第五九話 報告会
何隻かはぐれた猫海賊団の残党を見つけ狩りをしながら次のポータルの島を目指し、その途中で猫海賊団の大型船に見つかり逃げたりと、そこそこ慌ただしくしながら回り道をしてなんとか当初の目的地に着くことができた。
今は練習がてらブラットが操船し、HIMAやしゃちたんのナビゲートを聞きながら空いている場所に停泊していった。
「ここはでっかいうえに町まであるんだね」
「NPCが普通にいるしな」
「でもプレイヤーの数は前より少ないみたい」
「あっちは初期スポーン地点の近くだから、余計にプレイヤーが集まったんだろうね」
船を降りてみればそこは港町。
にぎやかな声を上げるNPCたちが、そこで町を作って暮らしているようだ。
そこにプレイヤーたちも混じってNPCたちに客が取られないように、けれど自分たちが損をしないように交換レートや値段を決めて、商魂たくましくここでも活動していた。
プレイヤーの数は少なくなっているが、NPCの住民たちによって賑やかさならこちらの方が上だ。
「えーと……他の同盟パーティもポータルに寄れる場所にいるみたい。
ゲーム内時間であと三〇分後に、前のポータルの島で地図の同期をしようってさ。
そのときに情報交換もできたらって感じらしい」
「ザラタン以外の情報を持ってきてくれるといいなぁ」
船ごとポータル経由で移動はできないが、プレイヤーだけなら簡単に解放したポータルの地点を行き来できる。
ポータルのある島周辺は安全地帯でモンスターが湧くこともなく、PVPでもないので船に攻撃や侵入をする者もおらず放置しても安全だ。
盗人のNPCがいる可能性はゼロではないが、船が止められる場所は人目が多く盗みができる状況でもないので、その心配もない。
なので東南北に向かった三パーティとも、出会った島に行けば苦労なく落ち合えて地図も互いに共有できる。
まさにPVEならではな協力方法である。
「それじゃあ、船の収納を圧迫してる素材系は全部放出しちゃおうか」
「今後もアイテムが増えてくこと考えたら、船の拡張も視野に入れたほうがいいのかな」
「けど大きすぎると三人じゃカバーできなくなる場所が絶対に出てくるだろうし、いい塩梅に収めとかないと」
大きすぎれば三人の目が届かない場所が出てきて、そこから敵が攻撃や侵入を──なんてことも十分に考えられる。
拡張すれば収納容量も増えるが、その前に自動運転なども視野に入れて、できるだけ少人数で回せるような環境を整えてから考えたほうがいいだろう。
ブラットたちはそんなことを相談しながら、換金アイテムと自分たちでは使い道のない素材アイテムを持ち、時間が来るまで港町を巡っていった。
ゲーム内時間で三〇分経った頃合いで、ブラットたちはポータルを使って同盟を組んだ島にテレポートする。
既にパペットデーモンの『マイキー』率いる『パペットモンスター』と、サソリ男の『ヤブレカブレ』率いる『微笑みの甲殻』がポータルの近くで待っていた。
残りのメイド服カンガルーの『ルールゥ』率いる『Zooooo!』も、ブラットたちから遅れること一分程度で合流を果たした。
「それじゃあ、まずは地図の同期をしてから報告会といこう!」
この同盟の発起人であるマイキーが進行役を買って出て話が進んでいく。
まずはそれぞれの地図を照らし合わせたことで、ブラットたちはまだ未知なはずの東南北の地理情報を大幅に更新することができた。
すると他のパーティは概ね真っすぐ進んでいるのに対しブラットたち『Ash red』だけ、やたらグニャグニャとした軌道を描きながら地図を埋めていっているのがパッと見ただけですぐわかった。
「なんかオレたちだけ、めっちゃウロチョロしてるな。
他の皆はアジトに乗り込んだりとかしなかったのか?」
「え? そっちはもうアジト攻略に手を出してるの!?
