第六話 進化
扉の先は先ほどのゲームの世界観ぶち壊しな安っぽい応接室などではなく、ちゃんとしたファンタジーにあふれる空間が広がっていた。
「お、おぉ……」
一言で言い表すのだとしたら、ファンタジーな古代遺跡の中だろうか。
よく分からない幾何学模様があちこちに描かれ、うっすらと赤や青、金や銀など色とりどりに光っている。
そしてその空間の中央には、九つの大理石で作られたかのような立派な白磁の台座が設置され、それぞれに何やら凄そうなものが物々しく置かれていた。
「どうだい? それっぽいだろ? 一番最初の前任者に、さっきの部屋だと雰囲気が台無しだと文句を言われたものだから、わざわざ進化するときのために作ったんだよ」
「あれじゃあねぇ……」
あのもっさり感半端ない部屋での進化は、確かにテンションは上がらないだろうとブラットも深く同意する。
「あの九つの台座の中から、好きな素材を選んでくれ。
それを取り込むことで君はモドキという脆弱であやふやなナニかから、ちゃんと定まった種を持つ、高い潜在能力を秘めた存在へと進化することができる」
「なんの素材があるのか、それぞれ説明ぷりーず!」
まさか九通りも選択肢があるとは思っておらず、ここへきて一番のハイテンションで小太郎に説明を求めた。
その姿に一瞬目を丸くするが、喜んでくれているのは伝わったので彼は快く説明しだす。
「あれらはそれぞれの種の大元となる、零世界における柱──現地人からすると神とも呼ばれる根源なる生物たちの一部となっているんだ。
まず一番手前のあれは──」
『純人族』に分類される、『小人』『人』『巨人』にとっての根源たる──『大賢人』の脳の一部。
『緑人族』に分類される、『植物系』の人類にとっての根源たる──『彩雲樹』の枝葉。
『獣人族』に分類される、『哺乳類系動物』の人類にとっての根源たる──『白銀狼』の脛骨。
『翼人族』に分類される、『天使』『悪魔』『翼人』にとっての根源たる──『死生鳥』の白、黒、茶の3枚の羽。
『竜人族』に分類される、『爬虫類系』にとっての根源たる──『黄金竜』の尻尾の一部。
『精霊族』に分類される、『妖精』『エルフ』『ドワーフ』などにとっての根源たる──『精霊王』の片目。
『妖魔族』に分類される、『妖怪系』『魔物(異形)系』にとっての根源たる──『覇天鬼』の左角。
『蟲人族』に分類される、『蟲系』にとっての根源たる──『翠麗蜂』の毒針。
『創造族』に分類される、『ゴーレム』『インテリジェンスアイテム』などにとっての根源たる──『輝星核』の欠片。
「九種の時点でもしかしてとは思ってたけど、やっぱりBMOの種族の大分類分けされた、それぞれの頂点と言われてるものたちの素材だったんだ」
「頂点というより根源という方が正しいんだが……まあ、どちらでもいいか。
それでどうする? どれを選んでも最高の可能性を秘めた進化を遂げることができるよ」
「うーーん……ちょっと考えさせてよ。私の半年間の集大成がここで決まるんだから」
「それもそうだね。というか、あの工程をよく半年でこなせたものだよ。
予定では一年以上は絶対にかかるはずだったんだけどね」
それだけ時間をがっつりかけてやっていたというのもあるのだろうが、それだけでなく小太郎の見込み以上の才能がなければ、サービス開始から半年でモドキの進化をやり遂げるなど不可能だったはず。
そんなことを考えながら改めて最高の協力者を得ることができたと喜びつつ、小太郎はブラットの選択を待っていた…………のだが、地球時間で一時間ほどの時が過ぎても未だにあちこちの台座の前をフラフラと練り歩いて決まる気配すらない。
「あー……、迷っているようなら死生鳥の三枚羽なんかどうかな?
