第八二話 補給基地攻略開始
準備を終えたブラットたちは、黒バラの補給基地の座標を目指して船を出航させた。
補給基地に近づくほどに、リーサル海賊団の捕捉頻度がどんどん上がっていく。
幸い奮発していい探知機を船に取り付けていたので目視よりも遠い範囲を察知でき、相手の動きを船室でリアルタイムに見られるマップを頼りに予測し安全なルートを選び続けた。
「ここまで順調だね」
「とはいってもまだ、はじまってもいないんだけどな」
「入ってからが本番だからねぇ──と、あの島はどう?」
しゃちたんが補給基地近くの町もポータルもない小島に近づけていき、ブラットとHIMAが双眼鏡と望遠鏡で確認してみれば、黒バラが群生地のように咲き誇っていた。
「あれが近くの補給基地に咲く花を示す島とみて、間違いなさそうだな」
黒バラの補給基地の正確な座標はわかっているので、この島を探す必要はないのだが、もしかしたらここにも現在のシンボルを確認できる何かがあるのではないかと探しに来たのだ。
それほど大きくない島なので、しゃちたんに探知機での警戒を頼み、二人でささっと上陸してシンボルらしきものを探して回る。
けれど特にそれらしきものは見つからず、二人はすぐに取って返した。
「やっぱり、もっと近づいて直に確認するしかないか」
「危険だけど、それ以外に方法もなさそうだしね」
「じゃあ、もう補給地に向かって進めちゃうよ? いい?」
「ああ」
「いいよ」
補給基地のシンボルが見える範囲まで近づかなければいけないが、食料の供給源にもなっているだけあって本当にウジャウジャと、あちこちにリーサル海賊団のシンボルが描かれた帆の船が増えていく。
目視できる範囲に入ってしまうと向こうにも捕捉されかねないので、探知機の情報を信用して行けそうな道を見つけたら進み、無理そうなら戻る、迂回するなど補給地の周りを行ったり来たり右往左往しながら、牛歩がごとく慎重に近づいていった。
「親方が言ってた通り、モンスターは探知機が使えないっていう情報が確かみたいで助かったな」
「まれにスキルで広範囲索敵できるモンスターもいるとは言ってたけどね」
「あっちも全員こういうの使ってたら、さすがにムリゲーだっただろうねぇ」
たとえ探知機付きの船をモンスター固有のスキル【船盗り】で略奪されても、それを使いこなし理解する知能はないおかげで、こちらが一方的に相手の位置を知ることができるのは非常に大きかった。
そのおかげで敵に見つかることなく、この船でただ進むだけなら五分もかからない距離を、三時間以上かけてシンボルが双眼鏡などで確認できるギリギリの位置まで近づくことに成功する。
ここまで近くともなると一隻に見つかるだけで一気に取り囲まれかねない状況だっただけに、その間ずっと緊張の連続だった。
操舵室の天窓から顔を出し、ブラットとHIMAが工場のようなものが島一杯に建てられた巨大施設へと双眼鏡と望遠鏡を向けていく。
あちこちにシンボルがあると言われていた通り、まずその施設自体にもでかでかと『ゾウ』のマークが描かれ、二人は距離や位置的に確認できなかったが入り口付近にもゾウの石像があったり、通り道となっている地面にもゾウの石板が敷かれていたりと本当にわかりやすかった。
シンボルが確認できたので、すぐに二人は船室に引っ込む。いざというとき二人が上にいたら、最高速度で逃げることもできないからだ。
「ゾウか……。どう見てもカラスじゃないな」
「ってことは、今入ったらトラップが発動するね」
「なんでトラップなのに、みんなこんなに集まってんだろ。偽物なら補給もできないってのにさ」
「あいつらもシンボルを見て、変わるのを待っているのかもしれないな。
それか、それも含めて誤認させるようにダミーとして機能させていたりするのかもしれない。
とりあえず違うなら、もう少し敵が少ないところまで戻ろう」
入り口の方面に進んでいる海賊団もいるが、それだけでは本物かどうかはわからないようになっていた。
またここに確認しに戻ってくるのは正直面倒ではあるが、こんなところでいつまでも呑気に居座っていたら、あっという間にリーサル海賊に囲まれてしまう。
ブラットの言葉に二人は頷き、また探知機の情報を頼りに敵の少ない場所まで戻って日付けが変わるのを待った。
シンボルが切り替わるのは、ゲーム内時間で一日に一回。
