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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第五四話 隠し通路

 船を狙われでもしなければ、当てられるような攻撃は何一つなく大した脅威はなかった。

 ただ非常に硬く、倒すまでに無駄に長い時間がかかってしまった。

 けれどそれだけ倒すのが大変ならば、さぞ報酬はいいのだろうと期待していたブラットたちだったのだが……。



「しょ、しょっぱい……しょぱすぎる……。なんなん、こいつ……」

「あんなに時間かかったのに……」



 討伐によって得られたイベントのポイントは、一体当たり〝30〟。

 討伐時間で言えば、もっと素早く倒せるデスキャットマンは〝200〟だったのに対してである。

 ならばポイント以外にドロップアイテムがあるのかと言えばそんなこともなく、時間がかかるだけの面倒な相手でしかなかったということだ。


 ぶつけどころのない虚無感にさいなまれながら、しゃちたんをパーティチャットで呼んで、来るまでの間に船内の探索もはじめていく。

 もしかしたらモンスター自身は不味くても、船の中には美味しいお宝が隠されているのではと期待しながら。



「う、うーーん……微妙」

「悪くはないと思うけど……ねぇ?」



 猫海賊団を一隻落とすよりもずっと時間がかかった割には、船内の宝も同等かむしろ少し悪い。

 微妙な気分でしゃちたんが来るのを待ってから自分たちの船に戻れば、鉄の船がバラバラと崩れその残骸が抜き取ってきたコアに吸収される。



「おかえりー──って、その顔だと成果は望み薄みたいだね」

「うん。あいつを狩るのは効率が悪すぎだった。コアの中に入った船の資材も小さいし大したことは──あれ?」

「どうしたの? ブラット」

「えっと、これさ──」



 取ってきたコアを自分たちのシップコアに送信し、まだ直り切っていない船の修理をしようと操作したとき、ブラットはいつもと違う点に気が付いた。

 これまで普通の船を壊して自動収集された残骸は、『船材』とだけ表記されていた。

 だがあの金属質な船が壊れたときに回収された残骸には、『船防材』と見たことのない表記になっていたのだ。



「船防材って言うくらいだし、もしかして……………………やっぱり、これ使って他の強化をしようとすると全然必要数を満たせないけど、船の硬さを上げようすると他の資材よりグッと少ない数で必要数を満たせてる」