もともと悪魔としてプレイしようとしていたんだし、そちらを選べばもっと本格的な大悪魔への道も開けるよ」
「うーん、そうなんだけどね~。これだけの素材を並べられると、改めて別種族を目指すのもありかなって思うんだよね~。
そもそもモドキだから、厳密には悪魔でもなかったわけだしぃ~」
「な、なら精霊族系の進化なんてどうだい? 他よりも簡単に見た目のいい種族になることができるよ?」
「イケメンになるのもいいよね~。けど竜人族とか強くてカッコよさげだよね~」
「ああ! 竜人族は強くてカッコイイよ!」
「でも他のもやりようによっては充分、強くてカッコよくなれるんだよね?」
「あ、あぁ……、まぁ……そうだけれど……」
「だよね~。はぁーーー迷うわ~~~」
この子はいつまでここにいるのだろうかと、小太郎の方こそため息をつきたくなってしまう。
けれどブラットが満足いってこそ、やる気も出してくれるはず。
それにもともとブラットを振り回していたのは自分なのだから、これくらい待って当然だろうと自分に言い聞かせ、小太郎はその選択が終わるのをひたすら黙って見守った。
それからまた数時間後──なにかを思いついたのか結論づいたのか、ピタリとフラフラしていた足を止めブラットが小太郎へと振り向いた。
「よし! 決めた!」
「おおぉっ! どれだい!? 好きなのを持っておゆき!」
「な、なんかテンション高いな……。なんかいいことでもあったの?」
「いやいや、私のことなどどうでもいいから! さあ、どれにするんだい?」
「あのねぇー」
「うん、どんと答えてくれ」
ドンと実際に胸を叩いて満面の笑みをする小太郎に対し、ブラットもニッコリと満面の笑顔でこう答えた。
「全部ちょーだい♪」
「ああ、どう──ぞぉおおっ!? あはは……おかしいな。何か変な言葉が聞こえたようだ。
ちょっと精神的に疲れているのかもしれないね。それじゃあ、改めて聞くよ? いいかい? どれがほ──」
「だから全部ちょーだい。選べないなら全部使えばいいんだよ」
「そんな無茶苦茶な……」
「でも言ったよね? あの中から好きなの選んでって。
そして言ってないよね? あの中からどれか一つを選んでなんて。だから全部好きなのだから全部なの」
「そういうのを人は『屁理屈』って言うと思うんだけど、その言葉知っているかな?」
「まぁ、なにかしら。初耳だわ」
知らないわぁ。と言わんばかりに上品に頬に手を当て首を傾げるブラット。
それが色葉の方の体であれば、さぞかし周囲の目を惹きつける仕草であったのだろうが、今はボロ布を一枚巻いただけのガリガリ少年なので少し不気味ですらある。
「君の中身が女子高生だと知っているからまだ違和感もそこまでないけど、零世界でブラットとしてそのような言葉遣いや仕草をすると変に思われるから、気を付けたほうがいい」
「ああ、そうだったそうだった。以後気を付けることにするよ。それで? 結局全部はダメなの?」
「ダメというよりムリがある。未進化状態のモドキの器でギリギリ受け入れられる最高の素材を、それぞれ用意したんだ。
九種全部なんてキャパシティオーバーもいいところだよ」
「へぇ~、ならそれぞれ九分の一ずつもらえばいけそうだね」
「そんな……………………その発想はなかった」
これが若者の柔軟さかと年寄り臭いことを考えながら、小太郎は実際問題それでいけるかどうかを真剣に考えはじめる。
確かにエネルギー的に全てが一定に釣り合うように分割すれば、無茶な話ではないのではないかと直感的に感じとってしまったからだ。
「これがBMOであったのなら、そんなことはシステム的にそもそもできなかっただろうが、こちらの零世界はゲームシステムによる補助もない代わりにその縛りもない。
私が想像しえなかったことでも、この世界の法則にのっとってできてしまうこともある……。