こっちはもう少し船を強化して、ポーションとか集めてからやった方が~って相談してたんだけど」
「うちはこの報告会が終わったら、アリの海賊団のアジトに乗り込むつもりだ」
「うちはそもそも、まだどこのアジトの情報も得てない。
というか、そんなに簡単に得られる情報なのか……」
『Zooooo!』はアジトの情報は得ているが準備中で、雑魚狩りをしながら力を蓄え地図を広げていた。
『パペットモンスター』は自分たちなりに準備を一通り終えて、何か有効な情報があるかもしれないと報告会まで待っていた。
そして『微笑みの甲殻』は運が悪いのか、どこの海賊団のアジトの情報も得られておらず、もしかして自分たちは遅れてしまっているのではないかとメンバー全員が不安そうな顔になっていた。
「はじまったばかりだし、まだ遅いだの早いだの語る段階じゃないだろ。
ってことで、それじゃあまずは言い出しっぺの俺たちから現状報告していこうと思う」
『微笑みの甲殻』のフォローをしてから、マイキーから報告をはじめていく。
今のところ彼らの一番の収穫は、船ごと転移できる巨大ポータルの島を発見したことだった。
だがそのためにはもう一つ同じ巨大ポータルのある島を見つけなければ意味はないので、まだ有効活用はできないのだが。
あとはアリ海賊団のアジトの場所。これはパペットモンスターたちが攻略してしまった場合、どうなるかは不明だがブラットたちも位置は確認しておいた。
このようにしてマイキーは、他のパーティたちが地図を自分で細かく見ていけばわかりそうな情報の中で、有用なものをピックアップして軽く説明してくれた。時間にして五分もかかってない。
彼としては同盟と言っても、この程度の情報でいいという見本のつもりでもあった。
「って感じで俺たちは、まだ四つの危険については何一つ情報は得られなかった。
それじゃあ次はどこが説明してくれる?」
「んじゃあ、オレたちがやるよ。こっちは──」
この同盟で最も重要な四つの危険についての情報もあるので、さっさと発表してしまおうとブラットが手をあげ、マイキーと同じようにまずは簡単に他のプレイヤーたちにも有用そうな地図情報を説明していく。
それが終わるとドレークの冒険記を取り出した。
「あ、それドレークの冒険記じゃん。私らも十一巻だけ持ってるよ」
「オレたちは一、三、六巻の三冊だな。
アジトのボスを倒したら人数分手に入ったから、そこは確定で手に入れられるのかもしれない。
ちなみに教えてもいいなら教えてほしいんだけど、ルールゥたちはどこでそれを手に入れたんだ?」
「私たちは釣りだね。敵が来なくて暇だから釣りしてたら、いきなり黄金のフグみたいな魚がヒットして、結構強かったけど倒したら高級魚肉と一緒にドロップしたの」
「そういう入手方法もあるのか」
「ちなみにここでその本を出したってことは、その本は四つの危険について書かれてたりするのか?」
これは重要そうな情報だと、ヤブレカブレが前のめりでブラットとルールゥに問いかけてきた。
一瞬視線を交わしてどっちが先に言うか確認し、今はブラットの番だからと手の仕草で先を譲られた。
「ああ。おそらくこの【ドレーク冒険記】ってのを集めていけば、四つの危険についての情報が集まると思う。
実際にこっちが手に入れた六巻には、ドレークが過去に出会った危険の一つ『ザラタン』についてと、その目撃場所の座標まで書かれていたからな」
「ちなみに十一巻にはリーサル海賊団との……って言っても、その一番下っ端の雑魚たちだけど、そのときの戦いについて書かれたよ。
リーサル海賊団の中では最弱の海賊相手だったみたいなんだけど、書かれている限りだとそうとう苦戦したみたい。
リーサル海賊団自体のアジトなんかの情報はなかったけど、その後も関わっていくことになっていくとは~みたいな思わせぶりな書き方がしてあったから、十一巻以降のどれかには本拠地の座標とかも書かれてるかもしれないね」
