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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第五八話 取得物

 何はともあれ勝ちは勝ち。ありがたく報酬をいただくことにする。

 まずはもちろん目の前の首領からドロップした、それぞれに一つずつある宝箱──ではなく、首領の乗ってきた小型船あさりから。

 船は戦闘している間にコアが復旧していたので、いつでも動かせる状態。敵船が見えたら逃げる準備は既にできている。

 ならば持っていけない敵船から手を付けたほうが、取り逃しもなくていいだろう。



「あいつの部下たちは追ってきてないみたいだし、今のうちに回収しちゃおう」

「あの船から、船速材がまた手に入るかもね」

「他にもなんかお宝が入ってたりしないかなぁ」



 しゃちたんの望みもむなしく、小型船には目ぼしいお宝は一切なかった。精々が非常用の食料が少しばかりといったところ。

 だが目的であった『船速材』と、シップコアは手に入ったので文句はない。

 ぱぱっと小型船の探索を終えて壊してから船に戻り、もう一度周囲を警戒しながら少しその海域から離れてから、いよいよお楽しみの宝箱解放にとりかかった。

 明らかな格上だっただけに、報酬も期待できる。



「この宝箱を開ける瞬間のワクワクは、いつ味わってもいいものだ」

「ふふっ、そうだね。何か面白いものが入ってたらいいんだけど」

「なっにが出るかなぁ~♪」



 ボスが落とした宝箱は三つ。だがきちんとブラットたちに割り当てられた宝箱でなければ、開かないようになっていた。

 つまりブラットがHIMAの宝箱を開けようとしても無理だが、自分の宝箱なら簡単に開けられるということ。

 三人とも期待に胸を膨らませながら、あの海賊団の首領の戦利品を確かめるべく一斉に自分の宝箱に手をかけた。



「おーっ」「「わぁ!」」



 箱の中身は少なくないお金とイベントポイントのオーブ、ポーション類の数々やそれらの素材、職業解放に必要なRPがプラス10。

 それに加えてアイテム類が数点。ボス一体倒しただけと考えると、かなり美味しいラインナップだった。


 それぞれのアイテム中でも特に目を引いたのは──。

 ブラットは【猫首領の海賊帽】【猫首領の眼帯】【攻破の指輪[3]】【ドレーク冒険記 一巻】。

 HIMAは【氷水瀑の変幻槍】【アディショナルディスク】【攻破の指輪[3]】【ドレーク冒険記 六巻】。

 しゃちたんは【粘体熱光線眼】【スライムチ】【守護の指輪[3]】【ドレーク冒険記 三巻】。



「海賊帽に眼帯って、またオレの格好が変なことになりそう……」

「今はサクラさんの衣装があるからいいけど、またそっちを進化素材探し用のサバに持ってったら体操服マントに海賊帽眼帯少年?

 いろいろ、ごちゃまぜになってもうわけわかんないね」

「あははっ、おもしろそー。今度そのスクショ撮らせてよ」

「やだよ。ったくもー」



 【猫首領の海賊帽】は防御力小上昇に加えて、HPを消費して発動する【バトルオーラ】というダメージ軽減、スタミナ消費軽減、AT(攻撃力)AGI(素早さ)が小上昇するスキルが装備中使えるようになる。

 【猫首領の眼帯】は防御力微上昇し、着けた方の視界が塞がれた上に装備中のみ【雌伏の心】というスキルが強制発動する。

 これは全ステータス微低下に【軽鈍化1】という動きが少しだけ鈍くなるデバフがかかるが、その間MPとスタミナが少しずつ貯蓄されていき、眼帯を外し【雌伏の心】を解除したときその全てが自身に還元されるという溜めスキルの一種だ。

 雑魚戦で溜めて、強敵に立ち向かうここぞというときに解放──なんてこともできるだろう。


 ただしどちらも衣装扱いなので、サクラに作ってもらった衣装のセット効果を無くしてしまう。

 イベント終了後は体操服、マントと一緒に使うことになりそうだ。



「どう?」

「うーん、眼帯は意外と似合ってるかも?」

「サクラさんの衣装はそれだけで完結するようにデザインされてたから、帽子はちょっと絵面がうるさいかも。眼帯のデバフは大丈夫そう?」

「うん。これくらいなら雑魚戦で着けたままいけるかも。

 ただやっぱ視界が狭くなるのはストレスだけど」



 眼帯を着けた瞬間発動したスキル【雌伏の心】は、胸のあたりをグッと常に押されているような圧迫感と、全身に軽い気だるさを覚える程度のデバフがかかるが、通常時では耐えられないほどではない。