よし、やってみようか。ダメなら何も起きないだけで、できたら一番化ける可能性もある。一番、中途半端になる可能性もあるが……」
「そうこなくっちゃ! レッツチャレーンジ!」
とは言ったものの、あの素材たちは大きさの比率だけ見て九分割すればいいというものではない。
部分部分によって少しずつ籠っている力の比率も違うので、そこを見ながら精確に切り分けなければ器にピッタリと嵌まる量など摘出できない。
(気楽に言ってくれるものだ……)
それはこの素材たちの大元を創り上げた零世界の管理者である小太郎であっても、神経を研ぎ澄ませる必要がある繊細な行為。はいどうぞと気軽にできるようなことでもないのだ。
けれどブラットの前任者たちの誰もが選ぶことのなかった選択肢。
そんな彼自身ですらどんな進化をするのか予想できなくなったことで興味を引かれ、文句も言わずに一つずつ丁寧に素材を切り分けていった。
「よし、これで均一にできたよ」
「なんか形がどれも歪だなぁ。もうちょっと綺麗に切り取ってほしかったなぁ」
(この子はまったく……)
力の比率で切り分けたのだから、実際の見た目はどれも不格好なのは仕方がない。けれどそれなりに苦労したのだから、その言いざまに少しだけ徒労の気持ちが湧いても許されるだろう。
切り取られた部位は大きな皿のような器に並べられ、その前に微塵も小太郎のことを気にした様子のないブラットが立つ。
「そういえば進化の光景を動画に収めたいって知り合いに頼まれてたんだけど、これを持ち帰ってBMOで進化するのってダメなの?」
「それは無理だね。BMOには、これらの素材は存在しない。
いずれアップデートで実装することもあるかもしれないが、こんな分割された状態の物なんて今後も追加されることはないよ。
それにBMOで進化しても、零世界にフィードバックするのは進化の段階を重ねるほどに難しくなる。
だから今後も進化するときは、こっちでしかできないと思ってほしい」
「えぇ……、じゃあ進化の瞬間の動画データだけでも残せない?
せっかく史上初のモドキの進化の瞬間なんだから、私も記念に録画しておきたいんだけど」
「うーん………………、分かった。少し待ってくれ」
小太郎に後悔はないが、拷問に等しい痛みをブラットに体験させてしまったことへの負い目はある。
そのくらいの要望は聞いて然るべきだろうと管理者の権限をフル活用し、地球の方での映像データとして、この場の状況を残せる細工を施してみることにした。
やってみれば案外簡単にできるもので、大して待たせることなくその細工は成功した。
「うん。たぶんこれで撮れるはずだ。君がゲームの世界に戻り次第、映像データとして君のアカウントへ送信しておこう。
今後進化することがあれば、そのときも同じ感じでいいかい?」
「おお、助かるー! んじゃあ準備もできたわけだけど……これをどうすればいいの?」
「ああ、まだ君はモドキの未進化状態。そういう感覚も発達していなくても仕方がないか。
もっと近くでよく見て、それでも何も感じないようなら触ってみてほしい」
「んん?」
言われた通りブラットは器の前に座り込み、大きく目を見開いて不格好に切り取られた素材を舐めるように見つめはじめる。
すると不思議なことに、その素材に触りたいという欲求が少しずつ湧き上がってきた。
その本能のままに小さな手をペタッと器の中の物に押し当ててみれば、ドクン──ドクン──と心臓の鼓動が速まっていくのを感じた。
「なに……これ」
「それこそが肉体がさらなる進化のために、新たな力を求める衝動。体が、細胞が欲していると訴えかける本能。
二次進化以降のヒントになるから、その感覚を覚えておくことをお勧めするよ」
「そう……これが……、あっ」
素材の方なのか、触れていたブラットの手の方なのか、それともその両方なのか、それは本人にも分からないのだが、接地面からドロリと溶けるような感触が手の平に伝わってくる。
