第六五話 トート三兄弟
コンスタンティンと別れた島は、普通の町で港町ではなかった。
親方ガチャはできないので軽くここで聞き込みだけしていくが、得られたドレーク関係の情報はやはり同じものばかりで収穫はなかった。
また【ドレークの手記〔原本〕】も軽く読んでみたが、こちらはメモ帳のように使われていたもののようで、箇条書きだったり字が汚くて読めなかったり、なぜか重要そうな場所が空欄になっていたりと、必要な情報を得るには少し時間がかかりそうなアイテムだった。
ドレーク冒険記と照らし合わせ、補足情報として使っていくようなものだとブラットたちは判断した。
ザラタンの情報だけでいえば、例の現在地を割り出す計算式や口からの破壊光線は下から上に右斜めに向かって放射する癖がある。
手を振るときは必ず左手から、尻尾を叩きつけるときは一度逆方向に体を小さくひねってから──などなど、攻撃のサインなどがざっくばらんに記載されていた。
計算式は自分たちで使えそうにない未知の記号だらけだったので、コンスタンティンの解答を信じて、その座標に向かうことにした──のだが、そこで同盟のチャット欄に残念な報告が上がる。
「あー……、やっちゃったかぁ」
「どうしたの?」
「パペットモンスター、白アリ海賊団に船沈められたって」
「「え? マジ?」」
「まじまじ。昨日からずっと戦ってたらしいんだけど」
「「ずっと!?」」
「うん。徹夜で船を守ってたみたいだけど、数の暴力で潰されたらしいな。
白アリ海賊団は個々の力は首領含めてそこまでじゃなかったらしいけど、とにかく数がとんでもなく多くて、逃走用に考えていた道も塞がれちゃって最後は……って感じだったみたいだ」
船の中に入っていた物資は全失、強化もリセット。強制初期リス送り。
さらにカバンや手持ちスロットに入っていたアイテムの中から一つ消失──という大きなペナルティを負ってしまった。
ただ不幸中の幸いか、パペットモンスターは首領をきっちりと狩っていて、そのドロップ宝箱を五人はしっかり確保していたとのこと。
そのときにちゃんと【ドレーク冒険記】も三冊入手していたので、同盟としても役目はきっちりと果たしていると言っていい。
「五人パーティなのに三冊だったんだ。じゃあアジトのボスを倒しても三冊固定かな?」
「もっと強いボスだったら、もっと貰えたかもしれないけどな」
また彼らは大量の白アリ海賊たちを倒したことで、イベントポイントもかなり稼げたらしく、完全なマイナスというわけでもない様だ。
「今ポータルに近い人は、地図の同期だけさせてほしいって言ってきてるね。
ちょうど私たちは町にいるし行ってあげよっか」
「他の人らは一番近くでも数分かかるらしいしね。同盟なんだし、それくらいは助けてあげなきゃ」
同期だけなら大して時間がかかるわけでもない。
ここでブラットたちが拒否する理由はまったくないので、さっそく初期リスに近いポータル島へと飛んだ。
パペットモンスターたちはポータルのすぐそばで待機していたので、さっそく地図の同期を終わらせる。
「いやぁマジで、マッジでありがとう! 恩に着るよ!」
「そんな大したことじゃないから気にしなくていい。
それに次に船を沈めるのは、うちかもしれないしな」
「そんな危ない橋を渡る気なのか?」
「ザラタンが今いると思われる座標がわかったから、見に行くつもりなんだ」
「早くね!? もう一個見つけたのかよ!」
「かなり確度の高い情報だけど、まだいるかは確定してないけどな。確定したら座標を流すから共有してくれ。
それで……そっちは大丈夫そうか?」
「ああ、なんとか足を引っ張らない程度には戻れると思う」
パペットモンスターは同盟とは関係ない別のフレンドに大きな借りを作って、この島から一番近い船ごと運べる巨大ポータルがある島の場所を教えてもらったらしい。
船が沈んでもプレイヤーが死んでもポータルを解放した記録は消えないので、そこから事前に報告会でも見つけていたと言っていた巨大ポータルの島に行ってリカバリーするようだ。