 だが片目を覆ったことで死角が大幅に増えたのは厄介だ。



(これと【バトルオーラ】ってやつはBMOじゃ眼帯と帽子がないと私は使えないけど、発動する感覚を覚えておけば別になくても零世界で使えるかも。

 あっちには職業もスキルもないんだし)



 そういう意味ではスキル付きのアイテムは、ブラット的にかなりありがたい物だった。

 軽く性能とおしゃれ度チェックを済ませ、次のアイテムを調べていく。


 【攻破の指輪[3]】は、ATとMATを攻撃行動一回分だけ極大上昇させるアイテム。

 ただし[3]という数字が示すように、三回使うと壊れてしまう。

 しゃちたんが手に入れた【守護の指輪[3]】は、そのDFとMDF版だ。

 ここぞというとき、いざというときに使うアイテムだった。



「HIMAのその槍は、今回のイベント中ならけっこう使えそうって感じ?」

「そんなことないよ、ブラット。これ素の実力の私でも、けっこう嬉しいやつだったもん」

「え? あのもともとのHIMAが使ってた、キラキラの槍と同程度ってこと?」

「それは違うよ、しゃちたん。本来の私のメイン武器と比べちゃうと、火力は使い物にならないレベルなんだけど、この特殊能力がけっこう嬉しいやつだったんだよ」



 【氷水瀑の変幻槍】の見た目は水滴が常に滴る、中二心がくすぐられそうなデザインの氷の槍といったところ。

 中々にお洒落な槍ではあるが純粋な武器としての性能は、本来のHIMAの武器と比べてしまうと正直いらないレベルだった。

 だが変わった、それこそまだプレイヤーの鍛冶師や錬金術師たちのアイテムでは再現できない特殊な能力が備わっていた。



「属性変換能力。私の火と爆発のスキルを、水と氷のスキルに変換して行使できるようになるっぽい。

 変換効率は少し悪いみたいだから余分にMPやらSTを取られちゃうみたいだけど、炎耐性とか爆発耐性持ちと戦うときは、めっちゃ使えそうなんだ」



 槍としての能力は低いが、それもイベント後に持ち帰り、この槍をベースに使えるレベルまで改良してもらえばなんとかできる。

 HIMAの所属するクランの鍛冶師にはBMO全体でも有名なプレイヤーがいるので、その子に頼めば一から再現は不可能でも、そういう改造はできてしまうのだ。



「へぇ~、既存の装備品を改造することもできるんだ。このゲームって」

「うん、できるよ。お気に入りのドロップアイテムとかを、少しずつ改良してもらってる人とかもいるし。

 その分、お金が余計にかかることになる場合がほとんどだけどね。

 というか私としては、しゃちたんが手に入れたアイテムが凄い気になってるんだけど……もしかしなくてもそれってさ」

「うん。なんかあのレーザーが撃てるようになるみたい」



 【粘体熱光線眼】。柔らかなゴムボールのようなブニブニとした触感で、見た目はSFチックな生々しくない機械の瞳。

 装備中にのみ【ガンレーザー】という運営側が眼球のがんとかけていそうな、微妙な名前のレーザーが撃てるようになる。


 試しに装備しようとしゃちたんがそれを触手でつかみ、コンタクトを入れるかのように自分の宝石のようにキラキラと光る真ん丸な右目に近づけた。

 するとにゅるんと機械的な瞳が吸い込まれていき、右目の色が緑がかっていく。



「しゃちたん、今オッドアイみたいになってるぞ」

「え? まじで!? 見たい見たい!」



 船室にある小さな鏡で自分の目を確認しに行く、しゃちたん。

 左目はこれまで同様一般的な虹色に輝く瞳だったのにたいし、【粘体熱光線眼】を装備した右目は緑が強い虹色に輝いていた。



「くらえ! 【ガンレーザー】! ──ぷしゅう」

「あらら、けっこうMP消費するみたいだね」



 意気揚々と船室から出ると、空に向かって右目から緑色のレーザーを発射。

 しかし一発撃っただけでMPが尽きて、空気が抜けた風船のようにぺちゃんこになってしまう。

 スライムは魔法生物なので、BMOの設定的に魔力で動いていることになっている。

 なのでMPが完全にゼロになると全く動けなくなるのだ。



「うーん……固定じゃないから自分で威力も調整できるっぽいし、今の私だと普段は弱ビームにして使ったほうがよさそう」

「さっきの威力は結構なものだったんだが、それならしょうがない」



 ちなみにもう一つの装備アイテム【スライムチ】。これは見た目グミでできた鞭のようなアイテムで、体の中に取り込む形で装備できる。

 装備中は腕の役割になっている二本まで出せる触手に加えて、より長射程な長い三本目の触手を鞭として扱うことができるようになる。