初見で慣れないこともあって手間取ったせいで、なんだかんだ時間もかかってしまっていたので、時間的にも違っていてよかったのかもしれない。
気持ちを切り替え、日付が変わるまで慎重に潜伏して時を過ごした。
二度目のアタックは最初の経験が生かされて、よりスムーズに時間をかけず進むことができた。
シンボルが切り替わると同時に確認できるよう日付が変わる前に出発したのだが、予想以上に早く視認できる位置まで来れてしまう。
「案外あいつらのルートが、だいたい固定されているってわかったのは大きいな」
「けどそうだと決めつけて進みすぎて、いざ違った行動を取られたら恐いから慎重さも忘れちゃダメだけどね」
マップが映し出されているパネルを凝視しながら敵の動きを確認しつつ、日付が変わった瞬間ブラットとHIMAが上に出てシンボルを確認。
二回目に描かれていたのは──『カラス』。今現在、あの施設が本物として機能していると示していた。
「よし、違ったら他も回ろうかと思ってたがその必要もなかったな。
しゃちたん、それじゃあ手はず通りに頼む」
「あいあいさー」
施設に堂々と乗り込むわけではないので、一度また来た道をグニャグニャと敵をかわしながら戻っていき、今度は裏手に回るように船を進ませていく。
黒バラの補給施設の裏側には危険な渦潮が密集する海域が広がっているため、船が近寄ることができない天然の防壁となっていた。
そのおかげで敵もいないが、補給基地までの距離がかなり開いてしまっていた。
しかし、この渦潮地帯に秘密の隠し通路への入り口が隠されている。
入り口は、大型船でも入れる補給基地まで一番遠く、侵入経路が複雑なもの。
中型船でも入れる程々に近くまで入れるもの。一人用の小型船しか入れない、かなり補給基地の内部まで素通りできるもの──の三つ。
ブラットたちは、中型船の入り口を使う予定だ。
「じゃあ、行くよ。違ってたら、すぐに言ってよ?」
しゃちたんは渦潮の方に向かって船を進ませる。
ロロネーの手記に書いてあった通り見た目では全くわからないが、絶妙に船が通り抜けられる隙間のようなものが渦潮と渦潮の間にあり、そこを上手く通って危険な渦潮海域の内部まで入り込んでいく。
その隙間は船を進ませるごとに狭く、判定がシビアになっていくため、ブラットとHIMAはしゃちたんの集中を邪魔しないよう静かに間違っていないかの確認だけをし続けた。
大型船のみの入り口を素通りし、中型船以下でしか入り込めない隙間を通っていく。
しゃちたんの操船技術はかなりのもので、ブラットとHIMAから見ても危なげなく細い海路を通り抜けていった。
「あの渦潮であってるよね?」
「座標的にもそのはずだ。HIMAはどうだ?」
「私もあれだと思う」
補給基地への入り口となっているのは、特定の渦潮。
正解の渦潮なら飲み込まれた先が侵入経路になっていて、不正解ならそのまま飲み込まれ船ごと海底に引き込まれてバラバラだ。
見た目では区別がつかないほどどれも同じだが間違えるわけにもいかず、周囲の渦潮であちこちに引っ張られる船を絶妙な舵さばきで海面でこらえながら三人で確認し合う。
間違っていないと確信を持てたところで、思い切って船を渦潮に自ら進ませる。
だんだんと波に船足を取られて制御が利かなくなっていく。
グルグルと栓を抜いた風呂桶にたゆたうオモチャのように船が渦に向かって回り出し、その中心へと引きずり込まれていく。
「これ正解でいいんだよねっ!?」
「そのはずだけど──はじめてだからわからないよっ」
「もうここから戻ることもできないんだし、あとはもう祈るしかないさ」
どう見てもただ渦潮に飲み込まれているとしか思えなかったが、もう後戻りはできない。
これでハズレだったら、今までやってきたほぼ全てが水の泡と化す。
ブラットも内心冷や汗をかいていたが、二人が慌てるものだから自分だけは冷静であろうと心がけ、グルグルと回る窓に映る光景を睨みつけた。
やがて中心に完全に入り込み、船は回転しながら下へと吸い込まれていく。
もはや海の中。潜水艦ではないのだから、浸水どころの話ではない。完全に全てが海水に浸かっている状況だ。
三人は回転する船の中で操舵室の椅子や物に掴まり耐えていると、突然全てから解放され船がどこかにボトンと落とされた。