「そういえば、そっちの白アリ海賊団だと何巻が出たんだ?」
「一巻、二巻、九巻だった。たぶん初回は一巻は確定だったのかもしれない。
ちなみに渦潮地帯の正しい道のりだとか、夜になると空からガーゴイルが襲ってくる海域があるっていうのだけで、四つの危険についての記述はどれもなかった」
「了解。んじゃあ、そっちもがんばれ」
「おうさ。Ash redは船を沈ませたりするんじゃあないぜ!」
「沈ませる気はないよ」
最後に軽口を言い合って、自分たちの目的地を目指し別れた。
パペットモンスターたちと別れてからポータル島を出発したブラットたちは、襲い掛かってくる海賊モンスターたちを蹴散らし、ときにヒヤリとする相手もいたが、それでも船も自分たちも守り切ったりと戦闘がかなり多い道中をこなしていた。
しかし、それでも敵いそうにない海賊もときにはいるもので……。
「あれはやめておこう……。挑むにしても今じゃない」
「リーサル海賊団のマークだよね、あれ絶対」
「触らぬ神に祟りなしだよ、まったく」
六つのドクロで円を描き中央に赤い剣のマーク──という、聞いたままのシンボルが帆に描かれた海賊船を発見した。
リーサル海賊団でも最下位層の連中という可能性もなくはないだろうが、それでも勝てるかわからない上にザラタンを見に行く前に余計なリスクは負えない。
これは不味いと見つかる前に進路を変えて、念入りに大回りするはめになった。
他にもリーサル海賊団ではないにしろ、明らかに強敵オーラを出しているような海賊には手を出さず回り道。
そんなことをしていたせいで目的にまっすぐ進むこともできず、地図の軌道は前の報告会のとき以上にグニャグニャだった。
当然、ザラタンまでの到着予定時間もその都度伸びていく。
(早く次の進化がしたい……)
自信満々に進めるようになるには、もっと強くならなくてはいけない。
自分がもう一段進化したら、もっと強引に進めることができたんだろうかと、ブラットが詮無いことを考えながら警戒していると、覗いている双眼鏡に煙が映りこむ。
「ん? 狼煙? ねーHIMAー、あれって狼煙かなー?」
「どれどれ。…………あーぽいね。ちょっと近くに行ってみる?」
「寄り道って言っても今更だしねぇ、私は行ってみたいかな」
「オレもいいよ」
「じゃあ、行ってみよっか。あ、でも罠の可能性もあるから、ゆっくり近づいてね、しゃちたん」
「わかってるって」
しゃちたんもだいぶゲーム慣れしてきたようで、いちいち細かいことを言わなくても察してくれるようになっていた。
頼もしい限りだと二人は微笑みを浮かべ、狼煙が上がっている個所を中心に警戒を強めた。
「小島の上に武装したおっさんNPCが三人……。
モンスターじゃないみたいだし、また何かのイベントかもしれないな」
「襲ってきたりはしないよね? シージャックとかしてくるのかな、この世界のNPCたちって」
狼煙の上がっていた場所は、直径三メートルほどの数人上陸するだけで一杯一杯な小島。
そこには乾燥させた流木らしきものを組んで、焚火をしている三人の男たちの姿が。
三人は共通の種族で顔もよく似ていた。いわゆるドワーフというやつだろう、ずんぐりむっくりで背の低い、ヒゲもじゃな風体だ。
角の生えた兜をかぶり甲冑を身にまとい、手にはそれぞれ『戦斧』『戦鎚』『大剣』とダイナミックな武器を持っている。
近くに船もなく、どうやってあんな小島に重そうな武器と鎧をまとった男たちが辿り着いたのか興味が尽きない。
「「「おーーーーーーい!! おぉおおおおおおーーーーーーーーーーい!!」」」
「……なんか手を振ってるな」
「声でっか!?」
「船室まで響くとかどんだけよ……」
なんだか必死に呼んでいる姿に悪意はなさそうだ。
武器も下に置いて少し離れ、敵意がないことも示してくれる。
全員で一度顔を見合わせ、「行ってみようか」というブラットの言葉に二人は頷いた。
「そんなところでどうしたんだーー?」
「船を海賊どもにやられちまって、ここで立ち往生しておるんじゃーーー!
