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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第七一話 陽天地蔵と月天地蔵

 朝になるまではそこら中にいることもあって、安全なゴーレム狩りをコソコソしつつ時間を潰す。

 ゲーム内では夜だが、現実世界の体は別に眠らなくてもいい状態なので、正直こちらで寝る必要はそこまでないからだ。



「日が出てきたな」

「ゲームの中ってのはわかってるけど、何度見ても綺麗だね」



 ようやく水平線から太陽が顔を出しはじめる。

 無限に湧いてくるようなゴーレム狩りのおかげで、なにげに資材はそこそこ集まってきていた。

 少しくらいはダメージを負っても、修復する余裕が出てきた程度には。



「それでこっちは……まだ寝てるね……」

「もう何でもいいから起きてくれ……」



 まさか完全に日が上に昇るまで待たなければならないのかと、だらしなく寝ている地蔵をレンズごしに眺めていると、太陽が水平線から完全にその姿を現し離れた頃、蒼い光としてしか認識できていなかった地蔵と祠の輪郭がくっきりと見えはじめる。

 もうレンズごしでなくても視認できるようになり、【ディテールド・アナライザー】はHIMAのアイテムスロットにしまわれた。



「日が完全に出ると現れるってことは、月影は夜じゃないと出てこなさそうだな」

「到着が夜になるように調整して出たほうがいいかもね」

「んごっ──…………んん…………。んん……?」

「あ、起き出したな」



 しゃちたんは操舵室に詰めているので、二人で周りを確認しつつ地蔵の様子をうかがっていると、石の目蓋が薄っすら開きはじめる。

 寝起きでやいのやいの言って機嫌を損ねても困るので、二人が黙って観察していると地蔵と目が合った。



「おおっ? おいおい、今日はこんな朝っぱらから誰か来てんのかよ……。勘弁してくれよなぁ、まったくよぉ」



 ブツブツと愚痴をこぼしながら地蔵はむくりと起き上がり、それっぽく祠の中で地蔵のポーズを取ってから口を開く。



「我は陽光の祠が主、陽天地蔵。何用があって参られた」

「いや、そんな堅苦しく話さなくてもいいから。あんたそんなキャラじゃないんだろ?」

「あーー……、でもいちおう様式美ってのがあってだな。はぁ……もういいか、めんどくさいし」

「めんどくさいって……」



 せっかくそれっぽくしてやったのにと言わんばかりに、ふてぶてしくドカリと胡坐をかいて膝に肘を乗せ、頬杖をついて首をしゃくりあげた。



「んで? なんだってこんな朝っぱらから、ここに来たんだ?」

「ルサルカに何かしらの対策をとるものが、ここで手に入れられると思ってきたんだが違うか?」

「るさ……るか? るさるか……ルサルカ……ああ、あの。ってことはアレか、荒心封札の方か?」

「方かってことは、他にもあるんですか?」

「荒ぶる心、隠したくば札を。陽気な、響かせたくば楽器を。──っつってな。

 俺が作ってやれるのは、その二つだけだ」

「両方作ってもらうってのはできないか?」

「それはできない。俺が願いを聞いてやるのは一つの船に一つだけ。

 それは何があっても変わらねぇし変えられねぇ、世のことわりってもんよ。

 どうしてもってんなら作ってやらんこともないが、無理に二つ作ったところでどっちかは効果が出ないぞ?

 ただの紙切れに、音の出ない楽器のどちらかがもれなく付いてくるだけだ。それでもいいのか?」

「それは困るな……。ちなみにそれらの詳しい説明は──」

「──さっき言った通りだ」

「荒ぶる心~とかの下りですよね?」

「うむ」



 少し待ってもらい、操舵室に戻ってしゃちたんも含めて相談することに。

 三人で一つのパーティなのだから、勝手に二人で決めるのはよくない。



「荒ぶる心、隠したくば札を──ってことは、たぶん敵意に敏感なルサルカに大して、敵意がないように見せかけることができるアイテムってことなんだろうな」

「んじゃあ、もう一個は?」

「陽気な音、響かせたくばってことだし、愉快な音が鳴る楽器ってことかな?