落ちたときの衝撃で揺れた船も止まり、残されたのは静寂のみ。
ブラットたちはおそるおそる掴んでいた物から手を離し、周辺を確認していく。
操舵室の窓から見えるのは、どこかの広い洞窟のような場所。
探知機による索敵には何も引っかかっていないので甲板へ出てみると、海の中を船ごと潜ったというのに水気は一切なく、船自体はなにも変わらない状態だ。
続いて落ちてきた方角──上を見上げてみれば船が通れそうな大きな穴があり、そこには薄い膜が張られて上からの水をせき止めていた。
「帰りは、あそこに攻撃して水の膜を破ればいいんだよね」
「ああ。ここまでは、ちゃんとロロネーの手記通りの状況だ」
「ということは、ここは補給基地の地下に繋がる道であってそうだね」
薄い膜を破るとそれが再生するまでの間、せき止めていた水が滝のように降ってきて、上の渦が逆回転。巻き上げるような渦を発生させて、元の場所に戻れる仕組みになっている。
そのことを確認してから、タラップを下ろして船から降りる。
船の落ちた場所は小さなため池のようになっているだけで、それ以上前にも後ろにも進むことはできないからだ。
洞窟らしき場所の中は薄暗いが、光る石が電灯のように周囲を小さく照らしているため暗闇ではない。
ブラットたちは方角を確認してから、洞窟のような場所を歩いて進んでいった。
少し進むと上に続く梯子を見つけた。いざというときに降りられなくなっては困るので、一人ずつ順番に登っていく。
まずは小柄で身軽、さらに飛ぶことも可能なブラットが行ってみれば、特に何事もなく大柄な男でも通れる程度のしっかりとした通路に行きついた。
ここにも申し訳程度に明かり代わりの石が点々と取り付けられおり、真っ暗ではない。
安全確認してから下の二人に通話を繋いで、大丈夫そうだから上がってくるように言ってから、ブラットはコンパスを取り出して行先の方角を細かく確かめておく。
この通路は明らかに人工的で迷路のように分かれ道が多く、情報を持たないものは絶対に目的まで行かせないような作りとなっていた。
現に今いる場所からでも、六通りの場所へといけるようになっている。
手記にあった方角を思い出しながら当てはまる右の通路の前に立ち、ブラットは二人が来るのを待った。
『お待たせ。声でバレちゃうかもしれないし、ここからは通話でいこ』
『それがいいだろうな。どこに敵が潜んでいるとも限らないんだから』
『りょーかい。そんで次の行き先は、ブラットの立ってるところでいいの?』
『ああ、ちゃんと方角も調べたから間違いない。さっそく行こう』
二人は無言で頷きながら、ブラットの後ろに続いて薄暗い通路を進む。
ブラットが【針触覚】を前に出しながら進んでいると、わずかな空気の振動を捉えた。
だが敵ではない。最初の侵入者対策が、この先に待っているのだ。
『たしか普通に機能停止させる場所までの通路を作っただけなのに、勝手に施設側が浸食して一部として取り込んで、侵入者対策ができたんだっけか』
『そうそう。それを無くすことはできなかったけど、改造して通れるようにすることはできたって書いてあったね』
いわゆるゲーム上の設定なのだが、三人とも雰囲気を大事にあえてここでそれを口にしない。
『でも、ちゃんとギミックを解かないと通れないようになってるのは面倒だよねぇ』
ブラットたちの目の前には扇風機の羽のような刃が、ファンのように高速で回り先を阻む通路が現れた。
進路上には十枚の回転刃が等間隔に待ち構え、不用意に通り抜けようとすればあっという間に全身を切り刻まれてお陀仏だ。
回転速度的にも、タイミングをはかったら通れるようなものでもない。
『確かここは、壁に回転速度を遅くさせるスイッチがあったはずだ』
『えーと……──あった。たぶん、これじゃない? ここをこうして──こう』
『おお~、ちゃんと出てきたね』
携帯用の明かりを取り出し壁をよく確認してみると、薄く絵が描かれていた。
その絵の中には一部分だけパズルのピースの向きを嵌め違えたかのような、よく見ればわかる程度の間違いがあり、その向きを正しい方向に回転させて合わせることで、その部分が開きボタンが現れる仕組みになっていた。
『何度でも押せるが時間は一分。その間に十枚のファンを通り抜けないといけない。
一番自信がないって言ってた、しゃちたんからやるか?