 ただしこちらは本来の触手のように、手のように物を摘まんだりなどはできない。

 本当に鞭のように振るわないと動かない、攻撃用の触手といったところである。



「これでわかりやすいアイテムは調べ終わったわけだし、私が手に入れた【アディショナルディスク】をコアにインストールしてみちゃう?」

「あのジャンプできるようになったやつと同系統のアイテムか。

 けどなんでHIMAは装備アイテムが一個しか入ってなかったんだろう。オレもしゃちたんも、二つずつ入ってたのに。

 それに他のだってオレたちのより素材系が多かったし、アディショナルディスクだとイベントが終わったら意味なくなるアイテムだしさ」



 HIMAだけ微妙に個人としての報酬が低い気がして、ブラットはそんなことを口にする。

 船の強化は個人ではなく、パーティ全体の報酬のようなものなのだから。



「うーん……三人のラインナップを見ると、そのプレイヤーにとって使えそうな物に限定されてるでしょ?

 私の場合はイベント仕様で弱体化されてるだけで、本来はあの猫の親玉とだってタイマンで勝てるくらいだしね。

 あの猫からドロップする中で私が欲しがりそうなものが、他に抽選できなかったんじゃないかな。実際に船の機能追加は私も嬉しいし」

「なるほどねぇ。てか何気にちゃんと、プレイヤーの情報を見てアイテムとかくれてたんだ」

「普通はあんまないけど、イベントだからそういうのも良い感じに設定してるんだろうな」



 話がついたところでアディショナルディスクをシップコアに投入。何が追加されるかはインストールしてからでなければわからない。



「アクション『ジェット』?」

「舵輪に追加されたボタンを押すと、一瞬だけ加速するだって。一〇秒間のクールタイム付きらしいけど」

「やってみよ!」



 インストールしてすぐに表示された説明文を読むや否や、しゃちたんが意気揚々と操舵室へと乗り込みボタンとやらを確認しに行く。


 すると車のハンドルで言えばクラクションを鳴らす場所に、でかでかとクイズの解答権でも得られそうな赤いボタンがくっついていた。



「だ、だせぇ……」

「もう少し……うん、せめてもっとコンパクトにしてほしかったかなぁ」

「うわーん! なんか違和感凄いんですけどぉーーー!」



 ずっと操船を買って出ていたしゃちたんが一番ショックを受けていたが、『ジェット』の性能への興味が勝ったのかピョンと丸椅子に飛び乗った。

 これでしょぼかったらどうしようと彼女は思いつつ、アクセルを踏んで船を動かしていく。

 そして触手でポチッとボタンをプッシュしてみれば、──グンッと急加速してすぐに速度が落ち着いた。

 時間にしてジェットの発動は一秒程度。その間に進める距離も大したことはない。だがハズレかと言われると、それは少し話が違ってくる。



「これジェットを発動する前の速度に戻ってないな」

「うん。この船が出せる速度なら、そのまま維持できるみたい」

「ってことは、初速でかませばトップスピードまでの時間が短縮できるってことね。いいじゃん」



 どうしても発進時にはもたついてしまう船だったが、少しでも動いていれば使えるアクションなので、動き出しと同時に使うことで直ぐに速度に乗ることができる。

 さらに、まだこのアクションには利点があった。



「ジャンプと併用することもできるのか」

「おもしろーい!」



 やるにはコツが少しいるが航行中ジャンプで船が浮いたところでジェットを使うと、水の抵抗がない分、空中でより速く遠くへ移動できた。

 うまく速度が乗っていないときにやると着水時の沈み込みが大きく、逆に全体の速度ダウンに繋がることもあるが慣れれば充分実用的だ。



「迫撃砲のときみたいな面攻撃はきついけど、範囲の狭い攻撃なら緊急回避にも使えそうだ。

 運転はしゃたちたんがメインでやってくれてるけど、オレたちもある程度慣れておいた方がいいかもしれない」

「しゃちたんが運転できない状況だって、実際にあったわけだしね」

「他の事ならともかく、この船の運転についてはアドバイスできると思うよ」

「ああ、困ったときは一番に聞くことにするよ」

「任せてよ」



 ということで交代交代で漠然と西に向かって運転しながら、今度は操舵室で冒険記について話し合う。

 【ドレーク冒険記】というのは、この世界(イベントマップ)の海を唯一渡り抜き、見事世界一周してのけた凄腕の船長にして冒険家だった男が、その道中でどんな体験をしたのかを記載した書物。