 でももう一つの札の事を考えると、なにかしら特別な力が宿ってるって考えたほうがいいかもしれないね」

「オレもそう思う。そして、ここが一つの分岐点かもしれないとも思ってる」

「どっちかしか選べないわけだしね~。

 それでいくと敵意をばれないようにするって方は、ルサルカと戦うとか物騒な関係になるっぽくない?」

「うん。だからここは陽気な音を出して、仲良くしましょうってできそうな楽器が私たちには正解かも。

 たぶん今の私たちじゃ、何したって対処されちゃうだろうし」

「HIMAが言うように、今のオレたちじゃ不意打ちでも相手にならないだろうしなぁ。

 なんてったって、相手は半分海竜の血が入ってるって話だし」

「じゃあ、楽器で決まり?」

「だな」「だね」



 相談を終えて戻ってくると、地蔵は暇そうに欠伸をかいていた。

 こちらが見ていることに気が付いても気にした様子もなく、たっぷり欠伸をし終わると、どこからともなく賽銭箱を取り出しブラットたちの目の前に置いた。



「それでどっちにするんだ? 決まったんならお布施と素材を用意してくれ」

「楽器の方を頼む。お布施はお金だとして、素材は何がいいんだ?」

「楽器なら石だ。この辺にうろついてるゴーレムから良い石が採れるぞ」

「えっと、これなんてどうですか?」



 ゴーレムを倒したドロップ品ではないが、宝箱にやたらと入っていた石をHIMAが地蔵に見せてみる。

 地蔵は眉間にシワを寄せて石を受け取り観察し、そっとHIMAに返した。



「良い石じゃねーか。じゃんじゃん、こん中に入れてくれ」

「お賽銭箱に石入れるとか罰当たりじゃないか?」

「俺がいいって言ってんだから、ばちもなにもあるもんか」

「そりゃそっか。それで、お布施はどれくらい入れればいいんだ?」

「そこは気持ちの問題よ。お前さんらが決めればいい」



 ニヤニヤと憎たらしい表情で胡坐をかきながら、そんなことを言ってくる陽天地蔵。

 もしかしたら安くても高くても何も変わらないのかもしれない。けれど変わるかもしれない。なかなかに嫌らしいやり方だ。

 だが今のブラットたちは、資材はそこまでではないが資金は親方に払ってもまだ余裕がある。

 ここは大きく出ようと、三人で一人あたり一〇万bという計算で三〇万b賽銭箱に投げ込んだ。



「うおっ……こりゃまた豪気だねぇ、あんちゃん」

「じゃあ、お布施はこれでいいな」

「ああ、けどこの半分以下でもあれば充分だったんだがな。まいどあり~♪」

「…………じゃあ、石を入れていこう」

「そうだね」



 なんだか少し負けた気分にさせられたが、まだ余裕はある。充分と言うからには、少なすぎれば作ってもらえなかったり、質が落ちたりなんてこともあったのだろう。

 すぐに気持ちを切り替え、HIMAと一緒に賽銭箱に石をゴロゴロ入れていく。

 どう見ても賽銭箱の隙間より大きな石を入れているのに、吸い込まれるように消えていく。

 無駄にため込んだと思っていた石がどんどんなくなっていき、もしかして足りないかと思いはじめた辺りでようやく賽銭箱から石が溢れ出た。



「よし。もういいぞ。余ったのは持って帰ってくれ」

「どれくらいでできるんですか?」

「どれくらいだぁ? そんなもん────────今すぐよ」



 ニヤっと笑うと胸の前でパンッと手を合わせ、印をいくつか結んでいく。

 地蔵がふわりと宙に浮かび、印を結ぶ手元から太陽光のような暖かな光が賽銭箱に降り注ぎ形を変えていく。