間に合わなくても、こっちでボタンを押してあげられるし』
『うん、そうしてくれると助かるかも。この体、二人よりも素早く動けないからね』
スライムボディをぷるるんと震わせながら、しゃちたんが回転刃の目の前にスタンバイしたのを見計らい、HIMAがボタンを押した。
すると急激に速度が落ちていき、タイミングを見計らって刃と刃の隙間を通ることができるようになった。
『えいっ!』
だがボタンから遠い場所になるほど速くなっていき、十枚目の刃を通り抜けるのはやや難易度が高い。
しゃちたんは慎重に一分の間にまずは七枚まで通り抜けに成功。
しかしタイムアウトして、そこで速度が元に戻ってしまう。
『二回目行くよ。準備はいい?』
『おっけー! ボタンお願い』
そこからは一回一回丁寧に時間を使いながら、後ろに控えている二人にボタンを押してもらい、何とか十枚目も危なげながらも通り抜けられた。
『お尻がちょっと切れちゃった……』
『まあまあ、スライムだから直ぐに元に戻るだろ。次はHIMAが行っていいぞ』
『わかった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね』
続いてボタンをブラットに託して、HIMAが翼はできるだけ小さく畳み回転刃を潜り抜けていく。
そのままでも行けないこともなかったが、ブラットもいるので念のため九枚目で止まり、二回目のボタン押しで十枚目も難なくクリア。
続いてブラット。もう誰もボタンを押してくれないので、自分で押して十枚すべてを潜り抜ける必要がある。
しかしブラットにとってはアスレチックでしかなく、駆け抜けるように十枚すべてをあっという間に通り抜けてしまった。
時間にも余裕があり、まだ後ろの刃はゆっくりと回転したままだ。
『身軽だなぁ。こういうとき、そういう体が羨ましく感じるよ』
『お、じゃあ次の進化でスライムから人型を目指してみるか?』
『目指しませーん。私はスライムを貫き通すんです~』
『ふふっ、そうだね。なんかもう、しゃちたんイコールスライムって感じだし』
『でしょー♪ HIMAわかってんじゃーん』
ファンを抜けた先の四方向への分かれ道を右に進み、今度は真っすぐ、踏み場所を間違えると下から無数の杭が飛び出し串刺しにされる通路も越えて、今度は上にまた登っていく。
上に行くと鏡が張り付けられたハッチのような扉があり、その鏡には上の様子が三百六十度、全方向確かめられるようになっていた。
なぜならこの上は普通の通路。補給に来たリーサル海賊団たちが、普通に通る場所なのだ。ちゃんと確認しなければ、出た瞬間に見つかり袋叩きにあう可能性すらある。
だがこの上を通って、次の隠し通路まで移動しなければ先へは進めない。
鏡をスマホのようにタッチ操作して、映像の向きをクルクルと切り替え周囲を確認していく。
『進行方向とは逆だが、あっちに三体いるっぽいな』
『も~、早くどっか行ってよ~』
『じれったいよね。こういうの』
敵に突っ込んで殲滅するのがHIMAの本来のスタイルなだけあって、体をうずうずさせていた。
だが今はそうするわけにもいかず、その三体がどこかに行くのを静かに見守る。
『よし、行った。他は………………何もいないな。じゃあ、せーので一気に行くぞ。せーのっ』
できるだけ音を鳴らさないようにハッチを開き、三人は通路へと飛び出していく。
ハッチをすぐさま閉じて事前に確認していた方角へと、足音を立てないように駆け抜ける。
三人とも一秒でも早く、普通の通路から抜け出したいからだ。
慎重に周りを確認しながら広い廊下を進んでいく。