できれば、そっちの船に乗せてはくれんかー?」
「そういうことか。乗せてもいいか?」
「なんか可哀そうだし、いいんじゃない?」
「純朴そうな、おっちゃんたちだしね」
あれで罠だったらさすがに苦情を入れるぞと言いたくなるくらい、近くで見ると人の良さそうな目をしたおじさんたちだったということもあり、乗せることにした。
接岸してタラップを下ろすと、三人はガチャガチャと音を立てながら船に乗り込んでくる。
武器は手ではなく背中に背負っていることからも、すぐに戦闘をはじめる気配もない。
「いや~すまんな。若いのたち。助かったわい」
「「そうじゃそうじゃ」」
「それはいいんだけど、いったいどこまで送って行けばいいんだ?
遠すぎる場所なら、途中の町までにしてほしいんだけど」
「うーむ……できればでいいんじゃが、わしらをある場所に連れて行ってほしい」
「ある場所って言うのはここから近いのか?」
「少なくとも、ここから一番近くの町に行くよりは近いはずじゃ」
「ってことは、町じゃない場所に行きたいと?」
「うむ。実はわしらはな──」
戦斧の『ボック・トート』、戦鎚の『ポック・トート』、大剣の『ホック・トート』という、なんとも似通った名前をしたこの三人は三つ子の兄弟。
彼らの父親が見つけたが持ち帰ることが敵わなかったという、お宝を探す旅をしていたのだという。
しかし途中でリーサル海賊団に襲われて、船は沈められてしまう。
それでも三人は助かったらしく必要最低限の物だけを持って、なんとかこの島に流れ着くことができた──と説明される。
「えーと、それはつまり、オレたちに宝の場所まで送って行けと?」
「「「うむ!」」」
「うむって……。近くにリーサル海賊団とかいるんじゃないんですか?」
「それは心配いらんじゃろうて、娘っ子よ。
わしらが敵対したのは、はぐれのリーサル海賊団。近くに拠点になりそうな場所もないし、同じ所にいるような連中じゃあない」
「でも見つけたらオレたちはお宝なんて無視して逃げるぞ? それでもいいのか?」
「うむ。そこまで無茶は言わん。できる範囲で送ってくれればそれでいい」
それならいいか……と、若干の不安は抱えながらもトート三兄弟の希望を叶えることにした。
三人でゆとりがある程度の船に六人は狭かったが、トート三兄弟はとても気さくでノリのいいおじさんたちで、ブラットたちも賑やかな航海を楽しむことができた。
それにである。
途中でモンスター海賊に襲われることもあったが、その戦闘にもボックたちは加わってくれた……というより、三人で無双しまくってくれた。
「ぬりゃぁああああ!」
「どっせぇーーいっ!」
「どりゃぁああああ!」
ブラットたちが回避していたような格上のモンスター海賊たちに対し、脅威の跳躍力で鎧を着こんだまま、あちらの船に乗り込み鎧袖一触。
敵の船の上で大暴れし、ブラットたちが加勢する間もなく蹴散らしてみせた。
さらにどういう理屈かは知らないが、本来NPCが倒したときはないはずの討伐報酬までブラットたちに均等に配布されてくるので至れり尽くせり。
敵の船から奪った資材、宝も全てこちらに渡してくれもした。
「いや、こっちは嬉しいけど……本当にいいのか?」
「何度も聞いてくれるな、若いの。わしらの目的は宝の場所に行くこと。それ以外はどうでもいい」
「うーん、でもボックさんたちはこんなに強いのに負けたって、リーサル海賊団ってはぐれでもやっぱ危険なんですね」
「いやいや、あれはちょっと油断しただけじゃわい」
「おい、ボック。調子に乗るんじゃない。あれはさすがにわしらだけじゃ無理じゃっただろ」
「そうじゃそうじゃ、ポックの言う通りじゃわい。あれはリーサル海賊団でも上位の力を持っておったわ」
「ってことは、真ん中くらいの強さならボックたちは負けなかったか?」
「一隻程度なら、まず負けんじゃろう。じゃが三隻以上だと厳しいか。のぉ? ポック、ホック?」
「「うむ」」
リーサル海賊団の中級クラスは一隻なら三兄弟以下、三隻で同等か少し上程度とみなしてもいいだろう。
そうなると中級クラス一隻でも、ブラットたちには厳しい相手と言う他ない。
それだけボックたちは強い戦士たちなのだから。
「ねーそういえばさー! おっちゃんたちって、送った後はどうするつもりなのー?」
「ぬ? どういうことじゃー、スライムっ子よー!」
操舵室にいたしゃちたんが、ふと気になったのかボックたちに問いかける。
「だって宝のある場所に船はないっしょー? どうやってそこから帰るのさー」
「あ、そうじゃん。どうするつもりなんだ? 船もないならせっかくの宝も運べないぞ?」
「また私らが送ってけばいいんですかね?