「他にも三巻だと、どこそこの海域はこんなところ~みたいな有益な情報も載ってたな」
「ふむふむ。ってことは、このイベントにおいてかなり重要そうなアイテムってことになりそうだ。
アジトのボスを倒したら確定かもって話だし、こりゃアリどもを気合入れて倒さないとな」
あとは軽く船防材なんかの話もオマケで付け加えて、ブラットたちの説明も終わる。
そして次は、話の流れもあって『Zooooo!』の番に。
こちらは進行方向に厄介な海域があり、そこには船の強度が〝5〟以上でないと船がダメージを負い続ける魚の群れが常駐しているらしい。
ブラットたちの船なら大丈夫だが、彼女たちは最初知らずに入ってさっそく船が沈みそうになったんだとか。
「あと船操材っていうのを落とすモンスターが、この辺りにいたんだ~」
「船操材ってことは、操舵性が上げやすくなる素材か」
「そうそう。なんかクラゲ怪人みたいなやつらで、船の形が丸っこいからすぐわかると思うよ」
ブラットたちとは真逆の東の海域に出たとのことだが、他で出ないとも限らない。
クラゲ怪人を見つけたらとりあえず喧嘩を売ってみようと、HIMAやしゃちたんと頷きあった。
あとはドレーク冒険記について、先ほどより少しだけ詳しく話してくれた。
「十一巻の冒険記に書かれてたリーサル海賊団最弱の海賊の船長は、オーク系だったみたい。
あと重要なポイントとしては、六つのドクロで円を描いた中央に真っ赤な剣のマーク──ってのがリーサル海賊団のシンボルらしいよ。
下っ端でも強いらしいから、もしそんなマークを見かけたら、逃げるなり警戒するなりしたほうがいいね」
これはかなり重要な情報だった。
ブラットたちも忘れないようリーサル海賊団のシンボルについて、しっかりとメモアプリの目立つところに書いておいた。
これで『Zooooo!』たちの報告も終わり、最後に『微笑みの甲殻』の番がきた……のだが、なんだかパーティメンバー全員暗い顔をしていた。
かと思えばリーダーのヤブレカブレが、他三つのパーティに対して頭を下げた。
「すまん! 皆いい情報を持ってきてくれたってのに、俺たちはまだ何の情報も得られてない!」
「いやいや、いいって。この同盟は、そんな堅苦しいのじゃないって最初に言ってただろ?」
「たまたまそっちの方角がそうだったってだけだろうし、気にすることない」
「そうだよ~」
マイキーが率先してフォローに周り、ブラットとルールゥもそれにのっていく。
こんなことで悪いと思わてしまったら、今後もし次に報告会ができたとき何の情報もない場合は自分たちが気まずいじゃないかという打算も込めて。
だがヤブレカブレはかなり気真面目な性格なようで、重要な情報もあった中で自分たちだけ、ただ何もなかったという海の地理情報を渡しただけでは気が済まなかった。
「だから海の情報とは関係ないが、俺が個人的な伝手で……というかリアルでの姉貴に教えてもらった情報を聞いてほしい」
「いや、聞かせてくれるなら聞くけどさ。それ俺たちに言っちゃってもいい情報なのか?」
「ああ、大丈夫だ。教えたいなら教えてもいいって言ってくれてたから」
そこまでしなくても……とはブラットたち『Ash red』含め他も思っていたのだが、それでは気が済まないと半ば強引にヤブレカブレは話し出した。
彼の現実世界での姉はBMO開始当初からやっているベテラン勢で、今もイベントマップをどんどん開拓しているようだ。
「そんな姉貴によると、実は港町には必ず『船大工』のNPCがいるらしい。
その船大工は今回のイベントの船の改造ができるらしくて、コアによる強化とは別枠で船の基礎能力を上げたりなんかもできるとか」
「港町っていうことは港がある町、つまり港がない町だった場合はいないのか?
