立つように先端を下に向けて落ちていき、半分以上挿さったところで右にゆっくり回転し、どこからともなくブラットたちの耳へ「ガチャン」というカギが開くような音が飛び込んできた。


 するとカギは光の粒子となって海へ吸い込まれていき、虹色の船が通れるほどに大きな門が目の前に現れた。

 門の先に見える先だけ一本の虹色の海路が通り、門の外側に広がるほぼ黒な赤い海とは別世界のように輝いていた。


 これぞまさしく楽園の島──エルドラードへの道だと瞬時にわかるほど、それは美しい光景だった。



「行ける! 行けるぞ! エルドラードに!」

「ほんとうに私たち、イベントのエンディングが見られるんだ!!」

「よしよしよーしっ!! Ash redサイコー!! 私ら、さいっきょー!」



 三人はその光景に涙が出そうなほど喜びの声をあげ、その勢いのままに船を門の先へと進ませようとした────そのとき。



「「「えっ?」」」



 それは幻だったかのように一瞬で消え去り、それと同時に警告音と敵船の反応が複数船のマップに表示された。



「いったい何がっ──これまでこんなやつらいなかっただろっ」



 一隻はブラットたちの船のすぐ後ろ。五隻は逃げ道を塞ぐように、半円状に位置取った場所についていく。

 さらに後続からもこちらに向かって大量の敵船が向かってきていることを、探知機は教えてくれる。



「なんなのさ、こいつら!」

「わからない、わからないけど…………なんか変じゃない? なんですぐ襲ってこないの?」

「取り囲んでいるわりには、異様に静かだよな」



 いつものモンスター海賊たちならば、近くに来ればギャーギャー騒ぎながら、こちらの船に乗り込もうとしたり攻撃を仕掛けてきていた。

 しかし未だに敵は何もしてこず、沈黙を保っている。


 奇妙に思いながら三人は後方をちゃんと確認してみれば、そこには驚くべき光景が広がっていた。



「違う……モンスターじゃない……。あいつら全員、人間──NPCだ!」



 すぐ後ろにいる船は規模としては大型船だが縦幅は低く、まるで舞台のように横に広い平らな甲板が広がり、そこに大勢の武装したNPC──人間が並んでいた。

 どれも屈強な肉体で、そんじょそこらのモンスターよりもずっと強そうな見た目をしていた。


 他の少し後方で取り囲んでいる五隻の船は、純粋な大型船で甲板は高くよく見えないが、どれも最大まで強度をあげていそうな頑丈そうな船。

 あちらには少数しか乗っていない──なんてことはないだろう。



「なんで人間が私らを取り囲んでくるの?」

「わからないけど……決していい意味ではないだろうね」

「それもそうだが、こいつらはどうやって急に現れ──」



 どうやって現れたのかとブラットが言い切る前に、すぐ後ろの平たい船から拡声器を使ったような声が投げかけられた。



『あーあー、聞こえるかな? 君たちは完全に包囲されている。今すぐ出て来きなさい。

 そうすれば、命だけは救ってあげようじゃないか』

「…………ねぇ、この声って」

「……すごく聞いたことがあるね」

「ああ……そうか、あいつか……────コンスタンティンっ!!」



 ブラットが操舵室の天窓から出てその名を叫ぶと、後方の船上の後ろの方から、拍手をしながら船首に向かって甲板を優雅に歩く男がやってきた。



『やあ少しぶりだね、同志諸君。元気なようで何よりだ。

 そして──ありがとう、私のために全てを揃えてくれて』



 隣に立つ男に拡声器を持たせ、これまで見せてきた爽やかなものとは正反対な、下卑た笑みを浮かべるその男の名はコンスタンティン。

 ブラットたちが漂流中に助け、その後はイベントの攻略情報を教えてくれていた、その人である。

次は火曜更新です!

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レベルイーター 【完結済み】
食の革命児
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[良い点] ネプ〇ーグの2択トロッコ100万円クイズである宝箱からの不正解みたいな展開キター コンちゃんそれトレジャーハント系の映画でよく見るヤツやー!そのムーブするやつ絶対天罰食らうから気ー付けて!…
[一言]  まあブラッドらを助けてくれるとは露ほどしか思いませんが、こんな庭先よりも近所を騒がせた上に明らかに試練を越えてない海賊どもが認可されるとはとてもとても…  というか、こいつらの系譜や同類が…
[一言] 戦闘準備を怠ったのは油断ですな そして油揚げを攫うトンビに成ろうと賢しいつもりの海賊ども ……海王の御前も同然だと正しく理解できてないっぽいですなぁ
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