 ブラットが手に入れた一巻には、よくはわからない凄そうな経歴にドレークという男がどういう人間だったのかという、こちらとしてはさほど興味のないことが主に記載されていた。

 しかしその最後の一文に、四つの危険にも出会いながら生き残った奇跡の男という記述が読み取れた。



「つまりこのドレークの冒険記を集めることで、このマップについての色んなヒントを得られるようになるんだと思う」

「ここのマップをぐるっと回ったって設定だしね。それっぽいのがあったら、積極的に集めてもいいかも」

「四つの危険も体験して生き残ったらしいしねぇ。対抗策なんかも、わかるといいなぁ」



 続いて、しゃちたんが手に入れた三巻。

 これはとある海域では抜けきるまで速度〝6〟以上を保ち続けなければ、船の制御ができなくなって元来た海域に押し戻されてしまうという内容が座標付きで載っていた。

 試しに自分たちが持っている地図で座標を確かめてみれば、このまま西に進んでいくといずれ辿り着くことになるであろう場所だった。

 またその一番近くのポータルがある島の位置までご丁寧に書いてあるので、一度そこに寄って準備してから行くのがいいのかもしれない。



「逆の意味で速度制限のある海域か。この船だとトップスピードで入って抜けるまで維持できれば、行けそうだ。速力は今6だし」

「けど途中でモンスター海賊や水棲モンスターが襲ってくることもあるって書いてあるし、ただ走り切るだけってことはなさそうだね」

「今のところギリギリの速度ってのも心配だなぁ。

 できればそこまでに速力を〝7〟まで上げておければ安心かも」

「だな」「だね」



 そしてHIMAが手に入れた六巻。これには、こちらが本当に求めていた存在について記載されていた。



「島だと思って近づいたら、それは恐ろしいほど巨大な亀のモンスターだった──。

 これは『ザラタン』のことだと思ってよさそうだ」

「ドレークさんが昔目撃したっていう座標だと、三巻に載ってた海域を抜けたさらに西側──私たちが同盟で担当してる方角にあるよ」

「それじゃあ、私たちが最初に見ることになるのは大亀ってことになりそうだね」

「載ってる内容からして、相当ヤバいみたいだけどな。どこの怪獣映画だよってレベル」



 海底に足が着くほど大きく、立ち上がれば小山のよう。

 口から恐ろしい破壊光線をまき散らし、前足を軽く振るうだけで大波が立つ。

 尻尾を叩きつければ海が割れ、こちらを引きずりこむような大渦をも作り出す。

 ドレークたちも戦闘はせず、すぐに逃げ出すことでなんとか船は沈むことなく難を逃れたとのこと。



「じゃあ見てもすぐに逃げれば、なんとか逃げ切れるってことなのかな?」

「とは言ってもドレークさんたちの船の詳しい性能が、わかんないしなぁ。

 何か逃げるときに使った特殊な機能とかあったかもしれないし」

「他の巻を見つければ──例えば空いてる二巻とか四、五巻なんかに、どういう設備の船だったのかわかるような記述とかあるのかも」



 とりあえず今はまだわからないので、一旦ドレークの冒険記についての話はここで打ち切った。



「でもま、とりあえずうちは『ザラタン』を目指してみようか」

「その前に、いらないアイテムは売るなり交換なりどっかでしたいなぁ。

 ほら私はブラットとしゃちたんと違って、素材系のアイテムも多かったし」

「あ、じゃあこれあげるからナビしてよ。猫のアジトで見つけた地図なんだけど、近くのポータルがある島が書いてあったんだよ」



 しゃちたんが今思い出したとばかりに、アジトでかっぱらってきた地図を二人に向かって差し渡す。

 するとそこにはあのアジトから近場の、ポータルがある大きな島が記載されていた。

 そこは地図が正しければ、最初に寄ったポータルの島より大きいところのようだ。



「じゃあ、まずはそこに寄るとしよう。

 ついでにそこで他の同盟メンバーたちの近況も確かめられるといいかな」

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