途中でモンスターが来たら、ここに隠れろと言わんばかりに廊下に捨てられた大型モンスターの残骸という名の食べ残しや、武器や防具の陰に隠れてやり過ごす。
しかし次の隠し通路へと続く扉のある場所までいくのに、清掃の行き届いた一本道を通り抜けなければならなかった。
隠れる場所は一切見当たらない、難所と言える場所。
『ここでの一番の難関だね。いざとなったら、手はず通りにいこ』
『ああ、そのときは作戦通りにな。しゃちたんもすぐにできるよう、準備はしておいてくれ』
『うん、もちろんわかってるよ』
HIMAは前、ブラットは中央、最後尾にしゃちたんと一列に並んで長い廊下を進んでいく。
何も来ないことを祈りながら前と後ろ両方を確認しながら突き進むが、そうそう都合よくもいかずモンスターの影が廊下の先に映りこむ。
『来るぞっ』
ブラットは二人を両脇に抱えて、スタミナなど無視して全力で高い天井に飛んでいく。
その間にHIMAは変態ダコ戦で手に入れた槍と腕輪を取り出し、周囲に霧を展開して自分たちを覆い隠し幻影の天井風景を映し出す。
最後にしゃちたんが同じく変態ダコ戦で手に入れた、スライムの吸盤を使って天井に張り付き、ブラットとHIMAを八本の触手で巻き付け固定する。
モンスターが八体廊下の先から出てきて、ブラットたちが天井に張り付いている真下を通っていく。
『……なに?』
『ばれたか?』
『うそーん』
だがその内の一体が急に立ち止まり、鼻をひくひくと動かしながら怪訝そうに周囲を見渡す。
臭い消しのアイテムを事前に振り掛けてきていたし、食べ残しの腐臭で周りも別の匂いが充満している。
しかしその犬なのか狐なのかよくわからない見た目のモンスターは、異常に鼻がいいらしく何かを感じ取ったようだ。
しかし──ブラットたちのいる天井を見ても、HIMAの槍と腕輪による幻影の天井しか確認できず、首を傾げながらまた進みだした。
『わはは~。見たか、これぞ忍法隠れ身の術~ってね』
『本来のただの布だったら、一発でばれてそうだったけどな』
『そもそも布だと、保護色になる模様を用意できないしね。
でもこれは案外通用するみたいだし、このままここは突破できそう』
そのモンスターたちが立ち去り、前も後ろも大丈夫そうなのを確認してからブラットとHIMAでしゃちたんを抱えて静かに降りる。
そのまま一本道の廊下を通り抜け、右側にしか道がない場所で左側の壁に手を這わせていく。
触らなければわからないほど小さく膨らんでいる個所を押すと、今度はまた別の場所が小さく膨らむ。
六度膨らんだ個所を押していくと、音もなく天井が開きその上に通る通路に行けるようになった。
『よしっ、しゃちたん触手を伸ばしてくれ』
『ありがと!』
ブラットとHIMAが飛び上がって天井裏に上ると、触手を伸ばしてきたしゃちたんを二人がかかりで引っ張り上げる。
しゃちたんをHIMAがキャッチしている間に、ブラットはすぐさま天井を閉じた。
周囲に音はなく、すぐ下からも騒がしい音もなく見られた様子はない。三人は少しだけ気を緩ませて座り込む。
『ふぅ……、まずはここまでこれたな』
『最初の難関はクリアしたね。でもまだ先はあるから、油断は禁物だよ』
『だねぇ。ここで呑気に休んでたらダミー施設に切り替わっちゃうかもだし、どんどん先に行かないとね』
ドレークやロロネーの時代と違って、今は日付が変わるまでに施設を破壊して、その後さらに船のある場所まで戻らなくてはならない。つまり時間に限りがあるのだ。
しゃちたんの言葉に二人は頷きながら立ち上がり、補給施設攻略の続きへと歩を進ませた。
次は土曜更新です!