「特定の強化だけに特化した資材もあるってことかぁ。操舵性とか速度とかのもあるのかも」

「そう考えると船を頑丈にできるなら大助かりだし、時間がかかってもあいつらは倒したほうがいいってことになる? もしかして」



 しゃちたんの疑問にブラットは引っかかりを覚え、顎に手を当て考える。

 ゴーレム自体との戦闘によるコスパの悪さ、ゴーレム海賊船から取れる資材の優秀さ。

 それらを加味して考えたとき、運営の意図が紐解かれていく。



「いや、むしろこれってさ────じゃない?」

「「ああ! そういうことか!」」



 そこでブラットが出した説に、二人は大きな納得をみせた。




 猫海賊団のアジトを目指しつつも、少し寄り道をしながら今回はあえてゴーレム海賊団を探して回っていた。



「やっと見つけたっ! ゴーレム海賊だ!」

「それじゃあ、手はず通り動くよ。しゃちたん、船をお願い」

「はいよー。任せといてー」



 すると今回は前のものより大きな金属質な船に乗る、ゴーレム四体からなる海賊船が発見できた。

 二体でもあれだけ苦労したというのに、その倍の数となると倒すのにどれだけ時間がかかるか、わかったものではない。

 だがブラットたちは実験と、もしそれが上手くいけばかなり美味しい敵になるとあって、むしろ喜びの表情を浮かべていた。


 前よりも離れた位置でブラットとHIMAが飛び立ち、しゃちたんは急いでハンマーの射程外へと船を逃がす。



「「「「GAAAAAAAーー!」」」」

「わお、たくさんいるね。ブラット、そっちは任せたよ」

「ああ、やってみせる」



 四体の敵を前にして、ブラットだけが突撃していく。

 ただでさえ時間がかかる上に数も多くなっているというのに、HIMAは別の目的をもって船上を駆けていく。

 ゴーレムたちの半分が、そんなHIMAを追いかけようと頭をギギギッと動かすが──。



「こっちだ! こっち!」

「「「「GAAAAAAAAAA!!!!」」」」



 ブラットは柏手を打つように【破魔拍子】を鳴らし、カーンカーンと空気すらも清浄にするかのような涼やかな音が周囲に響く。

 ブラットやHIMAには綺麗な音にしか聞こえないが、モンスターには不快な音。

 無機物のようなゴーレムにも効くかどうか心配ではあったが、十分な効果を発揮しHIMAのことなど忘れて四体全員がブラットに襲い掛かってきた。

 だが攻撃は相変わらず見切りやすく、ブラットには四体いたところで止まっているかのようにハンマーの打ち下ろしや横回転攻撃などをヒラヒラと鮮やかに躱す。

 そうしていると思い出したかのようにHIMAの方に行こうとするが、そのたびに【破魔拍子】で引き付けた。


 そしてHIMAの方はと言えば──。



「これはいる、これはいらない──こっちは持ってこう」



 敵のいない海賊船の船室に突入し、どちらが賊かわからなくなるほど大胆に部屋中を荒らして目ぼしいものを急いで回収していく。

 大よそ物資や宝箱をあさったら、最後にシップコアを見つけ出して抜き取り船室の外に出る。



「ブラット! ズラかるよ!」

「あいあいさー」

「「「「GAGAAAAAー!」」」」



 ブラットはHIMAの声を聞くや否や、これまで相手にしていたゴーレムなどいなかったかのように無視をして船の縁を蹴り船上から脱出する。

 HIMAも後に続き船から飛び立つと、その瞬間ガラガラ──と音を立てながら海賊船が壊れていく。

 ゴーレムたちはそんな中でもブラットたちにハンマーを投げつけてくるが、軌道が読みやすいので当たることなく遠くの海に消えていく。


 そして足場を失ったゴーレムたちはと言えば、ブラットたちを攻撃しようと機械的に動いていたが、その鈍重な挙動と重いボディで泳げるはずもなく……ストンと落ちるように海の底へと消えていった。

 それとほぼ同時に、船の残骸がHIMAが奪ってきたシップコアに回収される。



「ブラットが言った通り、これが最適解っぽいね。こんなに短時間であっさり資材を調達できちゃった」

「こうなってくると、あのゴーレムたちも美味しい敵に早変わりだ」



 モンスター自体に旨味がないのなら、無視をしてしまえばいい。それがブラットが考えついた運営の意図だった。

 このイベントマップの船はコアを取られると崩壊するシステムで、あのゴーレムが泳ぐにはかなり特殊なスキルでもなければ不可能。海に沈めてしまえば、それだけで無力化できてしまう。