俺たちが見つけた巨大ポータルの町は、港がない普通の町だったんだが」
「ないはずだ。港がある町限定でいる、NPCだって言ってたからな」
「マジかぁ」
マイキーたちは島の中にある普通の町は見かけたが、港町はまだ見つけてないらしい。
一方でブラットたちとルールゥたちは、まさに港町からここまで来ていた。
「今オレたちはちょうど港町にいるし、帰ったら探してみようかな」
「私たちもそうしよっかな」
「ああ、そうしてみるといいかもしれない。だが注意事項もあってな──」
今回のイベント専用船の改造ができるNPCの船大工には、五段階のランクが存在する。
ランク1は依頼料は断トツに安いが、できる改造も少なく失敗する可能性がかなり高い。
それだけにあきたらず、このランクだとお金だけ受け取り逃亡する不届き者までいる。
ランク2は料金が少しだけ上がり、ランク1の船大工を少しマシにした程度の実力と大して変わらない。
けれど一度仕事を請け負えば絶対に最後まで仕事はしてくれて、このランクからお金を持ち逃げする者はいなくなる。
ランク3は手ごろな値段でそこそこの改造を請け負ってくれるが、簡単な改造以外は失敗することもある。
ランク4はそれなりなお値段で仕事を請け負い、通常クラスの改造までは失敗することはない。
ただ最高クラスの改造ともなると失敗することもある。
そして最高ランク5。
親方とも呼ばれる船大工は高額な依頼料を必要とするが、どんな改造でも絶対に失敗しない。
さらに確定で名人補正がかかり、改造結果が他のランクの船大工が成功させたときの1.5倍になる。
お金があるのなら親方一択だと言っていいほど、他とは段違いの腕前だ。
「ただ親方ともなると金だけじゃ動いてくれないらしくて、何か一つ要望を聞いて叶える必要があるらしい。
NPCによってそれぞれ違うが、俺の姉貴の場合は酒ダル百個用意してくれとかだったみたいだ。
おかげであちこちから酒をかき集めたり、酒が作れるプレイヤーに頼み込んだりと大変だったとかなんとか」
「それは……めんどくさいなぁ」
「確かに、私らのところでそう言われたら別の人探すかも」
ブラットたちが顔をしかめると、ルールゥもそう言って同じパーティのメンバーたちと相槌を打っていた。
「それも選択の一つだと思う。けどこれだけは覚えておいてほしい。
ランク5の船大工……つまり親方は一つの港町に一人しかいないから、その場合は島ごと別の所を探すことになる。
一度聞いた要望はそこで確定になるらしいから、死んで戻ってきたりしても変わらないみたいだしな」
「「「うわぁ……」」」
これハズレの親方引いたら面倒くさいやつだと、今度はこの場の全員が辟易した表情をとる。
だが情報としてはかなり有用ではあった。もしここで聞いていなかったら、ブラットたちはさっさと港町での用を済ませ出ていくつもりだったのだから。
面倒くさそうな要望なら一旦保留にして、別の親方を探しに行き親方ガチャをするなんてことも選択肢の一つになったのは大きい。
なんなら親方でなくとも、簡単なものなら頼むというのも有りだろう。
ヤブレカブレたち『微笑みの甲殻』の情報はそれで終わり、報告会も有意義なものだったと満足しながら、またすぐにそれぞれの場所へと帰っていく。
ブラットたちも特に無駄話もないまま、手を振りポータル経由で自分たちの船を置いてきた港町に戻った。
「それじゃあ、ここを出てく前に、まずはこの町で船大工の親方を探してみよう」
「ここの親方がどんな要望をしてくるか、なんだか今から恐いなぁ」
「楽なのだったらいいよねー」
船にドレーク冒険記などのいらない物を一旦しまいこみ、三人は港町のそれらしいところを目指して歩き出した。
次は一日(土)更新予定です。良いお年を。