 時間にして数秒で、賽銭箱があった場所に石でできた琵琶びわが現れた。



「できたぞ。持っていきな」

「見た目のわりに軽いな──音も琵琶にしては高音でポップな音してる」

「ほんとだ。なんか面白い音してるね」



 つるりとした黒い石の質感から重いかと持ち上げてみれば、ブラットの体感で二キロ程度しかなく、木製の琵琶よりもずっと軽い。

 弦も石でできているかのような質感なのに、弾けばしなやかな弾力でピーンと軽い音を立てた。



「そういえばオレたちはあと月影の祠にも行きたいんだけど、どこにあるかとか知らないか?」

「月影だぁ? ってことは月天のやつか。

 あいつは人見知りで夜しか出てこない癖に、誰かに見つかるたびに場所を変える変な地蔵よ。俺でもどこにいるかなんざ知りもしねぇ。

 まぁ、例え知ってたとしても俺が言う義理はねーけどな」

「そうか……」



 ブラットとHIMAが残念そうに下を向くが、つれなく突き放したはずの陽天地蔵は二人にニヤリと笑いかけた。



「だがまぁ、今の俺は誰かさんらのおかげで懐があったけぇ。口もちょいと緩くなっちまってるってもんでな、いいことを教えてやろう。

 ここからちょいと北西に行ったあたりに、明け方と夕方にだけ兎がやってる小さな屋台の船がある。

 月天はそこの団子が大層好きで、兎の店主にだけは届けてもらうために毎度どこにいるか教えてるって話だ」

「じゃあその店主に聞けばどこにいるか、わかるってことですね」

「ついでに土産の一つも持っていきゃあ、月天も嫌な顔はするめぇよ」

「北西の屋台の船でお土産一つだな。ありがとう、陽天地蔵」

「なぁに気が乗っただけだ。ああ、それとただ聞いただけじゃあ兎の店主は教えてくんねぇだろうから、ちょいとその楽器を掲げてくれ」



 言われた通りブラットが持っていた石の琵琶を地蔵に見せるように掲げると、その琵琶に向かってまた印を結び、琵琶の裏面に太陽のマークのシンボルを刻んでくれた。



「それを見せれば店主も俺の紹介だってわかんだろ」



 最初は損をした気分が~などと思ったブラットであったが、ここまでしてもらえるのなら多めにお布施を払った意味はあったというもの。

 実際に五万までは月影の祠については、なにも教えてくれはしなかった。

 一〇万では兎の店主の情報を教えてくれるだけで、二〇万以上で自分が紹介したという印を授けてくれる。

 もし印がなければ兎の店主はすぐに教えてはくれず、その屋台にゲーム内時間で一週間挨拶と買い物をして好感度上げをする必要があったことを思えば、多めに払ったブラットの選択も間違ってはいないのだ。


 石琵琶を抱え改めて地蔵に礼を言い、ブラットたちはすぐに兎の店主がやっている屋台の船を探しに向かった。

 なにせ明け方と夕方にしかやっていないのなら、急いで探し出さなければ次は夕方まで待つ羽目になってしまうのだから。



「あった! しゃちたん、あの船に寄せていって」

「はいよー。にしても可愛い船だね。私も近くでみたいかも」

「店の中に入らなくていい屋台だし見晴らしもいいから、三人で行ってみてもいいんじゃないか?

 オレも見てみたいしHIMAも見たいだろ?」

「うん、そうだね」



 木彫りの兎が船首に付けられ、船の塗装も兎の絵が散りばめられた可愛らしいもので、屋台部分には『兎の和菓子屋』と大きく書かれていた。

 ゆったりと動くその可愛らしい船は、ブラットたちの船が近づいてくるのに気が付くとその場に停めて、一メートルはありそうなレースのエプロンを付けた巨大兎が屋台の中から出てくる。