 ならば自分たちの船を逃がし、敵を引き付け、コアを抜き取る。敵を一人で引き付けられる能力があるのなら、三人でもこの工程は充分にこなせる簡単なお仕事である。


 しゃちたんが敵船が壊れるのを双眼鏡で確認してから船を操り、空飛ぶブラットたちの元へと戻ってきた。



「いやぁ、こういう卑怯な手もときには必要なんだね」

「卑怯な手とはなんだ。仕様にのっとった戦い方だろ」

「あれを簡単に倒せる火力がないなら、こうしないとめんどくさいだけだしね」

「だね。こういうことも手段の一つって覚えておくよ。勉強になったわ~」

「なら良かったよ」



 ゲームとは敵を倒して報酬を得るというプロセスが必要だと、しゃちたんは無意識的に考えていたようだ。

 敵に合わせて行動を変えるのは当然の事。今回の事でブラットたちがいないような状況でも、これからはしゃちたんももっと広い視野で動けるようになった様だ。



「それじゃあ、船の頑丈さを上げてくぞ。いよいよ速度の〝5〟を超えて強度〝6〟だ──っとと、海の上なのに揺れてない?」



 波で揺れるのとも違い船自体が振動するような感覚がブラットの足下から伝わってくるが、直ぐにそれもやんだ。

 一体何だったんだろうと三人で周囲を見渡していると、しゃちたんがあることに気が付き声をあげた。



「船の外装が変わってる!」

「え? ほんとだ、前よりずっと頑丈そうになってる」

「鉄の船とまでは言えないけど、木の外装を覆ってるって感じか」



 船体に鉛色の金属が打ち付けられるように張り巡らされ、木が剥き出しだった前のボディと比べて随分と頼もしい見た目になっていた。

 これならばあのゴーレムの投げるハンマーも、もう突き刺さりはしないだろう。



「アジトに行く前に船の強度を上げられたのは大きいかも。

 アジトに着く前に修復用の資材も残しておきたいから、今のうちに速度は無理にしても操舵性も上げておく?」

「速度強化に特化した資材でもない限り、すぐに速度〝6〟は無理だしなぁ。そろそろ他の所もあげてもいいかもしれない」



 操舵性を〝1〟から〝3〟まで上げ、今度こそ寄り道せずにアジトを目指した。


 道中何度か見つけた、もしくは絡まれた海賊たちの分も合わせて、急速修復用の資材として貯蓄もできたところで、ようやくアジトの周辺までやってくることができた。

 アジトと思しき場所がある海域は岩礁地帯とでも言えばいいのか、大小さまざまな岩が海面から突き出して、奥にある何かを覆い隠すような地形をしていた。


 まずそこに入って行かず、ブラットたちは一度船を海上に停めて周辺を探索して周る。



「極端に海底が浅いところがいくつもあった。これは船で行ける道がかなり限られてくると思う」

「先が見えにくいし、ルートによっては変なところに出て囲まれる可能性まであるね。

 三人で行くならどこか船を隠せそうな所を見つけて、そこからは自力で目指したほうがいいかも」



 しゃちたんに船を任せ二人で乗り込むという方法もあるが、相手の本拠地となると敵も多いことが予想される。

 キャラスペック的にタンクとして非常に優秀なしゃちたんがいてくれたほうが、戦闘になったときの安定感も変わってくるはずだ。

 それになにより敵のアジトに乗り込むなんて言う大きなイベントは、せっかくなら三人一緒にやった方が楽しい。


 ということでまずはブラットとHIMAで飛行しながら、船を隠せそうな場所を探りつつ、アジトまでのルート開拓もしていくことに。

 まだ船が丸見えの状態なので、しゃちたんは敵船が来たら逃げる役目として一旦お留守番だ。



(……ん? なんだ?)



 船が通れそうな道を確認しながら進んでいると、小さなタルを乗せた謎の小舟がブラットたちと同じようにコソコソと動き回っているのが視界に入る。



「プレイヤーかな?」

「いや、モンスターだ。海賊船以外にも敵モブの船ってあったんだ」



 物陰に潜みながら双眼鏡で小舟の人員を確かめてみれば、プレイヤーではなく敵モブの表記が見えた。

 そこにいたのは小柄な人型ネズミのモンスターが二体で、どう見ても猫海賊団とは別種だ。



「それに猫海賊団の一員だったら、あんなに周りを確認しながらコソコソ移動する必要もないはず。何かあるな……つけてみる?」

「うん。私も気になる」



 見失わないように気を付けつつ距離を取りながら観察していると、その船は大きく海面から突き出した何もない岩山の岩壁にぶつかるようなコースを突き進む。

 一体何を……と見守っていると、その船は不思議なことに岩壁にぶつかることなくその先に消えてしまった。



「なんだ今の?」

「もしかして、あの岩壁って幻だったりするのかも」



 二人で頷きあいながら誰にも見つからないよう気を付けながら岩壁まで近づいていき、その向こう側に何の気配もないことを確認してから、ブラットが壁に触るように手を差し入れる。