正直いろいろと物資的に美味しかったから、それでもいいっちゃいいんですけど」
HIMAが現金なことを口にするが、三人はニカッと笑って首を横に振った。
「いんにゃ、それには及ばない。宝さえ見つかれば、あとはどうとでもなる」
「つまり、そういうあれこれも解決できる宝ってことか?」
「がっはっは。それはナイショじゃよ、若いの」
「「ナイショじゃ、ナイショ」」
「なんだそりゃ。まあ、教えたくないなら別にいいけどさ」
どうせ自分たちの宝でもない。
逆に知ったら惜しくなるとブラットたちもそれ以上、宝について言及することなく、三人が指し示す方へと素直に船を動かしていった。
道中リーサル海賊団に絡まれるなんてこともなく、それ以外のモンスター海賊なら三兄弟の敵でもなく、ブラットたちは下手な宝を手に入れる以上の実入りを得ながら、ようやく宝の場所とやらに辿り着いた。
「ここでいいのー?」
「「「おお、ここじゃー!」」」
そこは海に突き刺さるように立った、数十メートルはあろう大きな黒い岩だった。
他には何もなく、とても宝があるようには思えない。
だが岩の周りをゆっくり移動するようにブラットたちに頼んでから、三人は何かを探すように目を細めて大岩を睨みつけ──。
「「「ストーーーップ!!」」」
「わぁあぁあっ!?」
大きな声で静止の声が操船室までビリビリと響き渡り、しゃちたんが慌てて船の速度を落としていく。
「ほれ、あそこに小さなバッテン傷があるじゃろう?」
「ん? ……ああ、確かに」
ボックが指さす場所には、人為的に付けられたバッテン傷が刻み付けられていた。
そこにできるだけ船を寄せるように言うと、ポックが戦鎚を構え出す。
「どっせーーい!」
ある程度傷のある場所が近づくと、ジャンプしながらそこに戦鎚を叩きつける。
すると一部だけが大きく崩れ、洞窟のような穴がぽっかりと現れた。
「うむ、やはり親父殿の言った通りじゃったか。いくぞ! ボック、ホック」
「「おおよ!」」
「若いのらも、気になるようなら来てもいいぞ?
この岩の近くは安全地帯でモンスターは寄ってこれん」
言われて確かめてみれば確かにこの岩場の周辺だけ、なぜかセーフティエリアに設定されていた。
安全ならとブラットたちはアンカーを下ろして船を停泊させ、せっかくなので宝を見せてもらうことにした。
なんだかんだ言って、これほどの強者たちが求める宝というものが三人とも気になっていたのだ。
ボックたちに案内されるように、ブラットたちも穴の中に入り奥へと進んでいく。
すると小さな光る藻のようなものが壁面に張り付いていて、意外と暗くはなく視界は保てていた。
それほどかかることなく最奥までやってくると、そこには絵に描いたような巨大宝箱が設置されていた。
「「「これじゃ……」」」
三兄弟は涙を流しながら膝をつき、宝箱に縋りついた。
ブラットたちは邪魔してはいけないと、静かにその光景を離れて見守る。
しばらくして落ち着いたのか、三兄弟は立ち上がって同時に宝箱を開いた。
するとそこには目が眩むほどの黄金とアイテムらしきもの、そしてモノクルのような縁のあるレンズが中央に大事そうに置かれていた。
「どうじゃ! これがわしらの親父殿が見つけ出した宝じゃ!」
「すごいじゃろう! さすがわしらの親父殿じゃ!」
「まったくよ! 驚いたじゃろ!」
「ああ、凄い宝だな!」
「うん、凄い凄い!」
「やったね、おっちゃんたち! こんなお宝なんてびっくりだよ!」
こんなところで水を差すようなブラットたちではない。
猫の首領の宝部屋の方がインパクトが凄かったが、それを口にするのは無粋というもの。
そっとその気持ちを押し隠し、彼らの宝を素直に称えた。