「「「かわいい……」」」



 ブラットたちが手を振ると、にこっと笑って手を振り返してくれる。

 兎にしては巨大すぎる気もするが、愛嬌もあって店主も船に負けず劣らず非常に可愛らしかった。


 こちらの船を横付けすると、甲高いの声で向こうから話しかけてきてくれる。



「おはようございます。何をお買いになられます? たいていの和菓子なら取り揃えておりますよ~」

「じゃあ、月天地蔵が好きだっていう団子を四つ売ってほしい」

「月天さんのです? お知り合いの方ですか?」



 その内三つは自分たち用に注文をすると、月天地蔵の名前に反応しきょとんする店主。

 その表情がまた可愛らしく、HIMAとしゃちたんは後ろでスクショを撮りまくって話に加わってはくれない様子だ。



「いや、そうじゃないんだけど、ここの店主に聞けば居場所がわかると陽天地蔵に聞いたんだ。

 だからどこにいるのか教えてほしいのと、お土産用の団子を一つ見繕ってほしい。残りは自分たち用だから」

「……陽天さんがそう言ったのですか? 何か証拠になるようなものはあります?」

「この琵琶を見せろと言われたんだけど、これは証拠にならないか?」

「ほぉほぉ、立派な太陽のマークが描かれていますね。間違いなくあの方の印です。

 陽天さんの紹介とあっては無下にもできませんし、月天さんの場所もお教えしましょう。

 ではとりあえず月天さんの好きな『あん団子』四つで、八〇〇bいただきますね~」

「じゃあこれで」

「はい、確かに。お包みいたしますので少々お待ちくださいねー」



 こちらに背を向け店の中へとピョンピョン戻っていく後ろ姿を、相変わらずHIMAとしゃちたんは撮りまくっていた。


 三本のあん団子が入った袋を四つ受け取り、今日の夜に月影の祠が現れるという場所も座標できっちり教えてもらえた。



「月天さんは恥ずかしがり屋ですから、見知らぬ人がそこに着いても姿は消したままだと思います。

 そのときは、そのお団子を近くで出してみてください」

「わかった、そうしてみるよ。ありがとう、店主さん」

「いえいえ、またどうぞ~」



 最後に改めて兎の店主にも礼を言って別れ、ブラットたちはひとまず団子を頬張りながら、資材集めをして時間を潰すことにした。




 夕方過ぎ頃まで狩りをして石と資材を集めていたブラットたちは、兎の店主に聞いた通りの座標までやってきた。

 場所は陽光の祠と大して離れていない海の上。空はまた薄暗くなり、月が綺麗に見えはじめる。

 しかし兎の店主が言っていた通り、座標まで来たというのに姿が見えない。


 そこで【ディテールド・アナライザー】でHIMAが周囲を見渡してみれば、祠の中に隠れてこちらを見つめる地蔵の蒼い光の輪郭を発見した。

 陽光の祠の陽天地蔵は恰幅がよくふてぶてしい顔立ちの地蔵だったが、こちらは細身で繊細そうな顔だちの地蔵だ。



「ブラット、お団子ちょうだい」

「はいよ」



 ブラットからお団子の入った兎印の袋を受け取り、HIMAはその地蔵に見せつけるようにプラプラと掲げて揺らす。

 その袋を見た瞬間ハッとした顔をしたかと思えば、目が釘付けになり揺れる動きに合わせて頭が左右に動き出す。

 やがてフラフラと夢遊病者のように祠から出てくると、肉眼でも地蔵と祠が見えるように可視化した。



「こんばんは、月天地蔵さん。こちら、お土産にどうぞ」

「あ……こ、これはご丁寧に。ありがとうございます」



 HIMAが袋を渡すと男性にしては細い声でお礼を言って、口角を嬉しそうに少し上げながら受け取った。

 受け取ったらさようなら──なんてこともなく、ブラットやHIMA、少し遠目にしゃちたんが見ている前で、さっそく団子を出して食べはじめる。

 ブラットたちは好物を食べているときに邪魔をするのはよくないと、微笑ましそうに食べきるのを静かに見守った。



「美味しかったですか?」

「は、はい。やはり、あの店のあん団子は格別です。結構なものを、ありがとうございました。

 それでその…………私に何か御用でしょうか?」

「ルサルカに有効そうな何かを作ってほしいんだけど、月天地蔵さんは何か作れるか?」

「るさるか……るさ……ルカ……ああ、ルサルカですね。

 そうなると──奏でられし美声、封じたくば御珠みたまを。──しとやかな音、響かせたくば楽器を。ですね。

 お団子をいただきましたし、私も願いを聞き届けましょう。どちらにいたします?」



 ほとんど答えは決まっていたが、少し待ってもらってまた相談タイムに。



「奏でられし美声、封じたくば御珠を──ってことはだ。

 陽天地蔵のところで敵意を隠す札を作ってもらって近づいて、御珠で強制睡眠の歌声を封じて倒すってのが一つのルサルカ攻略法なのかもしれないな」

「だろうね。けどたぶん私たちじゃあ、声を封じたところで勝てないんでしょ?」

「そうだね、しゃちたん。たぶんそれで、ちゃんと強敵と戦える力のパーティは戦いになるレベルなんだと思う。

 声の部分は人魚の能力だろうから、もう半分の血の海竜の能力もなにかありそうだし」

「海の上で海竜の何かしらの能力とか使われたら、さすがに歌声なんか聞かなくても昇天させられそうだ」

「ってことはやっぱ、今回も楽器にしとく感じ?」

「もう一つ楽器はあるし、いざというときの保険に持っておくってのも有りな気もしないでもないけど……私は楽器かなぁ」

「オレもHIMAと同じく楽器かな。下手に対抗策を持っちゃうと、それが敵意として反応される可能性だってあるわけだし」

「あーね。それありそう。じゃあ、私も楽器に一票ー!