次第にその境界線は曖昧になっていき、温かなお湯を胃に流し込んだ時のようなじんわりとする感覚が手の平から全身に広がっていく。
溶けていく素材はズルズルとブラットの体の中へと融合するように吸い込まれていき、あっという間に器から消えてなくなってしまう。
胸の鼓動は今やピークに達し、ドドドド──と痛いほどに鳴り響いているように感じる。
体中の関節が熱を帯びパキパキと音を鳴らしはじめるが、ブラット自身に痛みはなく、関節が鳴ったときのような感覚がするだけ。
体中の骨がニュウっと引き延ばされるような感覚。筋肉がプチプチと千切れ、また繋がっていくような感覚。それに対しても痛みは感じず、むしろ妙な心地よさすら感じてしまう。
ボコボコと何かが体の表面に浮き上がっていく感覚がしはじめ、それと同時に視界は消えたりぼやけたりとはっきりしなくなり、眼球自体も作り替えられていく。
歯がムズムズとうずきはじめ、もともとあった歯は玩具の歯のようにポロポロ抜け落ち、その代わりにより大きく頑丈な歯がせりあがってくる。
ミシミシ、メキメキ──はたから見ている者にはそんな音を響かせながら、ブラットの体は大きく、そして別のものへと変化していった。
そして──ブラットはついに生まれ変わる。
「ガァァアアアアアーーーーーーーッ!!」
カチリと何かが嵌まったような、それでいて強烈な解放感と爽快感が体を駆け抜ける。気が付いたときには、思わず天井に向かって吠えていた。
悪魔モドキのみすぼらしい少年は、もうどこにもいなかった。
絹糸のように細く艶やかな腰まで伸びる黒紫色の髪。長すぎる前髪からチラチラと覗くのはキラキラと輝いて見える黄金の瞳。
左側の額からだけ伸びる真っ白な鬼の角に、純人族特有の丸い普通の耳。
まだ十二~十三歳ほどを思わせる幼さがあるが、それでも美しく整った顔立ちをしており、形のいい口を少し開けば小さな八重歯がちらりと覗く。
ガリガリだった体格は均整の取れた筋肉質なものへと変わり、腹筋が六つに割れていた。
背中には右に白翼、左に黒翼を生やし、両肩の裏側にところどころ緑色に煌めく武骨な鉱石が飛び出している。
両腕は一見普通に見えるが、よく見ると木のような質感になっており、実際に叩いてみればコツコツという音を立てる硬質なもの。けれど腕や指など関節を動かすのは普通にできるし、腕全体の触覚も正常で、物を持つ際は触れた部分だけ肉のように柔らかくなるので困らない。
そして何故か両方の手首のあたりに、1センチほどの穴が開いていた。
また両足の膝から下は灰色の狼の足を無理やり人型の足にしたような、獣の足だった。
そして最後の特徴としては、腰の少し下あたりからはトカゲのような鱗のある灰色の尻尾が伸びていて、まさに多種多様な種のごった煮のような、ベースが何という種族なのかもよく分からない謎の存在へと進化を遂げた。
「これはまた……、珍妙な進化をしたものだね」
「珍妙とは失礼な──あ、声も少しだけ低くなってるかも」
「まだまだ少年といった声音だけどね。とはいえ三次進化までいけば、肉体も完全に大人の男性のものになるだろう」
「それはそれで勿体ない気もするけど、屈強な男の肉体ってのも興味あるね。楽しみにしとくよ。
とまあ、それはそれでいいとしてだね、小太郎さんや」
「ん? なにかな?」
「裸……なのはいいとしても、………………なんかついてるんだけど」
「え? ああ、そりゃあ男の子だからついているだろう。進化前だって、こっちではついていたよ?」
「えっとさ、BMOって、いちおう中学生以上なら誰でもできるんじゃなかったっけ?」
「BMOのほうは、ね。けど大丈夫、BMOに帰れば、ちゃんと絶対に見えないように処理されてるから」
「こっちはなんかこう……さ、モザイク的なのはないわけ?」
「現実の肉体だからねぇ。AR技術もない世界だし、ホロをかぶせるような技術もないから、基本丸出しなら丸出しだと思っておいた方がいいよ」