すると彼らはニカッ──と笑って、ブラットたちに向き直る。
「「「ああ、本当に……本当に……よかった。
ありがとう。ブラット、HIMA、しゃちたん。
わしらをここに連れてきてくれたのが、お前たちで本当によかった」」」
「いや、オレたちもそれなりに美味しい思いはしたんだし気にしないでくれ。
それで本当に、オレたちはここで帰ってもいいのか?」
「そうだよ。凄いお宝だけどさ、こっから帰れるような物はなさそうじゃん」
「送ってほしいなら送ってきますよ。それこそもう、乗り掛かった船ってやつですし」
HIMAがしゃれたことを言うが、三兄弟はニコニコと笑ったまま黙って首を横に振った。
なんといえばいいのか。ブラットたちは正直その笑顔が恐くなってくる。
これまでの道中でのカラッとした笑いではなく、今の彼らの笑いはまるで人形のようであったから……。
「「「ありがとう。その気持ちだけで充分よ。
これでわしらも、気持ちよくいける」」」
「行けるって、いったいどこに……。船だってないのに」
ブラットがその言葉を投げかけると、彼らの笑顔が電気を消したかのようにフッと消え────三人そろってこう言った。
「「「──あの世だよ」」」
「「「……え?」」」
三兄弟の体が光の粒子となって、サラサラと消えていく。
ブラットたちはいったい何が起こったのかと、ただただその光景を見守ることしかできなかった。
そしてガラガラガラ──と音を立てて、彼らが身に着けていた兜や鎧、武器だけがその場に転がった。
「え……っと、え? おっちゃんたちは?」
「……ボックさんたち、最後に〝あの世〟って言ってたよね? ブラット」
「あ、ああ。ってことはまぁ……うん、そういうことだったんだろうな……」
「え? ええ? どういうこと?」
「つまりね、しゃちたん。ボックさんたちは最初から──」
イベント名──『トート三兄弟』。
彼らはリーサル海賊団によって、その命を落とす。
だが命尽きるそのときまで父が無念の死を遂げてまで残した宝を追い求め、ついに三兄弟は亡霊と化した。
その亡霊は死した場所近くのどこかに現れ、近くに来た船乗りに乗せてくれと頼むようになる。
──もしここで船に乗せなければ、彼らは生前の力をも大きく超えた最強の怨霊となってその船乗りたちを殺し船を沈めていただろう。
船に乗せると、彼らは宝の場所まで連れて行ってほしいと頼んでくる。
──もしここでその頼みを断れば、彼らは怨霊と化して船乗りたちを殺し船を沈めていただろう。
頼みを聞いたからと言って、まだ安心はできない。
彼らはとても強く、同乗すればとても頼もしい味方になってくれることだろう。
──だがそれゆえに調子に乗ってワザと遠回りをしたり、当たり前のように彼らから物資を受け取れば、途端に機嫌を損ねて彼らは怨霊と化し船乗りたちを躊躇なく殺すだろう。
道中も誠実に彼らに接し宝はすぐそこ。だがここで安心してはいけない。
──宝を一緒に見ないかと言われたとき、断れば彼らは怨霊と化す。
──宝を一緒に見に行って、先に宝箱に触れようとすれば彼らは怨霊と化す。
──宝箱が開かれ、その中の物に手を触れようとすれば彼らは怨霊と化す。
──彼らが宝を称賛し同意を求められたとき、同じように宝を称賛しなければ彼らは怨霊と化す。
これらを乗り越えてようやく、船乗りは彼らの身にまとっていた装備と宝を手にすることができる。
ブラットたちは「ホラーちっくだったけど、ただ連れて来るだけの簡単なイベントだね~」などと思ったようだが、その間に七度もの確定死の爆弾を抱え込んでいたことを知らない。
そしてブラットたちがそのことを知ったのは、イベントが終わった後のことである──。
次は火曜日更新です!