 もしかしたら、どっちかは気分的に気に入らないかもしんないし使い分けてこ」

「陽気な音に淑やかな音って正反対だし、もしかしたら時間帯とか何かで使い分ける必要があるかもしれないね」



 ということで二つ目も対抗策ではなく、融和を目指し楽器を選ぶことにした。

 すぐにそう伝えに戻ると、月天地蔵は小さく頷きながら賽銭箱をそっとどこからともなく取り出した。

 楽器の場合はやはり材料としてゴーレム海賊の石を要求され、お布施は「お気持ちで結構です……」と言われて具体的な値段を言ってはくれない。

 なのでここでも陽光の祠のときと同じく、三〇万bを賽銭箱に放り入れた。



「こ、こんなによろしいので?」

「ああ、受け取ってくれ」

「で、では素材の方を収めてください……」

「はーい」



 HIMAが石をゴロゴロと賽銭箱に落としていき、溢れるまで吸い込ませた。

 必要なものが揃うと、陽天地蔵と同じくパンと手を鳴らして印を結び宙に浮かぶ。

 すると印を結ぶ手元から、月明かりのような優しい光が降り注ぎ賽銭箱が形を変えていく。

 頼りなさげな月天地蔵も、このときばかりは凛々しい表情をしていた。



「できました……。お納めください」

「ありがとう」

「ありがとうございます」



 こちらは石でできた、龍笛りゅうてきの形をした横笛。

 持ってみるとこちらも黒く重そうな石の見た目に反して、数グラム程度の重量しか感じない。

 軽く口に当てて息を吹き込めば、ピィ~~と耳に痛くない優しい音域が周囲に響き渡る。

 このまま聞いていれば、いい眠りができそうな音色だ。



「どうですか?」

「とてもいい笛だ、ありがとう。ところで、よかったらなんだが……」

「はい?」

「この笛にも────この琵琶みたいに、印をつけてもらうこととかできないか?」



 アイテムスロットにしまっていた石の琵琶を取り出して、その背に描かれた太陽のマークを月天地蔵に見せてみる。



「え? えぇ、かまいませんよ。沢山のお布施をいただいてしまいましたし、それくらいはさせていただきます。

 私の名が必要なときは、それを出してお使いください」

「助かるよ」



 そう言うからには、何かに月天地蔵の名前を使うときがあるのかもしれない。ブラットが多めに出したのは、半分以上これを見越しての事でもあったのだ。

 ブラットは月天地蔵に見えるように笛を掲げると、彼は印を結んで石の龍笛の後ろ部分に月のマークのシンボルを刻み込んでくれた。


 陽天地蔵とは違い最後まで静かだった月天地蔵に、手を合わせられながら見送られたブラットたちは、一番近くの町に行って一度休むことにする。

 現実世界の時間ではないとはいえ、ずっと海の上だったので陸地が恋しくなったのだ。


 ポータルのある最寄りの町に到着。

 とりあえず収納を整理するために売れるものを持って、ブラットたちはタラップを降ろし陸地に上がっていく。



「ルサルカ用の楽器を二つ手に入れたわけだが、これでもうルサルカに挑んでもいいと思うか?」

「まだもう少し情報は集めておきたくない? そもそもルサルカの場所も、わかってないんだしさ」

「楽器の使い方も、あってるかどうかわからないしね。私もしゃちたんの意見に賛成」

「だよなぁ。どのみち一発勝負になりそうだし、慎重に──」

「──今、楽器と言っていたかい?」

「「「え?」」」



 三人で話していると、船から降りてすぐの場所で急に第三者が話に割って入ってきた。

 どこかで聞いた声に誰だとそちらに視線を向けてみれば、そこには以前リバース海域で漂流しているところを助けたコンスタンティンの姿があった。



「やあ、少しぶりだね。同志たちよ」

次は土曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] このお使いイベントとかギミックボスとかこの海域イベントめっちゃ面白い 似たゲームやりたくなってきたw
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