 すると何の抵抗もなく壁の向こう側にすり抜けた。つまりこの岩壁に見える部分は、まやかしだったということ。

 意を決して壁の向こう側に二人で通り抜けてみれば、ブラットたちの船くらいなら通れる水路が奥まで続く謎の洞窟に出た。


 洞窟のわりに明るいと思って周囲に視線を向ければ、壁に等間隔に松明が取り付けられ最低限の明かりまで確保されていた。

 ここを日常的に通路として活用している存在がいるのは間違いない。


 その光景に驚きながらも無言でHIMAが地図を確認してみれば、その水路が続く方角は猫海賊団のアジトと踏んでいる場所に向かっている。



「もう少し先に行ってみよう」

「うん。しゃちたんに変な洞窟見つけたから、もう少し待っててって報告しとくね」



 水路の上を飛びながら奥へと少し進んでいくと、洞窟内に陸地が見えてくる。

 先ほど見た小舟と同じものが複数その手前でロープに繋がれ停められていたが、あのネズミたちはいない。

 ブラットたちはより慎重に下り坂になっている洞窟をさらに歩きはじめると、直ぐにネズミたちがたむろする開けた空間を見つけだした。


 一メートル半と他よりは大柄で太った人型ネズミがここのボスなのか、小さな人型ネズミたちに食料を運ばせ貪り食っていた。

 先ほど小舟に乗っていたものと同じ小タルの中には魚が入っていたらしく、その残骸が汚く残ったものがそこかしこに転がされている。


 そして食料を運んでいる人型ネズミたち以外は、さらに奥へと続く通路から木箱のようなものを運び込んで積み上げていた。

 ちらりと見えた限りでは、その箱の中には食料品やボロの武器などが入っているようだ。



「あいつら、ここに住んでるのか……?」

「みたいだけど……何かを奥の通路から運んでる? ……って、もしかして」



 HIMAが改めて地図を広げて確認すると、さらに奥に行く通路が続く方角には、ピッタリ寸分たがわず目的地のマークが入っていた。



「猫たちの下僕とかでもないみたいだし、あいつら猫海賊団から物資を盗んでここで生活してるんじゃないかな?

 ほら、あそこに積まれた木箱の中に猫のマークが付いたアイテムもあるよ」

「マジか……。けど、てことはだ。あいつらを蹴散らせばアジトまでの抜け道が確保できるかもしれない」

「そうなるね。しかも私たちくらいの少人数が乗る船なら、あの水路も通ってこの洞窟の中に隠しておける。

 まさに使ってくださいって言ってるようなもんだよ、ここ」

「ならやるしかない。あいつら自身はそこまで強くなさそうだし、ボスも不意打ち特攻で最初にやっちゃえば簡単にいけるはず」



 HIMAも頷きながら地図を手持ちスロットにしまい、槍を代わりに出して自然体に構える。



「「──っ!」」

「ジュッ!?」



 息を合わせ同時に物陰から二人が飛び出すと、すぐにボスもそれに気が付く。

 周りの人型ネズミたちも立ちはだかってくるが、HIMAは強引に槍を振り回して蹴散らし、ボスまで真っすぐ突き進む。

 片やブラットは壁伝いに走って天井に上がりボスの真上までやってくると、急降下しながら左手に【魔刃】を纏って振り下ろす。



「ジュュユーーーー!」



 だがそれは鉄製の棍棒によって防がれる。

 しかし上に気を取られていたせいで、真正面から堂々と突っ込んでくるHIMAの刺突に反応しきれず、もろに胸を貫かれた。



「──ジュ!?」

「はっ!」



 ダメージによる怯みモーションを取っている間に、ブラットの右手にまとった【魔刃】が首筋を掻っ切った。

 オマケとばかりにHIMAからも連続突きを放たれ、【根源なる捕食】までお見舞いされてデータの粒子となって消え去った。


 それから子分であるモンスターたちと乱戦になるも、この程度なら敵ではなく危なげなく排除。

 こうしてブラットとHIMAは、ネズミたちの隠れ家を制圧することに成功した。

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