「こんなとこでもその〝設定〟は生きるのね……。うぅ、セクハラで訴えたい……」
下に落ちていた進化前のボロ布を拾い、腰に巻き付けていく。
もとは七〇センチ程度の身長から五〇センチ程度成長したこともあってサイズ的に少しきついが、なんとか最低限隠すべきところを隠すことはできた。
「他に気になるところや、体に違和感とかはないかな?」
「体が軽すぎてある意味違和感あるけど、悪くないね」
体をひねったり軽く蹴りや突きの動作をしてみたり、尻尾や翼を動かしたりしてみるが、悪いどころかすこぶるいい。
あの常に重りを括り付けられていたような体の鈍さが嘘だったかのように、こちらの体は羽が生えたかのように軽く、自分の動きに翻弄されるほどだった。
「まあ、ほんとに羽が生えたわけだけど。ん? でも前も一応ぶちゃいくなのがあったっけ」
「なにを言ってるんだい?」
「こっちの話だから気にしないで」
「そうか。問題ないならいいんだ。さっそくBMOに戻って、いろいろと試してみるといい。
何ができるかも分からないまま、いきなり本番はやめてほしいからね」
「そりゃそうだ」
「今回ここまで来た扉を通れば、そのままこちらの世界に来られるようにしてあるから、準備が整い次第活動をはじめてくれると助かる」
「……あの試練とやらは、もうないんだよね?」
「ない。だから安心して来てくれ。とはいえ零世界で怪我をすれば、相応の痛みがあるのは変わりないがね」
ただ痛めつけられるだけだった試練とやらは今でもトラウマものだが、ちゃんとした戦いで負った痛みであるのならまだ受け入れられるだろう。
そう考えたブラットは、小さく頷き返した。
「あとあのBMOの町をうろついて魔法陣を描くという行為も、次からは不要だからね。
最初だけは君自身に最後は鍵になってもらい、道を開いてもらう必要があっただけだから」
「はいはい、そういう設定ね」
「そう、君がそう思うのならそれは設定だ。
それじゃあ、お帰りはこの部屋の扉を通れば最初に来たところに戻るようにしてあるから、そこからどうぞ」
これ以上引き留める気はないようで、最初に言っていた通り話を聞き終わったことで解放してくれるようだ。
ほっと一息つきながら、ブラットはこの進化した姿を親友や兄たちにみせてあげようと扉の方へと足を向ける。
「──ああ、そうだ。一つ言い忘れていたんだが」
「え?」
あと一歩で扉の向こう側という所で声をかけられ、ブラットは足を止めて振り返った。
「少し前にも言ったけど、もしブラットの肉体がこちらで死んだとしても、灰咲色葉という存在は絶対に死にはしない。
けれどその場合はこちらの秘密を守るために、零世界であった全てのことはBMOというゲームの中で起きた出来事だと認識するようにさせてもらう。
つまり、異世界なんてものはなく、あくまでゲームをしていただけという認識になるということだね。
これまでの前任者たちと同じように──」
「はぁ? てか、そんなこと……ほんとにできるの?」
「ああ、できる。そうしやすくする目論見も、BMOというゲームにはあったからね。
では、君の活躍に期待している。グッドラック」
「ちょっ」
瞬間移動のように後ろに現れた小太郎にポンと背を押され、ブラットは何かを言う前に扉の向こう側へと押されて消えた。
ファンタジーで描かれるような古代遺跡チックな部屋の中で、小太郎は「ふぅー」と長いため息をつく。
「これでもう、私にできる全てをやったはず。
ベグ・カウさえいなくなれば、きっと人類が生き残る道が開けるはずなんだ。
痛い目を見た人類はきっと、もう同じ過ちを犯さないはず。
出来損ないの私が創った存在とは言え、そこまで愚かではないと信じるしかない……。
だから頼んだよ、ブラットくん。君が私の最後の希望なのだから──」
誰に言うでもなく零れた言葉は、やはり誰に届くこともなく、静寂の波に消えた。




